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第3章 これからの課題

(1)南極地域観測の継続の必要性
 これまでの南極地域観測により、大陸移動の論証、沿岸生物とその生態に関する新しい知見、オーロラ発生メカニズムの解明、オゾンホールの発見、過去35万年間の地球環境変動の解明、大量の隕石及び宇宙塵の収集など、多岐にわたる成果が得られている。
 これらはいずれも、我が国の観測隊が長期間観測を継続してきたことにより成し得たものであり、南極地域観測を今後も継続することには十分な意義が認められる。
 今後においても、地球環境分野など国際的に連携・協力が求められる重要分野や学術的意義のある分野に重点化を図りつつ研究開発の推進を図る必要がある。

(2)支援体制の強化
 南極地域観測の推進を図る上で、輸送、基地施設・設備、役務などの支援体制の充実は極めて重要である。このため、昭和基地への燃料、観測・設営機材などの物資輸送の根幹をなす南極観測船(砕氷船)及び輸送支援機(ヘリコプター)、基地・拠点の施設・設備、観測機器、役務などの支援体制の強化に努める必要がある。
 基地の施設設備や観測船の設備の整備に際しては、安全性や居住性の向上に努め、研究に専念できる環境を整備充実するとともに、女性の隊員参加が促進されるよう配慮する必要がある。また、南極地域は、学術研究面で重要なことはもちろんのこと、今後、極域科学、地球環境変動など地球科学分野の研究者の後継者養成の場として、教育システムとしても重要になってくると思われることから、施設整備においてはこの面への配慮も必要である。

(3)航空機による人員輸送の促進
 我が国の場合、昭和基地へのアクセスが容易でないという事実に制約されて、現在でも、研究者が建設作業等の設営作業に従事しなければ基地の最低限の運営もままならないといった事業創始期と変らない状況があり、基地を設ける諸外国に比べ南極地域観測の新しい時代への進展に対応できなくなりつつある。
 このため、このような状況が早急に解消されるよう、支援体制の強化に当たっては、諸外国の動向を参考にしつつ、航空機による人員の輸送を促進し、アクセスに多大な時間を費やす現状を改善することが必要である。これにより、研究者、技術者、事務職等の多様な職種の人員のアクセスが容易となり、研究者が研究に専念できるようになることが期待される。また、国内の支援組織と一体となった輸送、設営、事務等のエキスパートによる本格的な専門組織を確立することにより、観測隊長1名で総てを管理する現行の体制から、特殊な技能や経験が要求される施設の設営及び維持管理をこれらの専門組織に任せる体制に移行させ、業務の効率化を図ることも期待される。

(4)開かれた研究体制の確立
 南極地域には多くの国が研究チームを派遣しており、いわば世界の南極科学研究のオリンピックが長年行われているような状況にあると言っても過言ではない。支援体制の整備は国として充分行う必要があると考えるが、コストとの関係でどの種目でトップに立つかを判断するのは研究者の責任であると思われる。
 機動的な研究体制やより開かれた研究体制の確立については、かねてより指摘されてきているが、今後も引き続き努力していく必要がある。特に競争的資金等の多様な資金の導入、研究課題の公募などにより、より多くの領域、所属の研究者が参加できるようにすることが必要である。さらに、国立極地研究所が大学共同利用機関法人の中に統合されることが予定されており、これに伴い今後の観測隊編成の在り方についても検討することが必要である。

(5)評価体制の確立、外部評価の実施
 平成13年6月に行政機関が行う政策評価に関する法律が制定され、さらに、平成13年11月に国の研究開発評価に関する大綱的指針が内閣総理大臣決定されたことに鑑み、南極地域観測事業においても、積極的に評価を実施しつつ事業の推進を図っていく必要がある。
 評価の実施に当たっては、南極地域観測統合本部において外部評価を積極的に活用することが適当である。評価は、事前、中間、事後のいずれの段階でも実施することとし、評価結果が計画の策定、変更などに適切に反映されるようにする必要がある。なお、評価の実施に際し、大学等の学術研究に係るものについては、研究者の自主性の尊重、教育と研究の一体的な推進など、その特性に配慮することが必要である。学術研究の評価を実施するに当たっては、専門家集団における学問的意義についての評価を基本に据えるとともに、研究者を励まし、優れた研究を積極的に見出し、伸ばし、育てる態度が必要である。
 現在、南極地域観測事業は、5か年を1単位とする観測計画が定められているが、南極地域観測事業の実施を担う国立極地研究所の法人化に伴い、国立極地研究所においては6か年の期間による中期目標・中期計画の策定が必要となることが予想される。このため、今後においては、これとの整合性を図るため、観測計画を6か年に変更することが望まれる。これに合わせて、第3年次目に中間評価を実施することとし、学術の動向、気象、財政等の情勢・状況の変化に柔軟に対応できるよう、中間段階において計画の見直しができる制度を設けることが望まれる。

