ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

国際シンポジウム『移りゆく北極域と先住民社会――土地・水・氷』開催報告

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターでは、7月5日と6日の二日にわたり、国際シンポジウム「移りゆく北極域と先住民社会――土地・水・氷」On Land, Water and Ice: Indigenous Societies and the Changing Arcticが開かれました。スラブ・ユーラシア研究センターとArCSの合同主催による本シンポジウムでは、今日北極域の先住民が直面している様々な変化を主題として、初日に基調講演が行われ、続いてテーマごとに五つのセッションで報告が行われました。

各セッションのテーマとしては、1.シベリア先住民の暮らし、2.現代グリーンランド社会の現状と将来、3.アラスカ先住民の生活様式といった、地域ごとに区分される三つのセッションの他に、4.北極のガバナンスと知識、5.極域沿岸の歴史といった、より広義のテーマを掲げる二つのセッションが続きました。各セッションで三本ずつ報告があり、そのうち三本は、それぞれシベリア、グリーンランド、アラスカの先住民を代表する研究者ないし活動家による報告でした。分野としては、文化人類学的なアプローチがもっとも多く、ついで歴史学、地理学、考古学、政策研究があげられます。

本シンポジウムでは、個々の報告がセッションの垣根を越えて、他の報告グループと深い関連性を持つケースが多く認められました。例えば、ほぼすべてのセッションで漁業の問題が論じられ、先住民の生活において重要な漁撈活動が、国家や商社による営利目的の漁業体制に組み込まれていく様子が明るみに出されました。また、鉄道や道路、北極海航路といった、インフラをともなうロジスティクスの問題が、先住民の生活にいかなる影響を及ぼすかという問題も、複数のセッションで議論されました。他にも、周囲の気候や環境の特徴を生かした狩猟文化のあり方や、国家による地方統治と先住民の生存をめぐる問題といったテーマも、セッションをまたいで共通の関心を呼び起こしました。

こうした議論の中で浮かびあがってきたのは、単に気候変動の影響だけでなく、国家の枠組みや世界経済の動向、欧米基準の拡大といった、様々な要因による力を受けて翻弄される、極北の先住民たちの姿です。しかしその一方で、伝統文化の保存プロジェクトを始動する先住民自身の試みや、日常生活において既存の資源を巧みに利用する戦略的指向を紹介する報告では、変化の時代を生き抜く先住民のしたたかさが示されました。

後藤 正憲(北海道大学/テーマ7実施担当者)


議論のもよう


平取町二風谷にて巡見