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南極地域観測第VI期5か年計画

平成12年6月14日
南極地域観測統合推進本部
 

目  次


1. はじめに

2. 背景と基本的考え方

3. 観測計画

 3.1 観測計画の概要

 3.2 プロジェクト研究観測

  • 宙空系
  • 気水圏系
  • 地学系
  • 生物・医学系

 3.3 モニタリング研究観測

  • 極域電磁環境の太陽活動に伴う長期変動モニタリング
  • 地球環境変動に伴う大気・氷床・海洋のモニタリング
  • 南極プレートにおける地学現象のモニタリング
  • 海氷圏変動に伴う極域生態系変動モニタリング
  • 衛星データによる極域地球環境変動のモニタリング
  • モニタリングデータの高度利用法に関する研究

 3.4 定常観測

  • 電離層
  • 気象
  • 測地
  • 海洋物理・化学
  • 潮汐

4. 観測のために必要な支援

 4.1 研究・観測事業の充実に向けての措置

  • 専用観測船の利用
  • 中型航空機による広域観測

 4.2 輸送

 4.3 設営

  • 重点的に推進する設営計画
  • 設営計画の具体的内容


 

1. はじめに

 我が国の南極地域観測事業は、国際地球観測年(IGY)の国際的な共同観測計画の一環として、昭和31年秋に最初の観測隊を派遣して以来、44年の年月が経過しようとしている。この間、我が国の南極地域観測は、各種の国際的学術共同研究を推進し、我が国及び世界の科学の発展に大きく寄与してきた。南極大陸は、昭和36年に発効した南極条約によって国境のない唯一の大陸として科学観測を中心とする平和的利用に開かれている。南極条約加盟国も当初の12か国から44か国に増加しており、このことは 各国の南極観測に対する関心がますます高まってきていることの表れである。
 近年、地球環境問題の解明が、人類の直面する最大の課題となってきている。南極地域は人類の生活圏から遠く離れ人間活動を起因とする影響が極めて少ないことから、地球環境の変動を顕著に捉えることのできる場所であり、ノイズの極めて少ないデータを収集する上で最適の場である。そのため南極地域における研究・観測の重要性は従来に比して高まってきており、さらに極域が地球システム全体に及ぼしている影響の重大性からも、その充実・発展が国際的にも強く望まれているところである。
 南極地域における研究・観測の成果が、21世紀の人類を明るい希望に満ちた未来に導くよう、今後も観測活動を積極的に推し進めていかなければならない。
 本冊子は、平成13年度から始まる南極地域観測計画(案)を国立極地研究所及び関係機関を中心に検討し、第VI期5か年計画としてまとめたものである。

 

2. 背景と基本的考え方

 

2.1 南極地域観測事業の将来計画基本方針と第VI期5か年計画

 南極地域観測統合推進本部(本部長:文部大臣)は、昭和51年、南極観測の長期的視点からの将来計画について、「南極地域観測事業の将来計画基本方針」(別添参考資料参照)を決定し、次の基本方針を示した。

  1. 学術的意義の高い科学調査研究を重点的に推進すること。
  2. 南極資源及びその開発に関連する基礎的な調査研究を推進すること。
  3. 科学調査研究の国際協力の強化及び調査研究地域の拡大を図ること。

 南極観測は、これらの基本方針に基づき昭和51年度(第18次隊)から5か年を1単位とする観測計画を策定し観測活動を実施してきたところである。
 南極地域での観測は、観測計画の立案から必要な資材・観測機器の調達、担当隊員の選定、現地への輸送、現地での準備など観測開始までに長期間を必要とするため、本部において5か年を1単位とする観測計画を作成し、効率的・効果的に観測活動を実施している。このため本計画は、技術革新、学術の動向、気象、財政等の情勢・状況が変化した場合には、実施途中であっても柔軟に見直すこととしてきた。
 第VI期5か年計画の策定に当たっては、南極研究科学委員会(SCAR)、南極条約協議国会議、学術審議会、測地学審議会の建議等を勘案しつつ、上記の基本方針及びこれまでの成果を踏まえ、学術的意義の高い研究課題を選定して研究計画を策定した。また、策定にあたっては観測活動を実施する基盤として不可欠な観測隊自体の在り方や南極への輸送方法、「環境保護に関する南極条約議定書」の発効により整備された国内法下の南極地域における環境保全への対応等、現在の南極観測が直面している諸課題を克服し、新たな発展を遂げるためには何が必要なのかという観点をも盛り込むこととした。

 

2.2 計画策定の背景と今後の方向

 昭和58年(第25次隊)の観測船「しらせ」就航により輸送能力は大幅に向上した。この結果、管理棟、隊員宿舎等主要施設が、また、これと同時に多目的衛星受信アンテナなどの観測設備の近代化が進み、我が国の観測の拠点として昭和基地は、諸外国と比較しても何ら遜色のないまでに整備された。さらに、昭和基地の西方約670kmに「あすか観測拠点」、南方約1000kmに「ドームふじ観測拠点」を開設し、観測隊の活動領域が飛躍的に拡大され本格的な広域観測が可能となった。この結果、氷床深層掘削による過去35万年間における地球環境史の解明、隕石の大量発見による惑星科学・研究への貢献、地球史解明につながる南極大陸の地殻形成史の解明、海氷と南極海生態系変動の解明、HFレーダなどによるオーロラなど地球電磁気現象の微細構造の解明、大気中二酸化炭素の増大やオゾン量減少の観測等、数多くの観測成果を上げることができた。
 しかしながら、今後の観測活動の実施においては、地球環境によりターゲットをしぼった精密な観測の必要性等からなお一層の高度化・広域化が必要と考えられる。このためには、さらに高次の観測活動の実現に不可欠な観測システムの導入や観測域を拡大するための輸送体制の構築が重要である。
 第V期5か年計画においても、関係機関が一致協力して事業の推進に努めたが、海洋観測船の導入、大型・中型航空機の活用、情報通信ネットワークの整備等は実現に致らなかった。また、第V期5か年計画策定以降に発効した「環境保護に関する南極条約議定書」に対応するための環境保護対策、特に昭和基地に残されている廃棄物の持ち帰りは、社会的、国際的責務として我が国が責任を持って対応すべき新たな課題となっている。さらに、エネルギー需要の急激な増加により、昭和基地の石油燃料の備蓄は現在危機的な状況にあり、節約にも限界がある。これら今後対応が必要な多くの課題の解決に向けて共通の隘路となっているのが輸送問題である。増大する物資の輸送、砕氷船の輸送業務と海洋観測業務の分離、人員輸送や観測の多角化・広域化を目指した航空機の活用等、早急に検討する必要がある。
 第V期5か年計画におけるプロジェクト研究観測では、地球環境科学や地球科学の主要な研究テーマであった「南極域からみた地球環境変動と電磁気圏−大気圏−水陸圏−生物圏の相互結合作用」及び「南極プレートの進化と地球ダイナミクス研究」を取り上げたが、これらは、地球環境変動や大陸進化の機構の解明を目指すものである。第VI期5か年計画においては、これまでの成果を踏まえ、国際科学会議(ICSU)が提唱する「地球圏−生物圏国際共同研究計画(IGBP)」と、その一環としてSCARが南極域で主導する「地球規模変動南極研究計画(GLOCHANT)」への対応にも考慮して、それらをさらに統合整理して新たな観測計画を立案した。また、新しい視点から大きな成果が期待される隕石探査等の宇宙・惑星関連の観測も計画に加えた。
 地球規模の環境変動を長期的に監視するために、昭和基地開設以来、気象、地磁気、地震等の観測を40年以上継続して実施している。これらの観測の一部は、第V期5か年計画以降定常観測からモニタリング研究観測へと位置づけが変わったが、終始一貫して地球上の諸現象を監視し続けており、その観測データは観測拠点の少ない東南極において依然として重要な地位を占めている。モニタリング研究観測及び定常観測の大半は国際協定等に従って実施されているものであり、学術上不可欠なデータを提供する基本的観測であることから、今後も、長い時間軸で実施する必要がある。

