カナック氷帽での観測につづいて、村から20km離れたボードイン氷河において現地観測を実施しています。近年急速な変化が起きている氷河末端部に着目して、2013年から毎年観測を実施しているものです。ボードイン氷河は120年前にアメリカの探検家Robert Pearyが訪れたことが知られており、現在では地元の人々が狩猟のために氷河前のフィヨルドを訪れます。
7月4日、11人の観測メンバーと観測機器・食料約3トンが氷河近くのベースキャンプにヘリコプターで輸送されました。その後、氷河変動とそのメカニズムを調べるため、以下の観測を実施しています。
- 自動気象ステーションによる気象観測
- GPSによる氷河流動速度の測定
- 氷融解量の測定
- 地震計による氷河地震の検知
- カービングとそれに伴う津波やインフラサウンドの測定
- アイスレーダによる氷河の厚さ測定
- 無人航空機による空中写真の撮影
今年の観測には海洋研究者も参加。生物・化学的な分析を目的に氷河融解水や海水をサンプリングしています。また国際共同研究を実施しているスイスのチームは、無人航空機を上空に飛ばして氷河表面の詳細な測定を行っています。ボードイン氷河の表面はクレバスに覆われて、上空からみるとまるで凍った海のよう。氷河の中央部は「中央モレーン」と呼ばれる岩や堆積物からなるバンドが特徴的です。また氷河の周辺では、レッドガーネットなど様々な種類の岩石を見つけることができます。
7月上旬には、氷河が流入するフィヨルドはまだ氷山と海氷が凍りついた「アイスメランジェ」に覆われていました。その海も観測中に融解が始まり、7月中旬にはフィヨルドの氷が消えて、鳥やアザラシが訪れるようになりました。氷河上での約3週間の観測期間中は好天に恵まれ、日によってはTシャツで活動する時間もあったほどでした。好天のおかげもあって観測は順調に進み、7月21日には無事にカナック村に戻って、周辺での海洋観測がはじまりました。
エヴゲニ・ポドルスキ-(北海道大学/テーマ2実施担当者)
地震計を取り付けるために、ドリルで氷に4 mの穴を掘ります。
無人航空機による撮影画像(スイス連邦工科大学Guillaume Jouvet撮影)
その他のカナック調査観測についての記事はこちらから
<2016年>
・グリーンランド北西部カナックでの観測(カナックから①)
・グリーンランド北西部フィヨルドでの海洋観測(カナックから③)
・カナックの村人とのワークショップ(カナックから④)
<2017年>
・グリーンランド北西部、氷床上の観測1 —自動気象測器のメンテナンスー
・グリーンランド北西部、氷床上の観測2 —ボードイン氷河における観測—
・カナックの住民とのワークショップ
・グリーンランド北西部フィヨルドでの海洋調査
<2018年>
・グリーンランド北西部カナック氷帽と流出河川での調査
・カナック村住民とのワークショップ
・Inglefieldフィヨルドでの海洋観測とケケッタ村住民とのワークショップ
<2019年>
・グリーンランド北西部におけるカナック氷帽の質量収支と融解水流出の観測
・グリーンランド北西部Bowdoin氷河観測
・グリーンランド北西部イングレフィールドフィヨルドでの海洋調査とケケッタ村でのワークショップ