⼤型⼤気レーダーを中⼼とした観測展開から探る⼤気⼤循環変動

課題番号:AJ1006
代表者:堤 雅基(国立極地研究所)

観測目的

本プロジェクトでは、気候変動の主要因の1つである大気大循環(地球規模の大気の流れ)の変動を、南極域観測の充実により定量的に把握・理解することを主目的としています。南極域は、大気大循環の出発点・終着点として地球気候において重要な役割を持ち、かつ気候変動のシグナルが顕著に現れる場所であり、その観測が大切です。特に、気象・気候を左右する重要要素でありながら、時間・空間スケールが小さいためにコンピューターを使った大気モデルでの直接表現が難しい大気重力波や乱流を、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー)を中心とする高精度観測により捉え、その長期変動や3次元構造、および変動メカニズムを明らかにします。また、PANSYレーダーを中心とした拠点精密観測に加えて、面的な観測の充実も大切です。そのため、南極上空の風に乗って長時間に渡って南極域全域の観測を可能にする気球観測を新たに実施して、さらなる大気大循環変動予測の高精度化に貢献します。さらに、PANSYレーダーによる高高度の電離圏観測の充実も図り、連携観測課題とともに宇宙起源の現象(宇宙放射線現象など)が地球環境に与える影響を探ります。

本プロジェクトの模式図

観測内容

地球大気全域の気候の将来予測のためには、大気大循環の正確な実態把握とその変動メカニズムの定量的な理解が必要です。地球大気では、広い高度範囲にわたって様々な時間や空間スケールを持った大気現象が存在し、それらが影響しあって大気大循環を作り出すと考えられています。それらの現象を捉えるため、PANSYレーダーを中心とした観測装置群により昭和基地上空の連続精密観測を実施します。PANSYレーダーは、1000本以上のアンテナを直径300mの領域に配置した南極域最大のレーダーで、世界でも有数の大型大気レーダーの1つです。大気乱流が散乱する電波を受信して上空の風速や乱流強度を測定する他、流星が残す電離飛跡も捉えて風を測り、また、電離圏の中のプラズマの観測も行って、地表付近から高度500kmまでの観測を行います。PANSYレーダーは2011年に建設が開始され、調整を経て2015年からは全てのアンテナを使った連続観測を行っています。この観測を南極地域観測第X期計画も継続し、周期数分から太陽周期11年に至る広い周期帯の南極大気現象を捉えることを目指します。併せて、小型レーダーや光学観測装置を用いた風速・温度観測を相補的に行い、昭和基地での拠点精密観測データを取得します。

PANSYレーダーアンテナ群空撮

PANSYレーダーアンテナ群

一方、拠点精密観測の対となる面的な観測を実現するため、南極地域観測第IX期計画中に開発したスーパープレッシャー気球による観測を機動的に実施します。この気球は一定の高さを長期間に渡って浮遊することができる装置で、南極上空の風に乗って南極大陸上を周回して風や温度などを測ります。第X期計画においては、複数年の越冬期間を通じ、節目となる季節ごとに観測を実施する計画です。

昭和基地でのスーパープレッシャー気球放球の様子(撮影:JARE63 馬場健太郎)

さらに、地球全域の大気の振る舞いを探るため、PANSYレーダー代表が呼びかけ人となって第IX期計画から国際的な大型大気レーダーキャンペーン観測(ICSOM:観測とモデルによる南北両半球結合研究)を実施しています。北極域と南極域の大気が互いに与えあう影響やそのメカニズム、およびその長期的な年々変動を探るため、第X期計画においても継続して実施します。

ICSOMのレーダー観測網

関連サイト