 

3. 観測計画

 

3.1 観測計画の概要

 観測計画は、第V期5か年計画に引き続き、プロジェクト研究観測、モニタリング研究観測及び定常観測のカテゴリーの下に実施する。うちプロジェクト研究観測については、・地球環境変動の研究、・大陸進化の研究、・宇宙・惑星の研究の3つの主要研究テーマを柱として推進する。
 地球環境問題の解決は、今日の人類にとって大きな課題である。巨大な氷床に覆われた南極大陸は冷源として、大気循環・海洋循環を通じて全地球の環境に大きな影響を及ぼしている。地球規模の環境変化を解明し、未来を予測するためには、南極域での環境変化を知ることは極めて重要である。このため、「南極域からみた地球規模環境変化の総合研究」として、過去70〜80万年にわたる古環境を復元するドームふじ観測拠点における氷床深層掘削、沿岸海洋底や湖沼底の掘削、現在及び過去数百年の環境変動シグナルを調べる大気科学や海洋科学、生態学の諸観測、極域超高層大気リモートセンシング観測等を実施する。
 南極域は地球の歴史に匹敵する古い岩石の露頭があること、人為ノイズが極めて少ないことなどのため精密測器による地球内部探査には最適の地域である。このため、地球の形成史研究や地球内部構造とそのダイナミクス研究に大きく貢献できる地域である。南極域の地球内部構造研究計画をさらに進めるため、「南極域から探る地球史」を実施する。
 南極域は、惑星物質としての隕石や宇宙からの飛来物質としての宇宙塵を容易に採集できること、また宇宙線やミリ波電波が地球大気中の水蒸気等の阻害を受けずに観測できることから、宇宙や惑星を観測する窓として、宇宙・惑星研究の重要拠点となってきた。このような南極の利点を生かした「南極の窓からみる宇宙・惑星研究」を実施する。
 第VI期5か年計画においては、既存の研究領域枠を越える研究計画として、上記の3大研究テーマの下にプロジェクト研究観測を実施するほか、モニタリング研究観測及び定常観測は、第V期5か年計画に一部の観測項目を追加、変更して引き続き実施する。
 なお、観測計画を支援する手段として、専用観測船による海洋観測、中型航空機による広域観測、南極大陸への早期アクセスを可能にする大陸間航空機輸送等を計画の一部に組み込んでいる。

 

3.2 プロジェクト研究観測

 プロジェクト研究観測は、目的に即した高度な観測手段を用い短期集中的に観測を行ったり、地球環境変動解明の鍵となる地域での広域総合調査を重点的に推進するものである。

  • 宙空系
『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
    1. 南極圏広域観測網による太陽風エネルギー流入と電磁圏応答の研究
    2. 極域大気圏、電離圏の上下結合の研究
    3. 人工衛星・大型気球による極域電磁圏の研究
『南極の窓からみる宇宙・惑星研究』
    1. 南極地上リモートセンシングによる惑星大気の研究
    2. 大型気球による宇宙物理学的研究
  • 気水圏系
『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
(南極大気−雪氷−海洋圏における地球規模環境変化の研究)
    1. 南極域における地球規模大気変化観測
    2. 氷床−気候系の変動機構の研究観測
    3. 沿岸域における海氷変動機構の研究
  • 地学系
『南極域から探る地球史』
    1. 東南極リソスフェアの構造と進化研究計画 II
    2. 総合的測地・固体地球物理観測による地球変動現象の監視と解明
    3. 南インド洋の地球科学的観測
『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
    1. 後期新生代の氷床変動と環境変動
『南極の窓からみる宇宙・惑星研究』
    1. 太陽系始原物質探査計画
  • 生物・医学系
『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
    1. 季節海氷域における表層生態系と中・深層生態系の栄養循環に関する研究
    2. 南極湖沼生態系の構造と地史的遷移に関する研究
    3. 低温環境下におけるヒトの医学・生理学的研究

 

3.2.1 宙空系

『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』

 太陽からは膨大な電磁波(光)やプラズマ(太陽風)エネルギーが放出されている。地球近傍の電離圏以上の高度では、太陽風が太陽光をはるかにしのぐ影響を地球に常時与えている。太陽風エネルギーの時間変化は極めて大きく、太陽面爆発(フレア)の際には平常時の数万倍まで急変する。宇宙ステーションや人工衛星等、人類の活動の場が宇宙空間に広がった現在、太陽風変動が地球近傍の宇宙空間環境にどのような影響を与えるかを知ることは、人類にとって極めて重要な課題となっている。また、この変化は電離大気−中性大気の相互作用を通じて大気環境にも影響を及ぼしている。一方、下層大気で発生した大気擾乱の一部は、波動として上方に伝搬し、電離圏高度での大規模な大気温度場や循環場に大きな影響を与えている。その影響は電離大気−中性大気の相互作用により電離大気の変動にも及んでいる。これらの影響は宇宙に開かれた窓である極域で特に顕著であることから、南極域は太陽風エネルギー変動が地球規模環境変化に及ぼす影響を解明する上で最も適した地域である。

  1. 南極圏広域観測網による太陽風エネルギー流入と電磁圏応答の研究
<概要と目的>
 太陽風と地球磁気圏との相互作用により、太陽風エネルギーが地球磁気圏内に取り込まれる。また、磁気圏と電離圏との相互作用により、様々な電磁現象が極域を中心に生起している。この太陽風−磁気圏−電離圏間の相互作用メカニズムは極めて複雑で、多くの未解決な問題が残されている。この問題を解決する糸口として、磁気圏−電離圏相互作用が投影されている極域電離圏現象を、従来の「点」での観測から「面的」な総合観測へ展開することが極めて重要である。
 第VI期5か年計画(以下「第VI期」という)では、第V期5か年計画(以下「第V期」という)で整備された昭和基地HFレーダと国際HFレーダネットワーク(Super DARN)により、両極域の広域における電離層プラズマ対流の南北半球対称性の研究を行う。また、昭和基地の磁気子午線を含む南極大陸氷床上に無人観測点網を新設し、そのデータと北極域の既設観測点ネットワークデータを合わせることにより、太陽風エネルギー流入に対する南北半球(夏冬半球)応答の対称性・非対称性の研究を行う。これは、従来の昭和基地とアイスランドで行われてきた地磁気共役点の「点での観測」を「面での観測」へと発展させるものである。ドームふじ観測拠点は昭和基地HFレーダの視野下にあり、そこでのオーロラ全天カメラ観測はプラズマ対流と降下粒子の関係を明らかにする上で非常に有効である。同拠点での越冬時の氷床深層掘削時期に合わせ、新たな観測技術を導入してオーロラ全天カメラ観測を行う。
<研究課題>
    1. HFレーダネットワークによる極域プラズマ対流の南北半球対称性の研究
    2. 南極大陸多点観測による太陽風エネルギー流入と電磁圏応答の研究
    3. オーロラ光学観測のための先端的技術の研究
    4. テレサイエンス的観測技法の研究

