国際連携拠点から | ArCS II 北極域研究加速プロジェクト https://www.nipr.ac.jp/arcs2 北極域に関する先進的・学際的研究を推進し、その社会実装を目指します Thu, 03 Oct 2024 00:07:40 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.4.5 グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2024 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024greenland-coast/ Thu, 03 Oct 2024 00:07:39 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=12639 沿岸環境課題では、昨年までに引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2024年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお […]

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沿岸環境課題では、昨年までに引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2024年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。

グリーンランド北西部ケケッタ沖でのイッカクの行動観察調査

執筆者:小川 萌日香(北海道大学)
三谷 曜子(京都大学)

今年も、昨年お世話になったベテランイッカクハンターの猟に同行することができました。

グリーンランド北西部のケケッタは、カヤックを使った伝統的なイッカク猟文化が残る唯一の海域です。エンジンを止めたボートの上で数日間過ごしながらイッカクの群れが現れるのを待ち、カヤックを使って音もなく近づき狩りを行います。

(写真1)イッカクの行動観察

イッカクはとてもデリケートで、エンジンのついたボートでは近づくことができませんが、伝統的なイッカク猟を行うケケッタでは、イッカクに至近距離まで近づき、自然な行動を観察することができます。

(写真2)船上での食事

イッカク猟は、狩猟が成功するまで陸には戻りません。今回私たちは7日間海に浮かんでいました。氷山とイッカク、時々アザラシに囲まれる絶景スポットで、狩猟の合間に食べるイヌイット料理は絶品です!私のお気に入りはやっぱりアザラシです。マスタードがとてもよく合って、オススメです!

今回で2回目の狩猟同行、5回目のイッカク解体作業のお手伝い。だんだんグリーンランド語も理解できるようになり、狩猟の手順もわかってきて、ハンターさんたちとの交流をますます楽しむことができました。

(写真3)ドローンからのイッカク行動観察

狩猟期間中、合計500頭以上のイッカクを観察することができ、ドローンでの行動観察にも成功しました。毎回貴重な機会をくださるハンターさんたちへの感謝の気持ちを忘れずに、これからデータ解析をはじめます!

(2024/9/27)

グリーンランド北西部カナック村周辺における音響観測

執筆者:Evgeny Podolskiy(北海道大学)
中山 智博(北海道大学)

2024年7月末から8月にかけて、私たちは、グリーンランド北西部のInglefield Bredningフィヨルド周辺に設置された長期海洋観測および地震観測ステーションの回収と一部再設置を行いました。私たちのステーションは、昨年に海底や氷河のカービングフロントの近くの島々に設置され、氷河、海氷、海洋、海洋動物に関する学際的な研究のために使用されています。

(写真1)ドローンを用いた氷河観測の様子

回収中には、Bowdoin氷河のカービングフロントの数値標高モデルを作成するために、ドローンを用いた空撮も行いました。

(写真2)環境音響観測のための係留系を再設置

回収された海洋観測ステーションは、海の音と海水の物理的性質を継続的にモニタリングし、水柱の音響プロファイリングも行っていました。地震観測ステーションは、氷山や氷河によって発生する氷震を記録していました。

(写真3)1年間設置した係留系を回収

データの分析はそれぞれの専門家によって行われる予定です。(i) 動物プランクトン、魚類、氷山などの音響反射体の存在の変動、(ii) 海棲哺乳類(イッカクやアザラシなど)、環境、人間によって発生する生物的、自然的、人工的な音の時間変動、そして(iii) カービングのタイミングと規模が明らかになると期待されています。これらのデータ分析は、現在急速な環境変化を受けている氷河に覆われたフィヨルドが生物のホットスポットや狩場として機能していることの理解に役立つと考えられています。

(写真4)Heilprin氷河の前に位置する島に設置した地震計を訪問

また、7月19日から8月6日にかけて、カナック氷河の流出河川での観測も継続しました。2023年、2016年、2015年には、大雨や氷河の急激な融解により河川が氾濫して橋が流され、カナック村とカナック空港の道路が寸断されました。温暖化が村の社会に与える影響を評価するため、2017年から河川の流量測定を継続して行っています。

(写真5)従来の手法による流量観測の様子

従来の流量測定では観測者が川に入り、河床の深さを測定し、流速計を繰り返し川に入れて流量を計測する必要がありました。この作業は、最低でも10分間、約2℃の水温の川に入り、立っているのが難しいほどの流速(約2 m/s)で行わなければなりません。

(写真6)川のそばに設置した音響センサとタイムラプスカメラ

観測の負荷を減らすため、今年は、川に入ることなく流量を測定する方法を開発するために、4台の音響センサと3台のタイムラプスカメラを川の近くに設置しました。音響センサは橋と氷河末端の間に、約500 mおきに、約2.5 kmの川に沿って設置しました。川幅や流路の変化が音響信号に影響を与える可能性があるため、3台のタイムラプスカメラで川の動態を記録しました。流量と音響および画像データを比較することで、より正確かつ簡便に河川の継続的なモニタリングを行うことが可能になります。

(2024/9/26)

グリーンランド北西部カナック村で開催したワークショップの報告

執筆者:渡邊 達也(北見工業大学)
深澤 達矢(北海道大学)

私たちはカナック村での研究活動を知ってもらうため、村人を招いたワークショップを毎年開催しています。今年も7月28日にワークショップを開催し、会場には例年以上に多くの村人が集まりました。参加者数は過去最多の約70人に達し、私たちの現地での研究活動が浸透してきたこと、研究の内容や成果に村人が強い関心を示していることが感じ取れました(写真1)。

(写真1)会場には多くの村人が集まった

ワークショップは現地協力者であるToku Oshima氏の挨拶から始まり、次に杉山教授(北海道大学低温科学研究所)から沿岸環境課題の研究テーマと研究者の紹介がありました。今年は7人の研究者から発表があり、多様な話題を提供することができました(写真2)。まず前半は、自然をテーマとした4件の発表がなされました。Podolskiy准教授(北海道大学北極域研究センター)からは、氷と生物の音をテーマに、アパリアス(ヒメウミスズメ)のバイオリズム、氷山移動やイッカクの行動による水中音響についての紹介がありました。小川さん(北海道大学博士課程)からは、海洋生態系に関する研究成果が紹介され、地元猟師の協力で得られたアザラシやイッカクの胃の内容物の分析結果に村人は強い興味を示していました。Thiebot助教(北海道大学水産学部)からは、アパリアスなどカナック周辺に生息する海鳥の生態について紹介がありました。前半最後は、同じカナック村を拠点に活動する雪氷課題チームの西村特任助教(信州大学)が、雪氷課題の取り組みについて紹介されました。

(写真2)Thiebot助教による発表の様子
(写真3)休憩時間に振舞われたお寿司とお好み焼き

休憩時間には、お寿司やお好み焼き、お菓子を準備して、日本の味を楽しんでもらいました(写真3)。皆さんの感想は「ママット!(おいしい)」と大変好評で、食べ物を載せた皿は瞬く間に空っぽとなりました。

後半は社会影響をテーマとした3件の発表がなされました。今津さん(北海道大学博士課程)からは、昨夏、カナックで発生した河川洪水の原因について説明がありました。続いて筆者の渡邊(北見工業大学)より、シオラパルクの地すべりメカニズムとカナック地域の斜面ハザードに関する発表がありました。最後に、筆者の深澤(北海道大学)より村の廃棄物問題と有害物質の生物濃縮に関する発表があり、ごみ捨て場からの汚染水流出が沿岸の生態系に影響を及ぼしている分析結果が提示されました。

(写真4)最後に参加者全員で記念撮影

発表終了後には討論の時間を設け、お互いの理解を深めました。真剣な眼差しの参加者の姿から、我々の使命を果たさねばという決意を新たにしました。これからも村人との関わりを大切にし、コミュニティーが抱える課題や疑問の解決に向けた研究活動に取り組んでいきます(写真4)。

(2024/8/23)

海鳥の羽から探る北極域の海洋生態系

執筆者:Jean-Baptiste Thiebot(北海道大学)
油島 明日香(北海道大学)

鳥の羽は毎年生え変わることで、天候から身を守り、最適な飛行能力を維持します。新しく生えた羽の化学組成は、その時に鳥が食べていた食物によって決まります。そのため、羽の組成を分析することで、季節ごとの摂食状況や有毒汚染物質の濃度を調べることができます。また、羽が生え代わる季節は身体の部分によって異なるので、翼や腹部など異なる部分の羽を採取することで、さまざまな季節に鳥が経験した状況を調べることができます。

(写真1)グリーンランド北西部のシオラパルク村付近のヒメウミスズメ繁殖地
(写真2)ヒメウミスズメは北極の海洋生態系の優れた生物指標と考えられている

ヒメウミスズメ(Alle alle、グリーンランド北西部では「アパリアス」として知られています)は、北極圏で年間を通じて見られる小さな海鳥(約150グラム)です。そのため、北極圏の海洋生態系における季節的な環境変化を知る上で優れた生物指標です。ヒメウミスズメは生息数が多く、その大部分はグリーンランド北西部で繁殖しており、村人たちの自給自足にかかせない伝統的な食糧です。春と夏には海岸の高い斜面で岩の下に巣を作り、毎日巣に出入りして近くで見つかる海洋生物を食べ、雛を育てます。夏の終わりにはグリーンランドの南とカナダの東に移動し、小さな甲殻類を食べて冬を過ごします。

2024年7月から8月にかけて、私たちはカナック地域・シオラパルク村近くのヒメウミスズメの大規模な繁殖地において、羽毛のサンプルを採取しました。過去2年間、私たちは成鳥の羽毛を研究し、晩夏と秋の摂食状況と水銀(Hg)汚染に関する情報を得ることができました。今回は、特に雛の羽毛のサンプルを採取することを目指しました。ヒナの羽毛は、成長中に卵に含まれていた栄養成分を反映しています。つまり、これらの成分は、繁殖前に母鳥が卵を育てながら海で採餌した食物の代表です。また巣立ち前のヒナに生えたばかりの羽毛を採取することで、ヒナの給餌期間中の親鳥の給餌環境を調べることができます。

(写真3)岩の下の巣で捕獲した若いヒナ。ヒナの体温を適切なレベルに保つよう細心の注意を払ってサンプリングを行う。
(写真4)船から海にいる鳥を数えることで、それぞれの種がどのような海洋環境に生息しているかを調べる

調査の最終日には、地元の狩猟者の船に乗って、フィヨルド全域にわたるヒメウミスズメの分布を調査しました。これにより、海で餌を探すときに鳥がターゲットとする海洋条件をより深く理解し、氷河がこれらの海洋条件に与える影響を調べることを目指しています。

今秋、北海道大学で羽毛の組成分析・生化学分析を行い、その結果から北極の海洋生態系における季節的な相互作用に関する新たな知見が期待できます。過去2年間に収集したデータと合わせた解析により、北極の海洋生態系が水銀などの有毒元素の汚染増加にどのように反応するか、またこのメカニズムがこれらの海洋資源に依存する北極の人々にどのような影響を与えるか、といった課題の解明を目指します。

(2024/8/22)

グリーンランド北西部カナック氷河での観測報告

執筆者:今津 拓郎(北海道大学)
矢澤 宏太郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

(写真1)カナック村

2024年7月10日から、グリーランド北西部カナック氷河での現地観測を開始しました(写真1)。到着したカナック村は気温が約5℃と、日本と打って変わって涼しい気候です。村にはたくさんの犬(写真2)、海には海氷と氷山、山には氷河があり、カナックでの観測に初めて参画した筆者(矢澤・北海道大学)にとって感動する景色でした。

(写真2)カナック村の子犬
(写真3)GPSを用いたステークの測量

2012年から10年以上にわたって、カナック氷河上の6地点に埋設したアルミポールを用いて質量収支と流動速度を観測しています(写真3)。これらの観測は、カナック氷河だけでなく、近年質量損失が加速傾向にあるグリーンランド北西部氷河氷帽の変動を理解する上で重要な現地観測データとなります。今年の観測によって、2023~2024年にカナック氷河の表面で単位面積あたり水に換算して平均0.52 m相当の氷が失われたことが明らかになりました。この損失量は2022~2023年よりも32%小さいものです。質量収支と合わせて流動速度を観測することで、氷河変動のメカニズムを明らかにします。また、これらの観測を来年も引き続き実施するために、新たなアルミポールを設置しました(写真4)。

(写真4)電動ドリルを用いたステーク設置
(写真5)ドローン測量

上述した2つの観測に加えて、高い時空間分解能で表面標高変化を明らかにするために、2022年からドローン測量を実施しています(写真5)。また、高解像度なドローン画像を用いて、融解水によって氷河上に形成される水路の発達メカニズム(蛇行や浸食)や、水路が氷損失に与える影響を明らかにすることも目的としています。夏の観測では測量を3回実施し、計6671枚の写真を撮影しました。撮影された写真を基に数値標高モデルを作成し、その精度を詳細に解析する予定です。過去2年間に得られた画像データや数値標高モデルを今年の結果と比較して、近年のカナック氷河における表面標高変化や、氷河上水路に由来する表面状態の変化の解析を進めます。

(2024/8/2)

関連リンク

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ニーオルスン基地からのメッセージ「北極ニーオルスンNOW!!」 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/nyalesund-now/ Thu, 05 Sep 2024 01:54:36 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=6683 北極ニーオルスンNOW!! ArCS II研究基盤の国際連携拠点であるニーオルスン基地では、さまざまな調査・観測が行われています。 国立極地研究所の研究者等が現地の様子を写真とメッセージで紹介する北極ニーオルスンNOW! […]

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ArCS II研究基盤の国際連携拠点であるニーオルスン基地では、さまざまな調査・観測が行われています。

国立極地研究所の研究者等が現地の様子を写真とメッセージで紹介する北極ニーオルスンNOW!! が更新されましたので、ぜひご覧ください。
(国立極地研究所 北極観測センター)
※最終更新2024年9月5日

関連リンク

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グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測2024 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2024greenland-cryo/ Tue, 20 Aug 2024 00:33:46 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=12287 雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automated Weather Station: AWS)を設 […]

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雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automated Weather Station: AWS)を設置してデータを取得しています。昨年までに引き続き、研究チームのメンバーが現地を訪れ、AWSのメンテナンス作業、氷河・氷帽流域での気象・雪氷・生物観測を行います。活動の様子を写真と共にお伝えします。

