2025年1月15日
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立極地研究所(極地研)の南極隕石ラボラトリーが保有する「南極隕石コレクション」(写真1)は、その科学的・歴史的・教育的価値が認められ、2024年8月に韓国・釜山で開催された第37回国際地質学会議(IGC)において、国際地質科学連合(IUGS)の「IUGS Geo-collection」に選定されました。「南極隕石コレクション」は南極地域観測隊による半世紀にわたる隕石探査活動の成果であり、地球惑星科学における重要な試料として国内外の研究コミュニティで広く活用されてきました。「IUGS Geo-collection」はIUGSによる初の取り組みとして世界から11のコレクションが選定されたもので、「南極隕石コレクション」はアジアで唯一の認定となりました。
写真1:南極隕石ラボラトリーの南極隕石コレクション(撮影:京都大学 竹之内惇志)。
国立極地研究所では、現在約17,400個の南極隕石を保管しています。日本の南極観測活動における南極隕石の探査は、1969年から1974年にかけて南極氷床上の裸氷帯における隕石の集積が発見されたことを受けて開始され、主に南極のやまと山脈やセール・ロンダーネ山地付近の裸氷帯において、24回にわたって実施されました(写真2)。南極の環境は、人為的な汚染が少なく、低温・低湿の条件が揃っているため、風化の影響を最小限に抑えることができ、隕石が非常に良好な状態で保存されています。持ち帰られた南極隕石は、国立極地研究所の南極隕石ラボラトリーに運ばれ、風化や汚染を最小限に抑えるため、クリーンルーム(Class 10000)内で、温度約22℃、湿度50%未満の条件下で細心の注意のもと保管されています。
南極隕石ラボラトリーでは、個々の隕石の写真撮影や重量測定、寸法測定をはじめ、試料の分割や研磨薄片の作成(写真3)、化学組成の分析、詳細な組織観察(写真4)などの初期記載を行います。それらのデータに基づいて隕石の分類が進められ、カタログ化されます。これまでに13,000個以上の隕石が分類されており、分類データは『Meteorite Newsletter』で公表されるとともに、国際隕石学会のデータベースにも登録されています。国立極地研究所の共同利用・共同研究機関としてのミッションを果たすため、世界中の研究者から寄せられるリクエストに対し、貴重な南極隕石サンプルを無償で提供することで、科学研究の発展に寄与しています。
南極隕石の発見は、宇宙物質研究の新しい時代を切り開きました。南極隕石は、太陽系の広い範囲の天体から地球に飛来しており、火星や月、そして、数十個以上の小惑星を起源としています。これは、南極が宇宙物質の貴重な保管庫として大きな役割を果たしていることを示しています。南極隕石の研究は、太陽系物質の多様性を明らかにするだけにとどまらず、宇宙探査ミッションによる太陽系の研究を補完し、太陽系の歴史や惑星の進化に関する理解を深めることに貢献してきました。また、教育機関や地域の博物館にも提供され、一般市民や学生が太陽系や惑星の進化について学ぶ機会を広げています。これにより、南極隕石は科学研究だけでなく、教育や啓発活動を通じて社会に貢献する重要な資源となっています(写真5)。
「IUGS Geo-collection」は、IUGSによる初の取り組みとして世界から11のコレクションが選定されたもので、「南極隕石コレクション」はアジアでは唯一の認定です。選定されたコレクションの約半数以上が人類進化や古生物に関連したもの、残りが隕石や鉱物、地質標本に関連したものでした。隕石関係は2箇所で、「南極隕石コレクション」とウィーン自然史博物館の世界最古の隕石コレクションが選定されています。
「IUGS Geo-collection」は、岩石、鉱物、隕石、化石などを含む地質学的標本のコレクションであり、科学的、歴史的、教育的価値が非常に高いものを指します。科学的には、地球の歴史やプロセスの理解に重要な役割を果たしており、学術的発見や論文で取り上げられていることが評価の基準となります。歴史的には、探検や災害などの重要な出来事や、著名な人物・団体、自然科学の発展に関連するコレクションが価値を持ちます。教育的には、多くの人が地球科学の重要性を理解するために活用でき、展示やデジタル公開が行われていることが求められます。
南極隕石ラボラトリーは、南極で採集してきた隕石の分類・配分・研究・保管といったキュレーションを行っています。保有する隕石の総数はおよそ17,400個(未分類含む)で、世界最大級の地球外物質コレクションです。これらの隕石試料を共同利用・共同研究に供し、国内外の研究者に提供することで、地球惑星科学の発展に寄与しています。また、小惑星サンプルリターンミッションや国内外の研究機関との連携を通して、地球外物質の研究を展開しています。
写真1:南極隕石ラボラトリーの南極隕石コレクション(撮影:京都大学 竹之内惇志)。
写真2:南極地域観測隊による隕石探査の様子(提供:JARE54)。
写真3:南極隕石の研磨薄片。
写真4:南極隕石ラボラトリーでの薄片観察の様子(撮影:山中慎太郎)。
写真5:南極隕石ラボラトリーでは、全国の科学館・博物館へ教育普及目的で隕石試料の貸出を行っている。
写真は国立極地研究所 南極・北極科学館(立川市)で展示されている隕石試料。
研究内容について
国立極地研究所 先端研究推進系 地圏研究グループ 准教授
山口亮(やまぐち・あきら)
メール:yamaguch@nipr.ac.jp
報道について
国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655 FAX: 042-528-3105 メール:koho@nipr.ac.jp
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