  1. 極域大気圏、電離圏の上下結合の研究
<概要と目的>
 中低緯度の中層大気の大規模な構造は、オゾン加熱等の放射過程に加え、下層(対流圏)からの波動に伴う熱及び運動量輸送によりほぼ決定される。一方、極域では下層からの波動の影響に加え、オーロラ現象起源による上層(電離圏)からのエネルギー輸送が際立って大きく、その影響は無視できない。特に高度100km付近を中心とした中性大気から電離大気への遷移領域では、より上層や下層では別々に議論される物理化学現象が併行して発生し、それらが複雑に絡み合い、その解明は未だ不十分である。第V期では昭和基地に高性能の地上リモートセンシング観測機器群を導入し、オーロラエネルギーの注入に対する熱圏下部大気の運動や温度の変化の鉛直構造の観測により、中層大気の上下結合の研究が進められてきた。第VI期では、これらの観測、解析をさらに発展させ、極域中層大気のダイナミクスの解明を進めると同時に、オーロラ活動時に予想される大気組成変化(酸化窒素、オゾンなど)の観測を行い、オーロラ活動時の大気変動を総合的に解明することを目標とする。このため、新たに大気組成観測器(ミリ波分光計)を導入し、大気運動と大気組成変化の相互関係を明らかにする。
<研究課題>
    1. 極域熱圏大気と中層大気運動の上下結合の研究
    2. 大気組成鉛直構造の変化の研究

  1. 人工衛星・大型気球による極域電磁圏の研究
<概要と目的>
 人工衛星では、地上からでは間接的にしか観測できない物理量を直接的に観測したり、また南極域全体を覆う広域観測を行うことができる。第VI期では、第V期に引き続きDMSP衛星の受信を昭和基地で行い、極域全域にわたる荷電降下粒子のエネルギースペクトルや、オーロラ形態の観測データを取得する。これらの観測は、極域電磁圏全体に注入されるオーロラエネルギーの推定に役立てることができる。大型気球観測では、第V期で確立した南極周回気球技術を用いて、超高層物理学的観測を行う。特に、第VI期の南極周回気球実験では、同一の観測器を搭載した複数機を同時にできるだけ近接し飛翔させることにより、カスプ域等超高層物理学的に興味深い境界領域に生起する現象の時間的・空間的な変動特性を明らかにすることを目的とした観測を行う。
<研究課題>
    1. 衛星観測によるオーロラの広域特性の研究
    2. 南極周回気球による超高層境界領域現象の時間的・空間的変動特性の研究
『南極の窓からみる宇宙・惑星研究』
 低温かつ低湿度である南極の自然条件は、地上からの光学リモートセンシングによる惑星大気や惑星オーロラ・雷放電等の観測を実施する上で最も適している。また、宇宙線がより容易に侵入し得る極域での大型気球長期間観測は、国内実験では検出不可能な超高エネルギー一次宇宙電子線の観測をも可能とする。

  1. 南極地上リモートセンシングによる惑星大気の研究
<概要と目的>
 可視及び赤外CCDカメラを検出器として持つ口径60cmクラスの望遠鏡をドームふじ観測拠点または昭和基地に設置し、惑星大気のリモートセンシングを行うことを目的とする。ドームふじ観測拠点は高高度のために絶対湿度が極めて低い。また、低温で晴天率が高く、極夜が長く存在する。そのため、金星や火星の大気組成や温度分布観測、木星オーロラ、木星の衛星イオの火山ガスやプラズマトーラス観測等には最も適した場所である。
<研究課題>
    1. 光学観測による火星や金星大気の組成・運動の研究
    2. 光学観測による木星オーロラや雷放電の研究

  1. 大型気球による宇宙物理学的研究
<概要と目的>
 宇宙線がより容易に侵入し得る極域において、長期間観測できるという南極周回気球の特徴を生かした大型気球実験を行う。国内実験では検出できないTeV領域までの高エネルギー一次宇宙電子線を検出し、その生成源、加速メカニズムを明らかにする。
<研究課題>
    1. 南極周回気球による高エネルギー一次宇宙線生成メカニズムの研究

 

3.2.2 気水圏系

『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
(南極大気−雪氷−海洋圏における地球規模環境変化の研究)

 地球の冷源域である南極域は、地球規模の気候・環境システムにおいて重要な役割を果たしている。南極氷床は地球上の淡水の90%を占め、大気と海洋を遮る海氷域は、南極大陸の面積に匹敵する大きな季節変化を示す。南極大気は、著しい低温と強い極渦の発達で特徴づけられ、海洋とともに、中・低緯度から熱や物質を運ぶ役割を果たしている。

 地球規模の気候・環境変動には様々な時間スケールがある。過去80万年の間に、氷期−間氷期が十数万年間隔で繰り返されている。南極海がその駆動源の一つである地球を廻る海洋深層循環コンベアーベルトは、百〜千年単位の気候変動に大きな役割を果たしている。また、10年弱の周期を持つ南極周極波は、海氷域変動を規定し、大気変動にも影響している。数年から10年スケールのエルニーニョ現象や赤道成層圏の準2年周期振動も、南極大気変動と関連している。

 このように、南極域が重要な鍵となっている地球規模環境変化を総合的に解明するため、南極大気−雪氷−海洋・海氷システムの素過程とその関連を明らかにすることを課題とした。

  1. 南極域における地球規模大気変化観測
<概要と目的>
 南極域は、北半球起源の人為起源物質の最終的な到達域であり、地球大気のバックグラウンド状態を把握する上で最も重要な領域であるとともに、地球の気候にとって冷源域となっている。南極域における温室効果気体、オゾン、エアロゾル、水蒸気等の大気微量成分の変動メカニズムを理解するために、対流圏上部、成層圏を通した地球規模大気循環による輸送過程、南極季節海氷域のソース・シンクとしての役割を解明する。また、地球温暖化等の気候変化の要因を把握するため、放射収支や水循環を通じそのシステムに影響する雪氷面状態や雲、降水、水蒸気の分布を明らかにする。
 具体的には、?対流圏−成層圏間の物質輸送を解明するため、従来からの小型航空機観測のほか、中型航空機観測を実現するとともに、高頻度な高層ゾンデ、回収気球、エアロゾルゾンデなどの観測を実施する。?海洋起源エアロゾルやエアロゾル前駆物質、二酸化炭素等の大気−海洋間の交換過程を解明するため、昭和基地、「しらせ」、専用観測船による新しい観測を併せて実施する。?雪氷・海氷面状態の観測、ゾンデ、係留気球、内陸移動観測や、地上からのリモートセンシングを通じて衛星検証を進めた上で、衛星データ解析により気候要素の広域分布を把握する。特に、地球観測技術衛星(ADEOS-II)のGLI高分解能データの受信を実現する。併せて、モデルによる研究等を有機的に結合し、より広範囲の気候、大気・物質循環を明らかにする。これらと平行して、?3次元観測をより充実させるため、気球・無人航空機観測システムや無人気象、高層ゾンデシステムの開発に着手し、将来の広域観測への展開に備える。
<研究課題>
    1. 成層圏−対流圏間の物質輸送の研究
    2. 大気−海洋間の物質交換過程の研究
    3. 雪氷・海氷表面状態及びエアロゾル・雲・降水の時空間分布の研究
    4. 新しい観測システムの開発

