活動報告

宇田川 順子(うだがわ よりこ)

1月24日(水)と26日(金)の5時間目(日本時間13:30、昭和基地時間7:30から50分間)に大阪府立吹田支援学校中学部を対象に南極授業を実施しました。1回目のテーマは『違いを知ろう~南極と大阪~』で、自然や生き物とそれを観測する隊員に登場してもらいました。2回目のテーマは『働く人~南極での生活と仕事~』で、キャリア教育の一環として生徒の生活にも馴染みがある職種の観測隊員にスポットを当てる内容で実施しました。

生徒にとっても教職員にとっても、南極という響きはあまりに唐突でした。そのため、出発前の事前学習は、段階を踏んでていねいに行いました。生徒が“南極”という場所を少しでも身近に感じられることを目指して、事前学習の中で、南極の旗を考えたり、折り紙でペンギンを折ったり、昭和基地から投函するハガキを書いたりする活動を中学部みんなで取り組みました。

1回目の授業は、学校で日常的に取り組んでいる天気の確認など、生徒にとってなじみのある内容からスタートしました。この日の日本は、ニュースなどで“この冬一番の寒さ”と何回も聞くような日だったこともあり、吹田と昭和基地の気温がほぼ同じで、生徒も先生たちも驚いており、取材に来ていた毎日放送でも取り上げていただきました。その後、気象、オーロラ、氷、ペンギン、お魚について、それぞれの観測をしている隊員の方から話を聞き、生徒から質問をしました。生徒からは「雨は降りますか?それとも氷が降る?」「南極の魚は凍っているの?」などの質問が出ました。一見簡単な内容に見えるのですが、それぞれの専門家である隊員が子どもたちに説明してくれた内容を聞くと、”当たり前“で片づけてしまって知っているつもりになっていることの多さに気づき、私自身も勉強になりました。最後に吹田版南極の旗を発表して、授業は終了しました。

2回目の授業は、65次越冬隊行松隊長に登場していただき、吹田支援学校の一日と観測隊の日課を生徒と一緒に確認することからスタートしました。隊長からは、白夜や極夜など、時間の感覚が分かりにくくなる南極で、日課が決まっていること、食事の時間が決まっていてみんなで顔をあわせる時間があることはとても大切だと話がありました。そして、子どもたちに向けて「人とのつながりを大切にして、たくさん勉強してたくさん遊んで、好きなことや楽しいと思うことを見つけてください。」とメッセージをいただきました。

その後、インターネット、調理、医師、車両整備、建築で参加している観測隊員から、①仕事の内容、②働いていて楽しいことやうれしいこと、③元気に働くために気をつけていることの3点について、それぞれの活動場所から話をしてもらい、生徒からの質問に答えていただきました。「救急車やパトカーはある?」という質問に対して、緊急車両はないと聞き生徒は残念そうな様子でしたが、昭和基地にあるトラックなどの車で代用すると聞いてびっくりしていました。最後に、19広場に集まってくれたたくさんの観測隊員と本校の生徒みんなでラジオ体操をしました。日々、ラジオ体操に取り組んでいることは、本校と観測隊の共通点です。南極で働くことは特別なことかもしれないけれど、元気に働くために日々積み重ねていることは決して特別なことではないということを生徒に伝えることを目指しました。画面越しではありましたが、生徒は日本から遠く離れた南極で働く人たちも、自分たちと同じようにラジオ体操をして、一日の活動(仕事)を始めていることを知ることができました。

2回の南極授業を通して何より印象に残っていることは、出演してくれた観測隊員のみなさんが優しい表情で話をする姿と生徒の笑顔です。日本側の先生方に聞くと、質問や発表をした生徒はとても緊張していたそうです。そして、それぞれのコーナーを担当してくださった観測隊の方たちは、忙しい業務の傍ら、子どもたちにどう伝えたら分かりやすいかを考えて用意し、本番に臨んでくれました。

昭和基地側のみで行った事前のリハーサルでは、寒さのために中継カメラがシャットダウンしてしまったり、マイクにノイズがたくさん入ってしまって声が聞き取れなかったり、映像がきれいに流れなかったり。端末を何台接続するのか、データ量が増えて通信が不安定にならないか、授業内容とインフラの状況をすり合わせながら準備を進めました。また、せっかくのオンライン授業です。同じ時間を共有した、自分たちの授業だということを生徒に実感してもらうためにはどうすればいいか、最後まで考え続けていました。実施後に発行した生徒向けの通信『なんきょくだより8号』(大阪府立吹田支援学校 学校ブログに掲載中)では、“南極授業を支えた観測隊員”というテーマで、授業の画面には登場しなかったけれど、運営側で参加してくれていた観測隊員も紹介しました。日本側と昭和基地側双方で、本当にたくさんの方の協力があって、子どもたちと一緒に授業をすることができました。

授業で取り上げた内容は、今回の派遣で得たもののほんの一部です。帰国後は、生徒を始めとするたくさんの人に、南極の魅力や南極地域観測隊について伝えていきたいと思っています。そしてそれが、その人なりの“楽しいことや好きなこと”を見つけるきっかけになればうれしいです。

宇田川 順子

違いを知ろう~南極と大阪~』の出演者

「吹田版南極の旗」をバックに授業終了

生徒に観測隊の日課を説明する行松越冬隊長

『働く人~南極での生活と仕事~』の出演者

19広場から生徒と一緒にラジオ体操をする観測隊員のみなさん