北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の第4回目となる公開講演会を2018年11月9日(金)に東京・一ツ橋の一橋講堂で開催しました。今回の講演会では、「北極の環境変化と人々への影響」というタイトルのもと、前半は北極域の自然環境の変化について各分野の研究者が講演を行い、後半は前半を受けて、それらの変化の影響・インパクトを論じるパネルディスカッションという形式で実施しました。また、受付前では、「Our Activities in the Arctic」と題し、北極の環境変化とプロジェクトの取り組みを紹介するパネル展を行いました。
会の最初に、深澤理郎プロジェクトディレクター(国立極地研究所/海洋研究開発機構)による趣旨説明、白須賀文部科学大臣政務官からの挨拶に続き、伊藤忠彦衆院議員より、本プロジェクトと講演会への期待が寄せられました。
講演では、まず飯島慈裕氏(三重大学)による「暖まる大気と大地-北極周辺の気候変動とその影響のつながり」と題した講演では、北極の変化を知るには、温暖化の動きに加えて水循環の変化を意識することが重要であること、そこから何が起こるのかを予測し、現地の人々とともにリスクマネジメントする必要があることが語られました。次に青木輝夫氏(岡山大学)による「近年のグリーンランド氷床表面の暗色化」では、グリーンランド氷床の融解が気温の上昇によるものだけでなく、氷床表面の暗色化が加速を促していることが、衛星観測でわかった内陸部と沿岸部の現象の違いや、モデルによる予測結果などをもとに説明されました。菊地隆氏(海洋研究開発機構)による「海氷減少と海洋環境の変化」では、北極海で観測中の海洋地球研究船「みらい」で2日前に実施した波浪ブイ観測の様子等、普段研究者が北極海で見ている景色をふんだんに取り入れながら、北極海の海氷現象に伴って進んでいる温暖化・淡水化・酸性化、波浪・高潮や沿岸浸食、生態系への影響がわかりやすく紹介されました。
パネルディスカッション「北極域の環境変化のインパクト」では、研究の第一線で活躍している4人の研究者と、グリーンランドに深い造詣を持ち、ArCSの評議会委員も務めておられる下田氏(株式会社ロイヤルグリーンランドジャパン代表取締役)が、モデレーターの室山氏(元日本放送協会解説主幹)の進行で、それぞれの立場で北極の変化をどう感じているか、北極の変化の社会的影響とは何か、これから気候変動にどう向き合っていくべきかを論じました。北極という地域の特性上、経済やそこに住む人々を意識した活動がこれからの北極研究に不可欠だという視点がどのパネリストにも共通していたことが印象的でした。
生憎の小雨模様でしたが、研究者や会社員、学生など幅広い層から122名の参加がありました。今年5月に閣議決定された第3期海洋基本計画に北極研究が大きく入ったこと、10月にアイスランドで行われた北極に関する国際会議Arctic Circleで河野外務大臣が北極域研究の基礎科学を強化すると各国に表明したことなど、日本の北極への関与が、今、一層注目されるようになっています。本プロジェクトも残りあと1年半となりましたが、今後もプロジェクトで得られた様々な成果を、わかりやすい形で社会に発信していきたいと思います。
ArCS事務局