  1. 氷床−気候系の変動機構の研究観測
<概要と目的>
 南極氷床の変動は地球規模の気候変動、海水準変動と密接に関連しており、その解明は地球規模の気候・環境変動を予測する上で大きな課題となっている。特に、氷床の形成時期、成長・維持機構と、それが地球規模の気候変動に及ぼす機構、南極氷床への物質の輸送・堆積による各種環境シグナルの形成機構、氷床のダイナミクスに起因した氷床内部構造の解明は重要な課題である。氷床深層掘削技術やリモートセンシング技術に 謔閨A立体的に氷床変動機構を調べ、さらに得られた成果を気候変動予測モデルに組み込む。
 南極域の氷床−気候系の変動機構を解明するため、・氷床水平流動のないドームふじ観測拠点において岩盤までの氷床全層掘削を行い、採取したコアから、過去70〜80万年の気候変動を復元する。これまで、過去45万年以上にさかのぼる氷床コア掘削は行われておらず、この氷床コアは南極のみならず地球規模気候変動の基準コアになる。・各種環境指標シグナルの輸送と堆積、氷床流動やその変動による氷床内部のシグナルに関する研究を行う。水蒸気や各種エアロゾルは降雪やドライフォールアウトによって氷床に堆積し、大気は氷の中に気泡として閉じ込められ、これらの成分は、さらに再分布、再分別、化学変化を起こす。これら物質の氷床への堆積機構を調べる。また、多様な気候堆積環境、特に氷床頂上部での堆積の地域性、環境シグナルの地域性等を解明するため、ドームふじ観測拠点を中心に広域な地点での浅層コア掘削を実施し、過去数百年の環境変動を調べる。さらに、しらせ氷河流域とその源頭部であるドームふじ観測拠点を中心とした地域において、地上及び航空機搭載アイスレーダにより氷床内部構造の観測を行う。マイクロ波を利用した多周波レーダの開発も進める。
<研究課題>
    1. 過去70〜80万年の気候変動及び氷床形成史に関する研究
    2. 氷床変動と環境変動シグナルに関する研究
      1. 氷床への物質の堆積機構に関する研究
      2. 過去数百年の環境変動の研究
      3. 氷床内部構造の研究

  1. 沿岸域における海氷変動機構の研究
<概要と目的>
 南極大陸沿岸では定着氷が形成され、昭和基地周辺のリュツォ・ホルム湾は多年氷の存在で特徴づけられる。大気−海氷−海洋間及び沿岸−外洋間の熱交換の中で生じる海氷の成長・融解は南極域の海洋現象を理解する上で重要な物理過程である。海氷盤に及ぼす定着氷下の海洋循環や氷上積雪の効果を含めて、南極海氷域の実態とその変動を明らかにすることを主な目的として、湾内定点における海氷厚、積雪深、氷温分布、氷下の流れを観測することによって、海氷成長・融解過程を解明する。
 陸氷の融解水流入は海洋の塩収支に寄与している。特に表層の海洋構造や海氷成長に及ぼす淡水の影響の量的な把握は不可欠である。さらに定着氷野が氷河浮氷舌の安定性に及ぼす効果等、大陸氷河と海洋・海氷の相互作用の解明も重要である。
 リュツォ・ホルム湾では、定着氷が割れ、氷盤が湾外へ流出する現象が起こる。この海氷流出のメカニズムを理解するために、湾内の海氷厚やクラックの分布、海洋循環の構造を詳細に把握する。衛星観測と同期した現地観測を展開し、様々な特性を持つ海氷の基礎データを蓄積する。このような沿岸域における海氷・海洋変動は外洋域の変動とも密接に関連していることから、海洋観測船による研究と連携して計画を実施する。
<研究課題>
    1. 沿岸定着氷の成長・融解過程の研究
    2. 海洋・海氷構造に及ぼす氷上積雪・陸氷融解水の影響の研究
    3. 高分解能衛星データ検証のための海氷観測

 

3.2.3 地学系

『南極域から探る地球史』

 地球惑星科学の最大の目標は地球とそれを取り巻く宇宙の歴史を解明することである。近年の測定技術の進歩や惑星探査による知見の深まりに基づく地球との比較研究は、地球史の理解を著しく発展させ、地球表層環境が固体地球の変化に影響されてきたこと、大陸の成長・離合集散が環境変動の歴史と密接に結びついていることなどを明らかにした。これは、地球表層環境システムを理解するためには、固体地球の変遷そのものを理解する必要があることを示している。

 南極大陸はプレートのほぼ中央に位置し、周辺の海底には大陸分裂の初期過程から現在までの履歴が残されている。また、約1億年前から極位置にあり、現在自転軸の通る唯一の大陸である。約40億年前までさかのぼれる古い地殻が存在する東南極は、大陸の成長・離合集散と地殻の形成発達史の解明に不可欠な長さの時間軸を有する場である。

  1. 東南極リソスフェアの構造と進化研究計画 II
<概要と目的>
 第V期で行った東南極リソスフェアの構造と進化の研究(SEAL計画)を、より精度の高い地球科学的観測(SEAL計画 II)によりさらに深める。地質精査、人工地震探査、航空磁力探査、重力探査等を組み合わせた観測を、エンダービーランドから、原生代以降に形成された地殻からなる昭和基地周辺、やまと山脈にかけての地域で実施し、東南極における大陸地殻及び上部マントルの形成進化過程を総合的に解明する。
 これまでの基礎調査により岩石の分布状態や大局的な地質構造が判明しているため、重要地域を絞って地質精査を行う。地表部の地質構造とリンクした測線で地下構造の物理探査を行い、大陸地殻の構造を探る。古い大陸地殻を有する東南極大陸の総合的な研究により、地球史の中で大陸地殻が形成されてから現在までの変動の履歴を解明する。
<研究課題>
    1. 大陸地殻の形成・進化と超高温変成作用の研究
    2. 大陸地殻と上部マントルの構造と構成物質の研究
    3. 東南極におけるパンアフリカン変動の研究

  1. 総合的測地・固体地球物理観測による地球変動現象の監視と解明
<概要と目的>
 地殻変動はプレート運動だけでなく氷床変動、海洋変動によっても引き起こされる。従来の測地学的な観測に宇宙測地学的な観測を組み合わせることによって、固体地球の変動と氷床や海洋の変動とを分離することができ、地球内部の変動に起因する微細なシグナルを検出することが可能になる。また、グローバルな環境変動を監視する上で南極域は重要な位置にあり、氷床や海洋の変動を検出することにより、環境変動を予測するための基礎的なデータを得る。
 第VI期では、超長基線電波干渉計(VLBI)観測を継続して高精度の南半球測地基準系を確立し、南極プレートの動きやプレート内部変形の検出を目指す。超伝導重力計と絶対重力計による重力の長期間にわたる観測データを取得して地球深部起源のシグナルや氷床変動、海面変動に伴う重力変化を検出する。干渉合成開口レーダ(InSAR)とレーザ高度計やGPSを組み合わせた観測によって地形標高データを整備し、氷床変動・地殻変動の面的分布を明らかにする。GPSと潮位計を組み合わせた多点潮位観測によって、リュツォ・ホルム湾の地球重心に準拠した海面変動を求める。
<研究課題>
    1. 地殻隆起と海水準変動の分離による地殻と海洋の相互作用の研究
    2. 氷床ダイナミクスの推定による地殻と氷床の相互作用の研究
    3. 地球中心核の運動及びマントル・流体核の相互作用の研究
    4. プレート運動及びプレート内変形の研究
    5. 地球回転変動及び極運動の研究

  1. 南インド洋の地球科学的観測
<概要と目的>
 大陸の分裂機構とその原動力の解明は、地球科学の大きな課題の一つである。南極大陸周辺海域のインド洋区では、プレート境界でホットスポットの活動と大陸分裂が相前後して起こっており、分裂のメカニズムとそれに伴う海洋底の発達史を検証できる。専用観測船の導入や外国観測船との共同観測を南インド洋で実施し、南インド洋を中心とした南極海の堆積物を採取・分析して、南極海の古環境を復元し、南極海が地球環境変動に果たした役割の解明を行う。海氷下の詳細な地形や重・磁力等ポテンシャルデータが不足しているので、自律型無人潜水機(AUV)の開発にも着手する。
<研究課題>
    1. 大陸分裂における南極の役割とその機構及び原動力の研究
    2. 南極海の古環境に関する研究

『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』
 南極大陸の面積の98%を覆う巨大な氷床の変動は、新生代の気候変動、海水準変動及びそれらに起因する地球規模の環境変動に大きく関与している。南極域の新生代の環境変化の情報は氷床に覆われているために、北半球のそれに比べると極めて少ない。大陸棚やわずかな露岩域から努力して試・資料を得る必要がある。

