大気微量気体観測

課題番号:AMP1001
代表者:後藤 大輔(国立極地研究所)

観測目的

産業革命以降の人間活動の活発化に伴う大気中の温室効果気体(微量気体)の増加によって、地球規模の気候変動、いわゆる温暖化が顕在化しつつあります。この問題に対応するためには、温室効果気体がどれだけ大気に放出され、どれだけ地球表層に吸収されているか、という温室効果気体の収支を定量的に理解することが重要です。そのためには、まず大気中温室効果気体の濃度変動の実態を正確に把握することが必要になります。

本プロジェクトでは、昭和基地において大気中温室効果気体をはじめとする大気微量気体の濃度、同位体比およびそれらの関連成分の変動を監視し、その長期変動を把握すること、さらに、それらの変動要因を理解し、温室効果気体の放出源・吸収源に関する知見を得ることを目的としています。人間活動の活発な北半球の中高緯度地域から遠く離れた南極域は、地球規模の大気環境のバックグラウンド変化を監視する上で最適な場所です。このような場所で大気中温室効果気体の動態を長期的に把握することは、地球規模の環境変化を検出・評価するためには極めて重要であり、国際的・社会的にも必要とされています。

観測内容

本プロジェクトでは、大気中の代表的な温室効果気体である二酸化炭素(CO2)の濃度観測を昭和基地において1984年に開始しました。それ以後、その他の主要な温室効果気体であるメタン(CH4)および亜酸化窒素(N2O)の濃度観測をそれぞれ1988年、2019年に開始したほか、それらの変動を理解するうえで有効な関連成分として、一酸化炭素(CO)濃度観測を2000年に、酸素(O2)濃度観測を2008年に開始するなど、観測を拡充しながら現在に至っています。これらの観測は、昭和基地の観測棟に設置した観測システムを保守整備しながら運用し、長期的な視点で継続的に実施しています。観測する大気試料は、基地活動の影響を受けないように基地の風上側に設置されたタワー上部から、専用のチューブを通じて観測棟内の観測システムへ取り込み、計測しています。

大気試料取り入れ口(タワー上部)。基地活動の影響を受けないよう、基地の風上側に設置されている。ここから取り入れた大気を昭和基地内・観測棟に設置した測定装置で分析している。(撮影:JARE60 高橋和代)

観測棟に設置されている大気中二酸化炭素濃度の連続観測システム(撮影:JARE60 後藤大輔)

この他に、現場では計測することのできない成分やCO2等の同位体比を計測するため、昭和基地の大気を専用の容器に定期的に採集し、国内に持ち帰って分析しています。一部の大気試料は、特定の成分の分析を目的とせず、昭和基地の大気を長期保存するために採取しています。これは、現時点では十分な測定精度で計測することができない大気成分でも、将来高精度で計測することが可能になった時に過去に遡って分析することを可能とするために備えているものです。

このような系統的な観測を長期的に継続することにより、大気中微量気体および関連成分の数十年にわたる動態を詳細に把握することが可能となります。得られた観測データを用いて、各大気成分の変動要因の理解、温室効果気体の放出量・吸収量の定量的な評価や、大気輸送モデルの検証・高度化に向けた研究が進められています。また本課題の観測データは、インド洋区の南極沿岸部の温室効果気体濃度データとして国際的な全球大気監視プログラムにも提供しており、全球監視の一翼も担っています。

南極・昭和基地(青)および北極・ニーオルスン(赤)で観測された大気中CO2の変動