岩石と水の反応による水素生成プロセスの秘密に迫る
〜岩石を詳細解析、地下の水素資源探索の手がかりにも~

2026年2月24日
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
国立大学法人東北大学
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立研究機関法人海洋研究開発機構

本研究成果のストーリー
Question

地球を構成する岩石が水と反応して水素を生み出す現象は、生命のエネルギー源や天然資源を生むプロセスとして注目されています。これまで蛇紋岩化反応※1等で水素が生成されること自体は知られていましたが、反応のどの段階でどれほどの水素が発生するのか、また岩石の種類によって発生する水素の量がどの程度異なるのかについては分かっていませんでした。

Findings

岩石に含まれる鉄は多様な酸化状態を示し、水を還元して水素を生み出す反応に深く関わっています。そこで本研究では、水素発生量の指標として鉱物中の鉄の量と酸化状態に着目し、放射光実験施設フォトンファクトリーアドバンストリング(PF-AR)において実施したX線吸収微細構造分析※2を用いることで、水素発生の鍵を握る鉱物中の鉄の化学状態を詳細に解析しました。この手法により、岩石に含まれる鉄の分布と化学状態を高い空間分解能で可視化することに成功しました。この手法をICDPオマーン掘削※3で得られた下部地殻と上部マントル※4の岩石コアに適用することにより、岩石の種類ごとの水素発生量と水素の発生段階に関する新たな知見を得ました。

Meaning

本研究の成果は、岩石圏の観察に基づく水素発生過程の物質的証拠をもとに、天然水素の発生メカニズムとその地質背景の理解を深め、生命のエネルギー源の多様性を示します。上部マントルの蛇紋岩化だけでなく、より地球表層に近い浅い岩体でも水素が発生することを示した今回の研究成果は、新しいエネルギー資源としての水素資源の探索に役立つ指標となる可能性があります。

図1:海洋底の地質構造の模式図と、岩石と水が反応する様子を示した概念図。厚さが約7kmの海洋地殻の下には上部マントルが存在している。海洋底の一部の場所では、これらの岩石と水(海水)が反応している。

放射光X線吸収微細構造分析を用いて水素生成の鍵を握る鉱物中の鉄の化学状態を詳しく調べることで、岩石の種類や反応段階の違いが水素生成量にもたらす影響を明らかにしました。天然水素の発生プロセスや天然水素資源の探索につながる重要な知見が得られました。

概要

海洋底のマントルや下部地殻に含まれるかんらん石と水の反応、すなわち蛇紋岩化反応は、自然界における水素生成の主要なメカニズムとして知られています(図1)。この反応によって生まれる水素は、地下深部に生きる微生物のエネルギー源となるだけでなく、人類が利用可能な新たなエネルギー資源としても関心が高まっています。この反応では、岩石中の2価の鉄が3価の鉄へと酸化されると同時に水が還元され、その結果として水素が生成されます(式1)。しかし、水素発生の鍵を握る鉄の分布や化学状態が、反応の進行にともなってどのように変化するのかこれまで十分に分かっておらず、天然水素の生成プロセスの理解を難しくしていました。

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所、東北大学、国士舘大学、国立極地研究所/総合研究大学院大学、海洋研究開発機構の共同研究グループは、ICDPオマーン掘削で得られたオマーンオフィオライト※5の下部地殻から上部マントルにかけての岩石掘削試料を対象として、X線吸収微細構造分析を用いて水素発生の鍵を握る鉱物中の鉄の化学状態を詳細に解析しました(図2)。その結果、岩石の種類や反応の進行段階に応じて水素の発生量が異なることを定量的に示しました。下部地殻の岩石は反応の初期段階で岩石1kgあたり24~366mmolの水素を発生した可能性があり、これは従来主要な水素発生源と考えられてきた上部マントルの蛇紋岩化による水素発生量(岩石1kgあたり71~393 mmol)に匹敵します。このことは、従来水素の発生源として注目されて来なかった下部地殻の岩石も重要な水素発生源であることを意味します。一方、反応が進むと下部地殻の岩石に特有のケイ素を多く含む鉱物の変質によって、水素生成が抑制されることも明らかになりました。また、上部マントルの岩石は、反応が進んだ後でも2価の鉄が残存し、反応の後期における水素発生に寄与する可能性が示唆されました。本研究の成果は、天然水素がどこで・どの段階で・どれだけ生まれるのかを理解するうえで重要な手がかりを提供するものであり、将来的な水素資源の探索における有用な指標となる可能性があります。