  1. 後期新生代の氷床変動と環境変動
<概要と目的>
 リュツォ・ホルム湾地域において、隆起海浜で掘削調査を行い、大陸棚で堆積物採取のための採泥及び海底ボーリングを実施する。これは第 IV〜V期で明らかになりつつある更新世後期〜完新世の氷床変動と環境変化を、現時点で全く不明のより古い更新世中期(約50万年前)までさかのぼって解明する計画である。

<研究課題>
    1. 氷床変動と氷河作用に関する研究
    2. 地殻と氷床の相互作用の研究
    3. 氷床変動と環境変化に関する研究
    4. 堆積物の磁化と古環境に関する研究

『南極の窓からみる宇宙・惑星研究』
 南極大陸からはこれまでに大量の隕石が、極めてクリーンな状態で発見されている。より微細な宇宙塵も氷床中に蓄積されており、それらは太陽系の起源や宇宙空間の貴重な情報を提供する。

  1. 太陽系始原物質探査計画
<概要と目的>
 南極大陸の裸氷帯において隕石探査を実施し、宇宙塵も含めて採集する。これまでに採集された南極隕石の中から約20個の月起源及び火星起源の隕石が確認されている。このことは、南極大陸における隕石探査が惑星探査や小惑星探査に匹敵する効果をもたらしていることを意味する。また、南極氷床中に蓄積された宇宙塵は、地球物質の汚染の少ない環境下で効率よく採集できるため、隕石には見られない彗星物質等も得られると期待される。
<研究課題>
    1. 隕石の採集と隕石集積機構の研究
    2. 隕石の分布と隕石シャワーの同定に関する研究
    3. 隕石落下年代に関する研究
    4. 宇宙塵回収と落下フラックスの研究

 

3.2.4 生物・医学系

『南極域からみた地球規模環境変化の総合研究』

 南極を取り巻く自然環境は、大気・海洋循環により低緯度地域、北極域と深くかかわって変動している。生物群集は、その環境条件により生産速度、現存量、さらには種組成が変化する。したがって、南極地域に生息する生物群集も全地球的システムの中に存在していると言える。第VI期のプロジェクト研究観測においては、植物プランクトンの生産に重要な浮氷帯から沖合域までの生物生産と環境変動とのフィードバック機構の解明に焦点を当て、海氷をインタフェースとした大気−海洋間の物質循環機構の解明を目指す。さらに海洋表層から中・深層への物質輸送動態を明らかにし、南極海中・深層生態系と表層生態系とのかかわりを解明する。これらの観測は「しらせ」以外の専用観測船を主なプラットフォームとするが、昭和基地周辺定着氷域では氷上観測ステーションや「しらせ」をプラットフォームとした立体観測を展開する。陸上生物では、特に南極の湖沼生態系について、その構成と物質生産・物質循環、湖沼及び陸上環境の変遷を明らかにする。医学分野では基本的に第V期を継続する。

  1. 季節海氷域における表層生態系と中・深層生態系の栄養循環に関する研究
<概要と目的>
 南極海インド洋区は、季節的な海氷の張り出し及びその後退の時空間的規模が他の海区に比べ著しく大きな海域である。海氷域において生物生産が活発化する夏季に、海氷の後退に伴う生物生産過程を通し、海洋で生成され大気へ放出される地球温暖化にかかわるガス成分の循環過程を明らかにする。定着氷域においては、自動観測ステーションを設置し、生物生産過程を明らかにする。また、多系統の漂流ブイや係留系を季節海氷域において南北さらに東西に展開し、有機物の鉛直輸送量を明らかにするとともに、中・深層生物採集を行いその現存量と有機物フラックスの関係について検討を加える。さらに、ペンギンやアザラシなどの大型捕食動物に各種データロガーを装着し、従来観測が困難であった南極海中・深層における環境変動や生物群集の実態を把握する。動物から得られた行動データをもとに、動物体の動きを模倣する自律型無人潜水機(AUV)を導入し、大型捕食動物の視点による海洋環境探査並びに海洋観測を行う。これら一連の研究から、地球規模環境変化に対する南極季節海氷域における生物群集の応答過程を解明する。
<研究課題>
    1. 海洋表層−大気間の物質交換過程に関する研究
    2. 海洋表層から中・深層−海底への物質輸送過程に関する研究
    3. 中・深層における大型捕食動物の捕食活動に関する研究

  1. 南極湖沼生態系の構造と地史的遷移に関する研究
<概要と目的>
 昭和基地周辺の湖沼は、氷河の融解水に起因するものから海を起源とするものまで多様なタイプが存在するが、湖沼生態系についてはこれまでほとんど解明されていない。本研究は南極の湖沼生態系の構造とその変遷及び物質生産、物質循環機構を明らかにすることを目的とする。空中写真撮影等による面的な情報と湖面からの音響探査により、湖沼底質のバイオマスを推定する。同時に自動底質採取装置、潜水等によるサンプリングを行い、湖沼生態系を構成する生産者、消費者及び分解者の種組成を明らかにする。また、湖沼堆積物の柱状試料の解析により、湖沼の成立年代、その後の湖沼環境の変遷と生物相の遷移過程を解明する。さらに、湖沼中の生物及び堆積物中の生物遺体の形態的・分子系統学的解析により、湖沼生態系を構成する生物種群の定着過程を解明する。極めて貧栄養状態にある湖沼生態系の物質生産と物質循環機構については、現場実験と試料解析により、特に窒素を中心とした物質循環を解明する。
<研究課題>
    1. 湖沼生態系の構造に関する研究
    2. 湖沼生態系の地史的遷移に関する研究
    3. 湖沼生態系の物質生産と物質循環に関する研究

  1. 低温環境下におけるヒトの医学・生理学的研究
<概要と目的>
 南極大陸の特殊な環境下で観測・設営等の活動を安全かつ確実に遂行するためには、南極大陸の環境下におけるヒトの生理学的な反応や心理学的な応答に対する基本的な理解が必要である。そのために、寒冷・日周リズム変化、骨代謝測定、越冬時のエネルギー消費量の解析、衛生学的調査、生体への生理的、病理的及び精神的な影響等について研究を行う。
<研究課題>
    1. 極域における身体的、心理的影響の解析
    2. 越冬期間中の健康管理に関する検討
    3. 極域における生活環境の調査

3.3 モニタリング研究観測

 プロジェクト研究観測が研究観測を短期に重点的に推進するのに対し、モニタリング研究観測は長期的に継続して観測データの蓄積を図りつつ研究を進めるものであり、これにより初めて変化を把握できる観測を中心にしている。観測項目は、長期継続観測がその科学的価値を高め、また、国際的な貢献が高いものを選定している。

 

3.3.1 極域電磁環境の太陽活動に伴う長期変動モニタリング

  1. オーロラ粒子エネルギーの極域流入のモニタリング
<概要と目的>
 オーロラエネルギーの一部は極域電離圏に降り込むオーロラ粒子エネルギーとして供給され、オーロラ発光や電離層電離度の上昇を引き起こし、最終的に大気の加熱として消費される。地上から降下粒子を直接観測することはできないが、オーロラの輝線強度から粒子エネルギーの流入量の変化を推定することができる。これらの長期モニタリング観測により、太陽活動を反映した27日周期や11年周期の影響を調べる。また、オーロラ粒子エネルギー量は夏冬半球で大きく異なることが最近の極軌道衛星粒子観測で明らかとなった。夏でも観測が可能な電波観測(イメージングリオメータ)の実施により、この長期変動に関する研究を進める。
<実施項目>
    1. オーロラ形態、発光強度の光学観測(全天CCDカメラ)
    2. 電波によるオーロラ降下粒子の観測(イメージングリオメータ)