目次
カナックでの氷帽観測に終わりが近づいています(2024/8/18)New!
カナックの村人に支えられている氷帽観測(2024/8/12)
カナック氷帽登頂!(2024/8/3)
微生物活動のはじまり(2024/7/26)
後続隊がカナック村の観測拠点に到着しました(2024/7/20)
SIGMA-Bサイトの表面融解(2024/7/16)
氷帽には、眼に見える変化と眼に見えない変化がありました(2024/7/15)
海氷は解け、船の到着により物資の搬入が始まりました(2024/7/8)
グリーンランド北西部にも夏が近づいています(2024/7/1)
氷帽の積雪深は低くなる一方で、村の士気は高まっています(2024/6/24)
カナックの海は氷づけ・氷河には雪(2024/6/16)
グリーンランド北西部カナック氷帽・氷河の観測が始まりました(2024/6/12)

カナックでの氷帽観測に終わりが近づいています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年8月17日には、観測隊のうち2名(鈴木・小林)がカナックを出て、帰路に就きました。

(写真1)カナック村から見える島に雪が被った

数日前、カナック村では雨が強く降っていましたが、カナック周辺の標高の高い場所では雪が積もっていたようで、遠くの島に白い雪が覆いかぶさっているさまが観察できました(写真1)。雪が解け始まるころに始まった今年の観測は、雪が降り始めるとともに終息に向かっています。

思い返せば、今年の観測前半(6月初旬~7月初旬)では、先遣隊2名(西村・鈴木)が6月初旬にカナック入りし、拠点の立ち上げをするところから始まりました。先遣隊は、積雪融解前から調査を始め、積雪断面観測のデータを蓄積し、新たな地点にAWSを設置することができました。また、7月の中旬に後続隊4名(島田・有江・小野・小林)とカナックで合流し、滑らかに融解期の観測へとバトンをつなぐことができました。

観測後半(7月中旬~継続中)では、6人態勢となり、涵養域観測、アイスコア掘削、微生物観測、光学観測等、幅広く観測を行ってきました。これらのなかでも、特に涵養域観測はクレバス滑落の危険も伴う作業で、ザイルパートナーおよび拠点キーパー合計6名の1人も欠けては達成できないものでした。また、アイスコア掘削や微生物観測も1人では行うことができず、6人チームで動くことが活かされました。

(写真2)観測に臨む前の全員集合写真

小さな一戸建ての拠点では、たったの32日間でしたが6名での共同生活を全員が経験しました。集団生活では、それぞれが思い思いに過ごすことがかなわないという制約があります。同時に、ルールを誓約することが肝要であることもまた、痛感させられました。基盤となる陸地の上に雪が積もって氷帽が形成されるように、基盤となる生活があったうえで観測に取り組むことが可能となるのですから、生活(生きるということ)を第一に考えて、仕事に取り組んでいくことの重要性を学ぶことができました。

先に帰国するメンバーは、残り4名のメンバー(西村・島田・有江・小野)に拠点を託しました。残留メンバーは、あと数日ほどカナックに滞在し、観測道具の整理および撤収作業を行います。

ArCS IIプロジェクトは今年度で終了しますが、カナックにおける雪氷観測はこれからも重要な仕事であり、新たにプロジェクトを立ち上げて継続していく必要性が高いと筆者は思います。今後ともに、注目していただければ幸甚です。

(2024/8/18)

カナックの村人に支えられている氷帽観測

執筆者:小林 綺乃(千葉大学)

(写真1)光学観測のようす

8月に入りカナック氷帽の融解がさらに進み、黒い氷表面のエリアが広がっています。観測チームは、このような氷表面の光学観測や(写真1)、氷帽の内部構造を明らかにするためにアイスコアの掘削を行っています(写真2)。アイスコアの掘削は、7月下旬から4回にわたって行われました。掘削されたアイスコアは日本へ持ち帰り、分析を進める予定です。

(写真2)(a)アイスコア掘削のようす (b)掘削されたアイスコア
(写真3)カナック村の伝統的な食事

カナック村では村人との交流も楽しんでいます。観測チームがいつもお世話になっている方の家にお邪魔し、マッタ(くじらの皮)やアザラシ、アッパリアス(海鳥)など、村の伝統的な食事をいただきました(写真3)。私たちを温かく受け入れてくださる村人に感謝しながら、調査を行っています。

道には所々紅葉が見られるようになってきました。カナックの短い夏も終わり、秋が訪れようとしています。

(2024/8/12)

カナック氷帽登頂!

執筆者:有江 賢志朗(JAXA)

ArCS II雪氷課題サブ課題1グループでは、衛星搭載L-Band合成開口レーダ(L-Band SAR)を用いた氷河変化の観測を行っています。L-Band SARは透過性が高い長波長のマイクロ波(波長:約24 cm)を照射・受信して観測を行うため、氷帽内部の様子を捉えることができます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は現在、「だいち2号(ALOS-2)」と2024年7月1日にH3ロケット3号機によって打ち上げられた「だいち4号(ALOS-4)」の2機のL-Band SARを運用しています。

本グループでは、L-Band SARを用いた氷河観測の検証データ(氷帽の内部構造)として、氷帽全域で地中レーダ探査を実施する予定です。しかし、気温の低い氷帽の頂上付近には、前年の積雪に覆われて視認できないクレバスが存在するため、探査前に安全なルートを確立する必要があります。

(写真1)一列に並び氷帽上を歩くメンバー
(写真2)ゾンデ棒でクレバスの有無を確認するメンバー
(写真3)確認されたクレバス
(写真4)氷帽頂上での集合写真

そこで、2024年7月27日に涵養域でのルート工作を行いました。メンバーはロープで互いの身体を固定し、一列に並んで歩くことでクレバスへの滑落を防ぎます(写真1)。先頭のメンバーはゾンデ棒でクレバスの有無を確認しながら歩き(写真2)、後ろのメンバーは安全を確保しつつ確立されたルートに目印をつけていきます(写真3)。拠点出発から約6時間後、メンバーはカナック氷帽の頂上に到着しました。(写真4)。また、本グループは同日、涵養域での積雪のサンプリング(写真5)、粒径観測(写真6)、標高約950 mに設置してあるAWSのメンテナンスを行いました。本グループは、引き続き気を引き締めて現地観測に臨みます。

(写真5)雪面サンプリングの様子
(写真6)積雪の粒径観測の様子

(2024/8/3)

微生物活動のはじまり

執筆者:小林 綺乃(千葉大学)

2024年7月23日と24日、カナック氷帽に向かいました。一部の雪面や氷の上では、微生物の繁殖により引き起こされる赤雪や暗色の氷などが見られるようになってきました(写真1,2)。写真1(b)の赤い小さな球形のもの、写真2(b)の暗色の糸状のものが、それぞれ雪氷藻類と呼ばれる微生物です。

(写真1)(a)雪面で見られる赤雪と(b)雪氷藻類
(写真2)(a)暗色の氷と(b)雪氷藻類

まだまだ氷帽上の広範囲が白い雪と氷に覆われています。今後も表面の様子を観察していきます。

氷帽からの長い帰り道、遠くに見える山々とカナックの村、雲海を眺めながら、拠点へと戻りました(写真3)。

(写真3)カナック村と雲海

(2024/7/26)

後続隊がカナック村の観測拠点に到着しました

執筆者:有江 賢志朗 (JAXA)

2024年7月17日、ArCS II雪氷課題サブ課題1グループの後続隊(島田、小野、小林、有江)がカナック村に到着しました。

後続隊は、先遣隊(西村・鈴木)と観測拠点で合流し、再会を喜びました(写真1)。

(写真1)夕食の様子

翌日(7月18日)、観測隊はカナック氷帽に向かいました。先遣隊は断面観測、自動気象観測装置のメンテナンス、後続隊はそれぞれの観測の下見と予備調査を行いました(写真2,3)。

(写真2)断面観測の様子
(写真3)雪面サンプリングの様子

観測は8月末までの長期戦となりますが、ワンチームで取り組んでいきます。

(2024/7/20)

SIGMA-Bサイトの表面融解

執筆者:西村 基志(信州大学)

例年に比べ積雪が少ないせいか、今年のカナック氷帽では積雪層の下にある氷面の露出が早かったです。

(写真1)2024年6月9日のSIGMA-Bサイト
(写真2)2024年7月9日のSIGMA-Bサイト

写真1は2024年6月9日のSIGMA-Bサイトの写真です。一昨年、去年はこの時期には白いロガーBOXの直下にあった積雪面が今年は低い位置にあることがわかります。写真2は1カ月後(7月9日)のSIGMA-Bサイトの写真です。表面はさらに低下したことがこの写真からもわかります。この時の積雪深は5 cmでした。

(図1)2024年6月1日から7月12日のSIGMA-Bサイトにおける日平均気温(黄線)と表面高(緑線)の変動(執筆者作成図)

図1はSIGMA-Bサイトで観測された2024年6月1日から7月12日までの日平均気温と日平均表面高の推移です。6月の前半の気温は氷点下でしたが、6月後半からは安定して正になっていました。気温の上昇と共に表面高が低下していることも観測データからわかります。6月の表面高の低下量は36.1 cm、で、解析期間合計で54.3 cmでした。

6月のこの表面高低下量は、観測開始の2012年以降の12年間で3番目に大きく、比較的珍しい年であったことがわかりました。今後も調査は続きますので、引き続き氷河の状態を観測していきたいと思います。

(2024/7/16)

氷帽には、眼に見える変化と眼に見えない変化がありました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年7月9日、SIGMA-Bサイトへ観測に向かいました。

これまでの報告で、カナック氷帽上の積雪がだんだんとなくなっていく様子をお伝えしてきましたが、観測を行ってきた領域(氷帽辺縁からSIGMA-Bまでの範囲)ではほとんど積雪がなくなりました。氷帽の辺縁部では、上流で破砕された氷が水流によって下流へ流され、堆積し、掌状に広がっている様子を観察できました(写真1)。

(写真1)7月9日の氷帽上で見られた手のような形をした水流の跡

氷帽辺縁は、写真2のようなザクザクで柱状の氷(風化氷)がよく見られ、積雪で覆われていた状態とは様相がかなり変わりました。

(写真2)7月9日の氷帽上で見られた風化氷

鉱物粒子と微生物によって構成されるクリオコナイトが、氷面の鉛直方向下側に存在する様子も観察できました。氷帽には、写真3のようなクリオコナイトホールがいくつか分布していました。

(写真3)7月9日の氷帽上で見られたクリオコナイトホール

JAXA地球環境モニター(https://www.eorc.jaxa.jp/JASMES/index_map_j.html )で、SGLIセンサが観測した雪氷面温度を可視化してみました(図1)。カナック氷帽上の雪氷面温度は、6月上旬に比べて、7月上旬の方が高いことがわかります。

(図1)グリーンランド北西部における雪氷面温度(8日間平均)、a: 6月上旬、 b: 7月上旬

(2024/7/15)

海氷は解け、船の到着により物資の搬入が始まりました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

カナック村周辺の海氷の融解が進んでいます。

2024年6月5日、私たちがカナックに到着した際には、周辺の海は氷で覆われていました(写真1)。1カ月ほどたった7月5日には、氷が解けて海水が見える範囲が広がっていました(写真2)。

(写真1)6月5日のカナック周辺の海氷の様子
(写真2)7月5日のカナック周辺の海氷の様子

AMSR地球環境ビューア(https://www.eorc.jaxa.jp/AMSR/viewer/ )でグリーンランド周辺の海氷密接度を見てみても、ここ1カ月で密接度が低下していることがわかります(図1, 2)。AMSR地球環境ビューアでは、海氷密接度のほかにも、GCOM-W衛星に搭載されているAMSRセンサによって観測された、海、陸、大気における水に関するさまざまな物理量を可視化することができます。

(図1)6月5日のカナック周辺の海氷密接度
(図2)7月7日のカナック周辺の海氷密接度

海氷が開けてきたということもあり、7月7日にはRoyal Arctic Line(輸送船)がカナックに到着し、物資の荷運びが始まりました(写真3)。枯渇しかけていた食料品等がスーパーに運ばれ、村民の暮らしも豊かになります。私たちも、新しい食品が店頭に並べられることを楽しみにして待っています。

(写真3)カナックに到着したRoyal Arctic Line

本日7月8日は快晴です。村の人に会うと、全く知らない人同士でも「Good morning.」と声を掛け合います。ここまでは、日本でもよくある会話かもしれませんが、「It is beautiful day.」と言葉を交わすことは、日本の都会ではあまりないことかもしれません。カナックでは、気持ちよく1日が始まります。

(2024/7/8)

グリーンランド北西部にも夏が近づいています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月24日、カナック氷河上流部へ観測に行きました。前回観測時とは様子が打って変わり、氷河表面に水流が形成されている様子を観察できました(写真1)。この日は空気が澄んでいて、一面の青空が広がり、観測びよりの一日でした。カナック氷河上流に新たなAWSを設置することができたので、気象状況がしっかりと測定されていることを期待しています。

(写真1)カナック氷河上流に形成されている水流

6月30日には、氷帽上部に位置するSIGMA-Bサイトへ観測に行きました。前日までに雪が降ったようで、表面には1 cm程度の新雪が積もっていたものの、足元には黒い汚れ物質が広がってきていました(写真2, 3)。

(写真2)カナック氷帽上で黒い汚れ物質が広がっている様子
(写真3)カナック氷帽上に現れた黒い泥状の汚れ

SIGMA-Bサイトでは、積雪断面観測を実施しました。積雪は氷が出るまでの深さで17 cmあり、前回よりも30 cm以上融雪が起きていることがわかりました(写真4)。

(写真4)6月30日のSIGMA-Bサイトにおける積雪断面

カナック村では、Arctic Poppyというかわいいお花が咲きました(写真5)。氷帽ではまだ降雪イベントが起きていますが、着々と夏が近づいています。

(写真5)カナック村に咲いたArctic Poppy

(2024/7/1)

氷帽の積雪深は低くなる一方で、村の士気は高まっています

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

(写真1)SIGMA-Bサイトの空撮写真

2024年6月19日、SIGMA-Bサイトへ観測に行きました(写真1)。積雪深を調べたところ、54 cmほどであることがわかりました(写真2)。カナックに到着して最初にSIGMA-Bサイトへ観測に向かったのが6月9日になります。この時の積雪深は70 cmほどであり、しゃがんだ人が隠れる高さでした(写真3)。6月9日以降、5 cmの降雪があったものの、わずか10日間で融雪はかなり進んでいます。我々がカナックに到着したタイミングがまさに融雪が加速する直前であったと思われます。貴重なタイミングで観測を始めることができました。

(写真2)6月19日のSIGMA-Bサイトにおける積雪深
(写真3)6月9日のSIGMA-Bサイトにおける積雪深

夏至にあたる6月21日は、グリーンランドの「National Day」で、カナック村の体育館ではお祭りが催されていました(写真4)。お祭りではマッタ(くじらの皮)の煮込み(写真5)やパン、コーヒーなどの飲み物が無料で配られていました。夜は村民によるバンドの生演奏が楽しめました。老若男女とわず、この日を祝い、楽しむ様子を感じることができました。