今回の成果は2月12日に専門誌Geochimica et Cosmochimica Actaのオンライン版に掲載されました。

図2:鉄の化学状態を可視化した結果。かんらん石や輝石といった水と反応する前の鉱物は2価の鉄(Fe2+)が多い一方で、生成鉱物である蛇紋石には3価の鉄(Fe3+)が多く含まれることが分かる。これらの観察結果は、鉄が水を還元して水素が発生したことを示している。

※1:蛇紋岩化反応
かんらん石や輝石といったマグネシウムや鉄を多く含む鉱物で構成される岩石が水と反応し、蛇紋石やブルース石、磁鉄鉱といった鉱物からなる岩石(蛇紋岩)に変化する反応。反応物であるかんらん石や輝石に含まれる2価の鉄が酸化し3価の鉄に変化する過程で水を還元し、水素を発生させる(式1を参照)。

※2:X線吸収微細構造解析(XAFS: X-ray Absorption Fine Structure)
物質にX線を照射しその吸収スペクトルを解析する手法。対象とする元素(今回は鉄)の化学状態や配位構造といった情報が得られる。

※3:ICDPオマーン陸上掘削
国際深海科学掘削計画(IODP)の陸上版に相当する国際共同研究プロジェクト、国際陸上科学掘削計画(ICDP)が主導し、2016年から2018年にかけて中東のオマーン国で実施された陸上掘削。かつての海洋地殻と上部マントルを連続的に貫く世界初の掘削であり、本研究ではその岩石コアを用いて分析を行った。

※4:上部マントル
地殻の下に広がる、主にかんらん石という鉱物で構成される固体の岩石の層。高温高圧の環境で非常に長い時間をかけて流動する。

※5:オフィオライト
海洋地殻から上部マントルにかけての連続した地層の重なりがみられる岩体。今回の研究対象である中東のオマーン国のオフィオライトは世界最大規模であり、下部地殻や上部マントルといった通常は採取が難しい地下深部の岩石を大規模に直接観察することができる、世界的にも非常に貴重な場所である。

研究グループ

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所の吉田一貴 KEK-JSPS特別研究員、丹羽尉博 助教、武市泰男 准教授、木村正雄 教授、東北大学大学院環境科学研究科の岡本敦 教授、国士舘大学の大柳良介 講師、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所/総合研究大学院大学の藤井昌和 助教、国立研究開発法人 海洋研究開発機構の吉田健太 主任研究員。

研究者からひとこと

KEKの吉田一貴
KEK-JSPS特別研究員

天然水素がどこで、どのように生まれるのか。まだ多くが謎に包まれています。本研究がその仕組みを解き明かす一歩となり、未来のエネルギー源として活用できる可能性につながれば嬉しく思います。

なぜこの研究を始めたのですか

岩石と水の反応で水素が生成される際には、岩石中に含まれる鉄の酸化還元状態が重要な役割を果たします。鉄が酸化されると同時に水が還元され、その結果として水素が生じるためです。したがって、このプロセスを理解するためには、岩石の組織に記録された鉄の化学状態を詳細に読み解く必要があります。しかし、岩石組織の鉄の化学状態を高い空間分解能で評価する手法は限られており、岩石の種類や反応の段階と水素発生量の関係についてはよくわかっていませんでした。そうした中で、物構研でX線顕微分光を用いた様々な研究が展開されていることを知り、PF-ARに導入されている2次元イメージングXAFS装置※6を用いることで岩石組織ごとの鉄の化学状態を調べることに展開できないかと発想し、この研究を進めることにしました。

※6:2次元イメージングXAFS装置
X線吸収微細構造(XAFS)測定とイメージング技術を組み合わせた装置で、試料中の元素の化学状態を、2次元画像として可視化できる。

ひらめいたところはどこですか

これまでの岩石・鉱物の酸化還元状態に関する研究は、岩石試料を粉末にして平均的な情報を得る全岩分析※7が主流でした。しかし、この方法では岩石の不均質性や組織に関する情報が失われてしまうため、詳細な反応履歴についてはよくわかっていませんでした。そこで、2次元イメージングXAFSを活用し、岩石組織に記録された反応履歴を丁寧に解読できれば、地下深部で生じている水素発生反応についてより詳細な知見が得られるのではと考えました。

