このページでは第60次南極地域観測隊の越冬期間(2019年2月~2020年1月)と第61次南極地域観測隊の夏期間(2019年11月~2020年3月)で実施された活動概要および観測成果トピックスをご紹介します。60次隊の観測計画はこちら、61次隊の観測計画はこちらからご覧ください。

第60次南極地域観測の活動概要

過去最大となる合計100名で構成される第60次南極地域観測隊では、第IX期6か年計画の3年次計画を実施した。第IX期重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」のもと、3つのサブテーマを設定し分野横断的な研究観測を展開した。特に、サブテーマ3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」においては、80万年以上前のアイスコア採取に向け、南極航空網を利用した先遣隊により、国際連携に基づいて深層掘削候補地選定のため内陸域を調査した。また、基本観測、一般研究観測、萌芽研究観測、公開利用研究を、「しらせ」、昭和基地、内陸および沿岸域において実施した。さらに、別働隊として、東京海洋大学練習船「海鷹丸」による船上観測を行った。上記観測と並行し、昭和基地の機能維持のため各種設営作業を行った。特に、61次からの観測開始に向けた基本観測棟の設備工事や風力発電設備3号機の設置を行った。これらの南極観測による学術的成果や活動状況は、各種広報プログラムやメディアを通じて広く社会に発信した。

第61次南極地域観測の活動概要

第61次南極地域観測隊では、第IX期重点研究観測メインテーマ「南極から迫る地球システム変動」の3つのサブテーマのうち、サブテーマ2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気‐氷床‐海洋の相互作用」を計画の中心に据え、「しらせ」を機動的に活用し、往復路におけるトッテン氷河域での海洋・地球物理観測実施に重点を置いた。加えて、セール・ロンダーネ山地方面での地質・生物学的調査、ドームふじ方面への燃料輸送、及び海鷹丸による海洋観測を別働隊として計画し、広域での観測計画を展開した。

行動経路と活動地域

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  • 「しらせ」往復路での主な海洋観測
  • 「しらせ」を使った主な観測
  • 昭和基地周辺での主な観測
  • 昭和基地での主な観測
  • 昭和基地での主な作業・観測
  • 「海鷹丸」による観測
  • セール・ロンダーネ山地周辺での観測
  • 昭和基地や周辺での主な作業や活動
  • 内陸への燃料輸送とあすか基地調査
  • 情報発信

「しらせ」往復路での主な海洋観測

トッテン氷河沖で大規模な海洋集中観測を実施

南極の大気 - 氷床 - 海氷 - 海洋の相互作用は、地球全体の海水位や海洋深層循環、気候形成に重要な役割を果たしています。
トッテン氷河は東南極最大級の規模を誇り、その流出は、世界の海水位に大きな影響を与える可能性があります。
近年、このトッテン氷河をはじめとした東南極沿岸の氷床末端部を、暖かい海が下面から融かしているプロセスが注目を集めています。

※トッテン氷河が全て融けると地球の海面が4m程度上昇すると言われています。

CTD-MS観測(採水器付の塩分・水温・深度観測装置)
場所を変えて何度も観測することで、広範囲の水温・塩分などの鉛直分布を得ることができます。地図上のの点で暖かい海水の空間分布などを調べました。

AXCTD観測(ヘリコプタ―投下式の塩分・水温観測装置)
ヘリコプターから発信器付のセンサーを投下することにより、広範囲における水温・塩分の鉛直分布構造を得ることができます。船では行きづらい場所でも観測を行うことができました。

ApRES観測(氷河氷厚レーダー)
トッテン氷河上に設置して、氷河の厚さを1年間測り続け、1年間でどれくらいの氷河が融かされたかを測定しています。

係留系観測
測器は入れた場所に留まり、1年分の水温・塩分を観測する事ができます。地図上のに設置して、暖かい海水の季節変化を調べています。

観測の結果、トッテン氷河沖の海底地形は、広域で水深が800m以上と深く、氷の損失が進んでいる西南極で見られる細い谷に特徴づけられる地形と異なっていました。また、全域で暖かい海水が深いところに存在することが確認されました。

今後の解析で、暖かい海水の流入経路を特定することができれば、係留観測・人工衛星等を統合的に利用することで、トッテン氷河の氷の損失、末端部の融解を長期的にモニタリングし、東南極氷床の海水準変動への寄与を見積もることが可能になります。

2代目「しらせ」初の本格的な海底採泥観測に成功

トッテン氷河の近傍をはじめとした東南極沿岸での海底の採泥観測は、これまでほとんど行われていませんでした。61次隊では、2代目「しらせ」としては初となる本格的な採泥観測を実施し、海氷や氷山が漂う海域から海底の堆積物を採取しました。堆積物の成分や化石を調べることで、過去に起こった海洋環境の変化や氷河の融解の痕跡を探ります。そこから、過去の氷床 - 海氷 - 海洋の相互作用の変動を解析し、現在や未来の予測につなげることが期待されます。

