研究現場から | ArCS II 北極域研究加速プロジェクト https://www.nipr.ac.jp/arcs2 北極域に関する先進的・学際的研究を推進し、その社会実装を目指します Fri, 10 Jan 2025 06:27:53 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 ArCS II北極フォトギャラリー https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/gallerry/ Fri, 10 Jan 2025 06:27:52 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=13518 ArCS IIを通して研究者たちが撮影した写真を紹介します。北極のさまざまな風景や研究の様子をぜひお楽しみください。 ※掲載されている写真の著作権は撮影者に帰属します。複製、改変、二次利用などはご遠慮ください。 アラスカ […]

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ArCS IIを通して研究者たちが撮影した写真を紹介します。北極のさまざまな風景や研究の様子をぜひお楽しみください。
※掲載されている写真の著作権は撮影者に帰属します。複製、改変、二次利用などはご遠慮ください。


アラスカ縦断原油パイプライン(ノーススロープ近郊)
撮影地:ノーススロープ近郊(米国)
撮影:原田 大輔(2023年9月)
アラスカ・ノーススロープの原油集積所近辺の野生のカリブー
撮影地:ノーススロープ石油開発現場(米国)
撮影:原田 大輔(2023年9月)
アラスカ・ノーススロープの原油パイプライン
撮影地:ノーススロープ・デッドホース空港着陸前(米国)
撮影:原田 大輔(2023年9月)
グリーンランド・ヌークのオーロラ
撮影地:グリーンランド・ヌーク市内(デンマーク)
撮影:原田 大輔(2024年9月)
海に流れ込む氷河(グリーンランド上空より)
撮影地:レイキャビクからヌークに向かう機上(デンマーク)
撮影:原田 大輔(2024年9月)
気象観測タワーの上に舞ったノーザンライツ
撮影地:アラスカ・フェアバンクス(米国)
撮影:植山 雅仁(2018年8月)
「みらい」北極航海中のグラビティーコア投入
撮影地:北極海
撮影:山本 正伸(2024年9月)
ハーディング氷原を見つめるカササギ
撮影地:アラスカ・ハーディング氷原(米国)
撮影:阿部 稜平(2024年7月)
グルカナ氷河と赤雪
撮影地:アラスカ・グルカナ氷河(米国)
撮影:阿部 稜平(2024年7月)
ハーディング氷原で繁殖する雪氷藻類による赤雪現象
撮影地:アラスカ・ハーディング氷原(米国)
撮影:阿部 稜平(2024年7月)
海氷観測中に姿をみせた氷上の王
撮影地:アラスカ・ウトキアグヴィク沿岸定着氷上(米国)
撮影:Marc Oggier(2023年5月)
ヒメウミスズメ猟の相談
撮影地:グリーンランド・シオラパルク(デンマーク)
撮影:日下 稜(2022年7月)
カナック氷河から流れ出る河川での流量観測
撮影地:グリーンランド・カナック(デンマーク)
撮影:日下 稜(2022年7月)
フルマカモメ
撮影地:グリーンランド・カナック(デンマーク)
撮影:日下 稜(2022年7月)
ミッドトレ・ロヴェンブリーン氷河から望むコングスフィヨルデン
撮影地:スバールバル諸島・ニーオルスン(ノルウェー)
撮影:大沼 友貴彦(2024年9月)
アラスカ グルカナ氷河の赤雪と暗色氷
撮影地:アラスカ・グルカナ(米国)
撮影:大沼 友貴彦(2023年8月)
「みらい」と氷盤
撮影地:北極海
撮影:梅村 健太郎(2024年9月)
「みらい」と虹
撮影地:北極海
撮影:梅村 健太郎(2024年9月)
「みらい」と海氷縁
撮影地:北極海
撮影:勝野 智嵩(2022年9月)
サハの白い太陽
撮影地:サハ共和国(ロシア連邦)
撮影:藤岡 悠一郎(2018年3月)
ウマと牧夫
撮影地:サハ共和国(ロシア連邦)
撮影:藤岡 悠一郎(2018年3月)
ウマに餌を与える牧夫
撮影地:サハ共和国(ロシア連邦)
撮影:藤岡 悠一郎(2018年3月)
CTD観測中に、突然、「みらい」のそばに現れたシロクマ
撮影地:太平洋側北極海
撮影:松野 孝平(2023年9月)
まだ氷に覆われた7月の海を背景に調査地へ向かう研究者
撮影地:グリーンランド・カナック村(デンマーク)
撮影:杉山 慎(2024年7月)
地元住民と研究者の連携による氷河前での海洋調査
撮影地:グリーンランド・ボードインフィヨルド(デンマーク)
撮影:杉山 慎(2023年7月)
若手研究者が氷レーダーを使って氷河の基盤地形を調査
撮影地:グリーンランド・カナック氷帽(デンマーク)
撮影:杉山 慎(2022年7月)
GEWEX conferenceでのポスター発表
撮影地:京王プラザホテル札幌(日本) 
撮影:Mangesh Goswami(2024年7月)
GEWEX conferenceでのポスター発表
撮影地:京王プラザホテル札幌(日本) 
撮影:Mangesh Goswami(2024年7月)

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ヌーク(グリーンランド)とコペンハーゲン(デンマーク)にてカナック村での研究成果を報告 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024-12-10-1/ Thu, 12 Dec 2024 01:41:30 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=13472 報告者:杉山 慎(北海道大学) 関連課題:沿岸環境課題 沿岸環境課題では、グリーンランド北西部カナック村において、氷河、海洋、生態系から自然災害、伝統文化までもカバーする研究活動を行っています。この取り組みを報告して今後 […]

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報告者:杉山 慎(北海道大学)
関連課題:沿岸環境課題

沿岸環境課題では、グリーンランド北西部カナック村において、氷河、海洋、生態系から自然災害、伝統文化までもカバーする研究活動を行っています。この取り組みを報告して今後の研究への示唆と協力関係を得るため、グリーンランドとデンマークの研究所、行政機関、公共・民間団体を訪ねました。2024年11月26日~12月6日にわたり、4人の課題研究者が8つの機関を訪ねて研究発表と議論を行いました。

(写真1)グリーンランドの首都ヌーク

グリーンランドの首都ヌークでは(写真1)、ArCS IIの国際連携拠点でもあるGINR(グリーンランド天然資源研究所)にて研究成果を紹介するセミナーを開催しました。課題PIの杉山 慎(北海道大学)から12年間にわたるプロジェクトの概要を紹介した後、小川 萌日香(北海道大学・京都大学)、エブゲニ・ポドリスキ(北海道大学)、渡邊 達也(北見工業大学)から、アザラシとイッカクの生態、音響を使った氷河・海洋観測、地すべり災害による研究成果が報告されました。GINRとは海洋生態系に関する協力を進めており、共同研究に基づいた成果に多くの質問と助言を得て交流を深めました(写真2)。また、グリーンランド政府の省庁(Ministry of Business, Trade, Mineral Resources, Justice and Gender Equality)では、地すべり災害への対策を進めるチームを訪問しました(写真3)。研究成果に加えて日本の地すべり調査技術も紹介し、今後の共同取組について検討が進みました。さらに、グリーンランドでの研究活動を掌握する新しい機関Arctic Hub、WWF(世界自然保護基金)、グリーンランドの狩猟協会でも会合を開催しました。特に全国のハンターが加盟する狩猟従事者協会(KNAPK)では、地元住民との協働に対する高い評価が得られ、今後の活動に大きな励ましを受けました(写真4)。コペンハーゲンでは、GEUS(デンマーク・グリーンランド地質調査所)(写真5)、Aarhus大学、GINRの支所を訪問しました。ArCS IIとカナックでのプロジェクトを広い範囲に紹介すると共に、進行中の共同研究に関する議論や、今後の協力関係について検討を行いました。

(写真2)コーヒーを片手にGINRの研究者との研究交流
(写真3)グリーンランドの省庁における地すべり災害に関する会合
(写真4)KNAPKを訪問
(写真5)GEUSにおける研究発表後の議論

グリーンランドの中でも研究事例の少ないカナック地域は、近年になって研究者の注目が集まっています。そのような背景の中、現地住民と密接にコミュニケーションをとりながら長期にわたって継続する研究活動に対して、多くの研究者から称賛のコメントが寄せられました。また、伝統文化と深い関わりのあるアザラシやイッカクの生態、最近明らかになった廃棄物汚染など、私たちの研究成果を行政に提供して施策に活用する道筋が示されました。北極域社会の将来に貢献するためには、地元に根差した長く地道な研究活動に加え、その成果を現地に還元する方策が必要です。今回の渡航で、さまざまな立場にあるステークホルダーとの対話が実現して、そのような目標に一歩近づく手ごたえを得ました。

現地での会合と滞在でお世話になったFernando Ugarte氏(GINR)、Mads Peter Heide-Jørgensen氏(GINR Copenhagen)、Eva Mätzler氏(Ministry of Business, Trade, Mineral Resources, Justice and Gender Equality in Greenland)、Nicoline Larsen氏(Arctic Hub)、Vittus Qujaukitsoq氏(KNAPK)、Anders Mosbech氏(Aarhus University)、Jason Box氏(GEUS)、Andreas Ahlstrøm氏(GEUS)およびSakiko Daorana氏に感謝いたします。

 

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カナダ沿岸警備隊砕氷船「ルイサンローラン」による北極海観測 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024jois/ Thu, 05 Dec 2024 05:16:45 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=13147 海洋課題および北極航路課題の活動の一環として、2024年8月29日から9月26日にかけて、カナダ沿岸警備隊の砕氷船「ルイサンローラン」による北極海観測に参加しました。観測や船の様子を写真と共にお伝えします。 目次 ルイサ […]

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海洋課題および北極航路課題の活動の一環として、2024年8月29日から9月26日にかけて、カナダ沿岸警備隊の砕氷船「ルイサンローラン」による北極海観測に参加しました。観測や船の様子を写真と共にお伝えします。

ルイサンローラン、海氷チームの観測

執筆者:小濱 悠介(北見工業大学)

こんにちは!北見工業大学院修士2年の小濱です!

今回は、JOIS2024で行った船上観測のうち、私が主に担当した、海氷目視観測、マイクロ波放射計観測、そしてXCTD観測ついてご紹介します。

・海氷目視観測
この観測では、艦橋から海氷の厚さや密接度、種類、天気などを1時間に1回記録します。今回の航海では、海氷チームが3人編成のため、海氷域を航行中は、8時間交代で24時間体制の観測を行っています。観測の記録には、ASSIST(Arctic Shipborne Sea Ice Standardization Tool)という北極海氷の標準プロトコルを使用しました。これにより、リモートセンシングでは捉えにくい海氷の種類や厚さなどを記録し、海氷の経年変動の調査や衛星データとの比較などに使用します。今回は90回観測を実施しました。

艦橋からの海氷目視観測

・マイクロ波放射計
停船中に海氷や海水、天空から放射される微弱なマイクロ波を測定します。高性能なマイクロ波放射計は人工衛星にも搭載されていて、海氷密接度や海面温度、海氷厚などの推定に使われます。今回の航海では大きなミスをしてしました。なんと専用のLANケーブルを日本に忘れてきてしまったのです。しかし、機器の蓋を開けて中にあるルーターに直接通常のLANケーブルを挿すことで、何とか使えるようになりました。ようやく使えるようになったと思ったのも束の間、観測に使う専用ノートPCの充電が切れていることに気づきました。調べたところ、ACアダプタが断線して壊れていたため充電できていなかったようです。幸運にも、船内に同じACアダプタを持っている方がいたため、一時的にお借りして観測を続行でき、貴重なデータを得られました。今回の航海では13回実施しました。

マイクロ波放射計での計測

・XCTD
XCTDとは使い捨てのCTDのことで、今回使用したXCTD-1Nの場合、最大船速12ノットで移動しながら最大1,000 mまでの海水の電気伝導度(塩分)、水温、水深を測定できます。この航海でXCTDはCTD観測を行った地点と、これからCTD観測を行う地点の間を埋めるような形で行います。XCTDを使う際には、投下する人と観測ソフトウェアを操作する人が必要です。XCTDを投下する際、船の速度を落とす必要があるため、艦橋の航海士の方と無線でやり取りをするのですが、英語で行うため特に聞き取りが難しいです。海氷域でXCTDを行う際はXCTDのワイヤが海氷にぶつかって切れないように投下位置を船のスクリューの真後ろに移動するなど、細心の注意を払う必要があります。今回の航海では40回実施しました。

XCTDの計測

これらの観測で得られたデータは貴重な観測値になり、リモートセンシングデータの精度向上に貢献し、気候変動監視や氷海での航行支援に役立ちます。

(2024/11/29)

ルイサンローランでの生活

執筆者:小濱 悠介(北見工業大学)

はじめまして!北見工業大学院修士2年の小濱です!私がルイサンローランに乗船したのは昨年に引き続き2回目となります。今回の観測では海氷目視観測、XCTD、氷上観測を主に担当します。今回はルイサンローランでの船内生活についてご紹介します。

・観測について
海氷を担当する3名(舘山、小濱、石山)は8時間交代で24時間観測します。ただ、日中に観測機器の取り付けなどがある場合は担当する時間以外でも参加します。また、海氷観測は海氷域航行中が観測期間であるため、海水域を航行する後半では、忙しくなるCTD観測チームのお手伝いとして採水などを行います。観測の詳しい内容については別の回で紹介したいと思います。観測に関するものとして、サイエンスミーティングが毎日45分程度あります。その際に気象や海氷の現況と予報、観測の予定を共有します。航海の後半では観測も落ち着いてくるため、空いた時間に研究者たちのプレゼンがあります。私たちも海氷チームとして今回の航海で得られたデータについての発表を行いました。

・居室について
私たちが使用する居室は個室となっています。居室には机やソファー、ベッド、収納、TV、水道があるので、快適に生活を送ることができます。私はルイサンローラン以外の観測船で生活したことはないのですが、日本の観測船で生活したことのある他のメンバーによると、日本は相部屋で狭いとのことで、ルイサンローランの居室はかなり充実しているそうです。

ルイサンローランの居室

・食事について
船の食事は、食堂に貼り出されているメニューから希望のものを給仕係の方に伝え、盛り付けてもらう方式でした。1日3食でメイン、サラダ、パンなどが出ます。その他に船内手作りデザートやクッキー、ソフトクリームなどが、24時間飲食できるようになっています。コーヒーや牛乳、オレンジジュース、スムージーなども飲み放題です。提供される料理はルイサンローランの母港であるカナダのニューファンドランド・ラブラドール州セントジョンズの料理(タラなど海鮮料理)のほか、フランス料理、カナダ料理、中華料理、東南アジア料理など幅広いメニューが日替わりで出され、毎日おいしい料理を楽しむことができます。昨年の航海ではメニューを全部載せしたことがあり、食べ過ぎで7 kgも太ってしまいましたが、今年は船酔いになることが多かったので2 kg減りました。

船内の食事(左から朝食、昼食、夕食)

・ジムについて
船での生活では運動不足になりがちですが、ルイサンローランには船内ジムがあり、筋トレや有酸素運動を行うことができます。マシンのバリエーションも多く、充実した設備になっています。夕方には利用者も多く、少し混むこともあります。私は趣味が筋トレなので、バーベルやダンベル、マシンを使って頻繁にトレーニングを行い、長い航海中の良い気分転換になりました。

船内ジムでのトレーニング

(2024/11/29)

ルイサンローランへついに乗船!