  1. オーロラ電磁エネルギーの極域流入のモニタリング
<概要と目的>
 極域電離圏に流入するオーロラエネルギーの一部は電離層に強い電流を流し、ジュール加熱を行うなど、電磁エネルギーの形で供給される。昭和基地での地磁気3成分の変動観測により昭和基地上空を流れる電離層電流の量や位置、方向、磁気圏の擾乱の度合いを推測する。地磁気の変動観測を長期にわたり継続することにより、オーロラ現象を支配する太陽活動に固有の27日周期(自転周期)、黒点数の消長に関連した11年周期、22年周期等の影響が明らかになると考えられる。また、昭和基地の地磁気共役点であるアイスランドでの同種の観測と対比することにより、電離層の日照効果による電気伝導度の季節変化の効果等を明らかにする。
<実施項目>
    1. オーロラ電流による地磁気3成分変化と基線観測(フラックスゲート磁力計)

  1. 電磁波動による磁気圏のモニタリング
<概要と目的>
 磁気圏から地上に到達する各種電磁波動は磁気圏内の波動−粒子相互作用により励起された際の粒子やプラズマに関する情報をもたらす。これらを長期にわたり観測することにより、磁気圏の粒子環境をモニタリングすることを目的とする。
<実施項目>
    1. Pc3-5脈動による磁気圏磁気流体波の観測
    2. Pc1脈動によるプロトンフラックス変動の観測
    3. ELF/VLF放射による電子フラックス変動の観測

  1. 電磁波動による大気圏のモニタリング
<概要と目的>
 大地−電離層で挟まれた空洞共振系の共鳴であるELF帯シューマン共鳴線の電磁界強度は、全地球上の雷活動度と正の相関を持つ。雷活動度は地球の全球的平均気温と正相関を持つことから、シューマン共鳴線強度の長期モニタリングにより、地球温暖化の傾向を明らかにする。

<実施項目>
    1. シューマン共鳴強度による大気圏温度変動の観測

 

3.3.2 地球環境変動に伴う大気・氷床・海洋のモニタリング

  1. 大気微量成分モニタリング
<概要と目的>
 南極域大気は気候システムの要因となる過程を多く含むことから、その要素を監視することが地球温暖化の診断に重要である。南極域は、人間活動の活発な北半球中・高緯度地域から最も遠く離れており、地球規模大気環境のバックグラウンドの変化を監視する上で最適な場所である。温室効果気体やエアロゾル、オゾンなどの大気微量成分の長期的変化を昭和基地及び船上でモニタリングするとともに、NOAA衛星データ受信を含めリモートセンシングや地上観測により雲や放射収支(基準地上放射観測網:BSRN)の分布を把握し、地球規模の気候・環境変動の評価と今後の変化の予測に資する。

<実施項目>
    1. 連続測定と大気サンプリングによる微量気体成分の観測
    2. 粒径別粒子数濃度測定とサンプリングによるエアロゾルの観測
    3. リモートセンシングや地上測定による雲、放射の観測

  1. 氷床氷縁監視と氷床表面質量収支のモニタリング
<概要と目的>
 地球の淡水の90%を占める南極氷床の規模の変化は、気候変動に応答して変化するとともに、海水準の変化と密接に関係し、地球規模で海岸線の変動を引き起こす。このような南極氷床の変動を把握するには、水平的には氷縁の動きを、鉛直的には表面の涵養・消耗の結果である質量収支を監視する必要がある。本計画では、氷床変動の指標となる氷縁の位置を衛星によるリモートセンシングと航空機観測により監視し、また、氷床表面の質量収支を地上での雪尺観測や衛星、航空機によるマイクロ波リモートセンシングにより氷床氷縁部から内陸域までモニタリングすることを目的とする。
<実施項目>
    1. 衛星観測による高分解能画像データの取得
    2. 航空機による写真撮影、精密地形測量、マイクロ波観測
    3. 地上トラバースによる雪尺観測
    4. 氷床氷縁部の融解(消耗)過程と海洋・海氷との相互作用の観測

  1. 南大洋インド洋区における海洋循環と海氷変動のモニタリング
<概要と目的>
 海氷域は、その顕著な季節変化を通して海洋構造及び循環場の形成に寄与している。また、南極海は、世界の海洋深層循環の駆動源の一つであり、地球規模の気候・環境変化に大きな影響を及ぼしている。海洋循環の実態とその時空間変動、海洋構造及び海洋循環と海氷消長過程との関係を明らかにすることを目的として、インド洋区に焦点を当てた観測を継続する。「しらせ」による海洋観測、昭和基地での衛星観測、基地周辺での海氷調査を実施するとともに、専用観測船の導入により、広域データを蓄積し、南大洋の環境変動についての知見を得る。さらに、定着氷下の海洋変動や海氷の潮汐応答特性のデータも取得する。
<実施項目>
    1. 係留・漂流ブイ、フロート観測
    2. 船上及び衛星観測による海氷分布の把握
    3. 海氷・積雪試料の採取
    4. 沿岸定着氷域の海洋モニタリング

 

3.3.3 南極プレートにおける地学現象のモニタリング

  1. 昭和基地及び沿岸露岩域における地震・地殻変動のモニタリング
<概要と目的>
 昭和基地及びリュツォ・ホルム湾周辺域において、固体地球の変動現象を長期的に監視・把握するための基礎観測を実施する。定常観測との連携を考慮して、リュツォ・ホルム湾域の地域性解明に重点を置く
<実施項目>
    1. 短周期・広帯域地震計による観測
    2. GPS観測
    3. 重力潮汐観測
    4. 海洋潮汐観測

  1. 南大洋における船上地学モニタリング
<概要と目的>
 南インド洋は、ゴンドワナ分裂とそれに伴う南極大陸縁辺海域での地殻発達史やインド洋のテクトニクスを解明する上で重要な海域である。第VI期においても、船上地磁気3成分測定及び海上重力測定を継続して行う。
<実施項目>
    1. 船上地磁気3成分測定
    2. 海上重力測定

 

3.3.4 海氷圏変動に伴う極域生態系変動モニタリング

  1. 海洋生産モニタリング
<概要と目的>
 極域における環境変動を海洋低次生産者群集の変化から把握することを目的とする。「しらせ」に設置されている表面海水連続モニタリングシステムなどにより水温、塩分、動植物プランクトン現存量(クロロフィル濃度や粒子数)を連続観測する。海色リモートセンシングデータを「しらせ」船上で受信し、上述のクロロフィル濃度観測値で検証することにより広域にわたる植物プランクトン分布を観測する。昭和基地においても受信を行い、季節変化を観測する。さらに、「しらせ」を用いてセジメントトラップを長期係留することにより、定点での低次生産の季節変化、経年変化を観測する。
<実施項目>
    1. 動植物プランクトン(オキアミ類を含む)及び海洋環境パラメータの観測
    2. 人工衛星海色リモートセンシング観測
    3. 沈降フラックス係留観測

  1. 海洋大型動物モニタリング
<概要と目的>
 南極海生態系の大型捕食者であるアデリーペンギンなどは、海氷環境の変動に対応しながら生息している。環境変動と海氷圏生態系との長期的な対応関係を捉えることを目的とし、昭和基地周辺のアデリーペンギン、コウテイペンギン、ウェッデルアザラシなどの大型動物の個体数調査を行い、海氷変動に対する短期的な反応及び長期的な個体群変動をモニタリングする。昭和基地周辺のアデリーペンギン営巣地において夏期間中、繁殖及び採餌生態調査を実施する。データロガーによる潜水行動調査、餌生物の組成と量、雛の成長及び生存率の調査、自動モニタリングシステムによる繁殖行動及び採餌トリップの調査等を実施する。
<実施項目>
    1. アデリーペンギンなどの個体数調査
    2. アデリーペンギンなどの繁殖・捕食生態調査