※7:全岩分析
鉱物や岩石を粉砕機で粉末状にし、その粉末を対象に化学分析を行う方法。信頼性が高く広く用いられている方法であるが、岩石が本来持つ不均質性や組織に関する情報は粉砕の過程で失われてしまう。

努力したところはどこですか

今回の研究で重要な役割を果たしたのが、岩石の鉄の化学状態を高い空間分解能で可視化できる2次元イメージングXAFS装置です。この装置で分析を行うためには、岩石試料を数百マイクロメートル、つまり髪の毛数本分の薄さに均一に加工する必要があります。しかし、岩石は非常に割れやすく、思い通りの厚さに仕上がるまで何度も試料作成をやり直しました。さらに、従来の化学分析方法との整合性を丁寧に検証しながら議論を重ねたことで、岩石ごとの水素発生量を定量的に示す今回の成果につながりました。

何がわかったのですか

本研究では、下部地殻から上部マントルにかけての岩石を対象にして、岩石が水と反応して水素を生み出す仕組みについて詳しく調べました。特に、反応の過程で生成鉱物の量や、鉱物中の鉄の化学状態がどのように変化し、それが水素生成量にどう影響するかを調べました。その結果、水素の生成量は岩石の種類や反応の進み具合によって大きく異なることが分かりました。たとえば、これまで水素を発生させる要因としてあまり注目されてこなかった下部地殻の岩石でも、マントルの岩石と同程度の水素を発生させる可能性が示されました。さらに、マントルの岩石は反応の後期段階でも水素が発生し得る一方で、下部地殻の岩石は反応が進むと水素をそれほど出さなくなることが分かりました。これらの結果から、岩石の種類や反応進行の段階によって水素発生量が大きく変化することが示されました。

それで世界はどう変わりますか

地質プロセスによって生成される水素は、地下深部の微生物や地球外生命のエネルギー源として学術的興味から特に注目されてきました。しかし近年、水素はその多用途性と低炭素排出であるという特徴から、持続可能なエネルギー源としての重要性が高まっています。もし、地質プロセス由来の天然水素を効果的に採掘・利用できれば、化石燃料への依存を減らすとともに、我々の生活やエネルギー消費の高い産業を支える新たな選択肢になるかもしれません。実際、西アフリカのマリ共和国では天然水素が現在進行形で放出されており、小規模ながら現地の電力供給に利用されています。また、本研究で用いた鉄の化学状態と岩石種に基づく評価手法は、北極海の海底のような下部地殻や上部マントルが浅所に分布する極域・深海環境などにおいて、未発見の水素生成帯を見出すための有力な指標となることが期待されます。本研究の成果が、このような天然水素の生成プロセスの理解を深め、今後の探査や利用に向けた具体的な道筋を示す一助となればうれしく思います。

謝辞

本研究は、科研費(JP24KJ0231、JP22KJ0168、JP18KK0376、JP22H04932、JP22H05109、JP22H01337)、山口育英奨学会 学術研究助成、東北大学 環境・地球科学国際共同大学院プログラム(GP-EES)、高知大学海洋コア国際研究所 共同研究プログラム(21A039、21B037、23A010、23B008)、および情報・システム研究機構 戦略的研究プロジェクトの助成を受けて行われました。PFおよびPF-ARでの放射光利用実験は、2019G569, 2021G634, および2024G025にて実施しました。関係者の方々に改めて感謝申し上げます。

論文情報

Depth variations in multi-stage hydrogen generation associated with serpentinization in the lower crust and mantle sections of the Oman Ophiolite
Kazuki Yoshida*, Atsushi Okamoto, Ryosuke Oyanagi, Masakazu Fujii, Kenta K. Yoshida, Yasuhiro Niwa, Yasuo Takeichi, and Masao Kimura
Geochimica et Cosmochimica Acta, 2025 (*Corresponding author)
https://doi.org/10.1016/j.gca.2026.01.055

問い合わせ先

研究内容に関すること

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所 材料科学研究部門 教授 木村 正雄
Tel:029-864-5200 ext. 5608 E-mail:masao.kimura@kek.jp

報道について

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Tel:029-879-6047 E-mail:press@kek.jp

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