執筆者:石山 幸秀(東京大学)

はじめまして!ルイサンローラン観測チームです。私たちは、Joint Ocean Ice Study(以下、JOIS)2024に参加しています。JOISでは、カナダ沿岸警備隊の砕氷船「Louis S. St-Laurent(ルイサンローラン)」で観測を行います。本航海は、北極海カナダ海盆で行われる海洋・海氷調査プロジェクトで、海氷や海水、生物を採取して分析するほか、観測機器の設置や回収も行います。本プロジェクトにはカナダを中心に、アメリカ、日本から研究者や大学院生など25名が参加しています。

JOIS2024の航路計画(提供:Fisheries and Oceans Canada Institute of Ocean Sciences)

今年は、日本から4名が参加しています。今後は、この4名で観測の様子や船内生活の様子についてお伝えできればと思います。最初に、簡単にメンバーを紹介します。北見工業大学の舘山先生と大学院生の小濱さんは、海氷観測が専門です。船上で海氷目視観測や電磁センサーで海氷の厚さや特徴を調べるほか、実際に海氷に降りて、厚さや海氷サンプルの分析を行います。東京海洋大学の川合先生は、ルイサンローランが航行する北極海カナダ海盆において、海洋酸性化や淡水分の経年変化を調査しています。筆者(石山)は海氷の中を航行する砕氷船の航行支援がテーマで、海氷が船の速度や燃料消費にどのような影響を与えるか調べています。

今回は、石山の担当回ということで、私がJOISで行う観測について紹介させていただきます。私がJOISで担当する観測は主に3つです。1つ目は砕氷船の性能評価で、船の速度や燃料消費のデータを取得し、氷の状況と照らし合わせることで、様々な氷の中で、砕氷船がどのくらいの性能(速度や燃料消費)を出せるのか調べます。2つ目は、赤外線カメラです。海氷は厚さによって複数の種類に分類されるのですが、様々な種類の海氷に対して、海氷の表面と海水面の温度差を調べます。3つ目は、波浪センサーです。幅数kmの海氷上にセンサーを設置し、海氷の下を伝わる波を観測します。

私は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 早稲田 卓爾教授の研究室で、砕氷船の航行支援の研究をしており、半年ほど前には日本の第65次南極地域観測隊に参加し、砕氷艦「しらせ」の砕氷航行についてデータを取得していました。しかし、北極海での観測は私にとって初めての経験となります。地球の反対側の北極での観測ということで、南極と北極の海氷の違い、日本とカナダの砕氷船の違いや共通点について肌で感じてきたいと考えています。

今回は、ルイサンローランに乗船するまでの様子を紹介させていただきます。

ルイサンローランまでは、羽田→サンフランシスコ→エドモントン→イエローナイフ→ケンブリッジ・ベイと、何度も飛行機を乗り継いで向かいます。

飛行機での経路の様子

・サンフランシスコ
8月28日に羽田空港を出国し、まずはアメリカのサンフランシスコに向かいます。実は私は8月28日が誕生日だったので、東京からサンフランシスコに行くと、時差の関係で2日目(?)の誕生日を迎えることになりました。サンフランシスコでは、入国審査官の方に「Happy birthday!」と祝っていただく、うれしいサプライズもありました。

・エドモントン
ルイサンローランまでは長い道のりのため、カナダのエドモントンという街で1泊しました。エドモントンで夕食を食べたのですが、カナダ料理のボリュームの多さに驚きました。日本のものと比べて3倍くらいの高さのハンバーガーや、大きなピザが印象に残っています。

エドモントンでのディナー
ホッキョクグマとアザラシのモニュメント

・イエローナイフ
この街はオーロラ観光の名所として人気があります。イエローナイフ空港は、北極圏行きの飛行機の起点となっており、この空港でJOISに参加する他のメンバーと顔を合わせました。空港では、ホッキョクグマのモニュメントが出迎えてくれます。今回の航海では、ホッキョクグマに出会えるでしょうか…?

イエローナイフ発の飛行機に乗り込んだところ、出発前にまさかのエンジントラブルが…。飛行機を降り、空港で案内を待つことになりました。長旅には、トラブルもつきものなのかもしれません…

・ケンブリッジ・ベイ
数時間の遅れはあったものの、最終的には無事、全員でケンブリッジ・ベイ空港に到着しました。舗装されていない滑走路に土煙を上げて着陸すると、周りには建物もほとんどなく、日本から遠く離れた土地に来た実感がわいてきました。夏の日本では、半袖でも汗が止まりませんでしたが、ケンブリッジ・ベイでは長袖を重ね着しても寒いほどでした。空港の建物に入ると、今度はジャコウウシのモニュメントが出迎えてくれました。ケンブリッジ・ベイ周辺はジャコウウシの生息地として有名で、約3万頭が生息しているそうです。

ジャコウウシのモニュメント
ルイサンローランのヘリコプター

ケンブリッジ・ベイには大きな船が停泊できる港がないため、空港からはルイサンローランに搭載されているヘリコプターのピストン輸送で荷物と人が運ばれます。ヘリコプターに乗って数分でルイサンローランに到着しました。

羽田を出国してから乗船するまでの間も、日本とは異なる経験の連続でした。特に、空港や道端で多くの人が道を教えてくれたり、手助けしてくれたりと、現地の方の温かさを感じました。

ケンブリッジ・ベイを出港すると、本格的に乗船観測が始まります。今後、どのような海氷と出会えるか、とても楽しみにしています。

(2024/10/2)

関連リンク

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グリーンランドにおける資源開発に関する現地調査 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024-10-03-1/ Thu, 03 Oct 2024 02:57:25 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=13129 報告者:田畑 伸一郎(北海道大学) 関連課題:社会文化課題 社会文化課題の3人のメンバー(田畑 伸一郎、徳永 昌弘、原田 大輔)が2024年9月1日から10日間ほど、デンマークのコペンハーゲンとヌーク(グリーンランド)を […]

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報告者:田畑 伸一郎(北海道大学)
関連課題:社会文化課題

社会文化課題の3人のメンバー(田畑 伸一郎、徳永 昌弘、原田 大輔)が2024年9月1日から10日間ほど、デンマークのコペンハーゲンとヌーク(グリーンランド)を訪問し、資源開発とその地域経済・社会への影響などに関する調査を行いました。この調査には科研費の調査を行うため大西 富士夫さん(国際政治課題)も加わりました。

グリーンランド経済は、これまで海産物の輸出に頼ってきましたが、デンマークへの依存を減らすための切り札として、埋蔵量が豊富であると見られている鉱物資源開発に大きな期待が寄せられています。石油・ガスの開発も見込みがあると考えられていましたが、2021年の政権交代の後、グリーンランドは脱炭素の方向に大きく舵を切りました。今回の現地調査は、このような政策転換の背景を理解し、石油・ガスに代わって有望視されているレアアースなどの開発の現状や課題を調査することを主要な目的としました。

我々はまずコペンハーゲンに2日間ほど滞在して、デンマーク国際問題研究所、コペンハーゲン大学、オールボー大学の専門家から、グリーンランドをめぐる状況やデンマークとの関係についての話を聞きました。また、これまでロシア・旧ソ連関係を担当されてきた元欧州局長の宇山 秀樹氏が現在、在デンマーク日本大使を務められ、昨年11月にグリーンランドを訪問したことを知ったので、大使からも話を聞きました。

我々は、大西さんを除いて、今回が初めてのグリーンランド訪問だったので、知り合いもおらず、どうやって面談をアレンジしようかと思っていました。幸い、原田さんが会議で知り合ったグリーンランド自治政府代表・公使のヤコブ・イスボセツセン氏がグリーンランド自治政府の首相府儀典長ヤコブ・ローマン・ハード氏と通商産業・鉱物資源・司法・男女平等省大臣トーマス・ラウリトスン氏を紹介してくれました。特にハード氏のおかげで、2日間で9件ほどの面談(上記の省のほか、商工会議所、天然資源研究所、ヌナ・グリーン社など)を行うことができました。

面談のワンシーン

これらの面談やヌーク市内の視察を通じて私が学んだことを次の3点にまとめてみました。第1に、先住民であるイヌイットが人口の90%を占めるということを何人かの方から聞き、実際に、外見からも、先住民とそうでない人をかなりの程度区別できるような印象を持ちましたが、先住民とそれ以外の住民の数を示すような統計は存在しないことを知りました。それほど「融合」が進んでいて、生活上の区別がないのだろうと思いました。先住民を含む一体としてのグリーンランド人が政府を形成していることから、資源開発において先住民の土地の権利の問題が発生しないことを知りました。このことは、先住民に対する補償のあり方をベネフィット・シェアリングとして議論しなければならない北極の他の国・地域とは大きく異なっているように思いました。

第2に、政府・企業が2021年から脱炭素の方向に強い意志を持って進んでいることが強烈に印象付けられました。この背景には、グリーンランド氷床の融解加速化に象徴されるような気候変動の進展や、欧州等における脱炭素化の動きの影響もあるようですが、グリーンランドで石油・ガスの開発が見込まれていた北東部においては、気象・地理的な要因により、開発が非常に高コストとなり、時間も要し、巨額の投資も必要となるという現実的な問題が大きく影響していることがよく分かりました。輸送問題1つをとっても、カナダやノルウェーとは違うのだと言われた人が複数おられました。レアアースの開発の場合は、可能性があるのは北東部だけではありませんが、それでもコストの問題は大きくのしかかっているようでした。

第3に、首都のヌークしか見ていないので、偏った見方かもしれませんが、生活水準は思っていた以上に豊かであるという印象を受けました。コペンハーゲンでは、円安と実質賃金低下に苛まれる我々日本人は、ホテルやレストランの値段の高さに苦しみましたが、それはヌークでも変わりませんでした。レストランでは、我々は少しでも安いものがないかとメニューの隅々まで探すのですが、ブルーワーカーを含めた地元の人たちはごく普通に食事をしていました。グリーンランドの公式統計によれば、2022年の平均粗所得は都市で29万クローネ(約640万円)、村落で19.5万クローネ(約430万円)となっています。所得税率は42~44%ということですが、日本よりは豊かに思えます。ただし、国家財政歳入の4割余りがデンマークからの補助金、就業者の4割余りが公務員ということです。水産業以外の産業を育成しなければならないという考えを政府や企業の多くの人から聞きましたが、それももっともだと思いました。

ヌークの街並み

コペンハーゲンでも、ヌークでも、日本より生産性が高いのは、従業員を減らしている、あるいは従業員が少ないからではないかと思いました。以前にフィンランドでも同じことを思いました。人件費が高いから従業員を減らすのか、従業員が少ないから生産性が高く現れるのかは、何とも言えませんが、キオスクや小さなカフェを1人や2人で回しているのは、日本とは違うという感じです。日本のようなきめ細かいサービスやパンクチュアリティは期待できませんが。

水産業やレアアースなどの鉱物資源開発と並んで期待されているのが観光業ですが、大型の国際便が飛べるようにするためにヌークの空港の拡張工事が行われている最中でした。今年11月に完成すると聞きました。現在は、ヌークとコペンハーゲンの間の直行便はなく、レイキャビク(アイスランド)あるいはグリーンランド国内のカンゲルルススアーク経由などしかありません。我々の帰路においては、ヌークからカンゲルルススアーク行きの飛行機が直前になって欠航となりました。天候も問題なかったし、機材繰りというのも考えにくいので、何らかの理由で、乗員などのスタッフが足りなくなったのではないかと疑っています。人手が足りていないような印象を各所で受けました。

遅れや欠航は頻繁にあるようで、代替ホテルの提供や食費補助のクーポンの配布などは、手慣れた様子で進められました。この影響で、カンゲルルススアークの空港ホテルに1泊することになり、空港近くのツンドラツアーにも参加することになりました。ヌークで参加したフィヨルド流氷ツアーも含めて、確かに観光資源は豊富であることを実感しました。

脱炭素の方向で、どのようにグリーンランドが進んでいくのか、今後も注視していきたいと思っています。

 

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グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2024 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024greenland-coast/ Thu, 03 Oct 2024 00:07:39 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=12639 沿岸環境課題では、昨年までに引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2024年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお […]

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沿岸環境課題では、昨年までに引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2024年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。

グリーンランド北西部ケケッタ沖でのイッカクの行動観察調査

執筆者:小川 萌日香(北海道大学)
三谷 曜子(京都大学)

今年も、昨年お世話になったベテランイッカクハンターの猟に同行することができました。

グリーンランド北西部のケケッタは、カヤックを使った伝統的なイッカク猟文化が残る唯一の海域です。エンジンを止めたボートの上で数日間過ごしながらイッカクの群れが現れるのを待ち、カヤックを使って音もなく近づき狩りを行います。

(写真1)イッカクの行動観察

イッカクはとてもデリケートで、エンジンのついたボートでは近づくことができませんが、伝統的なイッカク猟を行うケケッタでは、イッカクに至近距離まで近づき、自然な行動を観察することができます。

(写真2)船上での食事

イッカク猟は、狩猟が成功するまで陸には戻りません。今回私たちは7日間海に浮かんでいました。氷山とイッカク、時々アザラシに囲まれる絶景スポットで、狩猟の合間に食べるイヌイット料理は絶品です!私のお気に入りはやっぱりアザラシです。マスタードがとてもよく合って、オススメです!