(写真4)村の体育館で開催されたNational Dayのお祭り
(写真5)マッタ(くじらの皮)の煮込み

(2024/6/24)

カナックの海は氷づけ・氷河には雪

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月13日、SIGMA-Bサイトへ観測に行きました。6月9日に仕掛けたカメラのデータを回収し確認したところ、SIGMA-B上空の様子がよく撮れていました(写真1)。積雪断面を観測したところ、6月11日~12日に降雪があったため、5 cmほどの新雪層が観察できました。

(写真1)SIGMA-Bサイト上空の全天写真(緑矢印: AWS、橙矢印: 太陽)

6月15日、氷河とりつきのサイトへ観測に行きました。ドローンで上空からカナック村方面の海と氷河の撮影に成功しました(写真2)。まだ海の表面は氷づけになっていることがわかります。氷河表面は、雪で覆われています。

(写真2)ドローンで撮影したカナック村方面の海と氷河

氷帽へ向かう新雪に、2人だけのトレースが刻まれました(写真3)。

(写真3)氷帽へ向かう2人のトレース

今後の雪氷の融解状況に注目していきたいと思います。

(2024/6/16)

グリーンランド北西部カナック氷帽・氷河の観測が始まりました

執筆者:鈴木 拓海(JAXA)

2024年6月5日、ArCS II雪氷課題サブ課題1グループの先遣隊(西村・鈴木)が、カナック村にある観測拠点に到着しました。

沿岸から望むカナック村
初調査で氷河をバックに記念撮影(左:鈴木 拓海、右:西村 基志)

6月7日、カナック氷河のとりつきまで偵察を行い、氷河の状態を確認しました。積雪が氷河を覆っていることがわかりました。

6月9日、我々が維持・管理している自動気象観測装置のメンテナンスを行いに、氷河上流のSIGMA-Bサイトへ向かいました。気象装置からデータを回収し、積雪断面の観測等を行いました。積雪は、氷が出てくるまでの深さでおおよそ70 cmでした。

SIGMA-Bサイトに設置している自動気象観測装置(AWS)
SIGMA-Bサイトにおける積雪断面の様子

6月10日、再び氷河とりつき付近まで向かい、ドローンで上空からの積雪状況を確認、積雪の採取等を行いました。

カナック氷河の積雪表面の様子

今後も、8月末まで継続的に観測を行います。

(2024/6/12)

関連リンク

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]]> グリーンランド・カナック沿岸での現地調査2023 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2023greenland-coast/ Mon, 06 Nov 2023 07:52:18 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=10674 沿岸環境課題では、昨年に引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2023年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝え […]

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沿岸環境課題では、昨年に引き続き、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2023年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。

グリーンランド北西部ケケッタ沖でイッカク漁に同行

執筆者:大槻 真友子(北海道大学)
小川 萌日香 (北海道大学)

2023年8月17日から21日にかけてベテラン猟師を含む3名が乗るイッカク(Monodon monoceros)漁に同行することができました。グリーンランド北西部ケケッタ沖は夏季にイッカクが集まる海域として知られており、カヤックを使った伝統的な狩猟法を実践している数少ない地域の1つです。イヌイットや現地住民にとってイッカクの牙やマッタ(皮と脂肪を薄く切ったもの)は収入源となります。イッカクは、その周辺海域の生態系において、上位の高次捕食者のため、イッカクの餌生物や汚染濃度を調べることで、生態系への影響、イッカク、さらにはヒトへの影響がわかります。

(写真1)白夜の海とカヤックに乗るハンター

そこで、私たちはイッカク漁に同行し、それらの分析のためのサンプル採取を行いました。8月17日の夜11時にカナックを出港しケケッタに向かいました。夜中にケケッタに到着し、イッカクが現れるのを待ちます。午前2時ごろにイッカクを発見し、カヤックで近寄りますが、捕獲はできませんでした(写真1)。その後、2人のハンターたちが4日間で計3頭のイッカクを捕獲しました(写真2)。

(写真2)イッカクとカヤック

干潮のタイミングでイッカクを解体しました(写真3)。解体の前に体長測定をしました。フルマカモメ(Fulmarus glacialis)がイッカクの解体前からたくさん集まって、解体が始まると海に捨てられたイッカクの脂肪を食べ始めます(写真4)。私たちは解体のタイミングに合わせて、胃や脂肪、筋肉、肝臓、眼球を採取しました。胃内容物から餌生物の特定に、筋肉は安定同位体比分析や汚染物質の分析、肝臓も汚染物質の分析に、眼球は年齢査定に使用します。これからどのような結果が出てくるのか、別の機会にご報告ができればと考えています。

(写真3)イッカク
(写真4)イッカクの脂肪を食べるフルマカモメ

(2023/10/31)

グリーンランド北西部カナック村周辺での廃棄物・住環境調査

執筆者:東條 安匡(北海道大学)
森 太郎(北海道大学)
深澤 達矢(北海道大学)

2023年9月9日にカナックに到着し、翌日以降9月13日まで、カナック村の廃棄物と住環境に関する現地調査・試料採取を行いました。

昨年も同地で廃棄物に関する調査を行いましたが、その結果を受けて今回はより詳しいサンプリングを計画しました。村での聞き取りによれば、2022年12月からは廃棄物の野焼きを中止し、週に1回ダンプサイト近くの小屋での焼却を行っているとのことでした。焼却の頻度が減っているためか、廃棄物の量は増えているような印象を受けました。

また、村の廃棄物に関する新たな試みとして、有害物(バッテリーや廃油等)は小屋の周りに集積して回収を実施しているとのことです。資源物や機械製品を集積している様子が確認され、少しずつ改善が進められているようです。

(写真1)カナック村ダンプサイトの廃棄物投棄状況
(写真2)村外へ輸送するために集積されている廃機械製品やバッテリー

ダンプサイトから海の方向の干潟の土壌、底泥をサンプリングしました。野焼き後の残渣、し尿捨て場、直接埋立場、有害・資源物置き場それぞれの下流方向に7つのサンプリングラインを設定し、合計35地点から採取を行いました。場所によっては、表土を剥ぐとすぐに黒色の底泥が現れ、硫化水素臭がする等、ダンプサイトの影響が海側にも及んでいる可能性が伺われました。

(写真3)ダンプサイト下流側の海岸での試料採取

ダンプサイトでは空気環境の測定を行いました。深夜以降に揮発性有機化合物(VOC)の濃度が上昇していました。おそらく、風速が低くなる深夜以降に廃棄物から発生するガスがダンプサイト周辺にとどまるようになり、高い値が計測されたと考えられます。

カナック村の住宅で、室内環境の調査も行いました。昨年の訪問時に設置したセンサーの回収を行い、短期の滞在者が宿泊するゲストハウスと一般の住民宅で、1年間の室内環境の状況が把握できました。その結果、ゲストハウスの室内は常時暖房されており、外気が換気で室内に導入されることによって湿度が非常に低い状態になっていることがわかりました。また、外気が導入されるボイラー室の室内環境を計測したところ、粒子状物質(PM)、VOCともに夏季になると値が高くなる傾向がみられ、住民宅でも同様の傾向でした。

(写真4)温度、湿度、二酸化炭素濃度、VOCの測定状況(住民宅)

またエネルギーコストに関して、住民に聞き取りを行いました。現在、世界中でエネルギーコストが上昇している最中ですが、グリーンランドでは長期的な電気契約が行われており、コストは安定している状況です。ただし、2023年末に契約が終了し、新しい契約が始まるため、その際にはエネルギーコストの大幅な上昇が予定されているとのことでした。

(2023/9/27)

グリーンランド北西部シオラパルク村周辺の地すべり調査

執筆者:渡邊 達也(北見工業大学)

2023年7月27日から8月3日にかけて、シオラパルク集落周辺の地すべり調査を実施しました。地すべりの多くは、崩壊の深さが2~3m程度と浅いものの、大量の水を含んだ土砂が土石流となって数百m先の海岸線まで流れ下ったという特徴があります(写真1)。これらの地すべりは、2016年および2017年夏の大雨により発生したものです。しかし、大雨と言っても、日本なら地すべりはほとんど起こらない程度の雨量です。それにも関わらずシオラパルク集落周辺で地すべりが多発した原因の一つとして、地質構造や永久凍土が地中の水の流れに影響しているためと考えています。

(写真1)海岸線まで達した地すべり

今年の調査では、地すべりの内部構造を知ることを目的に電気探査を実施しました(写真2)。電気探査は、地表に設置した多数の電極から地盤に電流を流し、地下の比抵抗(電気の流れにくさ)の分布を求めるものです。電気探査の断面図には崩壊発生源付近で比抵抗が低くなる(湿潤で電気が流れやすい)特徴がみられました。

(写真2)地すべり斜面での電気探査の様子

また、今回の調査では、サーモグラフィによる地すべり斜面の湧水箇所の検出も試みました(写真3)。今年のシオラパルクは春先から雨が少なく、斜面は乾燥していました。しかし、調査終盤に久々の雨が降ると、地すべり斜面の崩壊源付近から湧水が生じている様子をサーモグラフィで捉えることができました。

(写真3)熱カメラによる湧水(低温領域)の検出

電気探査とサーモグラフィで得られた結果は、地すべりの崩壊源付近に水が集まりやすい地盤構造が存在することを示しています。寒冷地域では地すべり発生頻度が低いため、そのような構造が不安定岩屑に覆われて隠れています。気候変動により雨量が増加すると、再び土石流を伴う地すべりを発生させる危険性があることから、今後の斜面災害リスクを住民に伝えていくことが重要です。

(2023/9/26)

グリーンランド北西部カナック村で開催したワークショップの報告

執筆者:Evgeniy Podolskiy(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

私たちはカナック村での研究活動の一環として、毎年村人を招いたワークショップを開催しています。研究プロジェクトやその成果について説明し、今後の研究方針や課題について現地の人々と共に考える機会です。北極域における研究活動ではこのような取り組みの重要性が高まっており、現地コミュニティーとの協働が求められます。今年もお寿司や日本のお菓子を準備して、地元の小学校を会場としてワークショップを実施しました(写真1)。

(写真1)お寿司や日本のお菓子を食べながら現地住人とArCS II研究者が交流

今年のワークショップは8月3日に開催されました。地元の研究協力者や猟師の他、家族連れや子供たちなど、住人約40人の参加がありました。ArCS IIからは5人の研究者がそれぞれの研究を紹介し、村人からの熱心な質問に答えました(写真2)。このワークショップは研究成果を住人に伝えるだけでなく、彼らと研究者が意見交換することを目的としています。休憩時間には漁業に関する聞き取り調査も行い、気候変動と環境変化が社会に与えるインパクトについて現地の声を集めました。当日はカナックに滞在中のテレビ局による取材もあり、会場の様子は日本のテレビ番組でも紹介されました。

(写真2)ArCS II研究者による研究紹介

ワークショップは現地協力者Toku Oshima氏の挨拶から始まり、次に杉山教授(北海道大学低温科学研究所)がArCS IIプロジェクトと沿岸環境課題についてその意義を説明し、村の廃棄物に関する最新の研究データを紹介しました。廃棄物の健康影響は参加者にとって重要なテーマであり、汚染物質の拡散を防ぐための手立てについて熱心な議論が行われました。次に音響調査を実施するPodolskiy准教授(北海道大学北極域研究センター)が、水音による河川流量観測や、水中音響によるイッカクの生態調査について紹介しました。また筆者である今津(北海道大学修士課程)からは、カナック氷帽の融解および流出水量の観測結果について発表しました。さらに小川氏(北海道大学博士課程)がアザラシの食餌と生物サンプリングについて話し、その内容には地元の猟師が強い興味を示していました。この研究は食物連鎖による汚染濃縮を理解することを目的としています。そして最後に日下氏(北海道大学低温科学研究所)が、1970年代にカナック周辺で撮影された写真の上映会を行いました。写真の中に自分の両親や自分自身を見つけた参加者もいました。

(写真3)現地住人との意見交換

英語とグリーンランド語の同時通訳によって、研究者と住人との交流を円滑に進めることができました(写真3)。また会場にはたくさんの子供たちの姿があり、終始リラックスした楽しい雰囲気でプログラムが進められました(写真4)。このような催しを近隣の小村でも実施し、研究成果の現地への還元と、コミュニティーに寄り添った研究活動を目指します。

(写真4)大きなホッキョクイワナに集まる子供たちとArCS II研究者

(2023/9/14)

グリーンランド北西部カナック氷河における氷河変動と流出水量の観測

執筆者:峰重 乃々佳(北海道大学)
山田 宙昂(北海道大学)
今津 拓郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

2023年7月8日から8月12日にかけて、カナック氷河とその流出河川での観測を実施しました。

(写真1)カナック氷河流出河川での流量観測
(写真2)観測期間中に洪水により決壊したカナックの道路

カナック氷河の流出河川では2015年と2016年に洪水が発生し、人々の生活に大きな影響が出ました。そこで、2017年以降、流出水量の測定を目的とした観測を続けています。流出水量の測定には、水位と流量の関係を調べる必要があります。そのため、圧力センサーを用いて連続的に水位を測定しつつ、観測期間中に54回の流量測定を実施しました(写真1)。また音響とインフラサウンドの記録装置を導入し、新しい手法によって流量の連続測定を目指しています。今夏も7月30日に洪水が生じて空港と村を結ぶ道路が決壊し(写真2)、8月にはさらに大規模な洪水と道路破壊が起きました。観測の継続によって、このような災害の予測や、被害の低減に役立つ成果を目指しています。

(写真3)氷河に埋設したポールを測量して年間の流動速度を測定
(写真4)ドローンを使った氷河観測の様子

一方氷河上では、2012年から10年以上にわたって、質量収支と流動速度のモニタリングを継続しています(写真3)。また昨年からドローン測量を開始して、高解像度の画像や数値標高モデルを用いて氷河変動を解析しています(写真4)。カナック氷河は氷の温度が0℃より低いため、内部に浸透できない融解水が氷河表面に水路を形成します。それら水路の幅や蛇行度について解析することも、ドローン測量の目的のひとつです(写真5)。今年は観測中に、氷河末端部から上流域までの範囲で計6回の撮影を行いました。7月は晴天が続いたため雪・氷の融解が激しく、水路の変化や雪氷生物による氷の暗色化が顕著でした。これらの変化を高い時間分解能で解析することで、融解が氷河変動に与える影響を明らかにします。

(写真5)氷河上に発達した水路

(2023/9/6)

関連リンク

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グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測2023 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2023greenland-cryo/ Fri, 07 Jul 2023 02:32:56 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=9789 雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automatic Weather Station: AWS)を設 […]

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雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automatic Weather Station: AWS)を設置してデータを取得しています。昨年に引き続き、研究チームのメンバーが現地を訪れ、AWSの更新作業やメンテナンス、周辺での気象・雪氷物理観測を行います。活動の様子を写真と共にお伝えします。

