ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ブラックカーボン及びメタンに関する第3回AC専門家会議報告

ブラックカーボン及びメタンに関する第三回AC専門家会議が2016年10月25, 26日にアメリカのワシントンDCで行われました。アメリカ、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、AAC、ACAP、イタリア、日本、韓国、EU、ACから26名が参加し、日本からは、国立極地研究所の近藤 豊(特任教授)が出席し討議に参加しました。

この会議の主目的は「ブラックカーボン、メタンの排出削減に関するこれまでの知見・理解のまとめと、AC国を中心とする削減実施の勧告を含む内容の報告書(Summary of Progress and Recommendations)」を取りまとめることです。2017年1月にSAOに最終報告書を提出する予定です。

会議の冒頭に、議長であるアメリカの国務省のKaren Florini氏からこの会議の目標についての確認と説明がありました。会議の前に、EGBCMのメンバーによって準備されたセクター毎のブラックカーボンとメタンの論文について報告書の改訂が行われています。

前回と同様に執筆責任者による説明と、それに対する議論がなされました。この論文は、次の4つの課題を取り扱っています。

ブラックカーボン: 移動発生源(Mobile sources)、家庭用バイオマス燃焼(Residential biomass combustion)、メタン:石油と天然ガス(Oil and gas)、 固体廃棄物(Solid waste disposal)。最終報告書の作成に向けて4つの課題について、文章の内容や表現に関する詳細な議論が行われました。全体的にはこれまでの会合で議論してきたことの精緻化です。これまでの会議であまり議論されてこなかった2つの事柄について述べます。

1. 石油採掘の副産物である天然ガスを燃焼させるflaringの過程でブラックカーボンやメタンが生じます。世界銀行(World Bank)では2030年までflaringをなくすための指導的活動を行っています。特別に招聘された世界銀行の専門家によりflaringの実態や、flaringの停止に向けた世界銀行の取り組みが紹介されました。Flaringから放出されるブラックカーボンの量の推定が極めて不正確であるので、この推定に関する研究を推奨することになりました。

2. Shipping ― 北極域でのブラックカーボンの排出量に対し、船舶からの排出量は5%程度であり、北極域の雪氷への沈着の寄与は1%程度と推定されています。もし、船舶からの排出を規制しない場合、2030年には排出量が倍になる可能性があります。International Maritime Organization (IMO)が船舶からの種々の汚染物質の排出規制を行っています。今後、AC国は、関係機関と意見交換をしながらこの問題に取り組むことを検討していきます。

国際的な北極の環境問題に対応するために、多くの大気汚染物質を排出しているロシアのより積極的な参加が必要ですが、AC国であるロシアはEGBCMの議論に参加していません。この問題に関しアメリカ・ヨーロッパはロシアとの協力関係を模索していることが、この会議を通してよく理解できます。北極研究の実施において、こういった政治的な背景を理解しておくことが有用です。

近藤 豊/国立極地研究所・特任教授(テーマ3 実施担当者)