ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

サルイットDay 4:大きなイワタケ個体

サルイットの地図と空中写真を見ながら、サルイット谷のほぼ中央に沿って流れる川のあることに気づきました。地衣類は、光と水があって、固い基物表面があれば、どこにでも生えることができます。たとえば川岸の岩などがそういう場所で、そういう所には面白い地衣類がいるのではないかと期待してしまいます。それを確かめるにはまず行くことです、百聞は一見にしかず。

川に向かって道を行けば、行き交う車の運転手が挨拶がわりに手や首を振ってくれます。サルイットは小さな町なので住民はほとんど顔見知り。だから、外来者はすぐに分かるし、外来者にも慣れているので、見知らぬ顔の人にもフレンドリーにしてくれるのでしょう。

お目当ての岩がちな川岸に着きましたが、あまり面白い地衣類はいませんでした。川の東岸(右岸)に氷塊(残雪)を眺めつつ、さらに南へ川の上流に移動しました。

川からたった15mほどに大きな道路がある所に出ました。川と道路の間のまばらな草地には岩が転がっていました。川に近いほうには痂状地衣類(固着地衣類)が多く、川から離れるにつれて葉状地衣類や樹枝状地衣類が多くなることに気づきました。

葉状地衣類であるイワタケ類は、このサイトのある地点では小さな個体が密集していましたが、他の地点では大きな個体が散在していました。そこで私はひらめきました。単体の、しかし、大きな個体を採れば、そこから微生物相の解析に十分量のDNAを抽出できるのではないか、これでイワタケ微生物相の「個体間」変動、言い換えれば「コロニー内」変動を調べられるのではないかと。

十分にたくさんの「大きな地衣類個体」を採ったので、サルイット谷の西側斜面のガレ場(転石だらけの場所に行ってみました。そこにはイワタケの好いコロニーが2ヶ所ありました。ひとつは急斜面の途中の岩壁、もうひとつは斜面の麓に転がっている岩塊の表面でした。これらのコロニーからも「大きなイワタケ個体」を採ることで、(もし一つのコロニーでしか採らなかったら)「コロニー内変動」しか見れなかったところ、「コロニー間」変動も見ることができるようになりました。

メリー・サイロンガ・ファルアブル
(和訳:長沼 毅/広島大学(テーマ6研究協力者))
事務局注:メリー・サイロンガ・ファルアブルさんはArCSの参加研究者ではありませんが、
ArCSテーマ6の研究に必要な調査をしていただきましたので、調査の様子をご紹介いたします。


川岸に残る氷塊(残雪)


岩崖での地衣類サンプリング