北西グリーンランド氷床上SIGMA-Aサイトにおける現地観測

執筆者:庭野 匡思(気象研究所/国立極地研究所)

ArCS II 戦略目標①「先進的な観測システムを活用した北極環境変化の実態把握」の雪氷課題のグリーンランド観測チームは、2023年6月21日から27日にかけて北西グリーンランド氷床上SIGMA-Aサイトに滞在して観測研究活動を行いました。もともと、本観測は2021年に実施することが計画されていましたが、COVID-19の影響を強く受けて、2年間延期されていました。今回、満を持して、本観測に臨みました。氷床へのアクセスには、Kenn Borek Air社(カナダ)のツインオッターを利用しました(写真1)。

(写真1)SIGMA-Aサイトへの到着時の様子

滞在期間中には、新しい自動気象観測装置(Automatic Weather Station; AWS)を設置することができた(写真2)他、各種雪氷現地観測、GPS測量、およびドローン撮影などを実施しました。

(写真2)今回設置したAWSの前での集合写真

完成したAWSは、気圧、雪面上3 mと6 mの気温・湿度・風向・風速、3深度の雪温、上向き・下向きの短波・長波・近赤外放射量などを測定しており(写真3)、アルゴス衛星通信を介して準リアルタイムにデータ送信を行っています。近年のグリーンランド氷床では様々なプロセスが複雑に絡み合って雪氷質量損失が急速に進行しており、結果として海水準上昇を引き起こすなど全球気候システムに重大な影響を与えています。今回設置したSIGMA-A AWSは、急速に変化している氷床の物理状態に関する観測ベースの貴重な情報を提供してくれると期待されます。

(写真3)完成したAWSとSIGMA-Aサイトの全景

(2023/7/5)

ArCS II雪氷課題サブ課題1観測チーム全員合流

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

集合した観測チームメンバー。後発隊の到着に食卓を囲む。

6月14日、雪氷課題の2023年度グリーンランド雪氷気象観測チームのメンバーが無事全員集合しました。写真右から、大河原 望(気象研)、山崎 哲秀(アバンナット北極プロジェクト)、庭野 匡思(気象研)、島田 利元(JAXA)、砂子 宗次朗(防災科研)、西村 基志(極地研)の6名です。

観測拠点の居住スペース
観測拠点のキッチン

カナック村に置かれた拠点にはキッチンや人数分のベッドも完備されており、快適な居住環境が整備されています。この拠点で1カ月以上共同生活をしながらグリーンランド氷床上や氷帽上での現地観測、観測機材の設置、メンテナンスを協力して行います。

観測拠点のダイニングスペース

現在は今年の最も大きなミッションである内陸氷床上での気象観測機器(SIGMA-A)設置に向けて、着々と準備を進めています。

(2023/6/20)

SIGMA-Bサイトにおける自動気象観測装置(AWS)のメンテナンスとデータ収集

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

SIGMA-Bサイトへの道中、カナック氷帽を歩く
SIGMA-B AWSの様子

SIGMA-Bサイトは、北極圏における重要な気象観測サイトの一つで、ArCS IIプロジェクトで設置された自動気象観測装置の一つがあります。今回は約1年ぶりの訪問で、メンテナンス作業を行いました。
観測チームは、交換が必要とされた気象センサーを迅速かつ正確に取り外し、新しいセンサーを取り付けることで、装置のパフォーマンスを向上させました。また、バッテリーの充電状態や通信機能など、他の機能にも注意を払いながら、装置全体の機能を確認しました。

SIGMA-Bメンテナンス
メンテナンス作業終了後の集合写真

メンテナンス作業が完了した後、カナック氷帽の気象観測を再開し、今後もモニタリングを継続します。これらのデータは、北極域における気候変動やその他の環境要因の研究において重要な役割を果たします。また、このデータは国際的な科学コミュニティと共有され、地球規模の気候モデルの改善にも貢献できると期待されます。

SIGMA-BのAWSデータは北極域データアーカイブシステム(ADS)で公開しています。

(2023/6/13)

2023年夏の観測開始!

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

ArCS II雪氷課題のサブ課題1気象・雪氷チームによる2023年のグリーンランド現地観測が開始されました。チームは6月7日にグリーンランド北西部にあるカナック村へ到着しました。このカナック村を拠点として約2カ月にわたる調査・観測を行います。

海氷と犬ぞりと氷河

現在は村に滞在しながら今後の調査の準備を進めているところですが、今日は海氷や村の様子を見に行きました。一面氷に覆われた海の景色と対岸に見える氷河は何度見ても圧倒されます。

カナック村の様子

(2023/6/10)

関連リンク

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カナダ・ケンブリッジベイでの氷上観測2023 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2023-chars/ Mon, 26 Jun 2023 02:36:34 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=9906 2023年5月初めから6月初めまで極北カナダのケンブリッジベイでの海氷上観測を海洋課題の活動の一環として実施しました。観測にはカナダから3名、日本から4名(研究者2名:野村 大樹(北海道大学/海洋課題)、伊川 浩樹(農業 […]

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2023年5月初めから6月初めまで極北カナダのケンブリッジベイでの海氷上観測を海洋課題の活動の一環として実施しました。観測にはカナダから3名、日本から4名(研究者2名:野村 大樹(北海道大学/海洋課題)、伊川 浩樹(農業・食品産業技術総合研究機構/陸域課題)、大学院生2名:能城 太一(北海道大学/ArCS II 若手人材海外派遣プログラム)、吉村 将希(北海道大学))が参加しました。活動の様子を現地の写真と共にお伝えします。

執筆者:吉村 将希(北海道大学)
能城 太一(北海道大学)
写真提供:野村 大樹(北海道大学)
伊川 浩樹(農研機構)
吉村 将希(北海道大学)

移動編

日本からケンブリッジベイまでは、合計で3日間かけて移動しました。初日は成田からバンクーバー、バンクーバーからイエローナイフまで飛行機で移動し、イエローナイフで1泊。

イエローナイフ空港ではオーロラとシロクマとアザラシがお出迎え。

当初の予定では次の日の朝の便でケンブリッジベイへ飛ぶはずでしたが、天候の影響で飛行機が欠航に。そのためイエローナイフで急遽もう1泊し、3日目にケンブリッジベイへ向かいました。海外での急な予定変更は不安でしたが、1日遅れただけで、無事目的地であるケンブリッジベイに着きました。

イエローナイフ-ケンブリッジベイ間で搭乗した飛行機。小さい。

生活編-北極での暮らし

CHARSの外観の様子。実験室や宿泊施設などがそろっている。

私たちは、カナダ・ヌナブト準州・ケンブリッジベイにあるCanadian High Arctic Research Station(CHARS) を研究拠点として観測を行いました。CHARSには宿泊棟、会議や講演会ができる部屋、観測の準備やサンプルを処理するための部屋がそろっていました。また、CHARSの目の前は凍った海が広がり、すぐに観測に行けます。町の中心部に行けばスーパー、学校、銀行などがあり、北極の人々の生活を肌で感じることができました。

近くのスーパー。食材から衣類、発電機、エンジンオイルなども売っている。
現地の学校。図書室には日本の漫画も並んでいた(ナ〇ト等)。

CHARSの宿泊施設は、基本的に2人1部屋。トイレとシャワーが2つずつ、広いリビングとキッチン、テレビなどがあります。ここで暮らすうえで重要なのが水です。生活用水や生活排水の量には上限があり、シャワーや洗濯をしすぎて水の使用量が上限に達すると水が使えなくなります。そのため、節水に気を付けながら生活します。

生活編-CHARSでの食事

CHARSでの食事は、カナダチームと日本チームで分担して、観測がないチームや早く帰ってきたチームが作ります。日本からは米15キロやみそ、海苔、カレールー、てんぷら粉やお好み焼き粉などの食材を大量に持ち込みました。野菜や卵、肉などは、スーパーで手に入りましたが(値段はもちろん高いですが)、魚は手に入りませんでした。しかし、エビはなぜか比較的安く、日本チームが作った手巻き寿司やてんぷらで大活躍しました。

ある日の夕食。手巻き寿司を食べた。ゾエ(奥左)は野菜巻き、ジェームス(奥右)は肉巻きが好きみたい。
カナダチームのジェームスが作ってくれたローストビーフ。最高に美味。

お世話になったガイドやその家族の方々を招待して、一緒に夕食を食べたりもしました。ガブリエルさんを招待した日には、カナダチームがシェパーズパイとケーキを作ってくれました。ショーンさんを招待したときは、日本の餃子と味噌ラーメンが好きだということで、餃子と味噌ラーメン、チャーハンを振舞いました。ケンブリッジベイのスーパーにも餃子の皮が売っているのには驚きました。

また、日本の伝統を体験してもらおうということで、抹茶セット(抹茶・茶碗・茶筅・茶杓)を持ち込み、抹茶を点てて振舞いました。抹茶は好評で、持ち込んでよかったと思います。小学生のころ茶道を学んでいたことが、10年以上たってこんな場面で役に立つとは思ってもいませんでした。

日本から持ってきた抹茶セットで抹茶を振舞った。抹茶味のお菓子も人気。

観測編-観測の準備

海氷の上は気温が低く、シロクマやグリズリーなどの野生動物の危険もあり、時間も限られているため、海氷上へ行く前の準備が非常に重要です。今回はその様子を一部紹介したいと思います。

まずは、今回の観測のメインミッションの一つである渦相関タワー設置の準備です。日本から持ってきた観測機器が壊れていないか、タワーをきちんと組み立てられるかを確認するため、実験室で一度組み立てます。海氷上に出てからうまくいかない点があってもすぐには解決できないこともあるので、しっかりと確認・修正をして、観測点へ運びます。

CHARSでの渦相関タワーの組み立て。組み立てられるかの確認とともに、観測点で素早く組み立てられるように手順を確認。あれ?
学生同士仲良く氷上での渦相関タワーの組み立て。傾いてないかな?

次は食事の準備です。観測は朝から夕方まで1日中行われるため、昼食は海氷上で食べます。しかし当然ですが、海氷上にはレストランやコンビニはありません。昼食を持っていく必要があります。日本チームは、観測の日の朝に、日本から持ち込んだ米でおにぎりを作り、前日の夕食の残りがあればそれを保存容器に詰め、観測点へ持っていきます。海氷上で食べたお味噌汁は特においしかったです。

さらに、観測へ行くためにはスノーモービルの準備も必要です。CHARSでは、スノーモービルを安全に利用するため、スノーモービル講習を受講しなければなりません。スノーモービル講習では、1日目に座学とスノーモービルのトラブルシューティング、2日目に実際に海氷上でスノーモービルを運転しました。観測へ行く前の日には、CHARSへスノーモービルの利用申請をします。申請書には、出発時間、メンバー、ガイド、観測点、帰還時間等を記入します。

スノーモービル講習のテキスト(https://arcticresponse.ca/ )。もちろん全部英語。
スノーモービルの利用申請書。目的やメンバー、必要なスノーモービルの数などを記入。
スノーモービル講習受講証の交付。有効期間は3年間。

観測編-海氷上での観測

観測を行った場所(黄色丸)。予定していた観測サイト(WX)へは行けませんでした。(カナダチームのブレントが作成したものを野村が一部改変)

今年の観測は、昨年の観測と同様にケンブリッジベイ沖の観測サイトで行う予定でした。しかし、今年は海氷の状態が悪く、クラックやリードと呼ばれる海氷の割れ目ができており、アクセスが困難となることが予想されたため、予定の観測サイトの手前のR2という観測点をメインに観測を行いました。R2まではスノーモービルでおよそ50分。最初は振り落とされないように気を張っていましたが、慣れてくると周りの景色を見る余裕がでてきます。

大量の荷物を積み込んで移動。精密機器や海氷サンプルを載せているときは、壊れないようゆっくりと。
スノーモービルで移動中に見つけた野生のアザラシ。近づきすぎると逃げるため、遠くから撮影。

海氷上で行われる観測は様々です。例えば、海氷のコアを採取して海氷温度の鉛直分布を測定する、採取した海氷を20 センチごとに切り分け、実験室へ持ち帰る、海氷上部に穴をあけ、染み出てきた高塩分水(ブライン)を採取する、といったことを行いました。採取したサンプルは、すべて日本へ持ち帰り、様々な成分(例えば栄養塩や全炭酸、全アルカリ度、クロロフィルaなど)について分析を行います。

コアの穴をあける様子。普段は電動ドリルで穴をあけるが、この日はドリルの調子が悪く手であけた。手でやるとすごく疲れる。
海氷の底は茶色。正体はアイスアルジーと呼ばれる藻類。
ブライン(海氷内の高塩分水)のサンプリングの様子。ゴルフカップのような穴(深さ20センチ)を開け、穴の中にブラインが溜まるのをじっと待つ。
ガイドのショーン。東京・立川に住んでいたことがあり、味噌ラーメンと餃子が大好き。
実験室でのサンプル処理の様子。観測から帰ってきたばかりで疲れていても、サンプル処理はすぐにやる。

観測編-渦相関法と放射計による二酸化炭素と熱輸送の観測について

昨今話題になっている地球温暖化の影響が顕著に表れているのが、北極や南極といった極域の海です。この地球温暖化の主要な原因は人間が排出した大量の二酸化炭素(CO2)であると考えられています。そのため、地球温暖化をモニタリングするためには、CO2や熱の移動を調べることが重要です。また、極域の海は大量のCO2を吸収していて、極域でのCO2の移動量を調べることは温暖化の今後を予想するうえで非常に重要になっています。もちろん、温暖化の極域への影響を調べるためにはCO2だけでなく極域での熱の移動を調べる必要もあります。

風などによって空気が動くとき、空気中のCO2や、気温として空気中に内包されている熱も一緒に移動します。このときのCO2や熱の移動量を測るのが渦相関法です。渦相関法は生態系レベルの広さの移動量を直接測定することができます。さらに、熱は光、つまり電磁波によっても伝わります。例えば、焚火をしているときに、炎から離れていても熱を感じることができます。これは焚火の高温な部分から赤外線が出ていて、それが手や顔に当たることで熱が伝わっているのです。これと同じことが地面でも起きています。つまり、地面から熱が赤外線として上空に向かって放出されているのです。加えて、空から降り注ぐ太陽光によっても地面が暖められており、太陽から地面へ熱が移動してきます。このように、光による熱の移動があるため、熱の移動を考えるうえで光による熱放射を測定する必要があるのです。これを測定するのが熱放射計です。

渦相関法による観測システム。現場は非常に厳しい環境でしたが、CO2は2週間弱、熱は3週間分の観測データを取得することができた。

今回のケンブリッジベイでは昨年度と同様の渦相関法によるCO2の移動量の観測に加え、渦相関法と熱放射計を組み合わせた熱収支の観測を行いました。渦相関法によるCO2の移動量の観測は、ArCS II 若手人材海外派遣プログラム(能城)の一環として実施されました。

タワーの前で記念撮影。

観測編-環境DNA測定のためのサンプル採取

今年も昨年に引き続き、環境DNAのサンプル採取を行いました。環境DNAとは、海水中や海氷中に含まれる、生物由来のDNAのことです。海水や海氷を採取し、その中にどんな種類の魚のDNAが含まれているかを測定することで、その海域にいる魚種の組成を明らかにすることができます。この手法は、海水を採水する、もしくは海氷を採取して融かすだけでよく、従来のトロールネットによる採取や人間による目視調査に比べて、簡単に、周辺環境を大きく乱すことなくサンプリングができるため、近年注目されています。

海氷下海水中の環境DNAについて(北海道大学笠井教授提供)

観測点では、海水や海氷を採取しました。CHARSの実験室にて海水はそのまま濾過、海氷は冷蔵庫で融かしてから濾過します。冷凍したサンプルは冷凍のまま日本に持ち帰り、分析によってどんな魚のDNAがあるのかを解析します。厚い氷の下にはどんな魚たちがいるのか、気になりますね!

