センター

南極観測センター

日本と世界の南極観測を結ぶ架け橋

センター長 伊村智

南極観測センターは、南極観測事業の中核機関としての機能を最大限に発揮するために、教員と事務系・技術系職員の融合組織として、2009年4月に組織改編しました。毎年、南極観測隊を派遣するにあたって、観測計画や企画にかかる国内外の研究者との連絡調整、附属施設である昭和基地他の維持、観測隊の編成や訓練、輸送、安全や環境保全対策などを行っています。

観測隊の編成においては、南極観測が国際プロジェクトとして行われていることから外国人研究者も同行します。特にアジア諸国との連携を深めておりアジア極地科学フォーラム(AFoPS:AsianForumforPolarScience)を結成し、情報交換や研究者交流を行なっています。

最近の10年間で南極への輸送、アクセス手段は大きく変化し、南極観測船「しらせ」の他に南極で観測を行っているいくつかの国が共同飛行機をチャーターするドロンイングモードランド航空網(DROMLAN:Dronning Maud Land Air Network)や「海鷹丸」といった海洋調査船との連携によるものが加わり多様な対応を行っています。

ドームふじ基地

昭和基地

1957年1月、第1次南極観測隊により、リュツォ・ホルム湾にある東オングル島に開設。現在は、世界の気象観測網の拠点にもなっており、約30名の隊員が1年間観測活動を行う主要基地として、半世紀を超えて維持、管理、運用を続けています。

位置:南緯69度00分19秒、東経39度34分52秒
平均気温:-10.5℃
最低気温:-45.3℃(1982年9月)
天測点標高:29.18m

ドームふじ基地

1995年2月、昭和基地の南約1000kmに位置するドロンイングモードランド地域の氷床最後部に氷床深層掘削の拠点として開設。深さ3035mまでの氷床コア採取に成功後は、通年滞在を中止しています。

位置:南緯77度19分01秒、東経39度42分12秒
平均気温:-54.4℃(1995年〜1997年)
最低気温:-79.7℃(1996年5月、1997年7月)
天測点標高:3,810m

みずほ基地

1970年7月、昭和基地の南東約270kmに位置するみずほ高原氷床上に開設。現在は無人観測基地及び内陸への中継点となっています。

位置:南緯70度41分53秒、東経44度19分54秒

あすか基地

1985年3月、昭和基地の西南西670kmに位置するドロンイングモードランド地域の氷床上に開設。現在は閉鎖中です。

位置:南緯71度31分34秒、東経24度08分17秒

昭和基地

北極観測センター

日本と世界の北極研究の架け橋

センター長 宮岡宏

当センターは、北極域の大気、雪氷、海氷・海洋、陸域・海洋生態、陸上生態、超高層大気の研究推進をめざし、1990年6月、国立極地研究所に北極圏環境研究センターとして設置され、2004年4月より北極観測センターとして活動してきました。北極をとりまく国際動向に戦略的に対応して研究・観測を推進し、研究企画力を強化するため、2015年4月に「国際北極環境研究センター」へと改組しました。我が国の北極研究事業の代表機関として、これまでにGRENE北極気候変動研究事業(2011-2015年度)、北極域研究推進プロジェクト(ArCS、2015-2019年度)を推進してきましたが、2020年度からは北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)を新たに開始しました。

センターでは、北極圏国の研究機関との間で施設利用や観測支援に関する協定を締結し、国内研究者の共同利用に供するとともに、国際共同研究への機会提供を進めています。

2023年、国際北極環境研究センターは改組に伴い、北極観測センターに移行されました。

共同利用施設

ニーオルスン基地を始め、スバールバル大学(UNIS)、EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー、アラスカ大学国際北極圏研究センター(IARC)、グリーンランド天然資源研究所(GINR)、ロシアのスパスカヤパット、ケープバラノバ、カナダ極北研究ステーション(CHARS)等の北極圏の研究・観測施設が利用できます。

国際共同観測

アイスランドー南極昭和基地におけるオーロラ共役点観測をはじめ、EISCATレーダー実験、東グリーンランド氷床コアプロジェクト(EGRIP)等の国際共同研究を実施し、国内研究者の参加を受け入れています。2019年からは、北極海の国際共同研究として史上最大級のMOSAiC計画(北極気候の研究を目的とする学際的漂流観測)にも参加しています。

