ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

カナダ北極サルイットでの植物・微生物調査

私たちはテーマ6の生物多様性課題のもと、7月上旬から8月下旬にかけてカナダ北極サルイットでの陸上生物の多様性調査を行いました。本調査の目的は、北極域に広がるツンドラ地域の植物や微生物の多様性を明らかにすることにあります。

サルイットは北緯62度に位置しており(図1)、ツンドラと呼ばれる樹木のない平原が広がっています。そのため見晴らしは抜群によく、どこを見ても絶景という贅沢な景色の中での調査を始めました。さて、到着してはじめての野外調査で、トナカイの群れが私たちを出迎えてくれました(写真1)。しかしながら、私たちの研究対象はトナカイやアザラシといった動物ではなく、ツンドラ陸上生態系を支える植物や微生物です。一見してほとんど生き物がいないように見えるツンドラの大地にも、様々な植物が生育しており(写真2)、それを食べることでトナカイや野ネズミといった陸上動物が厳しい北極環境でも生きていくことが出来ます。そして、その植物の生育には土壌中の昆虫や菌類、バクテリアといった微生物が深く関わっています。そのため本研究では、このようなツンドラの生態系の基盤となる植物や土壌微生物の多様性を調査し、その多様性がいったいどのようにツンドラ生態系の形成に貢献しているのかを明らかにすることを目的としています。

野外の調査内容は多岐に渡ります。大きく分けると(1)土壌の水分や酸性度など生物の生育に関わる環境条件、(2)生物多様性と呼ばれる植物や微生物の種数や組成、そして(3)生物群の活動によって変化するバイオマスや土壌CO2量、土壌炭素・窒素量といった生態系の機能性の3つに関する調査を行ないました。天候にも恵まれて調査は順調に進み、様々な野外調査や室内実験によってこれらのデータを収集しました。今後、このデータを解析し、環境―生物多様性―生態系機能性の関係を明らかにすることで、植物や微生物の多様性と機能性がツンドラ生態系をどのように形作っているのかを解明していきます。

増本翔太(横浜国立大学・テーマ6実施担当者)


図1:サルイットの場所


写真1:ツンドラを歩くトナカイの群れ


写真2:ワタスゲが広がるツンドラの景色


<2016年度の調査>