今回で2回目の狩猟同行、5回目のイッカク解体作業のお手伝い。だんだんグリーンランド語も理解できるようになり、狩猟の手順もわかってきて、ハンターさんたちとの交流をますます楽しむことができました。

(写真3)ドローンからのイッカク行動観察

狩猟期間中、合計500頭以上のイッカクを観察することができ、ドローンでの行動観察にも成功しました。毎回貴重な機会をくださるハンターさんたちへの感謝の気持ちを忘れずに、これからデータ解析をはじめます!

(2024/9/27)

グリーンランド北西部カナック村周辺における音響観測

執筆者:Evgeny Podolskiy(北海道大学)
中山 智博(北海道大学)

2024年7月末から8月にかけて、私たちは、グリーンランド北西部のInglefield Bredningフィヨルド周辺に設置された長期海洋観測および地震観測ステーションの回収と一部再設置を行いました。私たちのステーションは、昨年に海底や氷河のカービングフロントの近くの島々に設置され、氷河、海氷、海洋、海洋動物に関する学際的な研究のために使用されています。

(写真1)ドローンを用いた氷河観測の様子

回収中には、Bowdoin氷河のカービングフロントの数値標高モデルを作成するために、ドローンを用いた空撮も行いました。

(写真2)環境音響観測のための係留系を再設置

回収された海洋観測ステーションは、海の音と海水の物理的性質を継続的にモニタリングし、水柱の音響プロファイリングも行っていました。地震観測ステーションは、氷山や氷河によって発生する氷震を記録していました。

(写真3)1年間設置した係留系を回収

データの分析はそれぞれの専門家によって行われる予定です。(i) 動物プランクトン、魚類、氷山などの音響反射体の存在の変動、(ii) 海棲哺乳類(イッカクやアザラシなど)、環境、人間によって発生する生物的、自然的、人工的な音の時間変動、そして(iii) カービングのタイミングと規模が明らかになると期待されています。これらのデータ分析は、現在急速な環境変化を受けている氷河に覆われたフィヨルドが生物のホットスポットや狩場として機能していることの理解に役立つと考えられています。

(写真4)Heilprin氷河の前に位置する島に設置した地震計を訪問

また、7月19日から8月6日にかけて、カナック氷河の流出河川での観測も継続しました。2023年、2016年、2015年には、大雨や氷河の急激な融解により河川が氾濫して橋が流され、カナック村とカナック空港の道路が寸断されました。温暖化が村の社会に与える影響を評価するため、2017年から河川の流量測定を継続して行っています。

(写真5)従来の手法による流量観測の様子

従来の流量測定では観測者が川に入り、河床の深さを測定し、流速計を繰り返し川に入れて流量を計測する必要がありました。この作業は、最低でも10分間、約2℃の水温の川に入り、立っているのが難しいほどの流速(約2 m/s)で行わなければなりません。

(写真6)川のそばに設置した音響センサとタイムラプスカメラ

観測の負荷を減らすため、今年は、川に入ることなく流量を測定する方法を開発するために、4台の音響センサと3台のタイムラプスカメラを川の近くに設置しました。音響センサは橋と氷河末端の間に、約500 mおきに、約2.5 kmの川に沿って設置しました。川幅や流路の変化が音響信号に影響を与える可能性があるため、3台のタイムラプスカメラで川の動態を記録しました。流量と音響および画像データを比較することで、より正確かつ簡便に河川の継続的なモニタリングを行うことが可能になります。

(2024/9/26)

グリーンランド北西部カナック村で開催したワークショップの報告

執筆者:渡邊 達也(北見工業大学)
深澤 達矢(北海道大学)

私たちはカナック村での研究活動を知ってもらうため、村人を招いたワークショップを毎年開催しています。今年も7月28日にワークショップを開催し、会場には例年以上に多くの村人が集まりました。参加者数は過去最多の約70人に達し、私たちの現地での研究活動が浸透してきたこと、研究の内容や成果に村人が強い関心を示していることが感じ取れました(写真1)。

(写真1)会場には多くの村人が集まった

ワークショップは現地協力者であるToku Oshima氏の挨拶から始まり、次に杉山教授(北海道大学低温科学研究所)から沿岸環境課題の研究テーマと研究者の紹介がありました。今年は7人の研究者から発表があり、多様な話題を提供することができました(写真2)。まず前半は、自然をテーマとした4件の発表がなされました。Podolskiy准教授(北海道大学北極域研究センター)からは、氷と生物の音をテーマに、アパリアス(ヒメウミスズメ)のバイオリズム、氷山移動やイッカクの行動による水中音響についての紹介がありました。小川さん(北海道大学博士課程)からは、海洋生態系に関する研究成果が紹介され、地元猟師の協力で得られたアザラシやイッカクの胃の内容物の分析結果に村人は強い興味を示していました。Thiebot助教(北海道大学水産学部)からは、アパリアスなどカナック周辺に生息する海鳥の生態について紹介がありました。前半最後は、同じカナック村を拠点に活動する雪氷課題チームの西村特任助教(信州大学)が、雪氷課題の取り組みについて紹介されました。

(写真2)Thiebot助教による発表の様子
(写真3)休憩時間に振舞われたお寿司とお好み焼き

休憩時間には、お寿司やお好み焼き、お菓子を準備して、日本の味を楽しんでもらいました(写真3)。皆さんの感想は「ママット!(おいしい)」と大変好評で、食べ物を載せた皿は瞬く間に空っぽとなりました。

後半は社会影響をテーマとした3件の発表がなされました。今津さん(北海道大学博士課程)からは、昨夏、カナックで発生した河川洪水の原因について説明がありました。続いて筆者の渡邊(北見工業大学)より、シオラパルクの地すべりメカニズムとカナック地域の斜面ハザードに関する発表がありました。最後に、筆者の深澤(北海道大学)より村の廃棄物問題と有害物質の生物濃縮に関する発表があり、ごみ捨て場からの汚染水流出が沿岸の生態系に影響を及ぼしている分析結果が提示されました。

(写真4)最後に参加者全員で記念撮影

発表終了後には討論の時間を設け、お互いの理解を深めました。真剣な眼差しの参加者の姿から、我々の使命を果たさねばという決意を新たにしました。これからも村人との関わりを大切にし、コミュニティーが抱える課題や疑問の解決に向けた研究活動に取り組んでいきます(写真4)。

(2024/8/23)

海鳥の羽から探る北極域の海洋生態系

執筆者:Jean-Baptiste Thiebot(北海道大学)
油島 明日香(北海道大学)

鳥の羽は毎年生え変わることで、天候から身を守り、最適な飛行能力を維持します。新しく生えた羽の化学組成は、その時に鳥が食べていた食物によって決まります。そのため、羽の組成を分析することで、季節ごとの摂食状況や有毒汚染物質の濃度を調べることができます。また、羽が生え代わる季節は身体の部分によって異なるので、翼や腹部など異なる部分の羽を採取することで、さまざまな季節に鳥が経験した状況を調べることができます。

(写真1)グリーンランド北西部のシオラパルク村付近のヒメウミスズメ繁殖地
(写真2)ヒメウミスズメは北極の海洋生態系の優れた生物指標と考えられている

ヒメウミスズメ(Alle alle、グリーンランド北西部では「アパリアス」として知られています)は、北極圏で年間を通じて見られる小さな海鳥(約150グラム)です。そのため、北極圏の海洋生態系における季節的な環境変化を知る上で優れた生物指標です。ヒメウミスズメは生息数が多く、その大部分はグリーンランド北西部で繁殖しており、村人たちの自給自足にかかせない伝統的な食糧です。春と夏には海岸の高い斜面で岩の下に巣を作り、毎日巣に出入りして近くで見つかる海洋生物を食べ、雛を育てます。夏の終わりにはグリーンランドの南とカナダの東に移動し、小さな甲殻類を食べて冬を過ごします。

2024年7月から8月にかけて、私たちはカナック地域・シオラパルク村近くのヒメウミスズメの大規模な繁殖地において、羽毛のサンプルを採取しました。過去2年間、私たちは成鳥の羽毛を研究し、晩夏と秋の摂食状況と水銀(Hg)汚染に関する情報を得ることができました。今回は、特に雛の羽毛のサンプルを採取することを目指しました。ヒナの羽毛は、成長中に卵に含まれていた栄養成分を反映しています。つまり、これらの成分は、繁殖前に母鳥が卵を育てながら海で採餌した食物の代表です。また巣立ち前のヒナに生えたばかりの羽毛を採取することで、ヒナの給餌期間中の親鳥の給餌環境を調べることができます。

(写真3)岩の下の巣で捕獲した若いヒナ。ヒナの体温を適切なレベルに保つよう細心の注意を払ってサンプリングを行う。
(写真4)船から海にいる鳥を数えることで、それぞれの種がどのような海洋環境に生息しているかを調べる

調査の最終日には、地元の狩猟者の船に乗って、フィヨルド全域にわたるヒメウミスズメの分布を調査しました。これにより、海で餌を探すときに鳥がターゲットとする海洋条件をより深く理解し、氷河がこれらの海洋条件に与える影響を調べることを目指しています。

今秋、北海道大学で羽毛の組成分析・生化学分析を行い、その結果から北極の海洋生態系における季節的な相互作用に関する新たな知見が期待できます。過去2年間に収集したデータと合わせた解析により、北極の海洋生態系が水銀などの有毒元素の汚染増加にどのように反応するか、またこのメカニズムがこれらの海洋資源に依存する北極の人々にどのような影響を与えるか、といった課題の解明を目指します。

(2024/8/22)

グリーンランド北西部カナック氷河での観測報告

執筆者:今津 拓郎(北海道大学)
矢澤 宏太郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

(写真1)カナック村

2024年7月10日から、グリーランド北西部カナック氷河での現地観測を開始しました(写真1)。到着したカナック村は気温が約5℃と、日本と打って変わって涼しい気候です。村にはたくさんの犬(写真2)、海には海氷と氷山、山には氷河があり、カナックでの観測に初めて参画した筆者(矢澤・北海道大学)にとって感動する景色でした。

(写真2)カナック村の子犬
(写真3)GPSを用いたステークの測量

2012年から10年以上にわたって、カナック氷河上の6地点に埋設したアルミポールを用いて質量収支と流動速度を観測しています(写真3)。これらの観測は、カナック氷河だけでなく、近年質量損失が加速傾向にあるグリーンランド北西部氷河氷帽の変動を理解する上で重要な現地観測データとなります。今年の観測によって、2023~2024年にカナック氷河の表面で単位面積あたり水に換算して平均0.52 m相当の氷が失われたことが明らかになりました。この損失量は2022~2023年よりも32%小さいものです。質量収支と合わせて流動速度を観測することで、氷河変動のメカニズムを明らかにします。また、これらの観測を来年も引き続き実施するために、新たなアルミポールを設置しました(写真4)。

(写真4)電動ドリルを用いたステーク設置
(写真5)ドローン測量

上述した2つの観測に加えて、高い時空間分解能で表面標高変化を明らかにするために、2022年からドローン測量を実施しています(写真5)。また、高解像度なドローン画像を用いて、融解水によって氷河上に形成される水路の発達メカニズム(蛇行や浸食)や、水路が氷損失に与える影響を明らかにすることも目的としています。夏の観測では測量を3回実施し、計6671枚の写真を撮影しました。撮影された写真を基に数値標高モデルを作成し、その精度を詳細に解析する予定です。過去2年間に得られた画像データや数値標高モデルを今年の結果と比較して、近年のカナック氷河における表面標高変化や、氷河上水路に由来する表面状態の変化の解析を進めます。

(2024/8/2)

