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第2期ドームふじ氷床深層掘削計画の概要
2006年1月12日

昭和基地の対岸に新設された滑走路に飛来したドイツ航空機と航空拠点
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1 第2期計画の背景と経緯

 第2期ドームふじ氷床深層掘削計画は、南極地域観測の第VI期5か年計画(平成13〜17年度)の主要課題である「南極域からみた地球規模環境変化の総合研究」の一環として、第43次南極地域観測隊から実施している。第43次南極地域観測隊と第44次南極地域観測隊は、掘削場の建設などの準備にあたり、第45次南極地域観測隊から現在の第47次南極地域観測隊まで、航空機を利用して掘削チームをドームふじ基地に派遣し、夏期の2ヶ月程度の期間、掘削を行なってきた。
 第1期ドームふじ氷床深層掘削計画は、第32次南極地域観測隊から第38次南極地域観測隊(平成2〜8年度)までが担当し、このうち掘削は第36次南極地域観測隊と第37次南極地域観測隊の越冬隊が実施し、深さ2503mに達した。掘削後、収縮した孔の拡幅作業中、深さ2332mでドリルがスタックした。その後、4ヶ年にわたってドリルの回収を試みたが成功せず、第2期計画では、新たに掘削場(36x4x3m)を建設し掘削を行なった。また、夏期のみの計画としたため、航空機を利用して掘削チームをドームふじ基地に派遣した。



2 深層コア掘削の目的・内容

 氷床深層掘削された氷床コア(氷のサンプル)の解析により過去100万年間の地球環境変動を解明するため、南極ドームふじ基地において約3030mの深さにある岩盤到達を目指して氷床深層掘削を実施している。ドームふじ基地の掘削場では、世界有数の能力を持つ掘削装置を用いて、3交代制による24時間連続掘削を行なうとともに、氷床コア現場処理場では、掘削した氷床コアの電気層位解析、光学層位解析の他、約500年平均のサンプル切り出し作業を実施している。



3 日本の掘削技術の特徴

 氷床コアの掘削には、情報・システム研究機構国立極地研究所(以下「国立極地研究所」という。)が開発したドリルで、モーターで切削刃を回転させてコアを掘削するタイプを用いており、現在、世界で最も高性能な氷床深層コア掘削機である。最大の特徴は、ポンプを使用せずに削りカスを輸送し貯蔵する仕組みと、ドリル引き上げ中の削りカスの流出防止機能を取り入れたことで、効率が良く安定な掘削性能を確保したことにある。
 環境温度-60度以上、耐液圧性能300気圧以上、省電力(掘削時:600W以下)、省人力(2人)、1回の掘削長3.8mという性能を有す。長さ:12.2m、コア長:3.8m、コア径:9.4cm、掘削モーター:直流600W。(別紙「氷床深層コア掘削機の概要」(PDFファイル)参照。)

4 今後期待される成果

 掘削された氷床コアは、「しらせ」によって持ち帰られ、国立極地研究所と北海道大学低温研究所を中心に、東北大学、北見工業大学、名古屋大学、長岡技術科学大学、信州大学、東京大学などが連携して詳細な解析が実施される。酸素(水素)同位体、ダスト、化学主成分などの詳細な解析から、過去100万年間の気候変動の詳細が復元されるとともに、次のようなダイナミックな地球環境史上の未解決な課題解明をめざす。

(1)79万年前の地球磁場反転期(=地球磁場の消滅期)に地表は現在より強い宇宙線や太陽放射線にさらされたが、陸上植物など地球環境への影響、炭素循環への影響、さらには地球の気候への影響はどうであったのか? -------地球磁場の変化と気候変化の関係を探り、新たな気候変動シナリオを描く。

(2)4万年周期だった氷期サイクルが80万年ほど前に10万年周期に変化した原因は何か? 地球磁場の反転が氷期サイクルの変化と関係しているのか? -------氷期サイクルの発生メカニズムを探る。 

