活動報告

山本 那由(やまもと なゆ)

「教員南極派遣…?こんな夢のようなプログラムがあったんだ!」から始まった、私の南極への挑戦。まさしく大冒険であり、毎日が新しい発見の連続で、ワクワクしながら多くのことを学びました。しらせから見る、雄大な氷山や行く手を阻む分厚い海氷、そして野生のペンギン、アザラシ、クジラたち。沈まない太陽に蜃気楼、そしてオーロラ。手つかずの自然に圧倒されました。南極観測に携わる隊員の仕事に対する情熱にふれ、幾度となく感銘を受けました。文明圏から遠く離れた昭和基地では、自分の無力さを痛感し、できることを増やして人の役に立ちたいと強く思いました。振り返ってみればこの3か月間で、人として教員として、大きく成長することができたと感じています。

さて、このプログラムの最大のミッションは南極授業です。勤務校である大阪府立三国丘高等学校には全日制と定時制があります。今回は、それぞれの生徒に対して1回ずつ授業を行いました。

全日制の部の対象は、1~3年生(約700名)です。『未来へつなぐミッション~南極観測の世界~』と題し、生徒にとって未知である南極観測について、魅力や意義を感じてもらえるよう、南極で行われている研究・観測(海洋観測・気象・ペンギン・魚)を主軸として授業を構成しました。せっかくの南極授業が「面白かった」だけで終わりたくない。そんな想いから、出演するゲスト隊員には画用紙に手書きでメッセージを書いていただきました。「正確な観測を続ける」「新発見だらけの魚の世界“現在”を理解し、“変化”に備える」「ペンギンの目線で地球を観る!」という研究や観測に対する想いや、「仲間とともに」「人との出会いを大切に」といった観測隊の絆を感じさせるメッセージは、授業を受けた生徒や教員の心に深く刺ささったはずです。私は、南極へ来て、新しいことを体験し、自分の生きている世界の解像度が一気に上がりました。生徒にはこれから新しい挑戦をして自分の世界を広げてほしい、また私自身も新しい挑戦をしていきたいという想いをこめて、「共に世界を知ろう」というメッセージで授業を締めくくりました。

定時制の部の対象は、三国丘高校定時制生徒約100名です。『Road to 南極~すべての道は南極へ通ず?~』と題し、南極では様々な分野のプロフェッショナルがいること、また隊員をゲストに招き、それぞれ仕事をする上で大切にしていることを画用紙に書いて伝えてもらいました。生徒が授業に積極的に参加できるよう、途中で個人ワークや、〇×問題を取り入れました。〇×が片面ずつ印刷された紙を生徒に配布しておき、生徒の回答が昭和基地側から見られるよう工夫しました。ゲストの隊員が仕事をする上で大切にしていることは「協調性」「自分がわくわくすること」「失敗から考え続ける」「成功は必ずしも約束されていないが、成長は必ず約束されている」。南極観測隊、特に越冬隊は厳しい環境を約30人で生きていかなければなりません。それぞれの隊員に仕事があり、どんな仕事も全員にとって大事な仕事なので、だれ一人欠けてはいけません。私からは「その道には価値がある」というメッセージを送りました。過去・現在・将来、どんな道を歩んでいても、その道には価値があります。私は教員をしていて、まさか自分が南極へ来ることになるとは思いませんでした。その道を懸命に歩んでいれば、いつかは南極へたどり着くかもしれないと、授業を受けた生徒が感じていることを願います。

日本へ帰国後、学校へ出勤すると、生徒がキラキラとした笑顔で迎え入れてくれました。どうやら、生徒にとってあこがれの存在になれた、挑戦する勇気を与えられたようです。教員として、とても誇らしく思います。そして、私は三国丘高校の生徒が羨ましいです。私が高校生の時に南極授業を受けていたら、もっと視野が広がっていたことでしょう。これから未来を担う子供たちに“南極”を知って、世界に対する解像度を上げてもらえるよう、活動していきます。

最後に、ご支援くださった方々にお礼を申し上げますとともに、この教員南極派遣プログラムが今後も続くことを願います。かけがえのない経験を、ありがとうございました。

山本 那由