(6)産学官連携の促進
 昭和基地は最低気温が-45.3度、ドームふじ観測拠点は最低気温が-79.7度になったともあり、隊員の生命を守るためには、防寒のために様々な対策を講じる必要がある。また、年に1回しか物資の補給ができず、その量にも限界があることから、少ない物資でより多くの効果を上げる努力が求められる。このようなことから、装備、居住棟、雪上車、発電機、食料など様々な面で技術開発が進められるとともに、電力及びエネルギーの効率的利用の研究が行われてきている。これらにより開発された技術は、「プレファブ住宅」、「インスタントラーメン」、「防寒雪靴」、「雪上車」の普及、省エネルギー機器の開発などに見られるように、現在の国民生活にも役立てられており、産業界の協力の下に実現したものがほとんどである。
 このように、厳しい自然環境下での研究・観測は、基礎研究ばかりでなく造船、建築、材料、食品等の応用技術にも支えられており、貴重なデータを長期にわたり提供し、その成果を社会に還元してきた実績もある。このため、我が国の民間の研究機関や企業との連携を一層強化し、研究者や研究資金を積極的に受け入れて、新しい観測手法や設営技術等の研究開発を進めるとともに、多くの研究の機会や場を積極的に提供していくことは、今後の事業の推進を図る上で有用かつ重要である。
 昭和基地などの施設は国民の財産でもあることを考え合わせると、今後においては、産業界の研究者等が南極地域の我が国の基地で研究開発を行うことも積極的に認めていくべきである。これを実現する方策として、南極地域観測計画の中に、たとえば産学官連携研究開発課題公募枠を設けるなどして、民間企業が提案出資する研究開発課題の実施を可能とする方策を検討することが望まれる。

(7)国際共同観測への協力及び国際交流の促進
 南極地域における観測活動は、国際協力と協調を前提とした南極条約の下で実施されている。条約には、事業計画の情報交換、科学要員の交換、観測成果の交換とその利用の自由、関係国際機関等との協力が謳われている。南極大陸は日本の面積の約37倍という広大な大陸であり、基地を設置する国々が相互に協力して観測を実施しなければ全体を把握することは不可能であって、南極条約は、その必要性が反映されたものである。
 我が国の昭和基地が位置する東南極地域は観測拠点が少なく、多くの国が注目している地域であり、我が国はデータの提供により国際的に大いに貢献してきている。しかし、輸送体制の制約から外国人研究者の受け入れが十分にできないこと、日程上の制約から国際共同観測への参加が容易ではないことなど、様々な課題がある。
 今後においては、諸外国と同様、航空機による人員の輸送体制を国際協力の下で構築することにより、国際共同観測プロジェクトの実施、外国人研究者や国際的な研究プロジェクトチームの受け入れなどを促進するとともに、我が国研究者の国際共同観測への協力が円滑に遂行できるようにする必要がある。また、南極地域観測事業においては、他の国の基地との協力が、我が国の基地での活動を推進する上でも、また隊員の安全を保障する上でも重要であることから、他国の基地への我が国の隊員の派遣を積極的に進め、交流を促進することが望まれる。さらに、南極地域観測に参加しようとする国々の研究者を受け入れるなど、南極地域観測先進国として国際的に貢献していくことも必要である。

(8)研究資料の公開、研究成果の公表、広報活動の促進
 昭和基地、ドームふじ観測拠点等の我が国の基地等で得られた観測データやサンプルは国際的にも貴重なものであり、多くの国から注目され、利用に供されている。しかし、これらのデータやサンプルについては、経費や人員の制約もあり、関係する限られた研究者や観測機関の間にだけに流布、発表されることが多く、幅広く活用されていないという声もある。また、研究成果の国際的な認知度が高くないとの声も聞かれる。このため、研究資料の公開、研究成果の公表については今後とも不断の検討が必要である。また、研究成果の公表に当たっては、競争的な国際的学術雑誌への発表を積極的に奨励することが望まれる。
 南極地域観測は、研究者にとって重要であることはもちろんであるが、これを支援する国民の側においての関心も高い。南極地域は、いわゆる「理科離れ」が懸念される現在において、科学の重要性についての理解増進に最適な素材を提供している。特に近年では、地球環境問題との関連において、南極地域観測の重要性の認知度が向上している。このような状況において、南極地域観測事業によって得られた成果を国民に幅広く還元する意味でも、また、南極地域観測の意義についての理解の増進を図る意味でも、広報活動を積極的に展開していくことが求められる。
 南極が「探検」から「研究」の時代に移り変わる中で、南極地域観測についてのニュース性は昔日に比べ低くなっていると思われるが、見学会や展示会での反応は依然として高い。また科学雑誌や少年雑誌にも南極に関する記事や話題が掲載されており、さらに、本年日本放送協会が昭和基地から中継で基地の様子を放送するなど、南極に関するテレビ番組も多くなってきている。これらの記事や番組は、国民にとって南極地域をより身近な存在にするとともに、南極地域観測に対する理解を増進する上でも重要な役割を果たしている。このため、従来から実施されている観測隊への報道関係者の同行についても、観測に影響のない範囲で、今後も積極的に推進することが望まれる。

 
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