ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

グリーンランド北西部、氷床上の観測1 —自動気象測器のメンテナンスー

グリーンランドの80%を覆う氷床は、近年、地球温暖化のため質量が減少してきています。質量減少のプロセスは単純ではなく、その実態の解明のために各国がグリーンランド氷床の各地で観測を行っています。日本は、2012年6月に気象研究所、国立極地研究所、北海道大学などが協力し、グリーンランド北西部の氷床上に観測サイトを設定し、高さ6mの自動気象観測装置(以下、気象測器)を設置しました。

その場所は、その観測プロジェクトの名前からSIGMA-Aサイトと呼ばれ、2012から2014年の夏には毎年観測キャンプをして気象・雪氷の観測を行ってきました。また、気象測器で測定された気象データは人工衛星を通して、設置から5年間、毎日日本に送られています。SIGMA-Aサイトは、冬季に降り積もった雪が夏に融けきらずにが積もっていく地域(涵養域)にあり、気象測器は年々50〜70cmずつ埋もれていってしまうため、定期的に支柱を継ぎ足していく必要があります。前回、支柱を継ぎ足したのは2014年なので、かなり埋もれていることが予想されていました。今回の観測の最大のミッションは、気象測器の支柱を1.5m継ぎ足すことです。

5月下旬、グリーンランド北西部のカナック村に到着し、観測資材や食料の準備をした後、ヘリコプターをチャーターしてSIGMA-Aサイトに向かいました。予算は往路2便、復路2便しか都合できなかったため、ヘリコプターの中は、観測メンバー(6名)と観測機材、食料、燃料で満載です。約1トンの荷物を運び込んで、氷床上にテントを張って観測キャンプがスタートしました。気温はマイナス10度程度と快適でした。

気象測器は前回より1.2m埋まっていました。風が穏やかになった観測3日目に気象測器の立て直しを行いました。高さ4mの三脚を作りチェーンブロックを吊して、気象測器を根元から引っこ抜く。一旦下ろして横にねかせ、センサーを交換した後、支柱を一本継ぎ足し、チェーンブロックでさっきより1.5m高くつるし上げ、元の支柱にはめ込み完了。文字にするとあっという間ですが、丸一日がかりの作業でした。当然、クレーンなどの重機はないため、全ての作業は人力で行わなければならないし、メンバーも6人しかいないので、始める前に何度も議論をし、確認しながらの作業でした。無事やり遂げた時は、心からほっとしました。

この観測は、(1)ArCSプロジェクト、(2)SIGMA-IIプロジェクト(科研費基盤(A)「近年のグリーンランド氷床表面の暗色化と急激な表面融解に関する研究」(研究代表者:岡山大学・青木輝夫),(3)環境省地球環境保全試験研究費「光吸収性エアロゾルの監視と大気・雪氷系の放射収支への影響評価 —地球規模で進行する雪氷圏融解メカニズムの解明に向けて—」(研究代表者:気象研・保坂征宏)との共同で行われました。

的場澄人・北海道大学(テーマ2実施担当者)

SIGMA-Aサイトの気象測器のメンテナンスを前に気合いの入ったメンバー

SIGMA-Aサイトで再び稼働し始めた気象測器

その他のカナック調査観測についての記事はこちらから

<2016年>
グリーンランド北西部カナックでの観測(カナックから①)
グリーンランド・ボードイン氷河での野外観測(カナックから②)
グリーンランド北西部フィヨルドでの海洋観測(カナックから③)
カナックの村人とのワークショップ(カナックから④)

<2017年>
グリーンランド北西部、氷床上の観測2 —ボードイン氷河における観測—
カナックの住民とのワークショップ
グリーンランド北西部フィヨルドでの海洋調査

<2018年>
グリーンランド北西部カナック氷帽と流出河川での調査
カナック村住民とのワークショップ
Inglefieldフィヨルドでの海洋観測とケケッタ村住民とのワークショップ

<2019年>
グリーンランド北西部におけるカナック氷帽の質量収支と融解水流出の観測
グリーンランド北西部Bowdoin氷河観測
グリーンランド北西部イングレフィールドフィヨルドでの海洋調査とケケッタ村でのワークショップ