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第1章 学術研究活動に関する評価

2 地球環境変動史の研究領域

(1)アイスコアによる環境変動の高分解能解析
 現在の地球環境は、超大陸パンゲアの分裂により分離独立した南極大陸が、南極周極流の成立とともに、氷床の受皿として機能することにより形成されたものである。 地球環境変動史とその将来予測に関する研究においては、南極を対象とした観測が必須であり、とりわけ氷床に閉じ込められた記録の解読は欠かせない。過酷な条件を克服して行われたドームふじでの深層掘削と、その結果得られたコアから3回の氷期サイ クルを含む過去32万年の気候・環境変動データを得たことは、特筆に値する成果であ る。特に、掘削地点の利点及びコア品質の良さから、それは南半球の長期変動データの標準になると期待されている。高分解能解析については、まだ解析途中ではあるが、すでに、100年間に2℃以上の急激な温暖化がこの間に60回ほど起っていたこと、及び深層部でも複数の指標に年変動に相当する変動があることを見出すなど、古気候・古環境変動解析の時間分解能を飛躍的に向上させる成果を挙げている。論文発表など情報発信をさらに活発にする必要があるが、解析途中という点、膨大な労力を要するという点を勘案して、今後に期待したい。

(2)気候システムにおける氷床の役割
 氷床は、地球の気候システムにおける巨大な冷熱源として重要な役割を担っているばかりでなく、その部分的な崩壊・流出でさえも気候システムに重大な影響を与えると考えられており、その流動解析、変動履歴等の研究が不可欠である。この点に関しては、わが国独自の2周波レーダーを使って、南極氷床内部の流動場の解析を可能にした点が高く評価できる。また、流域内の数箇所で行われた浅層掘削コアによって、堆積環境等の時間および場所による変動を明らかにした点も、ドームふじコアで得られる1地点のデータを広域に拡大する意味において、重要な成果である。南極氷床の長期的な変動を直接示すデータとしては、沿岸部の地形や堆積物の解析によって、昭和基地周辺の露岩が最終氷期中程の3〜4万年前に氷床から解放されたことを明らかにしている。これは、従来の定説を覆すものであり、これまでコンピュータ・シミュレーションによって論じられていた南極氷床の変動史を、現地のデータで検証できるようにした点で、高く評価できる。

(3)気候変動メカニズムの解明
 気候システムモデルの開発には、蓄積されたフィールドデータに裏づけられた気候 変動の支配要因にもとづいて、気候変動メカニズムを解明する必要がある。これは地 球科学における長期的な重要課題であり、南極観測の直接の成果とは言えないが、ド ームふじコアの解析研究と関連した研究として、南極氷床の3次元流動シミュレーシ ョンが行われている。まだ、(1)、(2)の成果との整合性を論ずる段階には至ってい ないが、ドームふじコアの物理解析データをもとにモデルの改良が試みられており、 コアデータに基づいたモデルの精密化という新たな一歩として評価することができる。

(4)古環境復元統合計画
 「古環境復元統合計画」によると、この計画は「南極の氷床コア、海底コア、湖沼コアを統合的に捉えて環境変遷に取り組む世界初の研究計画で、南極域の大気−海洋−陸域−雪氷環境変化を総合的に解明し、地球環境変動に果たす南極の役割を明らかにする学際的な計画である」ことが掲げられており、具体的には以下の3課題が挙げられている。

1. 過去の高時間分解能地球温暖化研究
 ドームふじコアで見出された急激な温暖化事例の高時間分解能解析を進め、今後100年の地球環境の変化を探る上で重要な研究材料を得ることを目的としている。アイスコアからは、大気及び大気とともに運ばれる様々な物質が検出されており、温暖化の前後でどのような大気環境の変化があったのか、温暖化のメカニズムを探る上で貴重なデータになると期待できる。

2. 過去100万年の気候・環境変動の学際的解明
 ドームふじで岩盤に達する氷床深層コア掘削を行う計画であり、過去100万年の気候・環境変動の基準となるデータの取得と基盤岩石を採取して、南極が氷床で覆われ始めた年代を明らかにすることを目的としている。32万年が100万年に延びることは、データの意味に質的な違いがある。すなわち、氷期−間氷期変動の開始や地磁気の反転が、50〜80万年の間に起こったと推定されており、この時期の大気環境を初めとする地球の気候・環境を明らかにすることによって、現在の地球システムの理解にまったく新たな1ページを加えると期待できる。

3. 最終氷期〜完新世における氷床−海洋変動の解明
 昭和基地周辺海域で海底堆積物や湖沼堆積物を採取し、最終氷期とその後の完新世にいたる氷床変動−海洋変動−露岩域環境変動を明らかにし、この地域に現れる特異な氷床変動特性を明らかにすることを目的とする。南極氷床の流動シミュレーションに関してモデルの信頼性向上が求められており、これを検証する有力なデータを与えると期待できる。また、この地域に現れる特異性が何に起因するのかという点が解明できれば、氷床変動モデルの改良に有用であるばかりでなく、南極氷床の局地的な挙動と気候変動の関係も明らかになる可能性がある。

 
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