ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

北極海上での大気物質船舶観測(みらい北極航海2018)

我々のグループでは、北極気候に関わる大気物質の動態とその影響を明らかとすることを目標に、「みらい」北極航海において、これまでデータの乏しい海上の大気組成測定を実施しています。

特に、太陽放射を吸収することにより地球温暖化に寄与するブラックカーボン(BC)の高感度観測を中心とし、一酸化炭素(CO),オゾン(O3)など様々な大気物質の観測を実施しています。BCは大気を加熱するだけでなく、雪や海氷の上に沈着することにより、光吸収性を高めそれらの融解を促進する可能性が指摘されています。しかしながら北極域では海上でのデータはほとんどありませんでした。そこで我々のグループでは、海洋地球研究船「みらい」の北極航海において、これまで2014年から2017年まで4年間、夏から秋にかけてのデータを取得してきました。その結果、BCの大気中濃度は陸上で報告されてきた値よりもかなり低い可能性を見出してきました。今回のMR18-05C航海では、これまでと異なる季節、つまり秋から冬にかけての新しい観測結果が得られるものと期待しています。

「みらい」での大気組成観測では、汎用観測室と呼ばれる最上階の部屋に観測装置を設置し、外から空気を室内に引き込んで連続測定を行っています。また、屋上の暴露甲板(コンパスデッキ)にエアサンプラーを設置し、大気中のエアロゾル粒子をフィルター上に直接捕集しています。その際、船の後方からの排煙の影響を避けるため、同じ場所に設置された風向風速計を利用し、向かい風の時にのみエアサンプラーを稼働させています。採取したエアロゾル粒子については、航海後に成分分析を行い、その変動を調べ、BCを中心にその起源や輸送過程の解明を行っていきます。また、陸上からの支援情報として毎日送られてくる、大気化学輸送モデル計算によるBCとCOの分布予測図を参考に、サンプリングのスケジュールを組み立てています。

竹谷文一・朱春茂(JAMSTEC)


汎用観測室内に設置された大気組成測定装置
外気を室内に設置した様々な装置を使用して北極海上の大気物質の連続測定しています。揺れによる装置の転落防止のため、頑丈に固縛しており、現在、順調にデータを取得しています。


コンパスデッキに設置したエアサンプラー
コンパスデッキに設置したエアサンプラーを利用して、大気中のエアロゾルを捕集します。装置のチェック中です。