ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

船上で必要な航行支援情報とは?(みらい北極航海2018)

2018年のみらい北極航海に乗船中のアイスパイロット、Duke Snider氏はこう言っています。`Ice Navigators want as much data, as soon as possible’。情報の量と即時性がなぜ重要なのでしょうか?

まず、「量」についてですが、これは実況データでも予報データでも共通することですが、複数のプロダクト(例えば複数の観測衛星、複数の予報資料)があると、プロダクト間で比較ができ、それぞれの特性を見極めることが可能となります。予報に関して言えば、このモデルは海氷が多めに出るとか、あのモデルは気温が低めに出る、といった数値モデルの癖を把握することに相当します。次に、「即時性」については、できるだけリアルタイムに情報が欲しいということです。船上では時々刻々と気象・海氷・海況が変化するため、例えば予報データについては最新の初期値で予報計算されたものが最も利用価値が高くなります。

今航では、極域予測年(YOPP)における各国のご協力のおかげで、みらい北極航海史上「最多の予報支援資料」を受信しています。気象庁のデータ以外に、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)、カナダ気象局、ノルウェー気象局、NOAAなど、気象予報・海氷予報をほぼ「リアルタイムに受信」しています。このような支援情報を活用しながら、利用者がどのモデルがどの点でメリットがあるのかを理解し、問題点などを研究者側にフィードバックすることによって、さらに必要な情報をカスタマイズすることが可能となります。

テーマ8で開発・運用しているVENUSは、そのような情報を統合化できる一つの重要なツールです。先日レイキャビクで開催されたArctic Circle会合の場にて、河野外務大臣は「VENUSが可能な限り早期に実用化されることを期待する。」と発言されています。単に船にVENUSを搭載するだけでは実用化したことにはなりません。取得される情報の価値・特性を丁寧に利用者に説明するプロセスが極めて重要です。みらい北極航海はアイスパイロットや乗組員(情報利用者)と研究者(情報提供者)との距離が極めて近く、VENUSの有効性を実証するための最適なテストベットと言えるでしょう。テーマ1では実地で、このような支援情報の統合化の価値を利用者に伝達します。

猪上 淳(国立極地研究所/テーマ1実施責任者)


みらい船内webにはVENUSへのリンクが張られ、誰でもアクセスが可能。VENUS上には、衛星データ、気象予測データ(気象庁、ECMWF)、海氷予測データ(ECMWF、東大モデル)など、多数の資料とパラメータが設定されている。表示されているのはECMWFの海氷密接度、海面水温、海面気圧の10日先予報と船の位置情報。