ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

CHARSでの観測報告

北極陸域では、水循環の強化(※1)を起因とする、積雪の増加、永久凍土の衰退、及び河川流量の増加などの現象が観測されています。海氷の減少は開氷面を増加させ蒸発を促進し、大気を湿潤化し、陸上に多量の降雪をもたらします。積雪の増加はその断熱効果によって永久凍土の温暖化に影響を与えます。また温暖化による春の融雪水の増加は、北極海に流入する河川流量に影響を与えます。海氷減少と陸域水循環の強化との関係を調べるために、起源追跡(※2)が可能な水同位体比に着目し、海洋と陸域に降水同位体比観測ネットワークの構築を進めてきました。

その一環として、7月4−8日の日程で、ArCSの研究拠点であるカナダのケンブリッジベイにある研究施設CHARS(写真1)を訪問し、降水サンプラー(写真2)を設置しました。成田を出発してカルガリーを経由し、イエローナイフで1泊して翌日にケンブリッジベイに着く、2日間の長い旅でした。イエローナイフからケンブリッジベイまでの3時間弱のフライトでは、湿地や湖沼が広がるツンドラ特有の風景が見られました。7月にも関わらず、ケンブリッジベイにはまだ海氷が残っていました。CHARSまでの移動中、「今年の海氷の後退は遅いし、平年より寒い夏だ」と、タクシードライバーが話してくれました。強い風のせいもあって、昼間でも気温10度前後と確かに寒かったです。CHARSは完成から間もなく、あちこちにまだ工事跡が残っていました。CHARS内の宿泊施設は、設備が揃っていて過ごしやすい快適な環境でしたが、時差ボケと白夜との辛い戦いの4日間でした。CHARS所属のJ. Wagner氏と一人の学生に手伝ってもらい、CHARS内の空地に降水サンプラーを設置しました(写真2)。J. Wagner氏の協力を得て降水イベント毎にサンプリングを行う予定です。設置後、「週末に低気圧が通るという予報が出ているから、サンプルが取れるかも」というWagner氏の話で、早速サンプルが取れることを期待していましたが、帰るまで快晴の天気が続きました。帰国後、サンプリングの状況を聞いたものの、「今年の夏は乾燥しているね」という返事が返ってくるのみでした。多くのサンプルが取れることを願うばかりです。今回の出張にあたっては、国立極地研究所のArCS国際連携拠点整備メニューの支援をいただきました。関係者の皆さんに感謝申し上げます。

※1 降水量の増加

※2 降水のもととなる水蒸気がどの地域(陸域/海洋)から蒸発したかを追跡すること

朴 昊澤(JAMSTEC/テーマ4実施担当者)


CHARS研究施設の様子


CHARS内に設置した降水サンプラー