ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成28年度若手研究者海外派遣報告: 氷期の激しい気候変動と北半球氷床崩壊の関係の研究

ArCSの若手研究者海外派遣支援事業の助成を受け、2016年9月1日から2017年5月31日の9か月の間、米国オハイオ州立大学のバード極地研究所に滞在し北極海の古海洋研究を行いました。バード極地研究所には北極海から採取された堆積物が保管されており、北極海の古海洋研究をする上で非常に恵まれた環境でした。

滞在中には西部北極海から採取された堆積物を用いて、海氷や氷山によって運搬された漂流岩屑、浮遊性有孔虫、鉱物組成などの分析を行い、最終氷期以降のローレンタイド氷床の西部北極海側での崩壊イベントの復元と全球の急激な気候変動との関係を調べました。ローレンタイド氷床の崩壊イベントについて、ハドソン湾側のイベントはハインリッヒイベントとして知られ調査されてきましたが、西部北極海側のイベントの発生時期や全球の気候に与える影響は調べられていません。この原因の一つとして、堆積物中に放射性炭素年代測定に十分な量の微化石と呼ばれる浮遊性有孔虫などの殻の化石 が含まれていないことがあります。実際に、これまで分析してきた西部北極海の堆積物には微化石が産出する層準は非常に限定され、その量も非常に少ないものでした。そこで、2017年2月に3週間ほど南フロリダ大学に滞在し、堆積物を徐々に加熱して有機物を熱分解し,低い温度で分解される海洋表層で生産された有機物の炭素を放射性炭素年代測定に用いるという新しい手法 を学び、北極海の堆積物に初めて適用し有機炭素の分離を行いました。この手法で北極海の堆積物の微化石が出ない層準でも年代を決定することができるようになれば、北極海の古海洋研究がさらに発展すると期待しています。

滞在中にはAGUとInternational Arctic Workshopの二つの学会やセミナーでの発表を通じて、各国の北極海の古海洋の研究者の方々から直接意見を頂くことや、議論することができ今後の研究上での良い経験となりました。最後になりましたが、今回のオハイオ州立大学での研究を支援して頂いた全ての方に深く感謝申し上げたいと思います。

鈴木健太/北海道大学


西部北極海の堆積物コアから試料を採取


南フロリダ大学での分析の前処理