ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

寒波の到来と成層圏突然昇温

北極の温暖化が進行する中で、北極海の海氷が急速に減りつつあります。我々のグループでは、北極海の海氷減少に伴う大気循環の変化を調査し、日本を含む中緯度帯でどのような気象現象が現れやすくなるかを研究しています。

その中から今年に入って出版されたばかりの論文Hoshi et al., 2019, JGR-A. 「Weak stratospheric polar vortex events modulated by the Arctic sea ice loss」 をご紹介します。

温暖化に伴う北極海での海氷域後退により、北極域の大気は冬季に昔に比べて非常に大きな熱を海から受け取ります。この熱量により大気の大きな流れが歪み(惑星波)、北極を取り巻く強いジェット気流(極渦)を大きく蛇行させます。極渦の蛇行は北極域の非常に冷たい空気を中緯度へ押し出す効果を持つため、中緯度帯では強い寒波の頻度が増えます。極渦の蛇行は、成層圏と対流圏での蛇行が結合した時に強くなることが知られています。Hoshi et al. (2019) では、北極海の海氷減少が波数2型(極渦の分裂)の惑星波強化をもたらすことで、波数1型(極渦の南下)に比べて成層圏と対流圏の結合が強くなり、中緯度帯での寒冷傾向もより強く観測されることを示しました。 

実は偶然にもこの記事の原稿を書いている現在(1月15日)、成層圏で非常に強い極渦蛇行現象、「成層圏突然昇温」が起こっています(図1)。冬季の成層圏循環の変化は時間スケールが長く、この先1ヶ月ほどは対流圏の循環と結合した時に断続的な寒波の到来が増えることが予想されます。実際に米国海洋大気庁(NOAA)が公開しているAO指数予報はこの先負の傾向となり、寒波の到来予測と一致します(図2)。一方で、今年の冬は弱いながらもエルニーニョが発達していることで日本は暖冬傾向の予想であること、また惑星波の変化は初冬の波数2型から現在は波数1型へ変遷しているため、結合が起こりにくい可能性があることにも留意しなければいけません。

個々の寒波のイベントについては様々な要因が関係してきますが、今回の事例では、研究の成果が実際の予報の一端として現れていることが確認できました。我々のグループでは極成層圏だけでなく、熱帯成層圏、中高緯度海洋、陸面過程を通した予測可能性にも注目しています。より正確な予測研究のためにも成果が期待されます。

中村 哲(北海道大学/テーマ5実施担当者)


図1 極域のジェットの強さと対流圏から成層圏へ伝わる波活動度の強さの時間変化。12月下旬に波数1型の惑星波が強まり、成層圏極渦の弱まり=突然昇温現象を引き起こしたことがわかる。気象庁公開資料より。


図2 北極振動(Arctic Oscillation, AO)指数のアンサンブル予報。黒線が観測ベースの実況値、赤線がアンサンブル予報に基づく予測値。1月16日から先の2週間ほどで負の指数(=中緯度帯で寒波の到来が増える)になる傾向が予測されている。米国海洋大気庁公開資料より。