活動報告

長浦 紀華(ながうら のりか)

1月23日(木)と30日(木)の二回にわたり、昭和基地から勤務校である福島町立福島小学校に向けて、南極授業を行いました。

今回の授業はせっかくの機会ということもあり、全校児童を対象としましたが、小学生は発達の段階で差が大きいため、授業のターゲットは第5・6学年として内容を構成しました。

私が一番伝えたかったことは、南極地域観測隊の活動の内容はもとより、自分の夢を叶え、ミッションを強く意識して業務に当たっている隊員の姿や生き様でした。

それは、子どもたちが自分のキャリア形成を考えるに当たり、モデルとなる大人との出会いはとても重要であるとともに、南極という特殊な環境の下、限られた資源と時間の中でミッションを確実に果たしていくために必要な要素が、観測隊にはぎっしりと詰まっていることから、望ましい集団行動の一つの姿として何か子どもたちの心に訴えるものがあると考えたからです。

こうしたことから、この貴重な機会となる二回の南極授業がイベントで終わってしまうことのないよう、出発前に時間をかけてプレ授業を行いました。
プレ授業は大きく分けて2種類実施しました。

一つは、第5・6学年を対象に2単位時間で、いわゆる南極のあらましに係る内容で、事前に国立極地研究所から送付していただいた「南極の氷」を使った実験や、昭和基地や南極点の気温のグラフを提示し気候について考えさせたり、南極条約の簡単な内容を知ったりする学習です。

もう一つは、第6学年を対象に計6単位時間を費やし、「夢の叶え方」について考えさせる内容でした。やりたいことや叶えたい夢を明確にもち、さらに自信をもって人に伝えるためには、健全なセルフイメージに基づく自己信頼と自分で決めて実行する自己決定力が必要です。そのことをたくさんのワークショップを交えながら、授業をしました。最初は自分のできないことばかりに着目していた子どもたちも、授業を通して、自分には無限の可能性があるということを認めることができるようになってきました。

自分の夢をじっくり考え、セルフイメージを高めた六年生にとって、本番の南極授業で登場していただいた隊員のお話は、大人になることへのワクワクや希望につながったと信じています。

観測隊には様々な職種の隊員がおり、どの仕事も魅力的で意義深いものです。それ故、限られた時間にどなたに出演していただこうかについては悩みました。

できれば全員に出ていただきたかったのですが、時間の関係でそうもいかず、事前に子どもたちから集めた「南極の疑問や南極で確認してきてほしいこと」に応える内容を中心に取り上げました。

子どもたちからの質問やリクエストの大半は、①食事に関すること、②動物(特にペンギン)に関すること、③生活に関することの三つでした。

とりわけ①食事に関することについては、私も観測隊に同行して初めて知ったのですが、夏隊の食事は砕氷船「しらせ」の方が提供してくれることから、「しらせ」の乗員に授業に参加していただきたいという強い願いがありました。これは、食事に限ったことではないのですが、観測隊がその主たる目的である「南極観測」を遂行するために、海上自衛隊の協力、その他、研究者以外の生活基盤を支える職種の隊員の努力があることを広く知ってもらいたいという思いにも通じます。

これまで、「しらせ」の乗員が南極授業に出演するという例は無かったと思いますが、隊長や庶務隊員の根回しにより、実現することができました。

また、②動物に関することについては、ペンギンチームが活動している南極大陸のスカルプスネスで2泊させていただき、密着取材することができました。チームのご配慮により、事前に、環境省に許可申請をしていただいたお取り計らいで、ペンギンの雛の体重測定をさせていただく貴重な経験ができました。さらに、チームリーダーの髙橋隊員にペンギン以外の海鳥についてレクチャーしていただき、実際に、巣にいるユキドリ親子や子育て中のトウゾクカモメの様子について、自分で撮影した動画を南極授業で子どもたちに見せることができました。

③生活に関することについては、「なぜ南極でインターネットができるのか、電気はどうやって作っているのか」という子どもたちの疑問に、LAN・インテルサット担当の北村隊員や発電機を管理している田村隊員に活動の様子の動画を交えながら、わかりやすく説明していただきました。観測隊は研究者だけで構成されていてるわけではないことや、観測を円滑に行うためには、隊員の生活を支える人々の努力があることを伝えることができたと思います。このことは、南極だけではなく、日本での生活でも同じことなので、帰国後に、その価値を日常(社会生活)のステージに掘り下げて、校長講話の中でも取り上げたいと思っています。また、今回の授業では紹介できなかった環境保全をはじめとする設営部門の方々の活躍の様子を動画教材にする予定です。

授業を受けた子どもたちからは、「夢を叶えて、努力をしている人の姿を見て、自分もそうなりたいと思った」「自分もいつか南極に行ってみたい」「観測隊の人達がみんな楽しそうでイキイキとしている姿が印象的だった」
といった感想が寄せられました。

長浦 紀華