ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

サルイットDay 2:谷の反対側の斜面へ

冷たいけど風が強くないのが救いの朝、装備を整えます。

サンプリング2日目は、施設から見て北西側の斜面にアタックすることにしました。サルイットは約300mの急斜面に挟まれた谷地形(バレー)で、施設からは反対側の斜面になります。ここも草むらに覆われた湿地斜面で、地元の人が乗りまわしたATV(四輪バギー)の轍(わだち)があちこちにあります。さほど急でもない斜面ですが私にはきつかったです。でも、上りきったらそこには息を呑むような、サルイットの入り江(スグルック・フィヨルド)と谷の眺望が開けていました。

あたりを見回して、ここならではの調査テーマを探します。すると、ひらめきました。ここの風に「曝されている」ものと「守られている」もののインスピレーションを得て、こんな仮説を考えました。風に対するマイクロハビタットの違いが地衣類(イワタケ類)の成長に影響するのではないかと。実際に、守られているイワタケは比較的大きかったのですが、曝されているほうは小さいのが密集している傾向がありました。

その影響はもしかしたら地衣類の微生物相にも及んでいるかもしれない。そう思った私は早速それぞれの場所からイワタケをサンプリングしました。やがて向こうの斜面に暗雲が見えたので急いで下りましたが、雲も切れて晴れ間も見えたので、せっかくだから麓のところに露出していた岩塊でもサンプリングしようと思いました。

この岩塊は、多種多様な地衣類が生えていて、まるで宝箱のようでした。そして、「一つの岩塊でも種が異なると地衣類の微生物相も異なるのだろうか、いや、同じ場所に生育しているのでやはり似ているのだろうか」という私の問題意識に答えてくれるサンプルになると思い、一生懸命にサンプリングしました。

メリー・サイロンガ・ファルアブル
(和訳:長沼 毅/広島大学(テーマ6研究協力者))
事務局注:メリー・サイロンガ・ファルアブルさんはArCSの参加研究者ではありませんが、
ArCSテーマ6の研究に必要な調査をしていただきましたので、調査の様子をご紹介いたします。


サルイットの谷(バレー)と町(コミュニティ)


多種多様な地衣類が同所的に生えている岩