アイスコアをとった穴から海水を採取。寒いが我慢。
CHARSでの環境DNAサンプルのための濾過の様子。

湖での観測を行っていたジェームスに同行し、環境DNAサンプルの採取を行いました。ジェームスは湖の水の採水や、湖の中の魚の様子の撮影をしており、その映像や私たちが採取したサンプルの分析結果を共有しながら、これから共同で研究を進めていきたいと考えています。

湖にカメラを沈めて撮影する様子。CHARSに戻ってから映像を確認する。
ジェームスとガブリエルによる湖水採取の様子。ガブリエルはガイドだけでなく観測作業も手伝ってくれて非常に助かる。陽気。
無事に環境DNAサンプルも採取でき一安心。

観測編-メルトポンド観測

夏になると、北極海では気温が上昇し、海氷表面の雪や海氷が融けます。その融け水が海氷表面の窪みにたまることで、メルトポンドが形成されます。メルトポンドは、夏の北極海の海氷表面のうち、およそ50~60%を占め、メルトポンドの存在が北極海氷域に与える影響は様々です。例えば、真っ白な海氷域に、メルトポンドができると、太陽光を吸収しやすくなり、海氷の融解が促進されます。また、太陽光が海氷を透過しやすくなるため、海氷下の植物プランクトンが光合成しやすくなります。北極海氷域における物質循環にも影響を与えています。私は現在、メルトポンドにおける二酸化炭素の循環について研究しています。

CHARS近くの海氷の様子。メルトポンドが広範囲に広がる。
メルトポンドの中を走るスノーモービル。危険?

滞在最終日にサンプルを採取することができ、日本に持ち帰りました。これからこれらのサンプルを分析し、メルトポンドの様子を明らかにしたいと考えています。ケンブリッジベイでは、CHARSの近くでメルトポンドが形成されるため、観測点へのアクセスが容易であることがわかりました(観測点を遠くに設定すれば話は別ですが)。CHARSの近くはメルトポンド観測にはうってつけであることがわかったので、これから先チャンスがあれば、メルトポンドが形成される5月下旬ごろにケンブリッジベイを訪れ、メルトポンドの観測をしてみたいと思います。

とあるメルトポンド。底には自然にできた♡マークが。

最後に

観測を終え、全員無事に帰国しました。北極での観測は大変だったときもありましたが、北極海氷域の様々なサンプルや観測データを得ることができました。これから、採ってきたサンプルを分析し、得たデータを解析することで、北極で起きている様々な現象を明らかにしていきたいと考えています。また、日本以外の方々と交流し、一緒に観測を行ったことは、非常に貴重な経験となりました。今後も積極的に、海外での観測や国際交流に参加したいと思います。最後になりましたが、今回の観測をするにあたり、多くの方々のご支援を頂きました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

同じ宿で約一ヶ月過ごしたメンバー。

関連リンク

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グリーンランド・カナック沿岸での現地調査 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2022greenland-coast/ Thu, 22 Dec 2022 07:31:31 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=7284 沿岸環境課題では、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2022年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。現地の研究者や住民と協力した調査のほか、住民とのワークシ […]

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沿岸環境課題では、海洋、氷河氷床、陸域、人文社会などの研究チームが、2022年7月から9月にかけてグリーンランド北西部のカナック周辺でさまざまな調査観測を行います。現地の研究者や住民と協力した調査のほか、住民とのワークショップなども予定されています。今回の現地滞在では、重点課題①・北極域研究加速に向けた研究計画の公募で採択された課題とも連携し、その研究が一部実施される予定です。写真と共に研究の内容や現地の様子をお伝えします。

グリーンランド北西部シオラパルク村で物質文化調査とワークショップを実施

執筆者:日下 稜(北海道大学)

シオラパルクはグリーンランド北西部にある人口40人ほどの小さな村で、現在でも狩猟によって生計を立てている人たちが暮らしています。海が凍る冬には、犬ぞりが使用されていますが、気候変動により海氷の状態が不安定になる年もあり、また生活様式の変化や後継者不足により犬ぞりの文化が今後も続いていく保証はありません。そこで今回は2022年7月~8月にかけて計2週間ほど滞在し、犬ぞりの利用実態の調査と、そりの収集、ムチの製作過程の記録を行いました。また、村の住民とワークショップを行い、海棲哺乳類の調査をはじめとする、ArCS II沿岸環境課題の研究内容を紹介しました。

犬ぞりは、冬の移動手段として古くから利用されてきました。そりのスキーと台座をつなぐときは、釘を使わずロープで固定することにより、柔軟性があり壊れにくい構造となります。また、かつてはこれらの固定や、犬をつなぐロープにも全て革ひもが使われてきました。現在では、ムチにのみ、この革ひもが使用されており(ナイロンロープも利用されている)、狩猟民であることの誇りと共に、なめしによって自由にロープのしなやかさが調整できることがその理由と考えられます。今回は、この犬ぞりのムチを作る過程の記録を行いました。アゴヒゲアザラシの毛皮を筒状に剥ぎ、なめして(写真1)、細長くらせん状にカットし(写真2)、乾燥させ、最後に動物の骨や角を用いた器具により柔らかくする(写真3)という長い工程を経てムチが完成します。

(写真1)アゴヒゲアザラシの皮から皮下脂肪を取り除く
(写真2)筒状の皮から螺旋状にロープを切り出す
(写真3)天井から吊るした器具を使って革ひもを柔らかくする

8月23日には、櫻木 雄太、小川 萌日香、日下(いずれも北海道大学)の3名で、小さなワークショップを開催し、村の住人の約3割に当たる10名以上が参加しました(写真4)。シオラパルクに移り住んで50年になる大島 育雄氏に通訳を依頼し、沿岸環境課題の研究内容を紹介しました。現地住民からは、氷河の融解やアザラシの生態についての質問が出され、貴重な時間となりました。

(写真4)シオラパルクでのワークショップ

(2022/12/22)

グリーンランド北西部沿岸における生態系調査(海棲哺乳類・海鳥)

執筆者:大槻 真友子(北海道大学)
櫻木 雄太(北海道大学)

北極域沿岸の住民は海棲哺乳類や海鳥と密接した生活をしています。それらの動物は住民にとって重要な食料や衣料になりますが、気候変動によりそのような生活習慣や動物への影響が懸念されています。そこで2022年7月から8月にかけてグリーンランド北西部に位置するカナックとシオラパルクにおいて海棲哺乳類や海鳥の生態や分布調査を行いました。

(写真1)目視観察中に発見したワモンアザラシ
(写真2)目視観察中に発見したアゴヒゲアザラシ
(写真3)目視観察中に発見したヒメウミスズメ

まず船から海棲哺乳類や海鳥の目視調査を行いました。海棲哺乳類はワモンアザラシ(Pusa hispida、写真1)、アゴヒゲアザラシ(Erignathus barbatus、写真2)、タテゴトアザラシ(Pagophilus groenlandicus)、イッカク(Monodon monoceros)を観察することができました。ヒメウミスズメ(Alle alle、写真3)やハジロウミバト(Cepphus grylle)など北極域で繁殖する海鳥も観察することができました。海洋観測も同時に行い、水温や塩分の測定、環境DNA用海水の採水、プランクトンの採取を行いました。海棲哺乳類や海鳥の分布要因を明らかにする予定です。

(写真4)ヒメウミスズメの雛

現地ハンターの協力を得て、アザラシや海鳥の胃内容物や筋肉、肝臓などのサンプルを得ました。今後、食性や汚染物質などを調べる予定です。ヒメウミスズメの繁殖地において、繁殖成功率を調べるため、巣穴を探し、雛の測定をしました(写真4)。

さらに、イッカクの分布を知るために、水中録音装置を5台沈めることに成功しました(写真5)。イッカクの音声の有無から分布や季節変動がわかります。来夏に水中録音装置を引き上げる予定です。

(写真5)録音装置の係留

(2022/8/25)

グリーンランド北西部カナック村でワークショップを開催

執筆者:今津 拓郎(北海道大学)
杉山 慎(北海道大学)

2022年7月31日にカナック村でのワークショップを行いました(写真1)。

(写真1)ワークショップ冒頭での現地協力者Toku Oshimaの挨拶

このワークショップは2016年から繰り返し開催しているもので、私たちの研究プロジェクトとその成果を住民に知ってもらうとともに、彼らが直面する自然と社会の変化について情報を求め、今後の研究方針と環境変化への対策をともに議論することを目的としています。私たちがカナック周辺で実施する研究として、氷河と海洋の変化、イッカク・アザラシ・魚・鳥などの海洋生態系、さらに毛皮を使った衣類に代表される伝統文化について研究者が発表を行いました(写真2)。休憩時間には、参加者にお寿司や日本のお菓子を振る舞い、交流を深める良い機会となりました(写真3)。

(写真2)ArCS II研究者による研究紹介
(写真3)休憩時間に日本の食事やお菓子を食べながら現地住民と交流

ワークショップの最後には、廃棄物処理や海洋プラスチックなどの環境問題、魚類の生体や漁獲高などや水産資源に関して、研究者と住民との意見・情報交換を行いました(写真4)。

(写真4)現地住民との議論・意見交換

また住民からは、研究内容に対する強い興味・関心が示され、データの共有や出版等の具体的な要望を得る貴重な機会となりました。今回のワークショップで得られた意見や要望を基に現地コミュニティとのさらなる交流を進めて、今後ますます現地に寄り添った研究を推進します。

(2022/8/25)

グリーンランド北西部沿岸における海洋生態系調査(漁具・音響)

執筆者:富安 信(北海道大学)
長谷川 浩平(北海道大学)

北極域の沿岸に住む人々にとって海洋に生息する魚類は重要な食料資源の一つです。魚類の生態情報および漁業活動の情報収集のため、2022年7月17日から8月2日までグリーンランド北西部カナック村で調査を行いました。

(写真1)刺網で漁獲されたホッキョクイワナ
(写真2)沿岸の浅海域に設置された刺網

夏季は遡河回遊性のホッキョクイワナ(Salvelinus alpinus)が越冬場の湖から海に索餌回遊しており(写真1)、住民は1-2 m水深の沿岸に刺網(ナイロンモノフィラメント、目合約10 cm、長さ25 m)を設置しイワナを漁獲していました(写真2)。イワナが刺網に漁獲されるタイミングやサイズごとの回遊時期の違いについて調べました。

(写真3)ハリバットの漁に使用される底延縄

海氷が海を覆う冬季にはカラスガレイ(Reinhardtius hippoglossoides)の底延縄漁が行われており、漁業の特徴について調べました(写真3)。今後冬季の調査を計画しています。

ボードインフィヨルドでは、カービング氷河から流れ込む氷河の融け水が海洋生態系に影響しています。その中で海洋中の魚類や動物プランクトンは、海鳥や海生哺乳類の餌生物として重要な存在です。氷河の影響を受ける環境下で、魚類や動物プランクトンといった海洋生物が、いつ・どれくらいの量で現れるのかを調べるために、2022年8月2日に係留式の音響プロファイラーをボードインフィヨルドに設置しました(写真4, 5)。音響プロファイラーは、水深約230 mの海底に設置しました(写真5は機器が沈む直前の写真)。

(写真4)ボードインフィヨルドに設置した音響プロファイラー
(写真5)音響プロファイラーの係留作業
(写真6)プランクトンネットによる生物採集

また、設置したタイミングでどのような生物が音響プロファイラーで観測されているかを確かめるために、プランクトン用のネットを用いて生物のサンプリングも行いました(写真6)。音響プロファイラーについては、今後約1年間データを取り続け、来年度の夏に回収予定です。音響プロファイラーから得られる知見によって、本海域の海洋生態系の理解が深まることを期待しています。

(2022/8/19)

グリーンランド北西部沿岸域のフィヨルド急斜面における地すべり調査

執筆者:渡邊 達也(北見工業大学)
山崎 新太郎(京都大学 防災研究所)

(写真1)シオラパルク周辺の地形景観

急速な気候変動が進行している北極域では、凍土融解、降雨量の増加によりマスムーブメントが頻発することが懸念されています。グリーンランドの最北集落であるシオラパルクでは、2016~2017年にかけて、夏季の豪雨イベントによる巨大表層崩壊が立て続けに発生しました(写真1)。崩壊の発生には、フィヨルドの急斜面を厚く覆う寒冷地特有の堆積物の物性も関係していると考えられます。今夏の調査では、シオラパルクで発生した巨大表層崩壊の発生メカニズムを理解するために、現地の崩壊斜面で透水性試験と粒度分析を行いました(写真2)。日本のような温帯地域とは表層堆積物の特徴が異なることから、寒冷地特有の表層崩壊発生メカニズムの解明を進めています。

(写真2)崩壊斜面で実施した透水性試験の様子
(写真3)超望遠レンズカメラによる地質構造の撮影

大比高のフィヨルド沿岸地域では、氷河後退後の応力変化により斜面不安定化が進行しており、大規模岩盤崩壊による津波が近くの集落に被害をもたらす可能性があります。グリーンランド北西部最大の集落であるカナック周辺でも、不安定化を示唆するような斜面形状を高精度DEMで確認することができます。今夏の調査では、カナック周辺の地質構造を広域的に調べるために、超望遠レンズカメラによるフィヨルド斜面の撮影を行いました(写真3)。また、斜面不安定箇所を中心に、ドローンでの近接撮影や漁船からの目視観察も行いました(写真4)。今後、撮影データを整理・分析し、カナック周辺の地すべり災害リスクの評価を進めていく予定です。

