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第1章 学術研究活動に関する評価

4 超高層物理の研究領域

 地球は太陽からの電磁放射エネルギーと太陽風エネルギーを受けとってさまざまな機構や現象を発現させ、大気圏・地圏・水圏・生物圏からなる地球システムを構成しているが、その中で超高層大気は太陽活動にもっとも鋭敏に反応する領域である。近年、人間活動によりこの地球システムに異変が現れ、地球の温暖化現象などが社会問題になっている。太陽の支配下にある地球上に住む人類にとって、この地球圏システムを全体的に理解することは極めて大切なことである。

(1)オーロラの発生・発光過程に関する研究
 昭和基地はオーロラ帯直下に位置し、地球磁気圏に取り込まれた太陽風エネルギーが爆発的に解放されるオーロラ嵐(オーロラ・サブストーム)の観測など、さまざまなオーロラ現象の観測の最適地であり、日本が南極観測を開始した当初から精力的にオーロラ観測が行われてきている。特に、ロケット、衛星、地上光学、レーダー観測などを組み合わせたオーロラ総合・立体観測やそのデータと理論値との比較により、オーロラの発生・発光過程のメカニズムの解明において世界をリードする研究成果を上げてきていることは高く評価できる。例えば、中層大気国際共同観測計画(MAP)期間中でのロケット実験では、オーロラ発光領域内の降下電子のエネルギー分布や電子密度・温度などの物理量の直接観測に成功した。このロケット観測データと最新の理論・モデル計算との比較研究により、オーロラの発光高度分布と発光過程に関し新たなメカニズムを見いだすことができた。また近年では、オーロラ微細構造の物理機構を解明すべく最新技術を用いた観測に積極的に取り組んでおり、今後の成果が期待できる。

(2)オーロラ現象の南北半球対称性・非対称性に関する研究
 昭和基地とアイスランドはオーロラ帯で唯一存在する地磁気共役点の位置関係にあることから、他国では真似のできない、オーロラの南北半球対称性・非対称性に関するユニークな研究を推進してきている。特に、共役点観測と衛星との同時観測により、長年未解決であった、脈動オーロラの発生領域・機構・形状に関して、新たな観測事実を最近発見している。また、イメージング・リオメータの共役点連続観測から、冬半球側の方が夏半球側よりもオーロラ降下粒子の量が多いことを突き止め、電離圏−磁気圏結合によるオーロラ粒子加速に及ぼす電離圏の役割を指摘したことなどは高く評価できる。

(3)極域中層・超高層大気ダイナミクスに関する研究
 極域超高層大気は、オーロラ過程によって上方から直接注入されるエネルギーと下層大気から輸送された大気潮汐波や重力波エネルギーなどに起因する、さまざまな時間・空間スケールの波動・擾乱・変動などのるつぼとなっている。この中層大気から熱圏に至る中性大気のダイナミクス、広汎な大気各層の力学的結合を深く理解するために、各種レーダーや光学などさまざまな観測装置を用いて総合的に取り組んでいることも評価できる。最近の観測では、南極中間圏界面領域の冬期の温度プロファイルは、北極に比べ10度〜20度低いことが示された。これは南極の方がより放射平衡状態に近く、大気波動の大気大循環場への影響が小さいことを示している。一方、夏季の中間圏界面域の温度極小に由来すると考えられている極域中間圏夏季エコー(PMSE)の発生頻度が、北極域に比べて南極域で低いとの指摘があリ、これらの知見はともに下層大気で励起される重力波の大気循環への寄与の南北の違いを強く示唆するものと考えられ、地球規模の大循環場の全体像や地球気候変動を解明するうえで極めて貴重な情報である。
 超高層物理観測の将来計画の一つとして、「南極昭和基地大型大気レーダー観測計画」がある。この計画は、対流圏・成層圏・中間圏・熱圏・電離圏にわたる大気の3次元運動を高精度で観測するため、これを可能とする大型大気レーダーを世界に先駆けて昭和基地に設置し、これを軸に、すでに展開している多様な観測機器と併せて、地球気候の変動の監視とメカニズム解明を目指し、極域大気の総合研究を行おうとするものである。この計画により、中緯度に比し外圏大気や極域下層大気の異なる境界条件、温度構造下での諸現象の理解、特に極域固有の中層大気におけるエネルギー輸送とバランス、平均流加速などの定量化が可能となり、極域における地球気候変動の長期監視、予測に資するものと期待される。

(4)これからの課題
 南極における超高層大気研究の重要性は高く、一層発展させる必要がある。これまでの研究成果は国際的な学術誌にも発表されているが、質、量ともにさらなる充実を図り、指導的な研究グループとして広く認知されるべく一層の努力が望まれる。いずれの研究課題においても第一級の業績を上げるためには長期的・総合的な取り組みが必要であり、グループが目標を共有し力を結集することが求められる。

 
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