ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2019年度若手研究者海外派遣報告:雪氷環境に生息するクマムシの地理的分布

北極域に生息するクマムシと日本の積雪・アラスカの氷河に生息するクマムシを比較するため、ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学に2019918日から1125日にわたって滞在しました。

氷河を含めた雪氷環境は、地球温暖化による影響が最も敏感に現れる環境です。この環境には、雪氷生物と呼ばれる、寒冷環境に適応した生物が生息しています。これらの生物について研究することは、北極圏の将来の環境予測に新しい視点を提供できると考えられます。

雪氷生物の1つであるクマムシは、緩歩動物門に分類される微小な無脊椎動物です。彼らは、世界各地の氷河から報告されていますが、その地理的分布は特定の地域からの報告であり、限定的です。今回の滞在では、日本の積雪とアラスカ州の氷河で私が発見したクマムシを分析し、北極圏に生息するクマムシとの比較を行うことで、雪氷環境に生息するクマムシの地理的分布を明らかにすることを目的としました。地理的分布の解明については、今後も共同研究を続け、クマムシのDNA解析を行っていく予定です。 

滞在中には、日本ではできないような様々なことを経験することができました。日本の積雪に生息するクマムシについてのセミナー発表を行い、セミナーに参加していたイタリアの研究グループの教員や、チェコの大学院生等と意見交換を行いました。他にも、日本語が通じない環境での生活、海外の研究者との共同研究、英語での日常会話、海外での友達作り、全てが初めてで、試行錯誤の日々でした。中でも、ポーランド語表記しかないレストランのメニューには、毎回頭を悩まされました。今後ポーランドに行く機会がある際は、事前にポーランド語を習いたいと思います。 

私が滞在した大学はポーランドの西部に位置するポズナンにあり、歴史のある街並みに飽きることはありませんでした。また、大学には多くのクマムシ研究者がおり、彼らと日頃研究ができたことは何よりも素晴らしかったです。「クマムシ愛」にあふれた環境はとても居心地がよく、引き続きクマムシの研究を続け、また彼らとクマムシ研究について話し合う時を今から楽しみにしています。 

修士1年生という早い段階にも関わらず、今回の派遣では多くのことを学ぶことができました。このような機会をくださったArCS若手研究者海外派遣事業のみなさま、ご支援いただいたみなさま、そして、ポーランドで出会ったすべての方々に、深く感謝いたします。

小野 誠仁(千葉大学)


ポズナンの旧市街地。建物には様々な模様が描かれている


私の送別会での共同研究者たちとの1