ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

2019年度若手研究者海外派遣報告:北極域の低気圧で発生した大気重力波

地球大気は主に、対流圏・成層圏・中間圏・熱圏の4つの層に分けることができます。我々の生活に大きく関係しているのは、大気最下部の対流圏です。この対流圏では雨などの身近な気象現象が起きており、我々も対流圏に住んでいます。一方で、対流圏より上の3つの層(成層圏・中間圏・熱圏)も対流圏の状態を決めるのに重要な役割を果たしており、気候を予想する上で重要であることがわかっています。我々は、これらの4つの層間の運動量やエネルギーなどのやり取りを「大気上下結合」と呼んでいます。この大気上下結合は、大気波動と呼ばれる”波”によって行われていることがわかっています。本研究では特に大気波動の中でも、比較的小さな現象である大気重力波を研究しました。

大気重力波は、主に対流圏で発生し10 kmから100 km以上の高度まで伝播し、遥か上空の風・気温に影響を与えます。この大気重力波を作り出す現象として、山を超える風・積雲対流・前線・ジェット気流などが知られています。しかし、実際にどのような条件下でどのような大気重力波が出るかはよくわかっていません。このため、気候変動によって積雲対流・前線・ジェット気流などの規模や強度が変化したときに、大気重力波がどのように変化し、成層圏・中間圏・熱圏へどのような影響を与えるのかわからない部分があります。このため、私は「どのような状況下でどのような大気重力波が出るか」を観測研究から明らかにすることを目的としてNASA/GSFCで研究を実施しました。

派遣期間中は、グリーンランド上空の 北極寒帯前線に存在した低気圧から発生した と考えられる大気重力波を衛星観測(Suomi-NPP/VIIRS)から捉えました。

Suomi-NPP/VIIRSは、高度〜87 kmに存在する大気光と呼ばれる発光現象を観測しています。大気重力波が、大気光発光層を通過するときに波状に光の明暗ができるため、大気光を観測することで、大気重力波の水平構造を観測することができます。

Suomi-NPP/VIIRSは低気圧の上空高度〜87 kmに大気重力波を捉えており、再解析データ(MERRA-2)を解析したところ、Suomi-NPP/VIIRSが大気重力波を捉えた、グリーンランド上空高度〜9 km で波が発生しやすい条件であることがわかりました。このため、高度〜9 kmで低気圧によって発生した重力波が、高度〜87 kmまでほぼ鉛直真上に伝播していたと考えられます。

多くの過去の研究では、地上から大気重力波の水平構造を観測してきましたが、低気圧直上に現れた大気重力波は地上からでは雲が邪魔をして観測することができませんでした。本研究は、宇宙から高度〜87 kmを観測することで、低気圧から発生した大気重力波の水平構造を捉えることに成功したと考えられます。

木暮 優(国立極地研究所)


Heliophysicsグループの新年会