関連リンク

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氷河氷床変動に関するオスロ大学との海外交流報告 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/exchange-hu/ Tue, 10 Sep 2024 06:27:04 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=9065 重点課題①海外交流研究力強化プログラムの支援により実施されている海外交流計画「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」(コーディネーター:杉山 慎 北海道大学)では、北海道⼤学低温科学研究所氷河氷床グ […]

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重点課題①海外交流研究力強化プログラムの支援により実施されている海外交流計画「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」(コーディネーター:杉山 慎 北海道大学)では、北海道⼤学低温科学研究所氷河氷床グループとオスロ⼤学地球科学科氷河研究グループとの連携により、研究者や⼤学院⽣の相互派遣、共同氷河観測、国際ワークショップ、特別講義・実習・演習などを実施しています。

スバールバル諸島・Kongsvegen氷河における氷河観測・熱水掘削

執筆者:波多 俊太郎(北海道大学)

2024年8月8-20日の期間で、ノルウェー・オスロ大学MAMMAMIAプロジェクト、およびArCS II海外交流研究力強化プログラム「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」の一環として、スバールバル諸島のKongsvegen氷河における現地観測に参加しました。氷河の質量損失を駆動する氷河流動の加速メカニズム解明がプロジェクトの目的です。今回は熱水掘削がメインの観測です。日本(北海道大学)からは波多と杉山教授、オスロ大学からはPIのThomas V. Schuler教授、技術員のJohn Hult氏、博士課程学生のMaiken Revheim氏、研究補佐員のSatu Innanen氏、ノルウェー極地研究所(NPI)からIngrid Kjerstad氏と、7名で氷河上での観測を行いました。

8月8日にオスロの空港でメンバーと合流し、8月9日にロングイヤービンで乗継ぎニーオルスンに入りました。今回ニーオルスンでは、ノルウェー基地を拠点として滞在しました。ニーオルスンは日本含め各国の観測拠点があります。今回の滞在中も多くの研究者がニーオルスンを拠点に活動しており驚きます。同時期に日本の別チームも現地入りしていました。ニーオルスンではホッキョクグマ対策のための講習や機材の準備・テスト、装備品の借用など氷河へ行くまでの準備を整えました。

(写真1)飛行機から見たニーオルスンの街並み

8月12日にKongsvegen氷河までヘリコプターで向かいました。まずは機材輸送で氷河とニーオルスンを往復する中、いくつかのチームに分かれて機材のメンテナンスやデータダウンロードを行います。筆者は今津さん(北海道大学)が4月に設置したタイムラプスカメラや音響センサの回収や、無人航空機による空撮を行いました。その後氷河上のキャンプで合流、熱水掘削を開始しました。自動のウインチでじわじわ堀り進み、8時間ほどかけて氷河底面まで361 mを堀り抜きました。その後、掘削孔を用いた種々の観測を行いました。我々は、氷河流動に重要な氷河底面環境の直接測定を目的として、氷河底面環境の担当する掘削孔カメラの観測を実施しました。その後、音響試験、底面への機材設置など、全ての観測を無事終えました。驚くべきことに、氷河に滞在したのは3日間のみで、スピード感に圧倒されました。

(写真2)使用した熱水掘削システム
(写真3)掘削孔へカメラを入れる様子

初めてのスバールバル諸島でのとても挑戦的な氷河観測でしたが、予定した観測が無事完遂できて安心しています。また、私含め、Maiken、SatuはArCS IIからのサポートを受けてそれぞれノルウェー・日本に派遣経験があります。若い世代の派遣事業から共同観測にまで実施できたことを嬉しく思います。今後もこのような共同観測の継続を願います。

(写真4)観測メンバー集合写真

(2024/09/09)

スバールバル諸島・Kongsvegen氷河で実施した観測報告

執筆者:今津 拓郎 (北海道大学)

2024年4月15-29日の期間で、オスロ大学MAMMAMIAプロジェクト、およびArCS II海外交流研究力強化プログラム「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」の一環として、スバールバル諸島のKongsvegen氷河にて実施された現地観測に参加しました。このプロジェクトは、人工衛星画像解析、GNSS測量、地震測量、数値実験といった様々な手法を駆使し、氷河の質量損失に大きく影響する氷の流動加速メカニズムを解明することを目的としています。今回の現地観測では、主にGNSS測量と地震測量に使用する機材のメンテナンスを行いました。また、自身の研究として、Kongsvegen氷河脇にある氷河湖の排水が氷河表面および底面に及ぼす影響を解明するために、音響センサ、ジオフォン、タイムラプスカメラを設置しました。

観測メンバーは、日本から単独で参加した筆者を含め、Thomas Schuler教授(オスロ大学)、John Hult氏(オスロ大学技術員)、Maiken Revheim氏(オスロ大学博士課程)の4人でした。4月12日に出国した筆者は、彼らとオスロで合流して4月14日に、スバールバル諸島ロングイヤービンに到着しました(写真1)。到着して早々、氷点下10度を下回る寒さで以降の観測に対する不安を感じたことを覚えています。ロングイヤービンで1泊した後、いよいよ観測拠点であるニーオルスンに入りました。ニーオルスン滞在時は、主にNPI(Norwegian Polar Institute)の施設(写真2)を利用しました。この施設は、他にも多くの研究者も利用しており、彼らとも食事前後のコーヒー休憩を楽しみました。

(写真1)ロングイヤービンの町並み
(写真2)NPIの研究拠点

最初の観測となった4月17日には、ニーオルスンから約20 kmほど離れたKongsvegen氷河にスノーモービルで向かいました(写真3)。この観測では、データのダウンロードや故障した機材の回収を行いました(写真4)。極地にも関わらず、設備が整ったNPIの施設で故障した機材はすぐに修理でき、とても驚かされました。その後天気が崩れたため、4月19日以降は計5回しか観測に出られませんでしたが、その中で自身の観測も実施できました(データを回収する2024年夏が楽しみです)。

(写真3)氷河とスノーモービル
(写真4)機材のメンテナンス

慣れない環境ではあったものの、観測メンバーやNPIの研究者たちが快く迎え入れてくれたこともあり、有意義な2週間を過ごすことができました。この観測で得られた、経験や多くの研究者との交流機会を今後の研究活動に活かすとともに、彼らとともに再び観測できることを願っています。

(2024/07/03)

雪氷寒冷圏モデリングコースを北大にて開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

(写真1)オスロ大・Shuler教授が数値モデリングの基礎を解説
(写真2)受講生は講師の助けを得て、自分自身で数値モデルのプログラミングを行います

2024年6月3~14日に北海道大学にて、オスロ大学と共同で「雪氷寒冷圏モデリングコース」を開催しました。このプログラムでは、雪氷寒冷圏に関する数値モデルの基礎と実践を学びます。オスロ大学が毎年大学院生向けに開講する正規プログラムで、過去には北大の大学院生がオスロで受講した他、2018年には北大にて開催した実績があります。今年はArCS II海外交流研究力強化プログラムの下で、北大が実施するHokkaido Semmer Instituteプログラムのひとつとして、世界の大学院生に開いたプログラムとして開催しました。その結果、北大から5名、オスロ大から3名に加えて、英国、米国、フランス、オーストラリアからも参加者を迎え、総勢13名の受講者となりました。

(写真3)プログラムの最後には、受講生各自が取り組んだ数値シミュレーション課題を発表
(写真4)発表に対しての質問やコメントから、議論が広がります

海外交流研究力強化プログラムの現地コーディネーターであるThomas V. Schuler教授をオスロ大学から招聘。北大教員4名を加えた講師陣で英語の講義を実施します。初夏の美しいキャンパスを舞台に、氷河氷床の変動や凍土の温度分布について、その理論的背景、数値モデルの構築、数値実験の実施まで、一連の知識と技術を学ぶ密度の濃い2週間となりました。最終日は各自の数値シミュレーション課題についてその成果を報告。世界から集まった大学院生との交流は、彼らの将来にとってとても大きな意味を持つことになることでしょう。

(写真5)初夏の美しいキャンパスで過ごした国際的な2週間は、参加者にとって重要な経験になるでしょう

(2024/06/30)

オスロ大学における研究滞在(2024年2~3月)②

執筆者:張 佳晏(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)

滞在期間中は主に、研究室にてそれぞれの研究を進めるほか、先生方と自身の研究に関する課題や展望について議論しました。例えば、オスロ大学の研究グループは、UAVを用いた研究に特化したDrone Labを所有しており、UAVに詳しい技術者によって管理されていています。私たちのグループでもUAVを用いてグリーンランドのカナック氷河で観測を実施しており、氷河表面の変化などに関する研究を行ってきたため、ドローン測量およびデータ処理に詳しい研究者と議論する機会は大変有意義なものになりました。

(写真1)Olivier Gagliardini氏と氷河モデリングについて議論する様子
(写真2)UAVを扱うDrone Lab

加えて、昼食やコーヒー休憩の時間が学生との交流を深める良い機会でした。彼らとの交流では、談笑を交えながら、それぞれの研究対象や研究手法について学びました。さらに、私たちと同時期に、外部研究者がオスロ大学を訪れており、異分野(積雪や水資源、氷床モデリング、永久凍土など)の学生・研究者たちと情報交換できました。また、研究グループの学生に誘われて、我々とは異なる分野の研究発表会に参加する機会も得ました。こうした交流経験を踏まえ、自身の研究に応用していきたいと思っています。

オスロには世界中から人々が集まっているため、街中やスーパーでは多彩な言語(ノルウェー語、英語、ドイツ語、フランス語など)が飛び交っていました。ただキャンパス内でも街中でも英語は共通言語ですので、英語の聞くおよび話す能力を磨き上げる機会に溢れていました。

(写真3)UAVの技術者であるLuc Girod氏とドローン測量データについて議論する様子
(写真4)中国長江の水資源管理の現状を題目としたセミナーの様子

今回の派遣は、私たちにとって初めての海外研究機関における滞在でした。当初は微かな不安もありましたが、オスロ大学の教授や学生があたたかく迎えてくださり、有意義な時間を過ごすことができました。特に、人工衛星データとドローン測量データに詳しいAndreas Kääb氏とLuc Girod氏との議論から、データ処理における新たな手法を学ぶことができました。今後の研究につなげる素晴らしい助言や経験を得られたことに感謝しています。

(2024/04/11)

オスロ大学における研究滞在(2024年2~3月)①

執筆者:張 佳晏(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)

ArCS II海外交流研究力強化プログラム「多様なスケールと手法で明らかにする急激な北極域氷河氷床変動」の一環として、北海道大学低温科学研究所の若手研究者(修士課程大学院生3名)が、2024年2月22日から3月11日にオスロ大学を訪問しました。主な目的は、氷河の専門家であるオスロ大学のThomas Schuler教授の指導下で、グリーンランドとアラスカにおける私たちの研究成果を紹介し、現地研究者の助言を受けて共同研究を推進することです。本プログラムでは、オスロ大学地球科学科氷河研究グループと連携し、スバールバル諸島における共同観測や、研究者や大学院生の相互派遣を通して知識や技術の共有を目指しています。

(写真1)オスロの町
(写真2)石造りの教会

北大西洋海流がもたらす暖気の影響を受けるオスロは、札幌より緯度が高いにもかかわらず、気温が比較的高く、市内には残雪のみが分布していました。市内を走り抜ける路面電車や車のほとんどが電気で駆動している点と、石造りと煉瓦造りの建築が多い点は、札幌との大きな違いであり、非常に興味深かったです。

(写真3)オスロ大学地球科学科の建物
(写真4)地球科学科のエントランスホール

オスロ大学を訪問した初日は、共同プログラムのコーディネーターであるThomas Schuler 教授に会い、彼にグループに所属する教授や研究員、学生の方々を紹介していただきました。同研究グループは氷河氷床、永久凍土などを研究対象としており、人工衛星データ、野外調査、モデリングなど多岐にわたる手法を研究に取り入れています。滞在期間中は、地球科学科の研究棟に1室を用意していただき、そこで研究を進めながら、グループの研究者・学生らとの議論や情報交換を通して多くのことを学びました。2日目には、セミナーにて今津と山田がArCS II沿岸環境課題で取り組んでいるグリーランド北西部のカナック氷河での研究、張がアラスカ南東部のタク氷河における研究について紹介する機会を得ました。セミナーでの発表および質疑応答を通して、オスロ大の先生や学生の方々に研究内容を共有し、議論することができました。また、研究内容に関してポジティブなコメントをいただいくこともでき、とても励ましとなりました。

(写真5)割り当てられた私たちの研究部屋
(写真6)セミナーにて研究を発表する様子

(2024/04/11)

オスロ大学における研究滞在

執筆者:近藤 研(北海道大学)
Yefan Wang(北海道大学)

ArCS II海外交流研究力強化プログラムの支援を受けて、オスロ大学の氷河研究グループに滞在しています。1月9日にオスロに到着し、日に日に長くなる日照時間に驚きながら1ヶ月が過ぎました。オスロ大学の氷河研究グループには、氷河変動の現地観測、衛星観測、数値モデリングの分野で世界をリードする成果を挙げる研究者が多数在籍しています。滞在期間中は、自身の氷河観測データの新たな解析手法・解釈を身につけるために、こちらの研究者と議論を進めています。特に、交流プログラムの海外コーディネータ―で氷河底面水文学や質量収支を専門とするThomas Schuler教授や、氷河地震の専門家であるUgo Nanni研究員との議論を通して様々なことを学びました。