北極域研究共同推進拠点(J-ARC Net: Japan ArcticResearch Network Center)

2016年4月より、当センターと北海道大学北極域研究センター、海洋研究開発機構北極環境変動総合研究センターによる「北極域研究共同推進拠点」を形成し、運営しています。北極域における環境と人間の相互作用の解明に向けた異分野連携、産学官連携による取組みの中で、当センターで管理する共同利用施設を観測拠点として提供しています。

北極環境研究コンソーシアム(JCAR: Japan Consortiumfor Arctic Environmental Research)

2011年5月に北極環境研究者の全国ネットワーク組織として設立され、当センターに事務局が設置されています。JCARでは、『北極環境研究の長期構想』作成のほか、国内外の委員会情報の収集・紹介や研究推進に関する意見交換、人材育成支援、北極環境に関する情報収集、広報・普及活動などを行っています。2015年には「北極科学サミット週間(ASSW)2015」を共催し、我が国で最大規模の北極研究集会である国際北極研究シンポジウムを2018年の第5回(ISAR-5)から主催しています。

ニーオルスン基地

スバールバル諸島スピッツベルゲン島ニーオルスン(北緯79度、東経12度)。1991年1月にノルウェー極地研究所と合意書を締結し、観測拠点として利用を開始しました。ニーオルスンの国際的な共同観測体制の下で、雲、エアロゾル、放射、温室効果ガス、植生の分布や生態系の観測などを実施しています。2019年4月にはニーオルスン観測村の中心部に整備された新観測棟に移転しました。

日本のニーオルスン基地が入る新観測棟

国際極域・地球環境研究推進センター

国際共同研究・共同利用の推進

センター長 野木義史

国際極域・地球環境研究推進センター(「International Polar and Earth Environmental Research Center、略称「IPERC」)は、国内外の大学・研究機関と連携して、過去・現在・未来の極域・地球環境変化に関する統合的・先進的な国際共同研究・共同利用を推進することをめざして、令和5年4月に新設されました。

近年、著しく顕在化している地球温暖化は、人類が直面する最も緊急性の高いグローバル課題であり、極端気象災害の頻発をはじめ、食糧難や健康リスクの増大など人類の持続的な生存と発展が脅かされつつあります。この課題解決には、最新の地上観測と衛星観測による地球環境の高精度実態把握、大規模地球観測データアーカイブを用いた統合データ解析による温暖化プロセスの解明、それらの知見を組み入れた将来予測の精緻化・高度化が不可欠です。また、令和8年度から運用開始予定の北極域研究船の建造が開始され、極域を中心とした統合的地球観測の推進と共同研究・共同利用体制の強化が強く求められています。

こうした課題に迅速に取り組むため、極域を含む地球温暖化研究の国際ハブとして、国際共同研究・共同利用に取り組んでいきます。

極域科学資源センター

地球変動を解き明かす極地の科学資源を収蔵・分析

センター長 外田智千

南極隕石ラボラトリー

Yamato790448LL3に分類される非平衡普通コンドライト

南極隕石ラボラトリーでは、南極地域観測隊が採集した隕石の保管をしています。保有する隕石の総数は、およそ17,000個で、世界最大級の地球外物質コレクションです。これらの隕石を分類・公表し、国内外の研究者に研究用試料として配分することで、地球惑星科学の発展に寄与しています。また、小惑星サンプルリターンミッションや国内外の研究機関との連携を通して、地球外物質の研究を多角的に展開しています。

岩石資料室

昭和基地東方で発見されたルビーの結晶(赤い鉱物)

第1次南極観測以来採集された南極の岩石・鉱物試料、ならびにスリランカ、インド、アフリカなどの岩石・鉱物試料約2万点を保管しています。これらの試料は、ゴンドワナ超大陸を形成していた大陸同士の地質対比、地殻・マントル物質の研究材料として大変貴重です。また展示用標本としても広く活用されています。

