南極隕石などの研究で得られる木星の形成プロセスに関する重要なヒント

2023年5月18日
国立極地研究所
東京大学総合研究博物館

本記事はオープン大学(イギリス)のコラム記事と、今回新たに発表された論文をもとに作成されたものです。

オープン大学(イギリス)、国立極地研究所、東京大学、ベルギー自由大学のグループが行った研究により、太陽系においてとても大きなイベントである木星の形成と移動に関する新たな知見が得られNature Astronomy誌に発表されました。

研究グループは、日本の南極観測隊(JARE29)が収集したアングライト隕石Asuka 881371と、日本とベルギーの合同南極観測隊(JARE54とBELARE-SAMBA2012-23)が収集したアングライト隕石Asuka 12209(注1注2)(図1)を、イギリスのオープン大学の酸素同位体分析設備で分析しました。その結果、どちらのアングライト隕石にも、異なる2つの天体起源を示す酸素同位体が存在していることが示されました。アングライトは太陽系最古の火山岩として知られており、1つの火山岩隕石試料から異なる天体起源の酸素同位体が発見されるのは初めてのことです。

図1. ナンセン氷原の裸氷上のアングライト隕石 Asuka 12209.

論文の主著者であり、オープン大学博士課程の学生であるBen Rider-Stokesは、このことが惑星科学にとって重要である理由を次のように説明しています:
「本研究では、1つの隕石試料が異なる2つの天体の衝突によってできたこと示唆するデータを取得しました。その後の試料の同位体比年代測定の結果、この隕石試料の形成時期が、木星の形成や移動の推定年代と重なることが明らかになり、衝突イベントは木星の移動によって引き起こされたことが示唆されました。したがって、本研究は、木星の形成と移動に関する同位体的証拠を初めて示すものとなります。」

現在、この研究グループは、隕石試料の水素含有量を調査し、衝突イベントが太陽系への水の供給という点で、どのような役割を果たしていたかを評価しています。

Ben Rider-Stokesは最後にこう付け加えました:
「私がこの研究でとても面白いと思うことは、太陽系におけるとても大きなイベントに関する重要な知見が、ごく少量の物質(1グラム未満!)で得られるということです。それは、MMX(JAXA、ESA、NASAによる今後の共同ミッション)のような宇宙からのサンプルリターンミッションで、たとえ回収できた物質が微量だったとしても、それがいかに重要かを示しています。」

注1:南極隕石について

注2:第54次南極地域観測隊(JARE54)による隕石探査について

発表論文

掲載誌:Nature Astronomy
タイトル:Impact mixing among rocky planetarium’s in the early Solar System from angrite oxygen isotopes
著者:B. G. Rider-Stokes, R. C. Greenwood, M. Anand, L. F. White, I. Franchi, V. Debaille, S. Goderis, L. Pittarello, A. Yamaguchi, T. Mikouchi, P. Claeys
DOI:https://doi.org/10.1038/s41550-023-01968-0
公表日:日本時間2023年5月15日午前0時(イギリス時間)(オンライン公開)

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