(写真1)研究滞在先のオスロ大学地球科学棟
(写真2)Ugo Nanni研究員との議論

日照時間の短い冬のオスロでは、人々は短い日の光を大切に過ごしています。晴れた日の休日にはクロスカントリースキーに勤しむ人々が街中に溢れます。雪で覆われた深い森の中で自然を楽しむのが休日の定番の過ごし方のようです。しっかりと自然の中で遊び、非常に高い集中力で研究に打ち込むというのがこちらの研究者の過ごし方です。私達も郷に入っては郷に従えを合言葉に、休日にはスキーを楽しんでいます。

(写真3)休日にクロスカントリースキーを楽しむThomas Schuler教授
(写真4)Geography and Hydrologyグループの定例セミナー

私達の滞在する「Geography and Hydrology」グループには定例の行事があります。火曜・金曜の昼にはグループメンバーや研究グループへの訪問者が自らの研究やフィールド観測の様子を紹介するセミナーが開催され、世界各地から持ち寄られる様々な研究成果に触れることができます。また、金曜の午後には持ち回りの「ケーキ当番」が自作ケーキを振る舞う習慣があり、休日に入る前にグループメンバーでコーヒーを片手に近況を報告し合っています。

(写真5)金曜日にはケーキ当番がケーキを振る舞う

滞在は残り1週間となりました。最後の最後までこちらの研究者との議論を進め、新たな研究成果を創出できるよう努力したいと思います。また、研究グループの生産性の高さを見習い、日々の過ごし方についても多くを学んで帰国したいと思います。

(2023/02/17)

オスロ大にて北大・オスロ大・ノルウェー極地研の合同研究セミナーを開催

執筆者:波多 俊太郎(北海道大学)
渡邊 果歩(北海道大学)

(写真1)北海道大学の大学院生(近藤)の発表に対する質疑応答
(写真2)オスロ大学の研究員(Ugo)による研究発表

ArCS II海外交流研究力強化プログラムの一環として、北海道大学低温科学研究所とオスロ大学地球科学科の間で、氷河氷床研究に関する研究・教育の交流事業を実施しています。その一環として、2023年1月から2月にかけて、北海道大学の若手研究者および大学院生がオスロ大学に滞在しました。滞在期間中、1月31日には北海道大学とオスロ大学の共同研究セミナーを開催しました。まず交流事業のコーディネーターである杉山教授から、北海道大学、低温科学研究所、およびArCS IIについて紹介。続いて、北海道大学の若手研究者と大学院生4名から、グリーンランド、南極、パタゴニアにおける氷河氷床研究の成果を発表しました。特にArCS II沿岸環境課題で取り組むグリーンランド研究に関しては、カナック氷帽での長期モニタリングの成果や、機械学習技術に基づいた氷河湖解析の結果が報告されました。その後、海外コーディネーターであるオスロ大Schuler教授から、スバールバル諸島の氷河における流動加速メカニズムの解明を目的とするMAMMAMIAプロジェクトが紹介されました。それに続いて、プロジェクトの下で研究を実施するオスロ大学の2名から、最新の現地観測データとその解析結果についての報告。さらに、ノルウェー極地研の大学院生からは、南極の氷河湖における研果成果が報告されました。

(写真3)海外研究者との議論

発表された内容は、熱水掘削孔観測や人工衛星データを用いた氷河および氷河湖変動解析、地震波計を用いた流動観測、観測データに基づく質量収支解析など多岐に及んでおり、それぞれ研究対象地や研究手法を比較しながら、熱い議論が行われました。COVID-19の影響もあって交流が途絶えていた海外の研究者との議論はどれも新鮮で、新たな知見を交換することが出来ました。今後もお互いの研究を推進しながら情報交換を行って、来年度以降も益々の研究交流を進める計画です。

(写真4)共同研究セミナーへの参加者

(2023/02/09)

北海道の豪雪地帯母子里にて雪氷野外実習を開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

オスロ大学から訪問中の大学院生を交えて、北海道の寒冷・豪雪地帯母子里にて雪氷実習を開催しました。北海道大学・低温科学研究所が2008年から実施するこの実習は、COVID-19の影響を受けてしばらく見送られており、2023年1月17~20日に3年ぶりに開催されたものです。北大の大学院生にオスロ大の2名を加えて、総勢20名の受講者による実習となりました。

(写真1)地図を見ながら気温センサの設置場所を検討
(写真2)気温センサを設置

初日は宿泊施設周辺に気温センサを設置して、この地域に特有な低温分布の測定を開始しました。マイナス20度を下回る気温の測定を行い、盆地地形に影響を受けた低温の発生メカニズムを学びます。プログラム2日目は1.5メートルを超える深さの積雪を掘り、積雪に関する測定を行います。教員と一緒に様々な測定装置を駆使して、雪の温度、密度、粒径、積雪構造などのデータを取得しました。3日目は周辺の森林に出かけて、積雪深と積雪水量を広い範囲で測定。好天にも恵まれて、美しい北海道の森で積雪量の空間分布について学びました。4日間のプログラム最終日は、受講者による発表会です。6つのグループに分かれて、実習中に取得した観測データを解析し、口頭発表と質疑応答に臨みます。自らの手で測定したデータについて、様々な議論が展開されました。

(写真3)積雪の断面観測
(写真4)森林での積雪量調査

北海道は世界でも有数の豪雪・寒冷地域であり、北極圏の変化を理解するために、絶好の研究・教育の場となります。オスロ大学との交流事業にとどまらず、今後も世界水準の極域研究者養成プログラムを開催していきます。

(写真5)実習参加メンバー

(2023/01/21)

北大・オスロ大が共同で若手研究者による研究セミナーを開催

執筆者:杉山 慎(北海道大学)

ArCS II重点課題①海外交流研究力強化プログラムの支援を受けて、北海道大学とオスロ大学の交流事業を実施しています。北極域の氷河氷床変動をテーマとして、研究者の交流や、教育プログラムへの大学院生相互派遣、共同観測事業などを行うものです。2023年1月10日~24日には、若手研究者による共同研究セミナーや北海道内での野外実習への参加を目的に、オスロ大学の大学院生2名が北大・低温科学研究所に滞在しています。

(写真1)オスロ大学の大学院生Satuによる研究発表
(写真2)オスロ大学の大学院生Gabriel

1月11日には、北大の研究者・大学院生と共同で研究セミナーを開催しました。まず、プログラム・コーディネーターの杉山から、北大が取り組む氷河研究とArCS IIプロジェクトについて紹介。続いてオスロ大の2名から、スバールバルの氷河に関する研究発表が行われました。長期の観測データに基づく氷河質量収支の解析、人工衛星データを使った氷河流動変化など、最先端の研究成果が報告されました。次に北大の大学院生3名からグリーンランドにおける研究成果が発表され、スバールバルとの比較も含めた議論が行われました。

この後1月16日から北海道の豪雪地域で雪氷実習を開催し、北大とオスロ大の大学院生が共同で雪と寒冷気象について学びます。また1月~2月にかけて、北大の若手研究者と大学院生がオスロ大学に滞在し、共同研究と研究セミナーを実施します。

(写真5)共同研究セミナーの参加者

(2023/1/21)

関連リンク

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国際若手研究者交流プログラム 海外若手研究者活動報告 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/earlycareer-report/ Tue, 27 Aug 2024 00:19:25 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=11415 重点課題①国際若手研究者交流プログラム 海外若手研究者公募では、北極域研究に関わる海外若手研究者の日本国内の機関における雇用もしくは受入を促進し、海外若手研究者の研究の進展を支援すると同時に、我が国における北極域研究者と […]

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重点課題①国際若手研究者交流プログラム 海外若手研究者公募では、北極域研究に関わる海外若手研究者の日本国内の機関における雇用もしくは受入を促進し、海外若手研究者の研究の進展を支援すると同時に、我が国における北極域研究者と海外若手研究者との相互交流の活性化や国際共同研究の協力体制強化を目指しています。本プログラムにより来日した海外若手研究者による活動報告を掲載します。

カナック氷帽上で発生する生物暗色化現象の観測と解明

受入研究者:大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)
海外若手研究者(執筆者):Giacomo Traversa

本課題(Biological Darkening over the Qaanaaq ice cap:BDQ)では、グリーンランド北西部にあるカナック氷帽の氷河を黒くさせている雪氷生物と呼ばれる有機物を、衛星リモートセンシング、現地観測、数値モデリングを用いた学際的な手法で分析します。
このアプローチは、近年の雪氷生物による氷河の暗色化を評価し、その氷河や周辺環境への影響の理解を深めるための基礎となります。

さようならの時

日本での2カ月が過ぎ、もうさようならを言う時が来ました。残念なことに時間が経つのは早すぎますが、これはお別れではありません。

ArCS IIはイタリアからとても遠い国で一定期間を過ごし、素晴らしい経験をするというとても良い機会を提供してくれました。この経験は研究者としての私を確実に成長させてくれました。わずか2カ月の間に、私の研究分野での多くの著名な研究者や教授に会う機会があり、将来的には彼らと共同研究ができることを願っています。それだけでなく、北海道大学や千葉大学、気象研究所、国立極地研究所など多くの機関を訪問する機会がありました。各地を飛び回り、新しい基礎的な共同研究を構築するために多くの労力を費やしましたが、私たちはBDQプロジェクトの研究目標のほとんどを達成し、将来の共同研究や科学論文の基礎となる優れた成果を得ることができました。

このような素晴らしい結果を出すことができたのは、ArCS IIプロジェクトや、私を支え、助けてくれたすべての方々のおかげだと改めて感謝しています。帰国してからも一緒に仕事を続けていくことを楽しみにしています。

ありがとうございました。
Giacomo

(写真1)3月28日のJAXAでのお別れ会にて、私と大沼さん
(写真2)つくばのJAXAセンターの入口にて、地球観測研究センターのグループ写真

(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/3/29)

立川の国立極地研究所でのセミナー

日本での滞在も半分以上が過ぎ、3月6日に立川にある国立極地研究所(NIPR)でセミナーを行う機会を得ました。つくばからかなり長い旅(電車で2時間以上)の後、研究所に到着し、青木博士に会って研究所を紹介していただきました。NIPRの矢吹 裕伯博士が開催した「北極域データアーカイブシステム(ADS)」についての有益なセミナーを受けた後、午前11時からはNIPRの研究者の方々に、私の研究内容とBDQプロジェクトの最新情報を発表しました。セミナーはすぐれた意見が出た有益な質疑応答で終了しました。

その後、NIPRの研究者たちと一緒に楽しい昼食をとり、青木博士と西村博士の案内で近くにある南極・北極科学館を訪ねました。NIPR訪問の最後には、青木博士と意見交換を行い、共同研究の可能性について話し合いました。

(写真1)NIPRでのセミナーの冒頭で私を紹介する青木博士
(写真2)青木博士と私。南極・北極科学館の入口には有名な日本の第1次南極観測隊のタロとジロ、そして犬のチームの像がある。

(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/3/11)

つくばの気象研究所での会合

2月22日の午後、私たちはJAXAからほど近いつくば市の気象研究所(MRI)に移動し、MRIや他の機関の研究者との会合を行いました。

この会合では将来の共同研究を視野に入れて日本の研究者へ私自身の研究を発表し、これまでに得られたBDQプロジェクトの最近の暫定的な結果を紹介しました。この機会に有益で貴重なアイディアや提案が生まれました。私の発表の後、谷川 朋範博士と青木 輝夫博士からも発言があり、研究テーマのすり合わせについて話し合いました。

会合後は皆でレストランへ移動し、和やかな雰囲気の中で非常に楽しい夕食をとりました。

(写真1)つくば市の気象研究所の玄関にて、私と西村 基志博士、有江 賢志朗博士
(写真2)私の発表後の意見交換

(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/2/26)

千葉大学理学部地球科学科での氷のサンプル分析

最初の数週間にJAXAで実施したデータ準備と予備解析が終わり、BDQプロジェクトに転機が訪れました。今月、私は千葉大学理学部地球科学科に計5日間滞在し、竹内 望教授率いる生物地球化学グループと共同研究を行いました。初日の2月14日のミーティングでは私のこれまでの研究やBDQプロジェクトについて発表し、研究グループとの交流やコラボレーションの可能性について話し合いました。

そしてついに2023年8月のカナック氷河でのフィールド観測で私が採取した氷河氷のサンプルを分析する機会を得ました。これらの分析結果はプロジェクト継続の鍵となるため、BDQプロジェクトにおいてとても重要なステップです。具体的には、細胞の識別を手助けする蛍光顕微鏡を使用し、採取したサンプルに含まれる生物物質(主に藻類)の量を推定することができました。大沼博士と竹内教授のグループによる初期研修の後、私は分析を開始し21日水曜日に分析を終えました。

これらの分析結果は対応するフィールドおよび衛星の波長別反射率観測と比較され、北極の氷河上にいる藻類の存在を遠隔から自動検出するために必要な新しい手法の基礎となります。今回得られた分析結果は心強いものであり、私はプロジェクトを継続し、この研究分野における将来の共同研究に向けて千葉大学の生物地球化学グループと協力する準備ができました。

(写真1)千葉大学理学部地球科学科の研究室にて、竹内教授によるサンプル分析の研修
(写真2)カナック氷河で採取された氷サンプルに含まれる雪氷藻類(Ancylonema nordenskioldiiは緑褐色、Sanguina nivaloidesは赤色)の顕微鏡写真

(受入研究者・事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/2/21)

北海道大学低温科学研究所への出張

日本での滞在2週間目、札幌にある北海道大学を訪問する機会を得ました。

(写真1)北海道大学低温科学研究所の入口
(写真2)大沼博士、杉山教授、今津さんとジンギスカンレストランで夕食会

大沼博士と一緒に2月7日の朝に東京を出発し、お昼に札幌に到着しました。街はすっかり雪で覆われていましたが、寒さと裏腹にとても美しかったです。午後には大学の低温科学研究所にて、グリーンランド北西部の氷河学の専門家であり、カナック地域で多くの現地観測を実施してきた杉山 慎教授のグループと充実した会合を行いました。1日の締めくくりはラム肉を使った地元料理「ジンギスカン」を味わう夕食会でした。とても美味しかったです!

