サルイットはツンドラの地で、どんな特徴があるかというと、まず永久凍土、そして、一日中明るいけど短い夏、それに対して一日中暗い「極夜」の長い冬、年間を通してそう多くない降水量、強風、冬の吹雪、途切れがちな植生、それに影響する不安定な湿った土壌と、その原因となる永久凍土の凍結・融解などです。
7月の第2週、短い夏のピークの晴天だけど、やはり空気は冷たいです。近くの小山に上って、調査(サンプリング)に適した場所を探します。私の先生(長沼)はよく「自然がいちばんの先生」と言ってまして、その教えを胸に、リサーチ・ステーションのすぐ東にある小山に向かいました。
私のターゲットは地衣類、その中でもイワタケ類です。これはウンビリカリア属の菌類と光合成生物(藻類あるいはシアノバクテリア)からなる共生体です。
遠くからは簡単に上れそうに見えた小山でしたが、行ってみると草やぶや湿地帯に足を取られて、意外と難しかったです。斜面を上っていると、カリブー(トナカイ)が飛び出してきました。3匹のイヌイット犬に追われていたのです。カリブーは地衣類、特に「トナカイ苔」と呼ばれる樹枝状地衣類(Cladonia属)を好んで食べるそうです。
斜面の岩の表面には、ところどころに、しかし、多種多様な地衣類と蘚苔類(コケ類)が生えていました。雪や氷の融け水が岩の間や表面を流れています。サンプリングに適した場所を探していると、好い所が見つかりました。水のあるなしで、地衣類の個体の大きさがずいぶん違っているのです。ライターで火炎滅菌したナイフを使って地衣類を岩から剥がし、ワールパックという滅菌バッグに収納しました。
リサーチ・ステーションへの帰路に可愛いレミング(タビネズミ)に出会いました。リサーチ・ステーションに着くと、電柱を支えている岩塊の表面にイワタケが生えているのを見つけました。これ幸い、「ヒューマン・インパクト」の影響を受けたサンプルだと、早速採らせて頂きました。
メリー・サイロンガ・ファルアブル
(和訳:長沼 毅/広島大学(テーマ6研究協力者))
事務局注:メリー・サイロンガ・ファルアブルさんはArCSの参加研究者ではありませんが、
ArCSテーマ6の研究に必要な調査をしていただきましたので、調査の様子をご紹介いたします。