GSJ型K-グラブ採泥器
大量の表層堆積物の採取と同時に、採泥器に設置された各種観測機器によって海底の写真や様々な環境データ、底層の海水を取得できます。地図上のも含めて、計17地点で行われた観測では、堆積物の他にも様々な生物が採取されました。

大型グラビティコアラ―
最長5mの堆積物コアを取得できます。トッテン氷河沖も含めて、計11回の採泥を行いました。

堆積物の分析
採取された堆積物は日本に持ち帰り、国内で様々な分析を行います。

耐氷型GPSブイによる漂流系観測に成功

海氷縁では、海氷が融ける時期に植物プランクトンが大増殖することが知られています。
この季節海氷域生態系の時間変動を捉えるため、世界でも例を見ない長期漂流系観測を実施しました。
新規開発した耐氷型GPSブイに設置した多数の測器は全て破損もなく、データも正常に取得できており、海氷域での2ヶ月という長期連続観測に成功しました。
採取した生物・有機物試料を化学分析や顕微鏡分析することで、季節海氷域生態系の理解が飛躍的に進むことが期待されます。

「しらせ」を使った主な観測

高精度の海底地形調査を再開

61次行動で復旧したマルチビーム測深機を使って、6年ぶりに海底地形調査を実施しました。
マルチビーム測深機の復旧により、面的に海底地形調査を行うことができるようになり、昭和基地周辺の海底地形は、起伏の激しい地形であることや、氷河によって削られた痕跡だと思われるさまざまな方向に走る筋が視覚的にも確認できます。

海底地形調査時の様子

昭和基地周辺の海底地形データ
基図:海図W3922「リュツォ・ホルム湾及付近」

これらの海底地形データは、南極海域を安全に航行するために必要不可欠であるだけでなく、大陸・海洋地殻の進化過程の解明や、氷河による浸食や堆積環境などの古環境研究にも使われます。

「しらせ」からヘリコプターを使っての海氷観測を実施

これまで昭和基地を拠点に行っていたヘリコプターによる海氷観測を、今回初めて「しらせ」から実施しました。
合計3回の観測から、リュツォ・ホルム湾奧では海氷と積雪を合わせて約7mの厚さがあることがわかり、海氷成長過程の研究に有益な情報が得られました。

「しらせ」を発艦するヘリとEM-bird(吊下型の電磁誘導型氷厚センサー)

EM-birdで得られた、氷厚と積雪深とを合わせた値(m)
ヘリコプターを利用することで、効率的に湾南方海域のデータが得られました。

将来、厳しい海氷に「しらせ」が阻まれたとき、航路選定に威力を発揮することが期待されています。

「しらせ」に搭載した全天イメージャー(左)と得られたオーロラ画像(右)

「しらせ」船上でのオーロラ観測に成功

「しらせ」に搭載した全天イメージャー(左)と得られたオーロラ画像(右)

南極域のオーロラ帯は海洋の占める割合が高く、洋上に観測点を設置することが難しいため、観測の空白域となっています。
今回、新たに開発した船舶搭載型の全天イメージャーを「しらせ」に搭載し、初の船上でのオーロラ観測に成功しました。

今後、陸上の観測データと合わせて解析することで、地球規模の現象の全体像の解明につながることが期待されます。

昭和基地周辺での主な観測

湖沼や浅海域の堆積物調査を実施

過去の南極氷床の体積変化を正確に知るためには、過去の相対的な海水準の変動を知る必要があります。
過去から現在までの東南極の氷床の変動を調べるため、昭和基地周辺の沿岸域の湖沼や浅海で、魚群探知機を応用した地形調査やボートによる堆積物採取を行いました。

調査地ラングホブデの鳥瞰図(上)と浅海域の海底地形測量で得られた海底地形図(下)

ラングホブデ・ぬるめ池での堆積物採取の様子
新開発したコアリング機器を使い、約3mの堆積物資料の採取に成功しました。

ぬるめ池のほか、ラングホブデや西オングル島の数十地点で陸上堆積物を採取しました。
今後、堆積物に含まれている生物の化石などを分析することで、過去の海水準変動を復元することが期待されます。

大陸氷床上に新たな自動気象観測装置を設置

南極内陸域の気象などの現地データは、科学的に重要であるにもかかわらず、その厳しい自然環境から人の活動が大きく制限されるため、非常に少ないのが現状です。日本は、この内陸観測を実施できる数少ない国の一つです。
今後の気候変動の兆候を正確に捉え、南極の気候変動の仕組みを解明し、今後の変化の予測精度を向上させるために、60次越冬中に大陸氷床上(MD78)に新たにAWS(自動気象観測装置)を設置しました。

