ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

平成30年度若手研究者海外派遣報告:シアトルで得た経験

私は2019年4月8日から4月13日の約一週間にかけて、アメリカのワシントン州シアトル市に位置するアメリカ海洋大気庁(NOAA)アラスカ水産科学センターを訪問してきました。

私は今渡航で自身の研究を進める上で大きな支障となっている仔稚魚(魚の赤ちゃん)の種同定に関する技術を習得することを目的とし、北洋の仔稚魚分類に関する国際的な第一人者であるMorgan Busby博士に直接の指導を賜りました。

一般に形態学に基づく仔稚魚の種同定は外部形態、計数形質および計測形質に基づいて行われるのですが、仔稚魚期は同一種でも成長に伴い形態や形質が変化し、さらには判別形質が明瞭でない事も多いです。その一方、極域に出現する種について参照可能な資料というのは限られているため、種同定は非常に困難を極めていました。特に環境変動が著しく、生物相の北上や生態系の構造改変が示唆されている極域において、「何時、何処でどのような種が出現したか」という情報は基本かつ重要であり、採集試料の種同定には後世への責任が伴うため、正確な種同定に関する技術が求められます。 

私は今回の訪問を通じ、実際に極域で採集された試料を参照に、極域に出現する可能性が高い種について各種の形態学的特徴および類似種と比較した際の判別形質について学びました。訪問期間は約一週間と非常に短いものではありましたが、10科23属39種もの仔稚魚に関する知見について、既出の知見だけでなく論文未記載の知見についても得ることもできました。 

今回の派遣ではアメリカ政府機関の閉鎖による派遣日程の延期という予期せぬアクシデントもありましたが、多くの方々の協力およびArCS若手研究者海外派遣支援事業の援助により貴重な機会を得ることができ非常に感謝しています。本当にありがとうございました。

竹室 祐貴(北海道大学)


実際に作業していた風景


極域に特有な種であるホッキョクダラ