ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

衛星観測は重要

私のチームが運営する北極域データアーカイブ(ADS)では、JAXAの地球観測衛星”しずく”(AMSR2)によって取得された様々なデータを公開しています。

中でも注目されているのが、北極海の海氷密接度と海水面温度のデータです。ADSは北極研究者だけでなく、世界中の様々な方々よりアクセスされています。北極海の海氷面積は毎年9月中旬に最小を記録しており、近年では2012年9月16日の衛星観測史上最少面積を記録したことにより、毎年夏になると、その年の海氷面積がどの程度まで縮小するのかが注目されているようです。よって8月から9月にかけてはアクセス回数が非常に伸びています。ADSでは、日々の海氷面積の変化をアニメーションで見ることもでき、海氷変化のアニメーションを眺めていると、新たな発見が生まれるかもしれません。またADSでは実際の北極海の海氷面積もリアルタイムで表示されますので、毎年いつ頃に最小面積が記録されるか個人的に予測することはとても楽しいです。これらの情報は、近年話題になっている北極海航路にとっても重要な情報となっています。

あまり注目されていませんが、ADSではマイクロ波のカラー合成画像(RGB (36V,36H,18V))も公開しており、北極域の海上の雲の流れや陸域の温度状況、グリーンランドの夏季の融解状況をモニタリングすることができます。グリーンランドでは2012年7月12日に衛星観測史上初めて、グリーンランド全域の氷床が融解したことが観測されました。と書くとデータを見たくなりますが、残念なことに、この時期は日本のマイクロ波センサーの切り替わり時期にあたり、データがありません。

このように、衛星観測は北極域を観測するために非常に重要なツールとなります。しかしこの地球観測衛星も後継機の計画は暗礁に乗り上げていると聞いています。日本では北極域を観測できるマイクロ波センサーを2002年からAMSR-E、2012年からはAMSR2と継続して運用してきており、世界の北極地域の研究をリードしてきています。しかし、現在のAMSR2以降の後継機に関してはほぼ予定がないとのこと。このような重要な衛星こそ継続してほしいものです。


矢吹 裕伯/国立極地研究所・特任准教授(テーマ8 PI)


AM2SI20120916D_ITD_NP.png

2012年9月16日のマイクロ波のカラー合成画像(RGB(36V,36H,18V))

AM2SI20120916RGB_NP.jpg 2012年9月16日のマイクロ波のカラー合成画像(RGB(36V,36H,18V))


AM2SI20120728RGB_NP.jpg2012年7月28日のマイクロ波カラー合成画像(RGB(36V,36H,18V))
グリーンランドの表面で白色の部分が融解領域