(3)太陽活動は地球の気候形成にどのような役割りを果たしてきたか? -----太陽の磁気圏も宇宙線のバリアとして働くので、氷床コアに含まれるベリリウムの同位体などの宇宙線生成核種を分析することによって、過去100万年の太陽活動の変動を明らかにし、地球の気候変動との関係を明らかにする。

(4)アイスコア微生物から生物進化と環境変化の関係などが分かるか? ----氷床コアに含まれる微生物やそのDNAを解析することによって、低温極限環境における微生物の活動や、その進化解明をめざす。特に、最深部に存在する微生物は、100万年以前のものである可能性がある。

(5)岩盤サンプルから、何が分かるか? ----岩盤の宇宙線生成核種から、大陸が雪で覆われ宇宙線が遮断された年代が分かる可能性がある。この年代は、南極大陸が南米大陸から分裂し、極渦が形成され、寒冷化が始まった時代を知る有力な手がかりになる。

日本は共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて氷床コア微生物の多様性や進化研究を進めている。また、最近、ベリリウム同位体の分析は、従来は数百グラム必要だったサンプル量を数十グラムにまで減少することができるように分析技術が改良された。このような日本の進んだ分析技術を駆使してドームふじ基地の氷床コアを分析することによって、これまで未知だった過去100万年の気候変動に加え、生物活動、太陽活動など、新しい領域の研究成果が得られるものと期待される。



5 第2期ドームふじ氷床深層掘削に携わった者

平成15年12月5日〜平成16年1月23日(第44、45次南極地域観測隊、14名)
副隊長: 本山 秀明(国立極地研究所・助教授)
コア解析担当: 鈴木 利孝(山形大学・助教授)
亀田 貴雄(北見工業大学・助教授)
藤田 耕史(名古屋大学・助教授)
掘削担当: 田中 洋一(国立極地研究所/Mジオシステムズ)
吉本 隆安(国立極地研究所/M九州オリンピア工業)
宮原 盛厚(国立極地研究所/M九州オリンピア工業)
航空機支援: 古川 晶雄(国立極地研究所・助手)
基地運営: 大日方 一夫(国立極地研究所/南部郷総合病院)
高橋 暁(国立極地研究所/(有)高原荘)
谷口 健治(高知工業高等専門学校・事務職員)
杉田 興正(気象庁)
栗崎 高士(国立極地研究所/いすゞ自動車M)
中野 啓(静岡大学工学部・助手)
 
平成16年12月1日〜平成17年1月24日(第45、46次南極地域観測隊、16名)
副隊長: 本山 秀明(国立極地研究所・助教授)
コア解析担当: 東 久美子(国立極地研究所・助教授)
鈴木 啓助(信州大学・教授)
五十嵐 誠(国立極地研究所・ポスドク研究員)
掘削担当: 田中 洋一(国立極地研究所/Mジオシステムズ)
新堀 邦夫(北海道大学・技術職員)
吉本 隆安(国立極地研究所/Mアイオーケイ)
武藤 淳公(千葉大学・大学院生)
山崎 哲秀(国立極地研究所・極地観測職員)
基地運営: 木内 文雄(国立極地研究所/M関電工
本多 実 (国立極地研究所/本多工務店)
清水 淳(国立極地研究所・極地観測職員)
飯泉 誠康(国立極地研究所/いすゞ自動車(株))
藤田 建(気象庁)
山本 有佐(大阪大学・事務職員)
報道担当: 中山 由美(朝日新聞)
 
平成17年11月17日〜平成18年1月27日(第46、47次南極地域観測隊、14名)
副隊長: 本山 秀明(国立極地研究所・助教授)
コア解析担当: 藤田 秀二(国立極地研究所・助教授)
古崎 睦 (旭川工業高等専門学校・助教授)
五十嵐 誠(国立極地研究所・ポスドク研究員)
掘削担当: 新堀 邦夫(北海道大学・低温科学研究所)
田中 洋一(国立極地研究所/Mジオシステムズ)
吉本 隆安(国立極地研究所/アイオーケイ)
斎藤 健 (国立極地研究所・プロジェクト研究員)
渡辺 原太(国立極地研究所/土浦ジステック(株))
基地運営: 西巻 英明(気象庁)
遠藤 伸彦(国立極地研究所・技術職員)
高木 善信(国立極地研究所/M大原鉄工所)
越智 勝治(国立極地研究所/広尾町国民健康保険病院)
奥平 毅 (国立極地研究所/飛島建設M)