  1. 陸上生態系長期変動モニタリング
<概要と目的>
 東オングル島を中心に設定された定点における土壌細菌・藻類の細胞数、活性等をモニタリングする。ラングホブデ雪鳥沢に設定された永久コドラート内の植物群落の成長をモニタリングする。また、雪鳥沢中・下流部に設置されたオープントップチェンバー内の植生を監視することにより、温暖化に対応した植生の変化に関する基礎データを取得する。湖沼、水系の水位、水量に関しては、東西オングル島、ラングホブデにおいて、湖沼・河川の水位、水量を監視することにより、気候変動が水系に与える影響をモニタリングする。気流生物に関しては、「しらせ」船上及び昭和基地内において、南極地域に飛来する気流生物相の変化を追跡する。
<実施項目>
    1. 土壌微生物の変化のモニタリング
    2. 植生変化のモニタリング
    3. 湖沼、水系の水位、水量のモニタリング
    4. 気流生物の変化のモニタリング

 

3.3.5 衛星データによる極域地球環境変動のモニタリング

<概要と目的>

 衛星観測は、地上観測網の展開が困難な南極大陸内陸部及び南大洋海域において、その全域を短時間に観測できる理想的な広域観測手段である。極軌道地球観測衛星データの受信・解析を中心としたモニタリング研究観測を第V期に引き続き行う。その年々の変動は、地球環境変動の有力な指標となる。

<実施項目>

  1. 多目的衛星データ受信システムによる受信観測
    1. ERS-2 衛星観測データ(合成開口レーダ:SAR)
      対象:氷床・氷河変動、雪氷面・海氷状態
    2. ADEOS-II衛星観測データ(高分解能可視近赤外画像:GLI、GLI-DTL)
      対象:氷床・海氷表面状態、雲、海洋植物プランクトン
    3. ALOS衛星観測データ(合成開口レーダ:PALSAR;立体視センサー:PRISM;高分解能可視近赤外画像:AVNIR-2)
      対象:氷床・氷河変動、雪氷面・海氷状態

  1. L/Sバンド衛星受信システムによる受信観測
    1. NOAA 衛星観測データ(可視赤外画像:AVHRR;サウンダー:TOVS)
      対象:雲分布、海氷分布、表面温度、雪氷面状態、気温、水蒸気、オゾン分布
    2. DMSP 衛星観測データ(画像:OLS;粒子データ:SSJ/4)
      対象:広域オーロラ分布、雲分布、熱圏・中間圏への粒子エネルギー流入
    3. Orbview-2 衛星観測データ(海色センサー:SeaWiFS)
      対象:海洋植物プランクトン分布

 

3.3.6 モニタリングデータの高度利用法に関する研究

<概要と目的>

 種々のモニタリングデータを統計解析、相関解析するため適切なデータ構造を持ったデータベースを構築する。広く共同利用に供するためWWWによるデータの公開を行う。データの品質を安定に保つために観測機器を日本からリモート診断する。

<実施項目>

  1. 効率的データベースの構築
  2. WWWによるデータの公開
  3. 観測機器のリモート診断

 

3.4 定常観測

 定常観測は、国際的観測網の一翼を担い、恒常的に実施する観測として位置づけられ、その観測基準は基本的には国際協定により定められている。定常観測は、電離層、気象、測地、海洋物理・化学、潮汐から構成され、下記のようにその業務を主管する国家機関が担当することを原則としている。観測の実施内容、項目等については継続性が第一義的に求められるが、学術・研究の進展、観測手段の発展、国際的な要望等を考慮し、各観測部門とも見直しを行いつつ進めてきている。

 

3.4.1 電離層(郵政省通信総合研究所)

 電離層は様々な超高層現象の影響によって変化する。逆に、電離層は超高層現象の発生と推移を決定する重要な因子である。また、電離層の変化は電波の伝わり方を直接的に決定づけている。このため、国際電波科学連合(URSI)を中心に、電離層の世界観測網を組織し、超高層現象のモニタ、超高層現象及び電波伝搬研究の基礎資料の取得を目的に観測を継続している。昭和基地における電離層観測は、この国際協力に大きく寄与しており、昭和基地で実施されている総合的な観測と合わせて超高層現象の研究に重要な貢献をするものである。第VI期では、電離層観測のデジタル化や統合データベースの構築を進め、リアルタイムで観測データを利用できる観測施設の整備も行う。

  1. 電離層の観測
URSIの基準に基づく電離層垂直観測、電離層の吸収測定及び衛星電波を用いた電離層観測を継続実施し、得られた資料を宇宙天気予報に利用するほか世界資料センターへ送付し、世界的利用に供する。
  1. 電波によるオーロラ観測
オーロラレーダにより電波オーロラの構造と運動を観測し、得られた資料を世界資料センターや国際電気通信連合(ITU)へ送付し、世界的利用に供する。
  1. 電波による電離圏環境変動の観測
電離層内の電波の散乱・反射現象を利用したレーダなどにより電離圏環境の変動の観測を継続実施する。得られた資料は、世界資料センターへ送付し、世界的利用に供する。
  1. 電離層の移動測定
国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)の勧告に基づき、電気通信にかかわる電波に影響を与える電離層状態の測定を「しらせ」行動中の船上で行い、広範な周波数帯における電波伝搬の資料を収集してITUへ送付し、世界的利用に供する。

 

3.4.2 気象(気象庁)

 昭和基地では、一時閉鎖した期間を除き、地上気象観測を約40年間継続してきた。第3次隊からは高層気象観測を、第5次隊からはオゾン層や大気混濁度の観測を開始し、長期間にわたるデータの蓄積を行っている。第V期からは地上オゾン濃度の観測も実施し、気候・環境関連の基礎的データを定常的に提供する体制を整備している。これらの観測は、世界気象機関(WMO)の国際観測網の一翼を担って実施されており、その資料は即時に各国の気象機関に通報され、日々の気象予報に利用されるほか、温暖化やオゾン層破壊等の地球環境問題の解明と予測に利用されている。近年では、経済的な困難から極域における世界の定常的観測点が著しく減少し、気候変動研究における基礎資料の不足や野外活動のための資料不足等が懸念されている。今後は、昭和基地での定常観測を維持するとともに、野外活動支援のために自動気象観測装置の設置を計画する。

  1. 地上気象観測
 昭和基地は全球気候観測システム(GCOS)の観測地点であり、従来から実施してきた地上気象観測を継続する。野外活動支援を目的として、昭和基地西方と見返り台に自動気象観測装置を新たに設置する。
  1. 高層気象観測
 GCOSの観測地点であり、野外活動支援にも必要であることから、レーウィンゾンデによる高層気象観測を継続する。
  1. オゾン観測
 WMOの全球大気監視計画(GAW)の観測地点であることから、オゾン分光観測、オゾンゾンデ観測、紫外域日射観測、地上オゾン濃度観測を継続する。
  1. 日射・放射量の観測
 世界気候研究計画(WCRP)の基準地上放射観測網(BSRN)の観測地点であり、かつGAWの観測点であることから、日射・放射量の観測を継続する。
  1. 特殊ゾンデ観測
 オゾン層破壊や日射量変動と密接に関係するエアロゾルの観測を特殊ゾンデを用いて継続する。また、エアロゾルの垂直分布の連続的把握を目的として、エアロゾルライダーによる観測を新たに導入する。
  1. 天気解析
 観測隊の野外活動の多様化、航空路の拡大等、気象情報の重要性がさらに増加すると考えられる。これに対応し天気解析を継続するとともに、昭和基地で利用可能な気象資料の拡充を図る。

