ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2018年のEGRIPプロジェクト(東グリーンランド氷床深層コア掘削)活動報告

グリーンランド氷床の質量損失に伴う海水準上昇は我々人類の喫緊の課題です。EGRIP深層コア掘削プロジェクトはデンマークをはじめとする様々な国が参加する国際協同プロジェクトで、北東グリーンランド氷流(Northeast Greenland Ice Stream; NEGIS)と呼ばれる、氷床流動が非常に速い地点で深層コア掘削を行っています。氷流はグリーンランド氷床の質量損失に大きく影響します。

このプロジェクトでは、このような氷流の振る舞いを明らかにし、将来の海水準上昇に氷流がどのように寄与するかを理解することを目的としています。EGRIPプロジェクトは2016年から始まり、今年で3年目となりました。2016年と2017年の報告は以下よりご覧いただけます。

<2016年>
東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(EGRIP)における現地観測

<2017年>
EGRIPからご報告
2017年のEGRIPでの深層掘削

本格的な深層コア掘削は昨年から始まっており、私は掘削されたコアの現場処理を行ってきました。ここでは、私が現場でどのような仕事をしてきたのかを紹介します。 

氷床コアの掘削場やコアの処理をするサイエンストレンチと呼ばれる部屋、コアの貯蔵庫は、雪面下に作られています。

ドリラー(アイスコアを掘削する人)によって掘削された氷床コアは、ロギングルームと呼ばれる部屋に置かれます。ここではロガーと呼ばれる役割の人がコアの長さの測定を行います。私の仕事の一つは、コアのロギングを行うことでした。ここで決められたコアの長さが最終決定番となります。ミリメートル単位の正確な計測が求められます。

 
写真1:ロギングルームに置かれた掘削されたばかりのアイスコア

長さの計測が終わったコアはコアバッファーと呼ばれる貯蔵庫に、コアの切断&分析の番が来るまで保管されます。


写真2:コアバッファー

サイエンストレンチでは、誘電率、電気伝導度、層位、連続融解装置による水安定同位体比、結晶方位などの測定と、コアの切断および梱包が行われます。私はここでは、主にコアの切断と梱包を行いました。


写真3:サイエンストレンチの様子

私が滞在した時は、約8000年前の完新世から約2万年前の最終氷期にいたるトランジションと呼ばれる深度帯のコア処理を行いました。この深度帯は、ヤンガードライヤス期とベーリングアレレード期と呼ばれる寒冷期と温暖期を含んでおり、短期間に気候が急激に変化したことが知られています。温暖期である完新世と寒冷期である最終氷期は、目に見えない氷の成分だけではなく、氷の見た目も違います。氷期の氷は、クラウディーバンドと呼ばれる白い層が入っており、ラインスキャンで撮影した写真を見るとバーコードのように見えます。完新世の氷にはこのようなクラウディーバンドは見られません。氷を処理する中で、温暖期から寒冷期の氷に移り変わり、氷の見た目がどんどん変わっていく様子を自分の目で見ることができ、とても興味深い経験をすることができました。


写真4:クラウディーバンド

また、非常にたくさんの火山灰層が観察されました。


写真5:火山灰層

サイエンストレンチで行う作業は、朝から晩まで非常に単調なものですが、良い仲間にも恵まれ、貴重な経験となりました。


写真6:サイエンストレンチの人々

大藪 幾美(国立極地研究所/テーマ2実施担当者)