(写真4)カナック近傍の不安定斜面でのドローン撮影

(2022/8/3)

グリーンランドにおいて氷河からの融解水の流出過程を調べる

執筆者:箕輪 昌紘(北海道大学)
近藤 研(北海道大学)

急速な温暖化に伴いグリーンランド氷床の融解が進み、海洋に流出する融解水が増加しています。しかしながら、積雪に覆われた涵養域では融解水や降雨が積雪中で再凍結し一時的に融解水を保持するため、流出量を抑制する効果があると考えられています。涵養域での積雪融解と流出過程を理解するために、2022年7月3日から23日までグリーランド北西部にあるカナック氷河で現地観測を行いました(写真1)。

(写真1)カナック氷河:積雪内で保水しきれなくなった融解水が川を形成し流出する様子が見られた

過去10年間にわたり継続している氷河表面での質量収支観測に加え、積雪内部での融解水の挙動を理解するために、温度計や電気伝導度計(写真2)、さらに地震計を設置しました(写真3)。また1~3 mのコアを取得すると、実際に融解水が積雪内部で再凍結している様子が見えてきました(写真4)。

(写真2)積雪中に設置した電気伝導度計
(写真3)積雪中に設置した地震計
(写真4)積雪層の下で発見した再凍結氷

今後、地震計や水位計によって測定しているカナック氷河からの融解水流出量と今回の測定した涵養域での測定データを比較することで、グリーンランドにおける氷河融解水の流出過程を解明します(写真5)。急速な気候変動がグリーンランド氷床からの融解水流出にどのような影響を与えているのか理解を深めていきます。

(写真5)カナック氷河末端から融解水が流出する様子

(2022/7/27)

関連リンク

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アラスカ・ポーカーフラットリサーチレンジ観測サイトでの調査 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2022-pfrr/ Fri, 09 Dec 2022 04:27:25 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=8718 国際連携拠点のひとつである米国アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)との連携により、さまざまな調査・観測が行われています。2022年は研究者がIARCに長期滞在し、同じく国際連携拠点のひとつである […]

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国際連携拠点のひとつである米国アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)との連携により、さまざまな調査・観測が行われています。2022年は研究者がIARCに長期滞在し、同じく国際連携拠点のひとつであるポーカーフラットリサーチレンジ観測サイト(PFRR)で、陸域課題関連の研究のほか、他プロジェクトの研究に関する活動なども行われました。現地の様子を写真と共にお伝えします。

2022年アラスカ調査の概要

執筆者:小林 秀樹(海洋研究開発機構)

今回、アラスカ大学フェアバンクス校国際北極圏研究センター(IARC)に長期滞在する機会に恵まれ、雪解け前後の5月上旬から11月末までフェアバンクスに滞在しながら、ArCS IIの国際連携拠点のひとつであるポーカーフラットリサーチレンジで活動しました。

今回の滞在の目的のひとつは、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、観測サイトを訪問することができなかった際に発生した測器のトラブル対応です。私が最後に現地を訪問したのは、2020年3月上旬でした。しかし、途中で新型コロナのためにアラスカ大学敷地内への部外者の立ち入りが禁止となり、十分に現地の様子を確認することができませんでした。幸い、アラスカ大学の研究者・技術者の強力な支援もあり、主なデータは継続取得できました。今回の滞在では調子の良くなかった森林の林床の温室効果ガスフラックス観測システム(渦相関システム)の復旧や人工衛星の検証データを取得している分光放射計のケーブルの交換などのほか、故障したセンサの撤去等を行いました(写真1)。

(写真1)温室効果ガスフラックス観測システムの復旧作業中の様子

ほかにも、海洋研究開発機構の研究の一環として計画していた永久凍土融解により森林生態系がどのように変化するかを調べる土壌温暖化実験区の構築を進めました。5月中旬より地面に約1.5 mの孔を数十本掘って棒状のヒーターを埋めました。永久凍土層を掘削するのは初めての経験で、当初の計画より時間がかかったものの、アラスカ大学の共同研究者に協力していただき6月中旬には、ヒーターを設置することができました。この実験区では、温室効果ガスフラックスの長期変動をモニタリングするための自動開閉チャンバーを設置して、観測を始めています(写真2)。

(写真2)ヒーターを埋めた温暖化実験区

また、NASAの北極域脆弱性大規模実験プロジェクト(ABoVE)の一環として実施される航空機観測キャンペーンに合わせて地上検証データを取得する活動も行いました。今年は6月下旬から7月中旬までフェアバンクス周辺の上空は森林火災の煙で覆われてしまい、一時は観測データの取得が危ぶまれましたが、7月の下旬になると煙が徐々に収まり、2022年7月下旬のポーカーフラットサイト上空の航空機観測に合わせて地上検証データを取得することができました。アラスカ地区におけるNASAの航空機観測の終了後、フェアバンクス国際空港で、NASAのオープンハウスイベントがあり、航空機観測で使われたガルフストリーム III(NASA C-20A)の機体を見学することができました(写真3)。

(写真3)NASAの航空機ガルフストリームIII

今回の滞在では、雪解けから夏、秋と季節が移り変わり、地面が雪で覆われるまでの観測サイトの季節変化を自身の目で確認できたことは大きな収穫でした。同行してくれた研究員とともに多くのデータを取得することができました。今後、これらのデータの解析を少しずつ進めつつ、現地での観測を継続する予定です。

なお、今回の滞在では受け入れ機関であるIARCのHajo Eicken所長をはじめ、共同研究者やアラスカ大学フェアバンクス校地球物理学研究所のポーカーフラットオフィスのスタッフには大変お世話になりました。


2022年夏のアラスカの森林火災

執筆者:小林 秀樹(海洋研究開発機構)

今回のフェアバンクス滞在中、周辺地域では過去最大級の森林火災に見舞われました。これは5月上旬の雪解け以降、雨がほとんど降らず強い日射と乾燥した空気によって森林の林床がカラカラに乾燥したことが原因です。地元紙のDaily News-Minerの記事によると、フェアバンクス一体を覆った煙の主な原因は、市の西約80-100 kmの地区で発生した森林火災(Clear fire, Minto Lake fire)によるものでした。森林火災の消失面積はアラスカ州全体でゆうに2百万エーカー(約8100 km2)を超え、例年の2倍以上に達したと報告されています。また、2022年シーズンは7月末までにアラスカ州内で発生した森林火災557件のうち、253件が人為起源、268件が落雷によるものということで、件数で見ると落雷に起因するものと火の不始末による影響がほぼ半数ずつとなっています1)。しかし、過去の消失面積の統計データでみると落雷の影響による火災の方が圧倒的に消失面積が広く2)、今年も同様な状況であった可能性が考えられます。

(写真1)激しい大気汚染に見舞われたフェアバンクス市内の様子(2022年6月28日)

6月下旬ころになるとフェアバンクス市内でも煙による大気汚染が深刻になり始めました(写真1)。屋外にしばらくいると喉の痛みが発生し、市内の学校でも屋外の活動が中止や延期になってしまいました。また、ガソリンスタンドやフェアバンクス市内で多く見かけるフードトラックのファーストフード店も煙の影響で臨時休業をしている店が見られました。ArCS IIの国際連携拠点であるポーカーフラットリサーチレンジでも、煙の影響が深刻となり(写真2)、煙による大気汚染が落ち着つく7月下旬ころまでは大気汚染の状況を見ながらの野外活動となりました。

(写真2)ポーカーフラットスーパーサイト(Ameriflux US-Prr)。煙によりタワーが霞んで見える。

今回の滞在では、森林火災の発生が、地元社会にいかに深刻な影響を与えるかを身をもって知ることができました。火災の発生により、死者が発生し、家屋等の財産が焼失し、停電などでインフラへの影響が発生し、そして、大気汚染によって生活者や観光で訪れた人々の経済活動を阻害します。近年、アラスカの森林火災はその発生頻度は増加しています。今回の滞在で森林火災に対する管理の重要性をあらためて認識しました。私達もポーカーフラットリサーチレンジでの活動で得られたデータをアラスカの火災局に提供しています。森林火災の早期警戒モデルの精度改善のために、今後も我々の活動が少しでも貢献できたらと考えています。

参考資料
1) フェアバンクス地元紙Daily News-Miner “Warm weekend weather stokes Clear and Minto Lakes fires; evacuation orders in place (2022年6月27記事), “Alaska on Fire: Thousands of lightning strikes and a warming climate put Alaska on pace for another historic fire season” (2022年7月10日記事), “Fire season winds down in Alaska, but the potential for blazes remains” (2022年8月4日記事)
2) Alaska’s Changing Wildfire Environment, International Arctic Research Center, University of Alaska Fairbanks (https://uaf-iarc.org/alaskas-changing-wildfire-environment/ ) (Access date: Nov. 14, 2022)


関連リンク

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グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2022greenland-cryo/ Mon, 26 Sep 2022 06:36:57 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=7137 雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automatic Weather Station: AWS)を設 […]

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雪氷課題の研究チームは、グリーンランド北西部カナック周辺の氷床上(SIGMA-A)と氷床から隔絶された氷帽上(SIGMA-B)の2カ所に自動気象観測装置(Automatic Weather Station: AWS)を設置してデータを取得しています。今夏は、研究チームのメンバーが現地を訪れ、AWSのメンテナンスや気象・雪氷物理観測を行います。活動の様子を写真と共にお伝えします。

目次
グリーンランド北西部カナック氷河における赤雪およびクリオコナイトの観測(2022/8/5)New!
カナック観測拠点での気象・エアロゾル観測と降水サンプリング(2022/8/5)
カナック氷帽上SIGMA-BサイトのAWS更新作業完了!(2022/8/4)
グリーンランド北西部カナック氷河におけるアイスコア掘削(2022/8/4)
カナック氷帽上SIGMA-BサイトのAWS更新(2022/7/29)
SIGMA-Bにおける2022年6月後半から7月の顕著な積雪融解(2022/7/25)
カナック氷河における雪氷微生物観測と氷河水サンプリング(2022/7/22)
グリーンランド北西部カナック村の様子(2022/7/22)
カナック氷帽上SIGMA-B往復雪氷・大気観測(2022/7/22)
SIGMA-Bサイト自動気象観測装置の更新作業が進んでいます(2022/7/13)
グリーンランド北西部カナック氷帽上の積雪調査(2022/7/13)

グリーンランド北西部カナック氷河における赤雪およびクリオコナイトの観測

執筆者:鈴木 拓海(千葉大学)

2022年8月3日、私たちは、カナック氷河において、赤雪とクリオコナイトの観測を行いました。

赤雪が氷河脇の積雪上に広く分布している
赤雪が氷河脇の積雪上に広く分布している
雪面に現れたパッチ状の赤雪
雪面に現れたパッチ状の赤雪

氷河の脇に、雪が残っている箇所があり、表面が赤く染まっている様子が観察されました。

また、氷河上はクリオコナイトが広く分布しており、黒く染まっている様子が観察されましたが、氷河末端付近では、クリオコナイトホールが形成されており、表面は白い状態を維持していました。

氷河表面には水流とクリオコナイトが分布している
氷河表面には水流とクリオコナイトが分布している

得られた試料から色素を抽出してみると、その様子がよくわかります。
今後、その要因について分析を進めていく予定です。

色素を有機溶媒に抽出。左から、赤雪、暗色氷、白色氷。
色素を有機溶媒に抽出。左から、赤雪、暗色氷、白色氷。

(2022/8/5)

カナック観測拠点での気象・エアロゾル観測と降水サンプリング

執筆者:梶川 友貴(筑波大学)
西村 基志(国立極地研究所)

2022年7月20日からカナック観測拠点に、降水サンプラ、ディスドロメータ、寒冷地仕様のPM2.5測定装置を設置し、観測を開始しました。降水試料の化学成分や同位体比の情報から、降水の起源や大気汚染物質との関係について調査します。また、これらの観測・分析データを気象化学-同位体モデルの計算結果と比較することで、モデルの精度の評価や改良を進める予定です。

レーザー雨滴計(手前)を用いて雨滴径や降水量を測定し、PM2.5測定装置(奥)を用いて大気汚染の実態を調査する
レーザー雨滴計(手前)を用いて雨滴径や降水量を測定し、PM2.5測定装置(奥)を用いて大気汚染の実態を調査する
降水採取装置で得られた試料から、降水中の化学成分や水安定同位体比情報を取得する
降水採取装置で得られた試料から、降水中の化学成分や水安定同位体比情報を取得する

それらの降水、沈着物質の観測に加えて、使用済みのAWS機材を用いた気象観測を8月2日から観測拠点において開始しました。今まで継続して整備を続けてきた氷帽、氷床上の観測サイトとは異なり、標高が低く沿岸に近い非雪氷面上での観測データを得ることが出来ます。このデータはグリーンランド低標高域の気象特性を知ることが出来るだけではなく、グリーンランド広域の気候を理解するための貴重な実測データとなります。

観測メンバー滞在中の短い期間でしか実施できない観測も中にはありますが、「拠点に長期滞在可能」という恵まれた環境の中で最大限のデータを得られるよう、協力して集中観測を実施しています。

カナック観測拠点に新たに設置した気象観測装置
カナック観測拠点に新たに設置した気象観測装置

(2022/8/5)

カナック氷帽上SIGMA-BサイトのAWS更新作業完了!

