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第1章 学術研究活動に関する評価

5 設営部門の研究開発領域

 設営部門は、各種の観測目的を達成するために必要となる建物・電力・生活・輸送などの基盤(インフラストラクチャー)を構築することを使命としている。そのために、大学や産業界の協力を得て様々な試作・試験を繰り返し、過酷な環境下において実用に耐える高率的な設営システムを築き上げてきた。このことは全般的に評価できる。以下に、各事項について評価する。

(1)効率的な電力及び熱エネルギー利用の研究
 1957年に昭和基地を開設して以来、電気エネルギーの確保は、一貫してディーゼルエンジンに依存してきた。このため、エンジン稼働に伴う冷却水熱と排気熱を効率的に回収して、造水や暖房に利用する研究が行われてきた。冷却水熱の回収システムは、第7次隊(1965年)での発電棟建設時に初めて採用されて以来、改良を繰り返し極めて効率的なシステムとして完成し、現在に至っている。このシステムは特に、燃料輸送が困難な内陸みずほ基地のエネルギーシステムに利用され、暖房用燃料消費の低減に大きく貢献している。一方、排気熱回収システムは、第25次隊(1983年)の発電棟更新に伴い、新システムとして導入され、運用に成功した。この結果、昭和基地の発電システムの総合エネルギー効率は80%にも達した。この成果は、省エネルギー活動に先鞭をつけたものと高く評価され、昭和59年度の「省エネルギー機器賞」に輝いた。
 しかし、自然エネルギーの利用に関しては、その豊富な風力、太陽エネルギーに注目して様々な試みを行ってきたにもかかわらず、基地電力に占める割合は、いまだ低い。特に風力発電は、現地特有の強風や低温など克服すべき問題もあるが、燃料コストが高いこと及び環境保全を考慮すれば、早急に実用化する必要がある。

(2)木質パネルによるプレファブリケーション建物の研究開発
 南極の建物に求められる条件は、風速60m/s、積雪2mの屋根荷重、外気温-50度の環境に耐えることはもちろん、軽量で輸送性に優れ、短期間に建設に経験のない隊員によって建築可能なことであった。これらの課題に対し、大学と産業界が協力して開発研究を行い、木質パネルによるプレファブリケーション工法を完成させた。その成果は、1995年度の日本建築学会賞「南極昭和基地建設の設計と建築に関する一連の業績」の受賞に結びついた。この技術は、いわゆる「プレファブ住宅」の普及のみならず、各種の工業化手法を実用化させ、我が国の産業界の発展に大きく貢献した。昭和基地では、この工法をさらに発展させ、2階建て居住棟や、延べ床面積722Fにも及ぶ3階建ての管理棟の建設を実現させた。また、あすか観測拠点やドームふじ観測拠点などの氷床上基地の建物にも、我が国独自の構法が開発され、採用されている。耐久性などに関する追跡調査・報告もなされており高く評価できる。ただ、近年、基礎工事に多くのコンクリートが使用されたため、昭和基地の骨材不足が深刻になりつつある。環境問題も考慮すると、コンクリートの量を少なくすることが課題になってきた。さらに、コンクリート基礎に替わる新工法の研究も積極的に行う必要がある。

(3)雪上車の開発研究
 第9次隊(1967年)が実施した南極点往復調査旅行に向けて、初めて国産大型雪上車が開発された。この時の技術が現用の雪上車の基礎になった。この当時の設計・開発は、防衛庁が携わっていたが、現在は、国立極地研究所と民間が共同で行い、南極大陸の厳しい雪面状況や高度3800m、気温-80度にも達する低酸素、極低温の環境を克服する新型雪上車を開発した。これにより、昭和基地から1000km離れたドームふじ観測拠点への大量の物資輸送が可能となり、深層氷床ボーリングが成し遂げられた。しかし、この雪上車に牽引される橇には問題が見られる。現用の橇は、第2次隊(1957年)で開発した木製2t積みの橇で、軽量で耐久性に優れている反面、大きなサスツルギを持つ内陸の雪面での走行や大型雪上車による多数の橇の牽引には不向きである。今後、過酷な内陸旅行に適した大型橇の開発が急務である。

(4)その他の成果
 初期には、装備分野においても南極用の新製品を開発した。その一つとして防寒雪靴がある。これは、主に内陸調査旅行用に開発した物で、現在でも各国の観測隊で使用されているだけでなく、日本国内では冷凍庫内での作業用としても多用されている。また、インスタントラーメンの開発普及も南極観測隊での需要が契機となった。

 観測活動の拡大に合わせて、輸送や基地設備の開発を試行錯誤して行ってきた。しかし、輸送の制約による燃料の不足、航空機の運航、環境問題への対応、長距離内陸旅行、高度情報通信の導入など、新たに解決すべき課題は多い。大学研究機関及び民間との強い連携により、研究・開発システムを充実して対処する必要がある。

 
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