ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

米国沿岸警備隊砕氷船Healyによるチャクチ海海洋観測②

前回の報告でありましたHealyでの海洋調査は、途中海氷に阻まれることもありつつも、全部で14定点の観測/観察を行うことが出来ました。最後の観測点も終えて、Healyはスワードに向けて帰路につきました。

私の方は、「マルチネット」という動物プランクトンを5層の層別に採集できる機器を用いて、水深2000 mから表面までの動物プランクトンを採集し、安定同位体比測定用の試料を得ることが出来ました。安定同位体比は、食物網の構造解析が可能になる測定指標 で、試料は日本に持ち帰って分析が行われる予定です。一口に動物プランクトンといっても、その食性は多様で、主に植物プランクトンを食べる種類から、動物 プランクトンを襲って食べる肉食性の種まで多様な食性を持っています。北極海は海表面が冷たいため、表層から深海までほとんど温度変化がなく、本来は低水 温な環境にしか生息できない、深海性の動物プランクトンが表層近くまで出現する、特殊な海洋環境です。この安定同位体比解析により、北極海生態系の食物網 構造の特殊性を明らかにすることが出来ると考えています。7月28日には、北極圏を越えて3週間以上のオペレーションに従事したということで、研究者とク ルーの全員が米国沿岸警備隊の北極功労メダルも頂き、一同とても楽しい思い出を胸に帰路につきました。

山口 篤/北海道大学・水産科学研究院(テーマ6実施担当者)

マルチネットによる動物プランクトン採集と観察

チャクチ海で採集された様々な動物プランクトン

Healy船上の科学者と乗組員の集合写真