ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成28年度若手研究者海外派遣報告:西シベリアにおける凍上現象・凍土丘と地温の関係性を探る

2016年7月25日~9月29日にかけて、ArCS若手研究者海外派遣支援事業の助成を受け、モスクワ国立大学凍土学専攻に滞在しましたので、報告いたします。

寒冷地域では、土壌中の氷層が成長し土壌が隆起する現象(凍上現象)や、永久凍土下で貫入・成長した氷が地表面を盛り上げて形成するマウンド地形(凍土丘:ピンゴなど)が数多く発達しています。こういった現象はしばしばインフラに影響を及ぼし、鉄道会社やガス会社にとって対策措置は長年の悩みの種となっております。特に、世界最大のガス埋蔵量を誇る西シベリア平原は、凍上現象が顕著に見られる地域として知られております。そこで、本派遣では、西シベリアにおける凍上現象と地温の関係性を理解するために、ロシア国内の文献調査ならびに測定機器操作の習得と、実際に西シベリアを訪れ野外調査を行いました。 

滞在前半の約1ヶ月間では主に、モスクワ大学とモスクワ郊外の大学演習林などで、凍上現象に関するレビュー、凍土丘のデータ統合や測定機器の操作の習得を行いました。残りの約4週間では、受入教員のIsaev准教授に引率していただき、西シベリアのヴォルクタ、ポーラーウラル(写真1)、カラ海ベイダラ湾の野外調査に参加しました。野外調査には、モスクワ大学やロシア科学アカデミーの研究者、エンジニア、学生が参加しました。野外調査では、多用な地質学的・地球物理学的手法を用いて、様々な観測を行いました。そして、ヴォルクタ地域では、これまで未報告であったピンゴ様地形(凍土丘)群を発見することができました(写真2)。予想以上に多くの地温データや高分解能地形データ、土壌試料を入手することができ充実した野外調査になりました。また、野外調査はロシア鉄道やガズプロム社のサポートを受けており、実際に凍上現象がどのように鉄道レールやガスパイプライン網に影響を及ぼしているのかを認識することができました。 

最後になりましたが、本派遣を支援していただいたArCS事務局の方々、受入教員のIsaev博士およびモスクワ大学の皆様に深く感謝申し上げます。

喜岡新/インスブルック大学
※派遣時の所属は東京大学


写真1:ヨーロッパーアジアの境界点


写真2:ヴォルクタ域で新に発見したピンゴ様地形群