翌日は杉山教授のグループと今後の共同作業やコラボレーションについて話し合い、BDQプロジェクトエリアでの私たちの予備的な調査結果について共有しました。夜は自由時間を利用して街を散策し、雪や氷の彫刻が街のあらゆるところに飾られる地元の雪まつりを見に行きました。

(写真3)杉山教授と彼のグループとの会合で自身の研究について発表をする私
(写真4)さっぽろ雪まつりの雪の彫刻

9日金曜日は、杉山教授や彼のグループ、札幌の町に別れを告げ、東京に戻る時になってしまいましたが、重要な共同研究につながるであろう新しいコラボレーションを始めることを楽しみにしています。
(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/2/9)

いよいよ日本へ出発

私はイタリアのポスドク研究者のジャコモ トラヴェルサです。ArCS II海外若手研究者公募プログラムにより、つくばにあるJAXAで2カ月間、同機関や千葉大学、北海道大学の研究者と共同研究をする素晴らしい機会を得ることができました。

イタリアのミラノからほど近い小さな町、故郷のブルゲーリオを2024年1月28日に出発し、1時間のフライトでローマに到着しました。旅の詳細を計画しながら待つこと3時間、ついにアジア経由の南ルートで約12時間の東京行きフライトに乗りました。

(写真1)手荷物を預けた後、イタリアを出発
(写真2)つくば到着後の最初の一歩は早くも私を待ち受けているものを思い起させた

翌日1月29日に日本に到着し電車に揺られること1時間半、とうとうつくばに到着しました。今はプロジェクトを始めるのが楽しみでなりません。滞在中にまたレポートをお届けします!
(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/1/30)

極域の超⾼層⼤気で⽣じる電離⼤気流出現象の観測的研究

受入研究者:小川 泰信(国立極地研究所)
海外若手研究者(執筆者):Lindis Merete Bjoland

本課題では、北欧のEISCATスバールバル・レーダーによって蓄積された観測データベースの解析や、新規運用を開始するEISCAT_3Dレーダーを組み合わせ用いて得られるデータ解析を行う予定です。これにより、北極圏超高層大気の流出にとって重要なパラメータの一つである両極性電場の特性を理解することを目的としています。

トロムソとロングイヤービンへの出張

2024年7月29日から8月2日まで、トロムソ大学で開催された年2回の国際EISCATシンポジウムに参加する機会を得ました。

トロムソはノルウェー北部にある人口約75000人の自治体で、北極圏内に位置しているため夏は5月18日から7月25日まで白夜となり、太陽が沈むことはありません。一方で、トロムソはオーロラオーバルの真下に位置するため、暗い冬はオーロラ観測には絶好の条件となります。

(写真1)ポスター発表で超高層大気の長期変化に関する研究を発表
(写真2)EISCATシンポジウムでの発表

EISCATシンポジウムには約120人が参加し、EISCATレーダーシステムを利用した極域超高層大気の研究についての興味深い発表が数多く行われました。私はポスター発表と口頭発表の両方を行い、参加者と研究プロジェクトについて話し合う機会を得ました。シンポジウムのもうひとつのハイライトは、最近建設され、間もなく運用が開始される予定の新しいEISCAT_3Dレーダーを見に行ったことです。この新しいレーダー施設は、極域超高層大気を3次元的に、しかも空間的・時間的分解能を向上させて測定できるため、極域超高層大気の研究にわくわくするような可能性をもたらすでしょう。

(写真3)EISCAT_3Dレーダーを見学するためスキボトンへ
(写真4)EISCAT_3Dレーダーを訪れた私、吹澤さん、伊藤さん

トロムソで開催されたEISCATシンポジウムでの魅力的で盛りだくさんな1週間の後、スバールバル大学での小規模なワークショップに参加するため、さらに北のロングイヤービンを訪れました。北緯78度に位置するロングイヤービンは、世界最北の集落のひとつです。もともとは鉱山の町でしたが、現在では北極圏研究の中心地となっており、EISCATスバールバルレーダーやケルヘンリクセン光学観測所など、いくつかの重要な観測機器や施設があります。

私が参加したワークショップのテーマは「Moving Boundaries」で、地球磁場の長期的な変化がオーロラオーバルの境界にどのような影響を与えるかに焦点を当てたものでした。温室効果ガス濃度の増加の影響に加え、磁場の長期的な変化も極域超高層大気に影響を与える可能性があります。私は現在、気候変動が極域超高層大気にどのような影響を与えるかを研究しているので、このテーマについて学ぶのは特に興味深かったです。

(写真5)ロングイヤービンの眺め

トロムソとロングイヤービンでの刺激的な2週間を終え、私は8月11日に東京の国立極地研究所に戻りました。この出張で得た新たな視点を持って研究を続けます。
(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/8/22)

JpGU 2024への参加

先週私は幕張メッセで2024年5月26日から31日に開催された日本地球惑星科学連合2024年大会(JpGU 2024)に参加する機会を得ました。JpGUはいくつものセッションが平行して開催され、国内外から何千人もの参加者が集うという私がこれまでに参加した会議の中でも最大規模のものです。

会期中、私は宇宙天気や宇宙気候、大気-電離圏系の結合過程、太陽-地球系の結合過程の研究など、多くの興味深いセッションに出席しました!多くの刺激的な講演を聴き、さまざまなポスター発表で洞察に満ちた議論をする機会に恵まれました。

5月29日にはArCS IIプロジェクトでの両極性電場に関する研究の予備的な結果を発表しました。この結果を公の場で発表するのは初めてだったので、少し緊張しましたが、発表はスムーズにできたと思います。全体として、JpGUに参加したことは私にとって素晴らしい経験であり、会議で出会った人たちとの交流から多くのことを学びました。
(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(写真1)全員が発表を終えた後、展示会場での集合写真(写真左から吹澤さん、エマヤさん、私、伊藤さん)

(2024/6/4)

レーダーによる極域大気の研究

国立極地研究所での最初の1カ月間が終わりを迎えました。今回のレポートでは、日本での滞在中に取り組んでいることについてもう少し紹介したいと思います。

極域では電離大気(イオン)が上層大気から宇宙空間に流れ出します。このプロセスは極風と呼ばれ、主に「両極性電場」によって上層大気からイオンが上昇し、磁気圏に流出すると考えられています。この流出したイオンは、短時間のスケールでは宇宙天気現象に影響を与え、長期間のスケールでは大気の進化に影響を与えると考えられます。その重要性にもかかわらず、両極性電場の基本的な特徴は十分に理解されていません。そこで私のプロジェクトでは、北極圏の北緯78度に位置するEISCATスバールバル・レーダーから得られた上層大気の物理量データを用いて、様々な条件下における両極性電場やイオン上昇流の詳細解析を実施します。それにより、両極電場や極風に影響を与える要因を理解することに繋がります。

また、温室効果ガスの増加に伴い、地表付近の大気が温暖化している一方で、高層大気は寒冷化しています。この寒冷化は高層大気の収縮を引き起こし、高層大気中で生じている各種のプロセスに影響を与える可能性があります。そこで、極風の研究と並行して、高層大気の冷却が極域大気における各種の物理量やプロセスにどのような影響を与えているかについても調査しています。この研究でもEISCATレーダーの長期観測データを利用しています。

これまでのところ、私は日本での滞在を非常に楽しんでいます。今後私のプロジェクトとその結果について、もっと皆さんと共有できることを楽しみにしています。
(受入研究者・事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(写真1)私のオフィスからの素晴らしい富士山の眺め

(2024/2/16)

日本での1年に向けて

私の名前はリンディス ビョランドです。ArCS IIの海外若手研究者公募プログラムで、国立極地研究所の研究者と共同研究を行うために来日する機会を得ました。

(写真1)ベルゲン空港でスーツケースを預ける準備完了
(写真2)雪のヘルシンキ空港に到着。マイナス18℃。

2つのスーツケースに荷物を詰め、2024年1月4日に故郷のノルウェー・ベルゲンを出発しました。フィンランド・ヘルシンキへの2時間のフライトの後、数時間の乗り継ぎ時間を経て、ヘルシンキから東京までは直行便で約13.5時間のフライトでした。フィンランドから日本へのフライトでは北極点を通過しました!

(写真3)北極点上空を通過したことを証明する証明書を手に入れた

ベルゲンを出発してから約24時間後、5日の夕方にようやく国立極地研究所に到着しました。これからプロジェクトに取り組むことを楽しみにしています。また日本での滞在中の活動を報告します!
(事務局による日本語訳 ※原文はこちら

(2024/1/9)

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グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測2024 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024greenland-cryo/ Tue, 20 Aug 2024 00:33:46 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=12287 雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automated Weather Station: AWS)を設 […]

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雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automated Weather Station: AWS)を設置してデータを取得しています。昨年までに引き続き、研究チームのメンバーが現地を訪れ、AWSのメンテナンス作業、氷河・氷帽流域での気象・雪氷・生物観測を行います。活動の様子を写真と共にお伝えします。

目次
カナックでの氷帽観測に終わりが近づいています(2024/8/18)New!
カナックの村人に支えられている氷帽観測(2024/8/12)
カナック氷帽登頂!(2024/8/3)
微生物活動のはじまり(2024/7/26)
後続隊がカナック村の観測拠点に到着しました(2024/7/20)
SIGMA-Bサイトの表面融解(2024/7/16)
氷帽には、眼に見える変化と眼に見えない変化がありました(2024/7/15)
海氷は解け、船の到着により物資の搬入が始まりました(2024/7/8)
グリーンランド北西部にも夏が近づいています(2024/7/1)
氷帽の積雪深は低くなる一方で、村の士気は高まっています(2024/6/24)
カナックの海は氷づけ・氷河には雪(2024/6/16)
グリーンランド北西部カナック氷帽・氷河の観測が始まりました(2024/6/12)

カナックでの氷帽観測に終わりが近づいています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年8月17日には、観測隊のうち2名(鈴木・小林)がカナックを出て、帰路に就きました。

(写真1)カナック村から見える島に雪が被った

数日前、カナック村では雨が強く降っていましたが、カナック周辺の標高の高い場所では雪が積もっていたようで、遠くの島に白い雪が覆いかぶさっているさまが観察できました(写真1)。雪が解け始まるころに始まった今年の観測は、雪が降り始めるとともに終息に向かっています。

思い返せば、今年の観測前半(6月初旬~7月初旬)では、先遣隊2名(西村・鈴木)が6月初旬にカナック入りし、拠点の立ち上げをするところから始まりました。先遣隊は、積雪融解前から調査を始め、積雪断面観測のデータを蓄積し、新たな地点にAWSを設置することができました。また、7月の中旬に後続隊4名(島田・有江・小野・小林)とカナックで合流し、滑らかに融解期の観測へとバトンをつなぐことができました。

観測後半(7月中旬~継続中)では、6人態勢となり、涵養域観測、アイスコア掘削、微生物観測、光学観測等、幅広く観測を行ってきました。これらのなかでも、特に涵養域観測はクレバス滑落の危険も伴う作業で、ザイルパートナーおよび拠点キーパー合計6名の1人も欠けては達成できないものでした。また、アイスコア掘削や微生物観測も1人では行うことができず、6人チームで動くことが活かされました。

(写真2)観測に臨む前の全員集合写真

小さな一戸建ての拠点では、たったの32日間でしたが6名での共同生活を全員が経験しました。集団生活では、それぞれが思い思いに過ごすことがかなわないという制約があります。同時に、ルールを誓約することが肝要であることもまた、痛感させられました。基盤となる陸地の上に雪が積もって氷帽が形成されるように、基盤となる生活があったうえで観測に取り組むことが可能となるのですから、生活(生きるということ)を第一に考えて、仕事に取り組んでいくことの重要性を学ぶことができました。

先に帰国するメンバーは、残り4名のメンバー(西村・島田・有江・小野)に拠点を託しました。残留メンバーは、あと数日ほどカナックに滞在し、観測道具の整理および撤収作業を行います。

ArCS IIプロジェクトは今年度で終了しますが、カナックにおける雪氷観測はこれからも重要な仕事であり、新たにプロジェクトを立ち上げて継続していく必要性が高いと筆者は思います。今後ともに、注目していただければ幸甚です。

(2024/8/18)

カナックの村人に支えられている氷帽観測

執筆者:小林 綺乃(千葉大学)

(写真1)光学観測のようす

8月に入りカナック氷帽の融解がさらに進み、黒い氷表面のエリアが広がっています。観測チームは、このような氷表面の光学観測や(写真1)、氷帽の内部構造を明らかにするためにアイスコアの掘削を行っています(写真2)。アイスコアの掘削は、7月下旬から4回にわたって行われました。掘削されたアイスコアは日本へ持ち帰り、分析を進める予定です。

(写真2)(a)アイスコア掘削のようす (b)掘削されたアイスコア
(写真3)カナック村の伝統的な食事

カナック村では村人との交流も楽しんでいます。観測チームがいつもお世話になっている方の家にお邪魔し、マッタ(くじらの皮)やアザラシ、アッパリアス(海鳥)など、村の伝統的な食事をいただきました(写真3)。私たちを温かく受け入れてくださる村人に感謝しながら、調査を行っています。

道には所々紅葉が見られるようになってきました。カナックの短い夏も終わり、秋が訪れようとしています。

(2024/8/12)

カナック氷帽登頂!