6 第1期計画の研究成果の概要

 2503m深にいたる氷床コアの解析は、国立極地研究所を中心に、北海道大学、東北大学、北見工業大学、名古屋大学、長岡技術科学大学など多くの研究者による共同研究として実施されてきた。その結果、気温、二酸化炭素など温室効果ガス、陸海域起源諸物質、火山起源物質など、過去34万年間の変化が明瞭になり、下記のような気候、環境変化の実態が分かった。

  • 気温や多くの環境指標物資の濃度が、2万年、4万年、10万年のミランコビッチ周期を示す。また、2503mのコアは過去3回の氷期―間氷期サイクルを含む。
  • 二酸化炭素などの温室効果ガスは、気温と調和的に変化しており、両者の間に密接な関係がある。
  • 二酸化炭素濃度は、産業革命以降の近年を除くと、最大値は過去34万年間で300ppmvである。現在の380ppmvもの濃度は、人類が経験したことのない高濃度である。
  • 気温の変化速度は、氷期の中でも寒冷な期間(亜氷期)では±1度/100年以下であるが、氷期の中でもやや温暖な時期(亜間氷期)では、±1.5度/100年から±2.5度/100年と大きくなる。
  • 今後の100年で予想されている2.5度以上の温暖化は、過去13万年間では2%程度の期間の現象で、歴史的に見ても異常な温暖化と言える。
  • 氷期末期にダスト濃度が高くなるのは、海面低下に伴う大陸棚の露出と風の強さの増大による。
  • ダストの大粒子含有比率、さらに、海塩起源のナトリウム濃度は、風速の良い指標となる。氷期末期の風速は、現在比で約1.5倍強かった。
  • 25層の目に見える火山灰層を見いだした。その多くは、サウスサンドウィッチ諸島の火山を起源とする。寒冷期に火山活動が活発であった可能性がある。


7 国内外の研究動向

南極における氷床深層掘削の記録
日  本 平成 8年12月 ドームふじ基地 氷床下2503m深
過去32万年の気候変動の解明
ヨーロッパ連合
(フランス、イタリアが中心)
平成 16年12月 ドームC基地 氷床下3270m深
過去80万年の気候変動の解明
ロシア 平成10年 1月 ボストーク基地 氷床下3623m深
過去42万年の気候変動の解明
ヨーロッパ連合(ドイツが中心) 平成18年1月1日 コーネン基地 氷床下2685m深
現在も掘削中

○ 海外における研究動向

 (1)南極ではドームC基地において掘削された氷床コアの分析によって、過去80万年の気候変動とともに、65万年間の二酸化炭素濃度も復元され、気温と二酸化炭素濃度が過去65万年間にわたって連動して変化していたことが明らかになった。しかし、ドームCコアにおいては、宇宙線生成核種であるベリリウム同位体の分析結果に79万年前に起こった地磁気の反転の証拠が見つかっていない。また、氷床コア微生物の研究は海外でも始まったばかりで、まだまとまった研究成果は出ていない。

(2)一方、北極ではグリーンランドで、デンマークを中心とするヨーロッパ連合、アメリカ、日本の共同研究プロジェクトによって2003年7月に3085mの岩盤に達する氷床深層掘削に成功した。この氷床コアの解析によって過去12万3千年間の気候・環境変動が示され、グリーンランドでは約12万年前のイーミアン間氷期に現在の間氷期よりも気温が5度ほど高かったことが分かった。また、その温暖期にもグリーンランドには氷床が存在したことも分かった。一方、南極ではドームCにおいて掘削された氷床深層コアの分析によって、過去80万年の気候変動とともに、65万年間の二酸化炭素濃度も復元され、気温と二酸化炭素濃度が過去65万年間にわたって連動して変化していたことが明らかになった。

 
 
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