急激な氷床質量損失を駆動する氷河・接地線・棚氷の変動とそのメカニズム

課題番号:AJ1004
代表者:杉山 慎(北海道大学)

観測目的

「南極氷床」をご存じでしょうか?南極氷床は、南極大陸を覆う巨大な氷河のことです。面積は日本の40倍、平均の厚さは2000メートル、地球最大の氷のかたまりです。近年この氷床が縮小して、海水準の上昇に影響を与えています。なぜ南極氷床が縮小しているのか、その鍵は、氷床が海と出会う南極沿岸にあります。氷床の氷は流れの速い氷河となって沿岸へと流れ出し、最後は海に浮かんで「棚氷」を形成します。この棚氷の底面が海によって融かされる量と、先端から切り離される氷山の量が増えています。それだけではなく、氷の流れが加速して、南極内陸から棚氷へ流れ込む氷の量も増えています。また、陸に載った氷と棚氷の境界である「接地線」が後退し、その結果、大陸上の氷が海へと流出して、海水準に影響を与えているのです。この変化の原因を知ることが本プロジェクトの観測目的です。「氷河の流動」、「棚氷の底面融解」、「カービング(氷山分離)」のメカニズムを調べ、「氷河・接地線・棚氷からなる南極氷床沿岸部の変動メカニズム」を明らかにし、近年の氷床変動の理解と、海水準の将来変動予測に貢献します。

本プロジェクトの模式図

観測内容

本プロジェクトでは、昭和基地周辺のリュツォ・ホルム湾に流れ出す氷河に着目して、その末端付近で観測を行います。2011年から観測を行っているラングホブデ氷河の他、ホノール氷河・スカーレン氷河・テーレン氷河、地域最大のしらせ氷河など、複数の氷河のふるまいを調べます。

観測の対象となるリュツォ・ホルム湾の氷河

熱水掘削による氷河底面の直接観測

氷河や棚氷の底面は、アクセスが困難で、人工衛星による測定もできません。そのため、氷河底面での氷の滑り、氷の下にあるかもしれない湖や水路、棚氷底面の融解など、未知の課題がたくさん残っています。この課題を解決するのが、高温高圧のジェットを使った熱水掘削と、掘削孔を使った測定です。これまでにも、ラングホブデ氷河を掘削して棚氷下の環境解明に大きな成果を挙げてきました。そこで活躍した北海道大学低温科学研究所の熱水掘削システムを駆使して、さらなる掘削と底面観測を実施します。具体的には、氷河底面水圧と流動速度の関係、底面滑りのメカニズム、氷の温度、接地線の位置など、氷河の流動変化と棚氷変動の鍵となる現象の解明に挑みます。

熱水掘削システム(撮影:JARE63 杉山慎)

海へと流入するラングホブデ氷河(撮影:JARE59 杉山慎)

最新技術を用いた氷河表面の精密測定

人工衛星による観測技術が進み、宇宙から氷床の振る舞いがわかるようになってきました。そんな中でも、南極に行かなくては測定できないことがたくさんあります。そこで、最新の技術を使った現場でしかできない精密測定を行います。たとえば、電波や地震波を使った観測技術を応用して、氷河や棚氷の内部や底面からのシグナルを捉えます。反射波の解析から氷の厚さや棚氷の底面融解を正確に測定するとともに、氷地震の解析から氷河流動のメカニズムを明らかにします。また、連続写真撮影や地上レーダーを運用して、流動変化やカービングを高い精度で観測します。過去の実績を活かした氷河とその周辺での観測活動に加えて、ヘリコプターや無人航空機を用いた空からの観測にも挑戦します。

これらの先鋭的な観測は、世界の氷床研究コミュニティーに貢献し、国際連携の一翼を担うものです。また、氷床・海洋相互作用、氷床変動、氷底環境などの観測を通じて、他の重点観測課題との連携を推進していきます。

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