執筆者:有江 賢志朗(JAXA)

ArCS II雪氷課題サブ課題1グループでは、衛星搭載L-Band合成開口レーダ(L-Band SAR)を用いた氷河変化の観測を行っています。L-Band SARは透過性が高い長波長のマイクロ波(波長:約24 cm)を照射・受信して観測を行うため、氷帽内部の様子を捉えることができます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は現在、「だいち2号(ALOS-2)」と2024年7月1日にH3ロケット3号機によって打ち上げられた「だいち4号(ALOS-4)」の2機のL-Band SARを運用しています。

本グループでは、L-Band SARを用いた氷河観測の検証データ(氷帽の内部構造)として、氷帽全域で地中レーダ探査を実施する予定です。しかし、気温の低い氷帽の頂上付近には、前年の積雪に覆われて視認できないクレバスが存在するため、探査前に安全なルートを確立する必要があります。

(写真1)一列に並び氷帽上を歩くメンバー
(写真2)ゾンデ棒でクレバスの有無を確認するメンバー
(写真3)確認されたクレバス
(写真4)氷帽頂上での集合写真

そこで、2024年7月27日に涵養域でのルート工作を行いました。メンバーはロープで互いの身体を固定し、一列に並んで歩くことでクレバスへの滑落を防ぎます(写真1)。先頭のメンバーはゾンデ棒でクレバスの有無を確認しながら歩き(写真2)、後ろのメンバーは安全を確保しつつ確立されたルートに目印をつけていきます(写真3)。拠点出発から約6時間後、メンバーはカナック氷帽の頂上に到着しました。(写真4)。また、本グループは同日、涵養域での積雪のサンプリング(写真5)、粒径観測(写真6)、標高約950 mに設置してあるAWSのメンテナンスを行いました。本グループは、引き続き気を引き締めて現地観測に臨みます。

(写真5)雪面サンプリングの様子
(写真6)積雪の粒径観測の様子

(2024/8/3)

微生物活動のはじまり

執筆者:小林 綺乃(千葉大学)

2024年7月23日と24日、カナック氷帽に向かいました。一部の雪面や氷の上では、微生物の繁殖により引き起こされる赤雪や暗色の氷などが見られるようになってきました(写真1,2)。写真1(b)の赤い小さな球形のもの、写真2(b)の暗色の糸状のものが、それぞれ雪氷藻類と呼ばれる微生物です。

(写真1)(a)雪面で見られる赤雪と(b)雪氷藻類
(写真2)(a)暗色の氷と(b)雪氷藻類

まだまだ氷帽上の広範囲が白い雪と氷に覆われています。今後も表面の様子を観察していきます。

氷帽からの長い帰り道、遠くに見える山々とカナックの村、雲海を眺めながら、拠点へと戻りました(写真3)。

(写真3)カナック村と雲海

(2024/7/26)

後続隊がカナック村の観測拠点に到着しました

執筆者:有江 賢志朗 (JAXA)

2024年7月17日、ArCS II雪氷課題サブ課題1グループの後続隊(島田、小野、小林、有江)がカナック村に到着しました。

後続隊は、先遣隊(西村・鈴木)と観測拠点で合流し、再会を喜びました(写真1)。

(写真1)夕食の様子

翌日(7月18日)、観測隊はカナック氷帽に向かいました。先遣隊は断面観測、自動気象観測装置のメンテナンス、後続隊はそれぞれの観測の下見と予備調査を行いました(写真2,3)。

(写真2)断面観測の様子
(写真3)雪面サンプリングの様子

観測は8月末までの長期戦となりますが、ワンチームで取り組んでいきます。

(2024/7/20)

SIGMA-Bサイトの表面融解

執筆者:西村 基志(信州大学)

例年に比べ積雪が少ないせいか、今年のカナック氷帽では積雪層の下にある氷面の露出が早かったです。

(写真1)2024年6月9日のSIGMA-Bサイト
(写真2)2024年7月9日のSIGMA-Bサイト

写真1は2024年6月9日のSIGMA-Bサイトの写真です。一昨年、去年はこの時期には白いロガーBOXの直下にあった積雪面が今年は低い位置にあることがわかります。写真2は1カ月後(7月9日)のSIGMA-Bサイトの写真です。表面はさらに低下したことがこの写真からもわかります。この時の積雪深は5 cmでした。

(図1)2024年6月1日から7月12日のSIGMA-Bサイトにおける日平均気温(黄線)と表面高(緑線)の変動(執筆者作成図)

図1はSIGMA-Bサイトで観測された2024年6月1日から7月12日までの日平均気温と日平均表面高の推移です。6月の前半の気温は氷点下でしたが、6月後半からは安定して正になっていました。気温の上昇と共に表面高が低下していることも観測データからわかります。6月の表面高の低下量は36.1 cm、で、解析期間合計で54.3 cmでした。

6月のこの表面高低下量は、観測開始の2012年以降の12年間で3番目に大きく、比較的珍しい年であったことがわかりました。今後も調査は続きますので、引き続き氷河の状態を観測していきたいと思います。

(2024/7/16)

氷帽には、眼に見える変化と眼に見えない変化がありました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年7月9日、SIGMA-Bサイトへ観測に向かいました。

これまでの報告で、カナック氷帽上の積雪がだんだんとなくなっていく様子をお伝えしてきましたが、観測を行ってきた領域(氷帽辺縁からSIGMA-Bまでの範囲)ではほとんど積雪がなくなりました。氷帽の辺縁部では、上流で破砕された氷が水流によって下流へ流され、堆積し、掌状に広がっている様子を観察できました(写真1)。

(写真1)7月9日の氷帽上で見られた手のような形をした水流の跡

氷帽辺縁は、写真2のようなザクザクで柱状の氷(風化氷)がよく見られ、積雪で覆われていた状態とは様相がかなり変わりました。

(写真2)7月9日の氷帽上で見られた風化氷

鉱物粒子と微生物によって構成されるクリオコナイトが、氷面の鉛直方向下側に存在する様子も観察できました。氷帽には、写真3のようなクリオコナイトホールがいくつか分布していました。

(写真3)7月9日の氷帽上で見られたクリオコナイトホール

JAXA地球環境モニター(https://www.eorc.jaxa.jp/JASMES/index_map_j.html )で、SGLIセンサが観測した雪氷面温度を可視化してみました(図1)。カナック氷帽上の雪氷面温度は、6月上旬に比べて、7月上旬の方が高いことがわかります。

(図1)グリーンランド北西部における雪氷面温度(8日間平均)、a: 6月上旬、 b: 7月上旬

(2024/7/15)

海氷は解け、船の到着により物資の搬入が始まりました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

カナック村周辺の海氷の融解が進んでいます。

2024年6月5日、私たちがカナックに到着した際には、周辺の海は氷で覆われていました(写真1)。1カ月ほどたった7月5日には、氷が解けて海水が見える範囲が広がっていました(写真2)。

(写真1)6月5日のカナック周辺の海氷の様子
(写真2)7月5日のカナック周辺の海氷の様子

AMSR地球環境ビューア(https://www.eorc.jaxa.jp/AMSR/viewer/ )でグリーンランド周辺の海氷密接度を見てみても、ここ1カ月で密接度が低下していることがわかります(図1, 2)。AMSR地球環境ビューアでは、海氷密接度のほかにも、GCOM-W衛星に搭載されているAMSRセンサによって観測された、海、陸、大気における水に関するさまざまな物理量を可視化することができます。

(図1)6月5日のカナック周辺の海氷密接度
(図2)7月7日のカナック周辺の海氷密接度

海氷が開けてきたということもあり、7月7日にはRoyal Arctic Line(輸送船)がカナックに到着し、物資の荷運びが始まりました(写真3)。枯渇しかけていた食料品等がスーパーに運ばれ、村民の暮らしも豊かになります。私たちも、新しい食品が店頭に並べられることを楽しみにして待っています。

(写真3)カナックに到着したRoyal Arctic Line

本日7月8日は快晴です。村の人に会うと、全く知らない人同士でも「Good morning.」と声を掛け合います。ここまでは、日本でもよくある会話かもしれませんが、「It is beautiful day.」と言葉を交わすことは、日本の都会ではあまりないことかもしれません。カナックでは、気持ちよく1日が始まります。

(2024/7/8)

グリーンランド北西部にも夏が近づいています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月24日、カナック氷河上流部へ観測に行きました。前回観測時とは様子が打って変わり、氷河表面に水流が形成されている様子を観察できました(写真1)。この日は空気が澄んでいて、一面の青空が広がり、観測びよりの一日でした。カナック氷河上流に新たなAWSを設置することができたので、気象状況がしっかりと測定されていることを期待しています。

(写真1)カナック氷河上流に形成されている水流

6月30日には、氷帽上部に位置するSIGMA-Bサイトへ観測に行きました。前日までに雪が降ったようで、表面には1 cm程度の新雪が積もっていたものの、足元には黒い汚れ物質が広がってきていました(写真2, 3)。

(写真2)カナック氷帽上で黒い汚れ物質が広がっている様子
(写真3)カナック氷帽上に現れた黒い泥状の汚れ

SIGMA-Bサイトでは、積雪断面観測を実施しました。積雪は氷が出るまでの深さで17 cmあり、前回よりも30 cm以上融雪が起きていることがわかりました(写真4)。

(写真4)6月30日のSIGMA-Bサイトにおける積雪断面

カナック村では、Arctic Poppyというかわいいお花が咲きました(写真5)。氷帽ではまだ降雪イベントが起きていますが、着々と夏が近づいています。

(写真5)カナック村に咲いたArctic Poppy

(2024/7/1)

氷帽の積雪深は低くなる一方で、村の士気は高まっています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

(写真1)SIGMA-Bサイトの空撮写真

2024年6月19日、SIGMA-Bサイトへ観測に行きました(写真1)。積雪深を調べたところ、54 cmほどであることがわかりました(写真2)。カナックに到着して最初にSIGMA-Bサイトへ観測に向かったのが6月9日になります。この時の積雪深は70 cmほどであり、しゃがんだ人が隠れる高さでした(写真3)。6月9日以降、5 cmの降雪があったものの、わずか10日間で融雪はかなり進んでいます。我々がカナックに到着したタイミングがまさに融雪が加速する直前であったと思われます。貴重なタイミングで観測を始めることができました。

(写真2)6月19日のSIGMA-Bサイトにおける積雪深
(写真3)6月9日のSIGMA-Bサイトにおける積雪深

夏至にあたる6月21日は、グリーンランドの「National Day」で、カナック村の体育館ではお祭りが催されていました(写真4)。お祭りではマッタ(くじらの皮)の煮込み(写真5)やパン、コーヒーなどの飲み物が無料で配られていました。夜は村民によるバンドの生演奏が楽しめました。老若男女とわず、この日を祝い、楽しむ様子を感じることができました。

(写真4)村の体育館で開催されたNational Dayのお祭り
(写真5)マッタ(くじらの皮)の煮込み

(2024/6/24)

カナックの海は氷づけ・氷河には雪

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月13日、SIGMA-Bサイトへ観測に行きました。6月9日に仕掛けたカメラのデータを回収し確認したところ、SIGMA-B上空の様子がよく撮れていました(写真1)。積雪断面を観測したところ、6月11日~12日に降雪があったため、5 cmほどの新雪層が観察できました。

(写真1)SIGMA-Bサイト上空の全天写真(緑矢印: AWS、橙矢印: 太陽)

6月15日、氷河とりつきのサイトへ観測に行きました。ドローンで上空からカナック村方面の海と氷河の撮影に成功しました(写真2)。まだ海の表面は氷づけになっていることがわかります。氷河表面は、雪で覆われています。

(写真2)ドローンで撮影したカナック村方面の海と氷河

氷帽へ向かう新雪に、2人だけのトレースが刻まれました(写真3)。

(写真3)氷帽へ向かう2人のトレース

今後の雪氷の融解状況に注目していきたいと思います。

(2024/6/16)

グリーンランド北西部カナック氷帽・氷河の観測が始まりました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月5日、ArCS II雪氷課題サブ課題1グループの先遣隊(西村・鈴木)が、カナック村にある観測拠点に到着しました。

沿岸から望むカナック村
初調査で氷河をバックに記念撮影(左:鈴木 拓海、右:西村 基志)

6月7日、カナック氷河のとりつきまで偵察を行い、氷河の状態を確認しました。積雪が氷河を覆っていることがわかりました。

6月9日、我々が維持・管理している自動気象観測装置のメンテナンスを行いに、氷河上流のSIGMA-Bサイトへ向かいました。気象装置からデータを回収し、積雪断面の観測等を行いました。積雪は、氷が出てくるまでの深さでおおよそ70 cmでした。

SIGMA-Bサイトに設置している自動気象観測装置(AWS)
SIGMA-Bサイトにおける積雪断面の様子

6月10日、再び氷河とりつき付近まで向かい、ドローンで上空からの積雪状況を確認、積雪の採取等を行いました。

カナック氷河の積雪表面の様子

今後も、8月末まで継続的に観測を行います。

(2024/6/12)