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

AWS電源となるバッテリーとバッテリーBOXを歩荷するメンバー(左:梶川友貴さん、右:鈴木拓海さん)
AWS電源となるバッテリーとバッテリーBOXを歩荷するメンバー(左:梶川友貴さん、右:鈴木拓海さん)
AWSを固定するワイヤーを調整する鈴木拓海さん(千葉大学)
AWSを固定するワイヤーを調整する鈴木拓海さん(千葉大学)

6月下旬から進めていたグリーンランド北西部のカナック氷帽上に設置してある自動気象観測装置(AWS)の更新作業を7月31日に全て終了しました。最終作業として観測機材の電源となるバッテリーの交換と、ワイヤーステーによるAWSの固定作業を行いました。様々なアクシデントに見舞われ、当初の計画通りには全く進まなかった今年のAWS更新作業ですが、幾度にもわたるチームメンバーの地道な作業の末、1カ月間かけて作業を完遂しました。

更新作業を終え、氷帽上に立つAWS
更新作業を終え、氷帽上に立つAWS

環境モニタリングのための気象観測は長期データを継続して取り続けることが重要です。今年の作業で全ての機材が交換されたので、今後も継続して観測体制を維持することが出来ます。このデータを用いた北極域研究はもちろん、関連する様々な波及効果を期待します。

(2022/8/4)

グリーンランド北西部カナック氷河におけるアイスコア掘削

執筆者:鈴木 拓海(千葉大学)

ドローン空撮による、表面状態の観測
ドローン空撮による、表面状態の観測
アイスコアを掘り、氷河内部の状態を観察する
アイスコアを掘り、氷河内部の状態を観察する

グリーンランド北西部のカナック氷河にてアイスコア掘削を行いました。アイスコアを掘ることで、氷河内部にクリオコナイト(微生物と鉱物のかたまり)が含まれているかどうかを確かめることができました。また、表面が黒っぽくなっている箇所や黒っぽくなっていない箇所の両方で、氷を採取しました。さらに、上空からドローンによる観察を行い、黒っぽい部分とそうでない部分をはっきりと撮影しました。今後、黒っぽくなっている氷に含まれている微生物の分析を進めようと思います。

アイスコア。表面付近にクリオコナイト層がある
アイスコア。表面付近にクリオコナイト層がある。

(2022/8/4)

カナック氷帽上SIGMA-BサイトのAWS更新

執筆者:青木 輝夫(国立極地研究所)

2022年7月25日、再び快晴の好条件のもとSIGMA-B サイト(標高940 m)往復、新しいデータロガーやセンサー交換、近赤外アルベドメータの設置などを実施しました。これで数年間はエラーの少ない観測データが得られるものと期待されます。残り、バッテリの交換を後日実施する予定。氷帽上で重い荷物を歩荷(ボッカ)してくれた西村さん、鈴木さん、梶川さんに感謝します。

カナック氷帽のボッカ達
カナック氷帽のボッカ達
SIGMA-Bサイトの自動気象観測装置設置風景
SIGMA-Bサイトの自動気象観測装置設置風景
自動気象観測装置設置終了後の記念撮影
自動気象観測装置設置終了後の記念撮影

(2022/7/29)

SIGMA-Bにおける2022年6月後半から7月の顕著な積雪融解

執筆者:青木 輝夫(国立極地研究所)

2022年6月20日のSIGMA-B自動気象観測装置
約1カ月後のSIGMA-B AWS(2022年7月18日)

これら2枚の写真は、SIGMA-Bサイトで2022年6月20日と、その約1カ月後の7月18日に撮影されたもので、雪面が大きく低下していることがわかります。図に示すように、この1カ月間、SIGMA-Bサイトでは気温がプラスの日が多く、約70 cmの積雪高度の低下が観測されました。

2022年6-7月にSIGMA-Bで観測された気温と積雪高度
2022年6月後半から7月にかけSIGMA-Bでは暖かな気象条件が維持し、顕著な融雪が起こった。

(2022/7/25)

カナック氷河における雪氷微生物観測と氷河水サンプリング

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

グリーンランド北西部カナック氷帽のカナック氷河にて、雪氷微生物観測と氷河表面流水のサンプリングを行いました。融雪の進行と共に暗色化が進行してきたカナック氷河の消耗域において、暗色化の原因となる氷河表面に生息する雪氷微生物の同定や表面状態の分析を行います。

雪氷微生物が繁殖している積雪表面の反射率測定
雪氷微生物のサンプリング

また、氷河に涵養される水の起源や流出に至る水文過程の理解のために、氷河表面を流下する融解水を採取し、成分を分析します。

氷河表面水のサンプリング

現地で採取したサンプルは観測拠点にて、分析のための前処理を行います。限られた物資の中で最大限の成果を出せるよう、工夫を重ねて調査を進めています。

採取したサンプルの前処理の様子。不純物を取り除き、サンプルのpHを測定する。
採取した氷河表流水サンプルの前処理の様子。サンプル汚染を防ぐために不純物を取り除いている様子。

(2022/7/22)

グリーンランド北西部カナック村の様子

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

グリーンランド北西部のカナック氷帽にて雪氷・気象調査を行っています。その観測の拠点となっているカナック村では、海氷上で狩りを行う現地の住民や現地で飼われている犬と出会います。またカナックの短い夏には、ホッキョクヒナゲシなどの草花も姿を現します。

カナック村沿岸の海氷とカナック村の人々
グリーンランド犬とホッキョクヒナゲシ
カナック観測拠点

このような人々や動植物に囲まれながら生活すると共に、日々変化する自然と向き合っています。

(2022/7/22)

カナック氷帽上SIGMA-B往復雪氷・大気観測

執筆者:青木 輝夫(国立極地研究所)

SIGMA-Bサイトの自動気象観測装置

2022年7月18日、快晴の好条件のもとSIGMA-Bサイト(標高940 m)往復、途中にデポしてあったAWS用バッテリー約50 kgを荷揚げ、SIGMA-Bで積雪断面観測、衛星同期観測、復路の上流域で雪氷微生物・アルベド観測、雪氷サンプリング実施。11時間の活動ながら、素晴らしい北極の1日を堪能しました。しかし、先遣隊から6月に報告があった積雪深が大幅に減っているのが気になります。

SIGMA-Bにおける観測風景(左から、梶川さん・鈴木さん・西村さん)
SIGMA-Bサイト近くで見つかったクラック(小さなクレバス、幅5~10 cmのものが5カ所)
雪氷微生物で汚れた氷河表面
雪氷微生物サンプリング(右から鈴木さん・西村さん)

(2022/7/22)

SIGMA-Bサイト自動気象観測装置の更新作業が進んでいます

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

グリーンランド北西部カナック氷帽上に2012年以降設置していた自動気象観測装置のメンテナンスを行っています。観測サイトへは片道4時間かかり、人力で作業に必要な道具、機材等を運びます。

観測サイトへの道中で積雪深調査

今年度は観測装置の大規模な更新を行っており、限られた人員で計画的に作業を進めています。
作業は6月下旬から開始し、着々と更新作業が進んでいます。

SIGMA-B自動気象観測装置の更新作業
更新された気象観測センサー

(2022/7/13)

グリーンランド北西部カナック氷帽上の積雪調査

執筆者:西村 基志(国立極地研究所)

調査チームメンバーの専門に特化した積雪調査、積雪サンプリングなどをカナック氷帽上で行っています。

観測サイトへの道中で積雪深調査

比較的標高の低い氷帽の表面状態は、短い夏季の間で日々変化するため高頻度で観測を行うことが重要です。

表面積雪サンプリングの様子
積雪表面サンプリングと反射率測定の様子

(2022/7/13)

関連リンク

The post グリーンランド北西部カナック周辺での雪氷観測 first appeared on ArCS II 北極域研究加速プロジェクト.

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極北カナダ・ケンブリッジベイでの国際海氷相互比較研究観測 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/project-report/2022-chars/ Wed, 15 Jun 2022 07:45:00 +0000 https://www.nipr.ac.jp/arcs2/?post_type=project_report&p=6336 2022年4月27日から6月4日まで、極北カナダのケンブリッジベイで行われる国際海氷相互比較研究観測に海洋課題の活動の一環として参加します。活動の様子を現地の写真と共にお伝えします。 カナダ極北研究ステーション(CHAR […]

The post 極北カナダ・ケンブリッジベイでの国際海氷相互比較研究観測 first appeared on ArCS II 北極域研究加速プロジェクト.

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2022年4月27日から6月4日まで、極北カナダのケンブリッジベイで行われる国際海氷相互比較研究観測に海洋課題の活動の一環として参加します。活動の様子を現地の写真と共にお伝えします。

カナダ極北研究ステーション(CHARS)。ここを拠点に観測活動を行う。

この観測は、海洋研究科学委員会SCOR: Scientific Committee on Oceanic Research で発足したワーキンググループWG152 ECV-Ice: Measuring Essential Climate Variables in Sea Ice の活動の一環で実施されます。本活動では、世界標準となる海氷の生物地球化学研究に関する観測手法、サンプル処理手法の確立を目指しています。観測にはカナダから4名、ベルギーから4名、ノルウェーから3名、日本から4名(研究者2名:野村 大樹(北海道大学)、漢那 直也(東京大学)、大学院生2名:戸澤 愛美(北海道大学)、能城 太一(北海道大学))が参加し、1ヵ月以上をかけて観測をし続けます。

また、観測実施期間中には、海氷の生物地球化学研究コミュニティーBEPSII によるアウトリーチ活動としてSea Ice School が開催されます。本スクールの実施により、北極域で活動する研究者の育成、研究コミュニティの形成などが期待されています。

ケンブリッジベイ周辺地図。Kugluktukの空港で。
BEPSII Sea Ice Schoolポスター。海外から30人の学生が集まる。
出典:BEPSII Sea Ice School

観測を終えて

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

全ての観測を終え、無事に全員日本に帰国しました。
1ヵ月ぶりの日本は、もう夏のような暑さになっていました。
つい先日までは雪景色の中にいたのに、不思議な気持ちです。

今回の観測では、これまでの記事で紹介したように、実際に海氷の上に行き様々な観測を行いました。
−20℃になるほど寒い環境、1時間を超えるスノーモービルでの移動、シロクマの危険・・・
様々な困難もありましたが、その甲斐あって貴重なデータやサンプルを得ることができました。
これからサンプル分析やデータ解析に追われることになりますが、自身の目で見た環境でどのようなことが起こっているのか、今から結果が楽しみです!

また、今回の観測では、カナダ・ノルウェー・ベルギーのチームとともに観測を行いました。
1ヵ月以上をともに過ごしたので、お別れの時は寂しさもありましたが、また北極の地で一緒に研究できるように研究を頑張ろう!というモチベーションにもなりました。各チームの研究についても、どのような結果が出るのか楽しみです。

最後になりますが、今回ケンブリッジベイでの観測を行うにあたり、多くの方々にご支援いただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

(2022/6/15)

番外編~BEPSII Sea Ice School~

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

今回はECV-Iceの観測についての話から少し離れて、5月14日から23日にかけて行われたBEPSII Sea Ice Schoolについて紹介します。

BEPSII Sea Ice Schoolのチラシ。若手研究者を対象に、幅広い内容のレクチャーが行われた。
出典:BEPSII Sea Ice School

BEPSIIは海氷の生物地球化学研究コミュニティーで、極域の生態系サービスにおける海氷の役割を明らかにし、それらに関する国際的な問題について発信することを目的として活動を行っています。今回はアウトリーチ活動の一環として、博士課程の学生などの若手研究者を対象としたSea Ice Schoolを開催しました。このスクールには、カナダやアメリカの大学の学生はもちろん、イギリスやドイツ、デンマークなど世界各国から30人の学生が集まりました。生物や化学はもちろん、衛星データや数値モデルを専攻している人など、専門分野もそれぞれ全く違っています。私も、日本で海洋化学を学んでいる学生として、このスクールに参加してきました。

このスクールでは、10日間かけて、海氷について幅広い内容を学びます。午前中は、海氷についての講義を受けました。レクチャーをしてくれるのは、世界を代表する海氷研究者の方々です。海氷の構造、海氷に含まれる生物やガス成分、海氷‐大気‐海洋の相互作用など、各分野のエキスパートがそれぞれの分野について講義を行ってくださいました。日本からも北海道大学の野村 大樹准教授、東京大学の漢那 直也助教が講師として参加し、それぞれ海氷‐大気のガス交換と大陸‐海氷‐海洋の相互作用についてお話ししてくださいました。

スクール講義の様子
野村准教授による講義の様子
漢那助教による講義の様子

参加している学生の多くが海氷について研究をしていますが、自分の研究テーマと異なる分野については、なかなか学ぶ機会がありません。今回のように、幅広い分野について学ぶことができる機会は本当に貴重で、どの講義もとてもおもしろく、海氷についての新しい知識を身につけることができました。

午後には、フィールドやラボで海氷観測の手法について学びます。私たちが滞在しているCHARSからは10分ほどで海氷の上に行くことができるので、実際の海氷の上で観測を行います。海氷コアの採取方法や海氷下の海水のサンプリング方法、海氷下の光の測定などの様々な観測項目を、実際に体験しながら学ぶことができました。ラボでは、実際に取ってきた海氷サンプルについて、その中に含まれる成分を分析する方法や結晶構造を解析する方法を学びました。どれも実際に海氷観測で行われている手法で、これから海氷観測を行っていく私たちにとって、非常に有意義な時間でした。
終盤には、学んだことをもとに、グループごとに自ら計画して、海氷観測を行いました。海氷観測をするのは初めてという人も多かったですが、1週間のレクチャーのおかげで、様々な成分のデータを得ることができました。

グループワークの様子。必要なデータや観測機材など全て自分たちで考えながら計画した。

このスクールはもちろん全て英語で行われたので、英語が得意ではない私にとっては、時に大変なこともありました。しかし、スクールでの活動を通してできた友人たちや講師の方々に助けてもらいながら、非常にたくさんのことを学ぶことができました。ここで出会った世界中の研究仲間達と、将来一緒に海氷研究を行うことができるよう、引き続き研究を頑張りたいと思います。

スクールの様子は、Twitterアカウント@BEPSII_seaice #BEPSIIschool22 からも見ることができるので、そちらも是非ご確認ください!

