4 今後期待される成果
掘削された氷床コアは、「しらせ」によって持ち帰られ、国立極地研究所と北海道大学低温研究所を中心に、東北大学、北見工業大学、名古屋大学、長岡技術科学大学、信州大学、東京大学などが連携して詳細な解析が実施される。酸素(水素)同位体、ダスト、化学主成分などの詳細な解析から、過去100万年間の気候変動の詳細が復元されるとともに、次のようなダイナミックな地球環境史上の未解決な課題解明をめざす。
(1)79万年前の地球磁場反転期(=地球磁場の消滅期)に地表は現在より強い宇宙線や太陽放射線にさらされたが、陸上植物など地球環境への影響、炭素循環への影響、さらには地球の気候への影響はどうであったのか? -------地球磁場の変化と気候変化の関係を探り、新たな気候変動シナリオを描く。
(2)4万年周期だった氷期サイクルが80万年ほど前に10万年周期に変化した原因は何か? 地球磁場の反転が氷期サイクルの変化と関係しているのか? -------氷期サイクルの発生メカニズムを探る。
(3)太陽活動は地球の気候形成にどのような役割りを果たしてきたか? -----太陽の磁気圏も宇宙線のバリアとして働くので、氷床コアに含まれるベリリウムの同位体などの宇宙線生成核種を分析することによって、過去100万年の太陽活動の変動を明らかにし、地球の気候変動との関係を明らかにする。
(4)アイスコア微生物から生物進化と環境変化の関係などが分かるか? ----氷床コアに含まれる微生物やそのDNAを解析することによって、低温極限環境における微生物の活動や、その進化解明をめざす。特に、最深部に存在する微生物は、100万年以前のものである可能性がある。
(5)岩盤サンプルから、何が分かるか? ----岩盤の宇宙線生成核種から、大陸が雪で覆われ宇宙線が遮断された年代が分かる可能性がある。この年代は、南極大陸が南米大陸から分裂し、極渦が形成され、寒冷化が始まった時代を知る有力な手がかりになる。
日本は共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて氷床コア微生物の多様性や進化研究を進めている。また、最近、ベリリウム同位体の分析は、従来は数百グラム必要だったサンプル量を数十グラムにまで減少することができるように分析技術が改良された。このような日本の進んだ分析技術を駆使してドームふじ基地の氷床コアを分析することによって、これまで未知だった過去100万年の気候変動に加え、生物活動、太陽活動など、新しい領域の研究成果が得られるものと期待される。 |
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