ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2019年度若手研究者海外派遣報告:アラスカ、ミドルトン島における海鳥の嗅覚実験

私は2019年7月にArCS若手研究者派遣プログラムの支援を受けてアラスカのミドルトン島に行き、海鳥のプラスチック誤飲に関する研究を、同島で繁殖するミツユビカモメを対象として行いました。本研究はInstitute of Seabird Research and Conservation(ISRC)との共同研究です。

海鳥は鳥類の中でも最も保全の必要性が高いグループです。特に1960年以降、海鳥によるプラスチック誤飲の報告が相次いでおり、海洋プラスチック汚染に対して脆弱であることがわかってきています。たとえば、プラスチック誤飲による影響として消化器系の物理的な損傷、消化効率の低下および有毒化学物質の放出などがあげられており、重大な問題となっています。この問題を解決するためには、まずプラスチック誤飲を引き起こすメカニズムを理解することが重要であり、その上でこれを軽減する解決策をみつけていく必要があります。

先行研究から、プラスチック片はジメチルスルフィド(DMS)という情報化学物質を生産する生物の好適な基質となることが分かっています。DMSは、植物プランクトンの細胞が動物プランクトンの捕食によって破壊されるときに放出される物質であり、多くの海鳥種によって餌を見つけるための嗅覚情報として利用されています。そのため、海鳥がDMSを利用して餌をとることがプラスチック誤飲の要因となっている可能性があげられています。この可能性を検証するためには、まず海鳥のDMSへの反応とプラスチック誤飲の関係を実験的に明らかにする必要があり、これをもとに海鳥のプラスチック誤飲に感覚メカニズムがどう関わっているのかを考えていく必要があります。

そこで、本研究ではミドルトン島で繁殖するミツユビカモメがDMSのにおいに対してどう応答するかを実験的に明らかにし、DMSが海鳥のプラスチック誤飲におよぼす影響を理解することを目的としました。ミツユビカモメは高い嗅覚能力を持ち、かつプラスチックをよく誤飲することがわかっています。また、ミドルトン島のミツユビカモメは古いレーダー塔で繁殖しているため、研究者が比較的容易に実験や観察を行うことができます。

ミドルトン島での滞在中、私は自身の研究以外でも世界中の様々な研究者と話し合いを行い、多くのことを学びました。この経験によって私の考えはより深まり、より良い実験を行うことにつながりました。さらに、今回の派遣では、活動を通じ自身の研究の能力や技術を磨くことができたと思います。この機会を与えていただいたArCS若手研究者海外派遣事業には、心より感謝申し上げます。

ナヤ セナ(北海道大学)


ミツユビカモメの親鳥と雛


レーダー塔内部から見たミツユビカモメの巣