(2022/5/30)

研究編②〜二酸化炭素測定〜

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

続いて、日本チームとカナダチームが一緒に行っている二酸化炭素に関する研究について紹介します。

これまで、海氷は海洋と大気の二酸化炭素交換を妨げる蓋のような役割を果たしていると考えられてきました。しかし、近年、海氷表面で二酸化炭素の吸収や放出が生じているということが明らかになってきています。そこで、今回の観測では、海氷と大気の間の二酸化炭素交換を測定する手法の確立を目的として、「渦相関法」と呼ばれる手法で観測を行っています。

カナダチームのタワー(左)と日本チームのタワー(右)。異なる範囲の観測を行っているが、近くに置くことで比較をすることができる。

渦相関法は、大気の乱流によって移動する二酸化炭素の量を直接測定する手法です。写真のような大きなタワーを立てて観測します。大きいタワーはカナダチームのもの、小さいタワーは日本チームのもので、それぞれ異なる範囲について測定を行っています。タワーを設置して観測することで、長期間にわたってデータを取得することができます。

これまで渦相関法は、森林や農耕地を対象に利用されてきました。海氷と大気の間の二酸化炭素の交換は、これら陸域と比べて小さいため、正確な観測は非常に困難です。中でも障害となるのが、水蒸気です。水蒸気が混入することにより、ノイズが生じてしまい、海氷と大気の間の小さなガス交換を見ることができなくなってしまうのです。そこで、従来の渦相関法のシステムに、新たに設計した除湿管を組み込みました。そして、今回の観測では、その除湿管を組み込んだ場合に、最適な設定(サンプルの取込量、ポンプの種類など)を見つけることを目的として、カナダチームの観測結果との比較を行います。

また、他の手法による観測結果とも比較を行うため、日本チームではCO2チャンバーと呼ばれる機材でも観測を行っています。

CO2チャンバー。上の部分が動いて、緑の輪の上に蓋をし、その中のCO2変化を観測する。渦相関法より小さい分、持ち運びにも便利。

これは、ドーム型の蓋の中に空気を閉じ込め、その中の二酸化炭素濃度の変化を見ることにより、二酸化炭素の移動を測定する装置です。渦相関法と比べると範囲は非常に狭いですが、直接、大気と海氷の間の二酸化炭素の交換を見ることができ、小さな変化も見逃さずに測定することができます。この結果と比較することで、渦相関法による測定がどのくらい正しいのかを検証していきます。

さらに、カナダチームでは、氷の中の二酸化炭素を測定する装置を利用していたり、実際に海氷サンプルの採取を行って、海氷中に含まれる炭酸系成分の分析を行ったりしています。これらの結果とも比較することで、より正確な観測手法の確立を目指します。

島に設置されたタワーや海氷上に設置した三脚にいろいろな測器(風速計や二酸化炭素センサーなど)を設置し、二酸化炭素交換量を測定している。また、比較のためのCO2チャンバーや海氷中の二酸化炭素を測定する平衡器も設置されている。

地球温暖化が進行し海氷が減少している現在、海氷が炭素循環にどのような影響を与えているかを知ることは非常に重要です。その実態を明らかにするよりよい手法を確立すべく、国を超えて協力しながら、観測を進めています。

(2022/5/29)

研究編①〜環境DNA〜

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

今回は、日本チームが行っている環境DNAの研究についてご紹介します。
今回の観測には環境DNAの研究者は参加していませんが、日本からのサポートを受けながらサンプリングを行っています。

環境DNAとは、環境中に含まれる生物由来のDNAのことです。海水中には、そこにいるたくさんの生物の環境DNAが含まれており、これを調べることにより、この海域にどのような生物がいるかを知ることができます。従来の目視観測や捕獲といった手法に比べて簡単であり、また生物を傷つけることなく調査ができるので、近年注目が集まっています。

日本チームでは、魚の環境DNAについて調査を行い、ケンブリッジベイにどのような魚がいるのかを明らかにしようと考えています。これまで様々な海域で調査が行われてきましたが、海氷域における研究はまだ少なく、海氷下における魚の種組成を明らかにすることが期待されます。

環境DNAのサンプリングはとても簡単です。
海水を採取し、DNA保存のための薬品を入れてラボに持ち帰ります。

環境DNAサンプルの採水の様子。より正確な調査のため、綺麗な手袋をつけて採水を行う。

持ち帰ったサンプルを濾過して、フィルターを冷凍保存します。

濾過の様子。中央にある透明なケースに入ったフィルターに環境DNAを集め、日本に持ち帰って分析する。

現場での作業はたったこれだけです。
あとはサンプルを日本に持ち帰り、PCR分析をしてどのような種類の魚の環境DNAが含まれているのかを調べます。

2 m近くもある厚い氷の下にどのような魚がいるのか、今から結果が楽しみです!

(2022/5/29)

生活&研究編~北極観測の大変なところ~

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

北極圏の観測は、他地域での観測とはまた違った大変さがあります。
今回は、ケンブリッジベイでの観測で出会った大変なことをご紹介します。

まずはなんといっても寒さです。
こちらは春とはいっても、まだ−20℃ほどの気温です。
最大限の防寒をして観測に臨みますが、細かい作業やゴム手袋が必要な作業では、薄い手袋に変えることもあり、かじかんだ手で作業をするのはとても難しいです。
しかし、一度作業に集中すると、みんな寒さも忘れて観測に熱中しています。

海氷コアを採取し、必要な部分だけ切って持ち帰る。
先に帰るカナダ研究者から能城さんへの観測操作の引き継ぎ。

また、ある日、観測場所へ行くと・・・
研究に使っている箱が壊されている!

二酸化炭素分析機器を入れていた箱が割れて壊されていた。そして中の毛布なども出てしまっていた。

犯人は・・・

シロクマ!

北極圏の研究においてシロクマは天敵です。
研究機材はもちろん、研究者自身がシロクマに出会ってしまう危険性もあります。
そのため、私たちが観測に出る時には、現地のイヌイットの方々にガイドをしてもらっています。彼らは普段からシロクマやオオカミを獲っており、肉を食べたり毛皮を使って手袋を作ったりして生活しています。そんな方々がガイドをしてくれるので、とても心強く、私たちは安心して観測を行うことができます。

ベテランガイド(左)と能城さん(右)。

(2022/5/28)

生活編③~食事~

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

極寒の中で1日作業をした後の楽しみは、なんといっても食事です。
現在はコロナウイルス感染拡大の影響を受けて、カフェテリアが営業を停止しているため、食事の準備は全て自分たちでしなければなりません。
観測後の食事の準備は少し大変ですが、みんな交代で食事を担当しています。

日本チームが担当したこの日のメニューは、手巻き寿司&ちらし寿司!
お米や海苔は日本から持っていっていたので、それ以外の材料を買いに現地のスーパーへ。
でも、北極圏のスーパーって何が買えるのだろうと不安に思っていましたが・・・

現地のスーパーの写真。

日本とそう変わらない普通のスーパーで、品揃えもバッチリでした!
買い物を終えて、料理を作り、いよいよ完成です!

プロジェクト名と参加大学の国旗をモチーフにしたちらし寿司。野村准教授の手先の器用さが光っている。

ケーキのようなちらし寿司や手巻き寿司作りなど、私たちにとっては見慣れた光景ですが、海外の研究者にとっては驚きの光景だったようで、とても喜んでくれて、みんなで楽しく食事を取ることができました。

他のチームが担当してくれた日には、タコスやハンバーガーなど、自分では作ったことのない美味しい料理とたくさん出会うことができます。観測中の料理は大変ですが、色々な国の食事を楽しむことができるし、みんなで準備をしたり食事を取ったりすることでコミュニケーションが取れて、とても楽しい時間です。

ノルウェーチームによるノルウェーの国旗を模したケーキ。ノルウェーの日とのこと。国歌を聴きながら食べた。
氷上では、お昼にカップ麺とおにぎりを食べている(米は15kg持ち込んだ)。カップ麺は日本のメーカーのものが手に入る(しかし異常に高い)。

(2022/5/28)

生活編②~CHARS~

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

今回は私たちが滞在しているCHARSについて紹介します!

ケンブリッジベイには、カナダ極北研究ステーション:通称CHARSと呼ばれる観測拠点があり、世界中から様々な分野の研究者が集まってきて研究を行っています。私たちもそこで1ヵ月間の研究活動を行います。案内してもらって中に入ってみると、巨大な倉庫や綺麗なラボなど充実した設備が整っており、研究に最適な環境です。

CHARSの建物。中にはラボや会議室に加えて、大人数での集会を開くことができるようなホールも存在している。

また、CHARSには研究者が宿泊するための設備も整っています。コテージのような建物には、広いリビングと綺麗なキッチン、2段ベッドのある個室がいくつか用意されています。完成から数年の建物なので、まだまだとても綺麗で非常に快適です。今回は、様々な国から集まった研究者たちとともに、ここで共同生活を送っています。

倉庫の様子。天井近くまで棚が続いており、手前の赤い機械を用いて荷物の出し入れを行う。
CHARS内の居住区。この中に各自の居室やリビング、キッチンなどが全て備わっている。
居室の様子。

(2022/5/28)

ケンブリッジベイでの観測の様子を紹介します。

執筆者:漢那 直也(東京大学)

観測の前日に皆で話し合いをして、参加人数、必要なスノーモービルの台数、観測場所、何をやるか、観測にかかる時間などを事前に決めます。海氷上で観測を行うためにはCHARS(カナダ極北研究ステーション)の支援が必要不可欠です。話し合って決めた内容をCHARSのフィールドオフィサーに伝え、観測の許可をもらいます。

ホワイトボードに書かれたスケジュール表。活動予定、夕食当番が1週間分組まれている。夕食当番の欄は比較的すぐに埋まるが、掃除当番の欄はいつも空欄になっている。

朝8時頃から準備を始め、9時に観測点へ出発します。多いときには、12名で観測点へ向かいます。観測点までは約1時間のドライブです。

スノーモービルに燃料を入れるためガソリンスタンドで待機。スノーモービル6台に12名が乗車。橇はいつも荷物でいっぱい。

4月の下旬は、外気温が-15℃と寒く、スノーモービルでの移動が辛かったのですが、徐々に暖かく(?)なっています。

2022年のケンブリッジベイ空港の気温データ。© WeatherSpark.com 灰色の線は毎日の気温。赤線と青線はそれぞれ日平均の最高、最低気温。

観測点についたらまず海氷に穴を開けます。海氷に空けた穴を使って、透過光の測定や、海水中の水温、塩分の測定、採水などを行います。

海氷に穴を開ける様子。氷の削り屑が穴の中に溜まっていくため重くなり、削り屑を掻き出すのが大変。かなりの重労働。氷の厚さは約2 m。
海氷を透過する光の量を測定する様子。氷の下の植物プランクトンは光合成に光を必要とするため、光量の測定は重要なパラメータ。長いパイプを使って、センサーを穴の中に入れる。
ペリスタルティックポンプを使って、海氷下10 mから海水を採水する様子。黒いチューブの先端が氷に開けた穴の中に入っている。採取した海水から環境DNAを抽出し、海洋生物の多様性評価を試みる。

またコアラーを使って、海氷コアを採取します。採取した海氷コアの温度は現場で測定します。温度以外のパラメータ(塩分や栄養塩、ガス、植物プランクトン色素量など)は、細かくカットした海氷コアを実験室に持ち帰って測定します。

海氷コアを採取する様子。氷が厚いため、エクステンションが必要。コアラーの長さ1m+エクステンションの長さ1mで2mの海氷コアが採取できる。
採取した2.01mの海氷コア。1段目左がトップ。2段目右がボトム。
海氷コアのボトム。skeletal layerとも呼ばれる。最も柔らかく脆い部分。植物プランクトンが密集しているため、氷のどの層よりも茶色く見える。
海氷コアの温度を測定している様子。ドリルでコアに穴を開けたら、温度センサーを穴の中に差し込む。温度の測定が終わったら、ノコギリでコアをカットして持ち帰る。カットしたコアを融かし、塩分などを実験室で測定する。
CHARSのラボで作業をする様子。持ち帰ったサンプルのろ過や塩分の測定などを行う。

全ての観測が終わって住まいに戻るのは18時頃です。サンプルの処理がある人は、ラボで作業を続けます。夕食が22時になることも。連日お疲れ様です。

(2022/5/18)

観測メンバー

執筆者:野村 大樹(北海道大学)

観測メンバーはノルウェー、カナダ、ベルギーなど様々な国から参加しており、いろいろな国の研究者と共同生活をしながら観測を進めています。また、ガイドを雇って観測を実施しています。シロクマの監視やルートなど案内などしてもらうためです。現地のイヌイットの人ということで、日本人に見た目が似ておりなぜか安心します。

カナダ人のCO2の専門家。海氷内に平衡器を設置し、海氷内の二酸化炭素濃度をモニターするのが今回の仕事。なんでも食べる。
今回の観測のリーダー。カナダ人のブレントさん。CO2の専門家。買い出し、相談、スノーモービルのアレンジ、学生の世話など朝から晩まで大忙し。ただ夜はアイスホッケーの試合をしっかり見る。
左は地元のイヌイットのデイビット。とても優しく頼もしい。何を言ってもOKと言ってくれる。右は野村。
海氷や海水の微量金属が専門の漢那さん。沖縄出身のため寒さに弱い。靴下を4重にしても寒いとのこと。Sea Ice Schoolで講師を務め、若手育成にも貢献。
デイビット(左)が作ったお手製の手袋。戸澤さん(右)が試着。オオカミの毛皮で作っているとのこと。デカすぎてぽんぽんを持っている感じ。全く寒くない。

北海道大学3人組とCO2チャンバーの写真。野村は海氷のCO2が専門、真ん中の能城さんは大気との気体交換過程が専門。右の戸澤さんは海氷下の炭酸系が専門。それぞれの目的に合わせてサンプリングを進めている。さらに写真の右は、大気と海氷間の二酸化炭素交換量を把握するためのチャンバー。低温で最初調子がわるかったのだが最近調子がよくなってきた。

愉快なベルギーの研究者(海氷内のガスの専門家)と日本の学生(能城さん)の交流。言葉や文化は違うが欲しいものは一緒である。
食事も国ごとに当番制。今日はノルウェーチーム(トロムソ大学)のバーガー。ノルウェーチームといってもフィンランド人のヤニーナ(海氷植物が専門)とカナダ人のカーリー(海氷植物が専門。以前サロマ湖での観測にも参加した)が手際よく準備し、とにかく挟んでかぶりつく。

(2022/5/15)

生活編①~日本からケンブリッジベイへの大移動~

執筆者:戸澤 愛美(北海道大学)

ここからは、ケンブリッジベイでの研究活動や生活について詳しく紹介していきます。

ケンブリッジベイはカナダ・ヌナブト準州のビクトリア島と呼ばれる島にある小さな集落です。北緯69度の北極圏にあり、もちろん日本から直通の飛行機はありません。そのため、私たちは成田→バンクーバー→カルガリー→イエローナイフ→ケンブリッジベイと、4本もの飛行機を乗り継いでケンブリッジベイまで到着しました。日本を出発してから到着までに、なんと3日!

日本からの移動経路。カナダ国内を移動するだけでとても時間がかかる。

1ヵ月にもわたる観測のため、4人でこれだけの大荷物。
イエローナイフ空港。シロクマとオーロラがお出迎え。

段々と雪が増え、北極に向かっているのを感じる飛行機の中で、期待と少しの不安を感じながらケンブリッジベイへと向かいました。

イエローナイフの街の様子。オーロラを見るためにたくさんの日本人が訪れるそう。
ケンブリッジベイ空港まで向かう途中、給油のために降り立ったKugluktukの様子。

(2022/5/8)

現地の様子と観測開始

執筆者:野村 大樹(北海道大学)、漢那 直也(東京大学)

観測の様子

スノーモービル出発(観測点まで1時間ちょっと。ただただ寒い)

日本から送った荷物あるかな?あったっぽい!
CHARSのラボでの作業。採取したサンプルの処理などをするところ。
観測サイトでグリズリー(ヒグマのようなクマ)がいないか監視。先住民の方がガイドとして同行してくれているので安心だが、みんなで随時監視。

漢那さんによる海氷(2 mほど)下の鉄分析のための海水の採取。
能城さんによる渦相関大気−海氷間のCO2フラックス装置設置の様子。

住まいなどの様子

1ヵ月以上過ごす住まい。
食事風景。みんなのために日本食を作ったり、ヨーロッパの食事を作ってもらったりなど色々。
観測点でのおにぎり。最高。寒いので硬い。
スーパーマーケットも2つあり色々なものが手に入る。値段が高いのは覚悟していたが飲み物(酒類はない)が異常に高い。

(2022/5/3)

関連リンク

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