 

3.4.3 測地(国土地理院)

 近年、宇宙技術等各種の新技術の開発、実用化が進展し、南極地域を含めたグローバルな視点からの測地観測及び地理情報整備が重要となっている。このため、昭和基地及びその周辺域における観測等を通じて測地・地理情報に関する国際的活動に貢献するとともに、南極地域の測地学的データ及び地理情報の整備を進める。

  1. 基準点測量
    1. 測地基準系について、SCAR測地地理情報作業部会(WGGGI)勧告に基づき、現行の測地基準系1967から国際地球基準系(ITRF)に改訂する。
    2. 国際GPS地球力学事業(IGS)に参加し、昭和基地におけるGPS連続観測を継続する。
    3. 露岩地域においてGPS固定連続観測を行う。
    4. 基準点の増設・改測、水準測量路線の改測を行う。

  1. 重力測量等
    1. 絶対重力測定を行う。
    2. 地磁気測量を行う。

  1. カラー空中写真、カラー写真図等の整備
    1. 第V期に引き続き、沿岸露岩域のカラー空中写真撮影、主要露岩域の1万分の1カラー写真図、地形図を作成する。

  1. デジタルデータの整備
    1. 地形図のデジタル化を実施する。
    2. 人工衛星画像、空中写真、既存資料等を利用して、地球地図を作成する。

 また、プロジェクト研究観測等と連携・協力しつつ、測地関連技術の南極地域への適用性を含めて、各種観測を充実させる。

  1. 重力測量等
    1. 航空重力測量の実施について検討を行う。

  1. 人工衛星、航空機等を利用した観測
    1. 人工衛星の干渉合成開口レーダ(InSAR)、ALOS画像等を利用 オて、地殻変動・氷床変動を検出する。
    2. 航空機を用いたレーザスキャニング手法による露岩域及び氷床の形態とその変動の観測について検討を行う。

  1. 氷床基盤地形図の作成
    1. GPS搭載航空機を用い、アイスレーダによる氷床及び氷床下地形観測を行い、氷床基盤地形図を作成する。

 

3.4.4 海洋物理・化学(海上保安庁)

 南極大陸を取り巻いて流れる南極周極流は、南極大陸の環境に密接にかかわるとともに、南極大陸付近で沈降した海水は深層水となって、遠く北太平洋に位置する日本近海にまで到達している。また、南極海は世界の3大洋と接しているため、地球規模の環境変動を把握するには南極海の変動特性を知ることが不可欠となっている。

 このような状況のもと、データの少ない南半球の南極海における定常観測によるデータの取得は、国際的なプロジェクトとして推進されている世界海洋観測システム(GOOS)における調査・研究に積極的に貢献することとなる。

  1. 海況調査
 南極海における海水循環等の実態を解明するため、同海の海流、水温、塩分等の測定や海水の化学分析等を継続して行う。
  1. 海洋汚染物質調査
 南極海における海洋環境の把握及び海洋汚染監視のため、海洋汚染物質濃度の測定を継続して行う。
  1. 昭和基地周辺海域の海底地形図の整備
 昭和基地周辺海域において海洋測量を実施し、海底地形図の整備を行う。また、水深データは、海図及び海の基本図の基礎資料として活用する。
  1. 漂流ブイによる南極周極流の調査
 人工衛星を利用した漂流ブイを放流し、南極周極流を広域かつ長期間にわたって追跡調査する。

 

3.4.5 潮汐(海上保安庁)

 潮汐観測は、海の深さや山の高さを決定するための基本観測であり、そのデータは他の研究にとっても欠かせない基礎資料となっている。このため、昭和基地の潮汐観測は、連続観測と潮汐予報を継続して実施するとともに、国内において潮位の監視ができるシステムの運用を行う。

 また、地球規模の気候変動による海面水位長期変動監視のため、世界海面水位観測システム(GLOSS)への迅速なデータの伝送を行い、連携を強化する。

 

 

4. 観測のために必要な支援

4.1 研究・観測事業の充実に向けての措置

 

4.1.1 専用観測船の利用

 これまでは、観測事業全体の成否が輸送に左右されることから、年々変化する氷状や天候あるいは事故等によっては、輸送業務が優先され海洋観測業務が短縮または中止されることがあった。一方地球環境問題や国際共同観測への対応等南極海における海洋観測の重要性はますます高まっている。しかしながら、現行の「しらせ」の航路上だけでの海洋観測では、これら観測需要に十分にこたえることは困難である。このため、海洋観測や沿岸観測支援を担当する専用観測船を利用することが必要である。

4.1.2 中型航空機による広域観測

 大陸間輸送を行う大型航空機の導入に伴い併用される中型航空機は現在の小型航空機と比較して航続距離が長く、広範囲・立体的かつ多目的の観測が可能となる。これにより、南極大陸氷床上の無人観測点網の整備、ドームふじ観測拠点・内陸山地へのアクセスの改善や、内陸域や海氷域での大気・地球物理観測を実施することができ、観測は「点」から「面」へと拡大され研究の一層の充実が期待される。

 

4.2 輸送

 現在南極における石油備蓄体制は危機的な状況にあり、また観測活動の近代化等によるエネルギー需要はますます増加することが予想されることから、輸送体制の抜本的な改善が望まれる。

  現行の観測船の年1回・1往復によるアクセスを、「しらせ」の昭和基地と近隣大陸間との2往復の実施、大陸間人員輸送用のための大型・中型航空機の導入、「しらせ」を先導船とした輸送船等の航行等によって多様化を図ることを検討する。これによりエネルギーの安定供給、物資輸送量の増加、派遣員数の増員、人員の派遣期間の短縮化や多様化、危機管理体制の強化、高速大容量情報通信体制の構築が実現することになる。

 

4.3 設営

4.3.1 重点的に推進する設営計画

第VI期における設営計画は、観測計画に対応して輸送手段を強化するとともに、基地・観測拠点の整備の継続と環境保全への対応を重点的に推進する。

  1. 基地の整備
我が国の南極観測事業の拠点である昭和基地については、環境保全対策を考慮しつつ、観測・研究の能力向上等を図るべく整備を行う。また、氷床深層掘削再開のため、ドームふじ観測拠点の施設、設備の整備を行う。
  1. 環境保全への対応
「環境保護に関する南極条約議定書」、「南極地域の環境保護に関する法律」等を遵守するために環境保全施設等の充実を図るとともに、クリーンな自然エネルギーの利用を積極的に図る。
  1. 輸送手段の強化・整備
観測計画に必要な、航空機、車両等の輸送手段の強化・整備を図る。

 

4.3.2 設営計画の具体的内容

  1. 昭和基地建物・設備
−電力消費量の増加に対処し、 非常時対応を想定した備蓄燃料の確保
−装輪車等の車庫の整備
−観測関連建物の改修
−道路等屋外環境の整備

  1. ドームふじ観測拠点建物・設備
−新掘削場の建設、コントロール室の更新等掘削施設の整備
−発電棟・隊員宿舎の増築、給排水設備・通信設備更新等設営施設の整備
−野外作業車両の更新

  1. 環境保全施設・設備
−大型廃棄物の持ち帰りを含む廃棄物処理及び環境保全設備の充実
−太陽光発電、風力発電等の自然エネルギーの利用の推進
−燃料タンク、パイプライン、防油堤の整備・更新
−電力ケーブルの整備・更新

  1. 観測用航空機・車両等
−観測計画に対応した航空機及び航空援助施設の充実
−観測計画に対応した雪上車、輸送用橇等の整備及び目的に応じた雪上車等の開発

  1. 通信
−大容量観測データ伝送及びインターネットに対応するための24時間利用可能な高速大容量情報通信体制の構築

 
 
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