二次イオン質量分析ラボラトリー

大学共同利用設備として二次イオン質量分析計(SHRIMP)を2台運用し、国内外の隕石・岩石・鉱物の同位体・年代学的分析を行っています。

鉱物の年代測定を行う二次イオン質量分析計(SHRIMP)

岩石に含まれるジルコンという鉱物の年代測定結果。中心部の緑の丸の部分が27億7800万年前に、外側の赤い丸が8億9300万年前に形成された。

生物資料室

極域での野外活動で得られる貴重な生物資料を良好な状態で整理・保管し、研究や展示に提供しています。植物については、コケ植物を中心に約4万点の標本を、動物は魚類や鳥類、哺乳類などの約2500点の標本を収蔵しています。所蔵標本については、「極域生物多様性データベース」として、ホームページ上で公開しています。

生物資料

情報基盤センター

極域科学研究のための情報基盤システムとネットワーク

センター長 岡田雅樹

極域からのデータや情報の共有と高度利用のために

国立極地研究所では、南極域や北極域で多種多様な観測を行っています。得られた観測データの多くは、通信ネットワークにより伝送・取得されますが、通信手段や観測方法が高度になるにつれて、その量や質が飛躍的に増大してきています。情報基盤センターでは、そうした両極域からの多量のデータの取得と保管、処理や解析、研究結果、成果の発信のために必要とされる、情報基盤システムの維持・管理・運用を行っています。

現在、極地研と南極昭和基地との間は、インテルサット衛星回線で常時結ばれ、南極からのデータは基地内高速LANを通して衛星回線に送られます。

情報基盤センターでは、昭和基地にある「多目的衛星データ受信システム」の維持・運用も行っていて、さまざまな地球観測衛星のデータを受信・取得しています。

日本に伝送されたデータは、情報基盤センターの「極域科学総合データライブラリシステム」に送られアーカイブされるとともに、学術情報ネットワーク(SINET)を経由して外部の大学や研究所など共同研究機関にも送られます。北極域での観測データも、今ではインターネット回線経由で取得出来るようになりました。

情報基盤センターではまた、両極 域で得られた観測データの処理や解析、極域の様々な現象のモデル計算や大規模シミュレーションなどを高速に行うための設備として、「極域科学大型計算機システム」を運用しており、多くの共同研究者に利用されています。

この他にも、南極昭和基 地や所外研究機関との間のTV会議システム、南極観測船「しらせ」との間の通信設備、「南極GISシステム」、研究や業務に関係する情報交換用データベース、など、南極観測隊や極地研の様々な活動を支える情報基盤設備の運用を担っています。

アイスコア研究センター

地球環境変動の歴史をアイスコアから明らかにします

センター長 川村賢二

極地の氷床や氷河は過去の長年の積雪が積み重なってできています。そこで掘削・採取される柱状の氷であるアイスコアは、過去に積雪があったときの大気中の成分、気温や降水、海洋環境、陸域環境、さらには宇宙環境などの情報を、現在から100万年規模の過去にわたる時間規模で含んでいます。こうした広範で詳細な環境変動情報は、アイスコアのみが供給できるものです。地球の温暖化がすすむ現在、地球気候システムを理解し将来予測をするうえで、アイスコアから供給される情報の重要度が極めて大きくなりました。アイスコア研究センターは、国内外の共同研究をおこなう日本の軸としてアイスコア研究を総合的に推進する目的で設置されました。

高度なアイスコア掘削技術

本研究所は世界最先端の氷床深層掘削技術を有します。南極氷床内陸に建設したドームふじ基地にて2度にわたる深層掘削を実施し、72万年をカバーするアイスコア掘削に成功してきました。さらに様々な深さと年代をもつアイスコアの掘削を地球上の各地で実施してきました。

解明する過去の環境変動現象

アイスコアの解析からは、地球上の様々な環境変動の現象を時系列データや空間分布データとして明らかにできます。温室効果ガスである二酸化炭素・メタンガスなどの変遷、水などの物質循環・物質輸送に関する情報、大気循環、海洋循環の変化、大気中のエアロゾルや微粒子、地球上の火山爆発の歴史、氷床変動の歴史などが含まれます。

