最新の昭和基地情報をお届けする「昭和基地NOW!!」野外調査隊はどこ?進め!しらせトピックス
















第1章 学術研究活動に関する評価

3 太陽系始源物質の研究領域

(1)南極隕石発見の意義
 隕石は、46億年前に太陽系の惑星と同時に形成された、惑星まで成長できなかった 天体の小片で、太陽系の誕生から地球史の冥王代における事件を探る唯一の物質である。一般に、世界でも隕石の発見はまれであったが、南極で大量の多様な隕石が発見 されてから、隕石学研究は飛躍的に進展し、宇宙惑星科学と地球科学とを融合させて、新たな宇宙物質科学を確立しようとしている。その最初の貢献となったのが、日本の第15次南極観測隊(1974年)による663個にのぼる大量の隕石の発見と収集であり、その活動は学術上急展開させた点で特記すべきである。それが重要であるのは、南極観測当初に隕石が偶然に発見されることはあったが、それとは異なって、隕石の集積機構に関する仮説にもとづいて隕石探査が計画され、実際に大量隕石の発見・採取に成功したからである。日本隊の発見が契機となって、米国やヨーロッパの科学者による探査も進んだが、わが国が所蔵する1万6千点を越える隕石は、南極隕石のおよそ6割を、全世界の隕石の5割以上を占め、世界最大のコレクションとなっている。これらは定性・定量的な初期分析を経て分類され、カタログとして世界中に公表されている。標本資料については、隕石研究者の要望に応じて配分されるルールが確立されており、炭素質隕石、月隕石、火星隕石といった希少種類の隕石については、国際的に組織されたコンソーシアムの下で研究が行われている。研究成果は国際シンポジウムにおける発表や学術誌での論文として公開され、隕石研究の発展に貢献しているが、所蔵している解析途上の多量の隕石については、今後一層の活用を期待したい。

(2)南極隕石と惑星物質の進化過程の研究
 南極隕石には、約50種類に分類される隕石のほとんどすべてが含まれており、それ らの学術的な価値は極めて高い。月隕石は、南極で日本隊により初めて発見されたが、日本隊はさらにナクライトといった火星隕石も初めて発見している。これらは南極氷床の-20度〜-40度の低温下に保存されているため風化は進まずに新鮮で、土壌もなく生物もいないために地球物質で汚染されていないという特徴がある。そのため、隕石から微量成分とくに有機化合物の分析を可能にしており、希少種類の炭素質隕石から地球上にはない新しいタイプのアミノ酸が抽出されている。国立極地研究所南極隕石研究センターに導入された二次イオン質量分析計(SHRIMP II)によって決定された玄武岩質隕石ユークライトのウラン−鉛年代から、その母天体でのマグマ活動が太陽系形成後およそ数千万年以内に終わっていたことが明らかにされている。そして、始源隕石を構成するコンドルールとよばれる球粒物質や、アルミニウムやカルシウムを主体とするCAIという物質について分析がなされ、それらの放射年代と合わせて、星間物質・ガスの凝縮過程についての研究が進展しつつある。また、火星隕石の年代は13億年と若く、その頃に火星でマグマ活動があったことが示唆されている。火星隕石に新たに確認された含水鉱物の年代測定から、火星表層の流体について考察が試みられている。こうした試みは、隕石による惑星進化過程の研究を飛躍的に発展させる可能性があり、高く評価される。最近はじまった惑星の起源物質である宇宙塵の研究を加えて、今後より組織的な戦略計画が立案されることを希望したい。

(3)隕石母天体の研究と太陽系の起源
 太陽系の起源の探究には、多種多様な隕石からの証拠を鍵として、隕石の起源となった母天体の構造についての研究が重要である。隕石は、原始太陽系ガス星雲から、現在の太陽系にいたる天体の進化過程を記録している物質で、隕石の軌道から、その起源は小惑星帯であることが明らかにされている。そして、隕石に含まれる宇宙線で生成した14C、26Al、10Beなどの放射性同位体から求められた落下年代は、数千年前から百万年前と幅が広く、同じ種類の隕石であっても年代が違うと飛び出してきた母天体が異なる可能性があることも指摘されてきている。しかし、小惑星の反射スペクトル分析との比較研究から、小惑星帯には南極隕石にもっとも多い普通コンドライトに似たものはまれであって、普通コンドライトの起源として地球軌道に近接する小惑星群が考えられている。普通コンドライトの岩石種の熱変成史の違いから、内部ほど高温で表層に向かって低温になる母天体モデルが推定されたりするように、母天体や太陽系の起源に関連して、南極隕石の研究から挑戦すべき課題は多い。そして、天体の始源物質としての隕石や宇宙塵と、それらが集合合体して誕生した原始地球、さらに日本の南極観測隊が明らかにした世界最古の40億年の年代をもつ東南極のナピア岩体の形成やその後のロディニア、ゴンドワナの大陸地殻進化など、太陽系の起源から出発した惑星史、地球史の解読が重要である。隕石研究は量的な問題さえ解決できれば、飛躍的に質的な進展が見込まれる学問分野である。これまでの研究成果については断片的な傾向にあったことは否めないが、さらに多種多様な隕石を確保するとともに、先端的分析手法の開発および計画的な研究にもとづく野心的な新モデルの提唱を期待したい。その前提条件である南極における隕石探査は、南極観測の主要プロジェクトのひとつとして継続されることが強く望まれる。

 
top△

前ページ 目次に戻る 次ページ
 
昭和基地NOW!! | 野外調査隊はどこ? | 進め!しらせ | トピックス

Copyright(C)1997-2014 National Institute of Polar Research