関連リンク

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]]> 海洋政策研究所の情報誌に北極と海洋に関する解説文が掲載されました https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024-06-10-1/ Tue, 11 Jun 2024 00:50:02 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=12258 海洋政策研究所が発行するOcean Newsletterにて、ArCS IIの研究者3名が北極と海洋の関わりを紹介しています。「グリーンランドにおける気候変動が自然環境と社会に与える影響」、「ロシアによるウクライナ侵攻と […]

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海洋政策研究所が発行するOcean Newsletterにて、ArCS IIの研究者3名が北極と海洋の関わりを紹介しています。「グリーンランドにおける気候変動が自然環境と社会に与える影響」、「ロシアによるウクライナ侵攻と北極国際協力」、「国際海洋法と先住民をめぐる現状と課題」、それぞれのトピックについて、ArCS IIでの取り組みも踏まえた解説文が掲載されたものです。Ocean Newsletterは、北極域と密接な関係にある海洋について、総合的な議論の場を提供する情報誌です。

氷の島グリーンランドで何が起きているのか
〜気候変動が北極の自然環境と社会に与える影響〜

杉山 慎(北海道大学・沿岸環境課題

ロシアによるウクライナ侵攻と北極国際協力
稲垣 治(神戸大学・国際法制度課題

海を脱植民地化する?国際海洋法をめぐる先住民族の闘い
小坂田 裕子(中央大学・国際法制度課題

掲載誌:Ocean Newsletter 第572号
発行日:2024年6月5日

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グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2023 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2023greenland-coast/ Mon, 06 Nov 2023 07:52:18 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=10674 沿岸環境課題では、昨年に引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2023年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝え […]

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沿岸環境課題では、昨年に引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2023年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。

グリーンランド北西部ケケッタ沖でイッカク漁に同行

執筆者:大槻 真友子(北海道大学)
小川 萌日香 (北海道大学)

2023年8月17日から21日にかけてベテラン猟師を含む3名が乗るイッカク(Monodon monoceros)漁に同行することができました。グリーンランド北西部ケケッタ沖は夏季にイッカクが集まる海域として知られており、カヤックを使った伝統的な狩猟法を実践している数少ない地域の1つです。イヌイットや現地住民にとってイッカクの牙やマッタ(皮と脂肪を薄く切ったもの)は収入源となります。イッカクは、その周辺海域の生態系において、上位の高次捕食者のため、イッカクの餌生物や汚染濃度を調べることで、生態系への影響、イッカク、さらにはヒトへの影響がわかります。

(写真1)白夜の海とカヤックに乗るハンター

そこで、私たちはイッカク漁に同行し、それらの分析のためのサンプル採取を行いました。8月17日の夜11時にカナックを出港しケケッタに向かいました。夜中にケケッタに到着し、イッカクが現れるのを待ちます。午前2時ごろにイッカクを発見し、カヤックで近寄りますが、捕獲はできませんでした(写真1)。その後、2人のハンターたちが4日間で計3頭のイッカクを捕獲しました(写真2)。

(写真2)イッカクとカヤック

干潮のタイミングでイッカクを解体しました(写真3)。解体の前に体長測定をしました。フルマカモメ(Fulmarus glacialis)がイッカクの解体前からたくさん集まって、解体が始まると海に捨てられたイッカクの脂肪を食べ始めます(写真4)。私たちは解体のタイミングに合わせて、胃や脂肪、筋肉、肝臓、眼球を採取しました。胃内容物から餌生物の特定に、筋肉は安定同位体比分析や汚染物質の分析、肝臓も汚染物質の分析に、眼球は年齢査定に使用します。これからどのような結果が出てくるのか、別の機会にご報告ができればと考えています。

(写真3)イッカク
(写真4)イッカクの脂肪を食べるフルマカモメ

(2023/10/31)

グリーンランド北西部カナック村周辺での廃棄物・住環境調査

執筆者:東條 安匡(北海道大学)
森 太郎(北海道大学)
深澤 達矢(北海道大学)

2023年9月9日にカナックに到着し、翌日以降9月13日まで、カナック村の廃棄物と住環境に関する現地調査・試料採取を行いました。

昨年も同地で廃棄物に関する調査を行いましたが、その結果を受けて今回はより詳しいサンプリングを計画しました。村での聞き取りによれば、2022年12月からは廃棄物の野焼きを中止し、週に1回ダンプサイト近くの小屋での焼却を行っているとのことでした。焼却の頻度が減っているためか、廃棄物の量は増えているような印象を受けました。

また、村の廃棄物に関する新たな試みとして、有害物(バッテリーや廃油等)は小屋の周りに集積して回収を実施しているとのことです。資源物や機械製品を集積している様子が確認され、少しずつ改善が進められているようです。

(写真1)カナック村ダンプサイトの廃棄物投棄状況
(写真2)村外へ輸送するために集積されている廃機械製品やバッテリー

ダンプサイトから海の方向の干潟の土壌、底泥をサンプリングしました。野焼き後の残渣、し尿捨て場、直接埋立場、有害・資源物置き場それぞれの下流方向に7つのサンプリングラインを設定し、合計35地点から採取を行いました。場所によっては、表土を剥ぐとすぐに黒色の底泥が現れ、硫化水素臭がする等、ダンプサイトの影響が海側にも及んでいる可能性が伺われました。

(写真3)ダンプサイト下流側の海岸での試料採取

ダンプサイトでは空気環境の測定を行いました。深夜以降に揮発性有機化合物(VOC)の濃度が上昇していました。おそらく、風速が低くなる深夜以降に廃棄物から発生するガスがダンプサイト周辺にとどまるようになり、高い値が計測されたと考えられます。

カナック村の住宅で、室内環境の調査も行いました。昨年の訪問時に設置したセンサーの回収を行い、短期の滞在者が宿泊するゲストハウスと一般の住民宅で、1年間の室内環境の状況が把握できました。その結果、ゲストハウスの室内は常時暖房されており、外気が換気で室内に導入されることによって湿度が非常に低い状態になっていることがわかりました。また、外気が導入されるボイラー室の室内環境を計測したところ、粒子状物質(PM)、VOCともに夏季になると値が高くなる傾向がみられ、住民宅でも同様の傾向でした。

(写真4)温度、湿度、二酸化炭素濃度、VOCの測定状況(住民宅)

またエネルギーコストに関して、住民に聞き取りを行いました。現在、世界中でエネルギーコストが上昇している最中ですが、グリーンランドでは長期的な電気契約が行われており、コストは安定している状況です。ただし、2023年末に契約が終了し、新しい契約が始まるため、その際にはエネルギーコストの大幅な上昇が予定されているとのことでした。

(2023/9/27)

グリーンランド北西部シオラパルク村周辺の地すべり調査

執筆者:渡邊 達也(北見工業大学)

2023年7月27日から8月3日にかけて、シオラパルク集落周辺の地すべり調査を実施しました。地すべりの多くは、崩壊の深さが2~3m程度と浅いものの、大量の水を含んだ土砂が土石流となって数百m先の海岸線まで流れ下ったという特徴があります(写真1)。これらの地すべりは、2016年および2017年夏の大雨により発生したものです。しかし、大雨と言っても、日本なら地すべりはほとんど起こらない程度の雨量です。それにも関わらずシオラパルク集落周辺で地すべりが多発した原因の一つとして、地質構造や永久凍土が地中の水の流れに影響しているためと考えています。

(写真1)海岸線まで達した地すべり

今年の調査では、地すべりの内部構造を知ることを目的に電気探査を実施しました(写真2)。電気探査は、地表に設置した多数の電極から地盤に電流を流し、地下の比抵抗(電気の流れにくさ)の分布を求めるものです。電気探査の断面図には崩壊発生源付近で比抵抗が低くなる(湿潤で電気が流れやすい)特徴がみられました。

(写真2)地すべり斜面での電気探査の様子

また、今回の調査では、サーモグラフィによる地すべり斜面の湧水箇所の検出も試みました(写真3)。今年のシオラパルクは春先から雨が少なく、斜面は乾燥していました。しかし、調査終盤に久々の雨が降ると、地すべり斜面の崩壊源付近から湧水が生じている様子をサーモグラフィで捉えることができました。

(写真3)熱カメラによる湧水(低温領域)の検出

電気探査とサーモグラフィで得られた結果は、地すべりの崩壊源付近に水が集まりやすい地盤構造が存在することを示しています。寒冷地域では地すべり発生頻度が低いため、そのような構造が不安定岩屑に覆われて隠れています。気候変動により雨量が増加すると、再び土石流を伴う地すべりを発生させる危険性があることから、今後の斜面災害リスクを住民に伝えていくことが重要です。

(2023/9/26)

グリーンランド北西部カナック村で開催したワークショップの報告

執筆者:Evgeniy Podolskiy(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

私たちはカナック村での研究活動の一環として、毎年村人を招いたワークショップを開催しています。研究プロジェクトやその成果について説明し、今後の研究方針や課題について現地の人々と共に考える機会です。北極域における研究活動ではこのような取り組みの重要性が高まっており、現地コミュニティーとの協働が求められます。今年もお寿司や日本のお菓子を準備して、地元の小学校を会場としてワークショップを実施しました(写真1)。

(写真1)お寿司や日本のお菓子を食べながら現地住人とArCS II研究者が交流

今年のワークショップは8月3日に開催されました。地元の研究協力者や猟師の他、家族連れや子供たちなど、住人約40人の参加がありました。ArCS IIからは5人の研究者がそれぞれの研究を紹介し、村人からの熱心な質問に答えました(写真2)。このワークショップは研究成果を住人に伝えるだけでなく、彼らと研究者が意見交換することを目的としています。休憩時間には漁業に関する聞き取り調査も行い、気候変動と環境変化が社会に与えるインパクトについて現地の声を集めました。当日はカナックに滞在中のテレビ局による取材もあり、会場の様子は日本のテレビ番組でも紹介されました。

(写真2)ArCS II研究者による研究紹介

ワークショップは現地協力者Toku Oshima氏の挨拶から始まり、次に杉山教授(北海道大学低温科学研究所)がArCS IIプロジェクトと沿岸環境課題についてその意義を説明し、村の廃棄物に関する最新の研究データを紹介しました。廃棄物の健康影響は参加者にとって重要なテーマであり、汚染物質の拡散を防ぐための手立てについて熱心な議論が行われました。次に音響調査を実施するPodolskiy准教授(北海道大学北極域研究センター)が、水音による河川流量観測や、水中音響によるイッカクの生態調査について紹介しました。また筆者である今津(北海道大学修士課程)からは、カナック氷帽の融解および流出水量の観測結果について発表しました。さらに小川氏(北海道大学博士課程)がアザラシの食餌と生物サンプリングについて話し、その内容には地元の猟師が強い興味を示していました。この研究は食物連鎖による汚染濃縮を理解することを目的としています。そして最後に日下氏(北海道大学低温科学研究所)が、1970年代にカナック周辺で撮影された写真の上映会を行いました。写真の中に自分の両親や自分自身を見つけた参加者もいました。

(写真3)現地住人との意見交換

英語とグリーンランド語の同時通訳によって、研究者と住人との交流を円滑に進めることができました(写真3)。また会場にはたくさんの子供たちの姿があり、終始リラックスした楽しい雰囲気でプログラムが進められました(写真4)。このような催しを近隣の小村でも実施し、研究成果の現地への還元と、コミュニティーに寄り添った研究活動を目指します。

(写真4)大きなホッキョクイワナに集まる子供たちとArCS II研究者

(2023/9/14)

グリーンランド北西部カナック氷河における氷河変動と流出水量の観測

執筆者:峰重 乃々佳(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

2023年7月8日から8月12日にかけて、カナック氷河とその流出河川での観測を実施しました。

(写真1)カナック氷河流出河川での流量観測
(写真2)観測期間中に洪水により決壊したカナックの道路

カナック氷河の流出河川では2015年と2016年に洪水が発生し、人々の生活に大きな影響が出ました。そこで、2017年以降、流出水量の測定を目的とした観測を続けています。流出水量の測定には、水位と流量の関係を調べる必要があります。そのため、圧力センサーを用いて連続的に水位を測定しつつ、観測期間中に54回の流量測定を実施しました(写真1)。また音響とインフラサウンドの記録装置を導入し、新しい手法によって流量の連続測定を目指しています。今夏も7月30日に洪水が生じて空港と村を結ぶ道路が決壊し(写真2)、8月にはさらに大規模な洪水と道路破壊が起きました。観測の継続によって、このような災害の予測や、被害の低減に役立つ成果を目指しています。

(写真3)氷河に埋設したポールを測量して年間の流動速度を測定
(写真4)ドローンを使った氷河観測の様子

一方氷河上では、2012年から10年以上にわたって、質量収支と流動速度のモニタリングを継続しています(写真3)。また昨年からドローン測量を開始して、高解像度の画像や数値標高モデルを用いて氷河変動を解析しています(写真4)。カナック氷河は氷の温度が0℃より低いため、内部に浸透できない融解水が氷河表面に水路を形成します。それら水路の幅や蛇行度について解析することも、ドローン測量の目的のひとつです(写真5)。今年は観測中に、氷河末端部から上流域までの範囲で計6回の撮影を行いました。7月は晴天が続いたため雪・氷の融解が激しく、水路の変化や雪氷生物による氷の暗色化が顕著でした。これらの変化を高い時間分解能で解析することで、融解が氷河変動に与える影響を明らかにします。

(写真5)氷河上に発達した水路

(2023/9/6)

関連リンク

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