ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

ArCSテーマ1&7合同シンポジウム、移り行く北極域と北極圏の人間社会

本シンポジウムは、ArCS北極域研究プロジェクトにおけるテーマ1(気象・海氷・波浪予測研究と北極航路支援情報の統合)が進める自然科学・工学研究と、テーマ7(北極の人間と社会:持続的発展の可能性)が進める人文社会科学分野の研究成果を共有し、これを多様なステークホルダーに紹介することを目的として開催しました。第1部は双方の研究グループからの研究トピックの紹介です。テーマ1からは、海洋地球研究船「みらい」が実施した初めての初冬の北極航海の紹介がありました。この航海をサポートしたのが、ArCSを通じて開発された海氷の衛星観測情報、これを利用した気象・海氷予測、観測船でこれら情報を受信するシステムです。この航海から、気象・海氷・船体着氷などに関する研究成果が紹介されました。テーマ7からは、気候変化に直面する北極圏社会に関し、経済開発、環境と人間のインタラクション、北極に関する政策研究の概要と、研究成果の紹介がありました。人文社会科学分野の研究アプローチを通じて、自然科学研究の成果を含めた北極圏における環境教育教材を提供した事例や、ロシア北極海沿岸を通る北極海航路が今後はエネルギー資源の輸送回廊となりうることなどが紹介されました。

シンポジウムのもうひとつの目的は、第2部の人文社会・自然科学双方の研究者による総合討論です。ここでは北極の現地観測において、現地の政治の介在や現地社会の応答が研究活動の成否にかかわることがあり、研究活動が自らの領域内で完結することはないことが報告されました。人文社会研究からは、科学的な見解・事実および研究への理解の状況によって、研究者と現地社会・住民の関係性に影響が生じ、研究結果に影響することが指摘されました。また人文社会研究者と自然科学研究者の間で、研究の議論が成立するまでには至っていないとの指摘もありました。このように、研究セクターと社会間、研究セクター間のコミュニケーションの問題に取り組む必要があることが指摘されました。一方、北極に関する観測・研究成果を研究者間や社会と共有するために北極研究に関するデータのアーカイブが進められてきており、これは人文社会分野にも拡大しているため、さらなる情報共有への協力が求められました。

大塚 夏彦(北海道大学/テーマ7実施担当者)


研究トピックの紹介


総合討論