各地で掘削するアイスコア、それに低温設備

当センターでは極地の氷床や氷河で掘削された様々なアイスコアや積雪資試料の管理と分析、及び資試料の共同利用への提供、低温室の共同利用等の業務を推進しています。低温室設備には、南極で掘削されたドームふじ深層コアや内陸域及び沿岸域の浅層コア、グリーンランドで掘削された深層コア、北極域で掘削された浅層コア、南極や北極の積雪等の資試料を整理して低温状態で保管しています。各地で掘削されたアイスコアの分析から、環境変動現象の地球規模での空間分布や時間的つながりを把握することが可能になります。

解析技術の開発・普及・交流

当センターでは、アイスコアの解析を非常に広範な技術を用いてすすめています。コア切断・加工・前処理技術、融解技術、各種ガス分析、酸素・水素同位体の分析、イオン分析、固体微粒子解析、トリチウム分析、結晶物理解析などで、世界オンリーワンと呼べる技術も多く含みます。近年は、高分解能連続解析技術が国際的に著しい進歩を遂げています。私達は、高度な分析技術の開発と実用化を実施し、国内外研究機関との技術交流および普及をはかっています。

共同研究と大学院教育

当センターは、国内外の研究機関や研究者との協力・連携を総合的に推進していきます。極地の氷床や氷河に遠征してのアイスコアの採取・アイスコアの管理維持・分析作業・データ検討・アウトプットのそれぞれでエフォートを分担するような共同研究を期待します。こうした研究活動に興味のある学生による見学を歓迎します。

先端的レーダー研究推進センター

大型レーダーの共同利用により極域大気・宇宙空間現象を解明

センター長 小川泰信

EISCAT_3Dレーダーは、日本を含む6ヵ国で運営する欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会が中心となり、スカンジナビア北部に建設中の世界初の多局式フェーズドアレイレーダーシステムです(図1参照)。EISCAT科学協会の日本の代表機関である国立極地研究所は、EISCAT_3Dレーダーを中心とする先端的大型レーダーの共同利用・共同研究の推進を目的として、先端的レーダー研究推進センターを2022年4月に設置しました。

先端的レーダーが切り開く科学

このEISCAT_3Dレーダーは、現行のEISCATレーダーに比べ観測性能が約100倍に向上することにより、幅広い高度域にわたり超高層大気中の電離気体の密度や温度、速度の3次元分布とその詳細な時間変化の観測が初めて可能になります(図2のイメージ図を参照)。それにより、太陽風エネルギーの極域への流入と応答過程における未解明問題に対してブレークスルーをもたらすことが期待されています。さらに、先端的レーダー研究推進センターでは、南極昭和基地で運用中の大型大気レーダーであるPANSY(図3参照)の共同利用・共同研究を推進します。これらのEISCAT_3DとPANSYとの連携により、全球規模での気候変動モデルの精度向上や将来の気候予測への貢献が期待されます。また、宇宙天気予報の精度向上への貢献による、太陽に起因する宇宙天気災害リスクの軽減や、地球科学最大規模のビッグデータと最先端のデジタル技術の活用による情報工学技術の発展などの波及効果も期待されています。

先端的レーダーの共同利用・共同研究

EISCAT_3Dレーダーは、2022年度の後半より国際共同で第1期運用を開始する予定です。同じく、PANSYレーダーは2023年2月から始まる南極観測の第64次越冬期間に国際共同利用を開始します。それらに合わせ、先端的レーダー研究推進センターでは、EISCAT_3Dレーダーを中心とした先端的レーダーの共同利用・共同研究を推進・強化します。具体的には、先端的レーダーの利用者による独自の実験立案から研究成果発表までの間に必要とされる、多岐に渡る支援活動を行います。特に、先端的レーダーによる観測及びデータ解析に必要とされる技術開発や、先端的レーダー観測から得られるデータの整備・運用や公開を実施する予定です。それにより、EISCAT_3DレーダーやPANSYレーダーが多くの研究者に利用されることを期待します。

図1:整備中のEISCAT_3Dレーダーのイメージ図

図2:多局式のEISCAT_3Dレーダーによる立体観測のイメージ図

図3:南極昭和基地で運用中のPANSYレーダー