大陸氷床上(MD78)にAWSを設置している様子(左)と設置したAWS(右)
高精度気温観測のほか、放射収支、積雪深、雪温の観測も行っています。

大陸氷床上に設置しているAWS観測網
ここから得られるデータはリアルタイムで世界に発信しています。

今回MD78にAWSを設置したことで、昭和基地からドームふじ間を無人で通年観測できるAWS観測網が完成しました。
このAWS観測網から得られるデータはリアルタイムで世界に発信しており、全球の気象予報の精度向上などに役立っています。

昭和基地での主な観測

対流圏・成層圏・中間圏の大気精密観測を実施

地球の気候は、地球全体をめぐる大気の大循環によって決まっています。しかし、特に南極や中間圏(概ね高度50km~90km)の大きな大気の流れは観測が難しく、よくわかっていません。
昭和基地にある南極初の大型大気レーダー(PANSYレーダー)では、地表付近から高度100km付近までの広い領域の大気の流れを精密に観測することができます。

ラジオゾンデ観測で得られた昭和基地上空の各気圧面の気温の時系列変化
2019年8月25日ごろから、急激に温度が上昇していることがわかります(赤矢印)。

大気レーダーによる中間圏国際共同観測
(ICSOM: Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)
国内外の研究機関と協同し、世界中の大型大気レーダーで同時に観測することで、地球全体の大気の流れを探ります。

2019年8月に、南極成層圏の気温が数日で50℃以上上昇する突然昇温現象が発生しました。この現象に伴う昭和基地上空の大気重力波の変調を捉えるためPANSYレーダーの観測に加え、ラジオゾンデの集中観測キャンペーンを8月26日から10月2日まで実施し、計65回のラジオゾンデ観測に成功しました。

2020年1月に、北極成層圏が通常より低温となる現象が発生し、その影響で2月の北極上空では、過去最低のオゾン量を記録しました。
この気象イベントに対する全地球大気の応答を調べるため、2020年1月12日から31日まで国際協同観測(ICSOM-5)を主導しました。
得られた結果などから、南極上空を含む地球の大気全体の大循環がどのように維持され、どのように変動していくのかを解析します。

昭和基地での主な作業・観測

基本観測棟が完成、気象観測を開始

昭和基地では老朽化した建物の集約を進めています。基本観測棟は、観測系の建物4棟の機能を統合するために建築され、61次で高層気象観測を行うための放球デッキを建設し、基本観測棟が完成しました。

2019年12月2日には、定常観測気象部門が気象棟から基本観測棟へ気象観測の拠点を移し、基本観測棟の本格運用を開始。移転は、事前に同じ観測機器を基本観測棟に設置し調整しておくなど、連続して取得している観測データが途切れる時間が最小限になるよう注意を払って行いました。気象棟から引き続き基本観測棟においても、24時間365日の交代勤務での観測を行っています。

基本観測棟での気象観測開始に伴い、老朽化した気象棟を解体。来次以降も基本観測棟への移転を進め、効率的な基地運用を目指します。

完成した基本観測棟 
黄枠内が61次で建設した放球デッキ

基本観測棟気象観測室
定常気象部門隊員が常駐して観測を行っています。

解体前の気象棟(左)と解体後の様子(右)

基本観測棟屋上デッキ
屋上には様々な観測機器を設置しています。

亜酸化窒素(N2O)の精密連続観測1周年

大気中N2O濃度の初期観測結果

亜酸化窒素(N2O)は二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)についで、3番目に重要な温室効果ガスとされているだけでなく、オゾン層の破壊にも寄与する重要な大気成分です。2019年1月から、昭和基地でN2O濃度の精密連続観測をスタートしました。近年、大気中のN2O濃度は増加傾向にあることが分かっていますが、昭和基地でも観測を開始したことにより、地球表層でのN2Oの循環過程の理解が進むことが期待されます。

「海鷹丸」による観測

東京海洋大学「海鷹丸」による海洋観測

「しらせ」と「海鷹丸」ではそれぞれの特徴を活かしながら、連携して南極の海洋観測を行っています。「海鷹丸」では、地球規模での気候変動による海洋環境の変化と、それに応答する生態系変化を捉えることで、南大洋の実態と役割を解明し、将来予測モデルへ貢献することを目的として観測を行いました。

大型ネットによる動物プランクトン採取
大型のネットを使うことで、中型~大型の動物プランクトンを採取しました。

物理・生物共同研究グループでの係留系観測の係留系(左)と回収した1年分のサンプル(右)
温度・塩分だけでなく、1年間分の沈降粒子 (マリンスノー)を観測し、生物の季節変動を解析する事ができます。

大型ネットによる動物プランクトン採取
大型のネットを使うことで、中型~大型の動物プランクトンを採取しました。

物理・生物共同研究グループでの係留系観測の係留系(右)と回収した1年分のサンプル(右)
温度・塩分だけでなく、1年間分の沈降粒子 (マリンスノー)を観測し、生物の季節変動を解析する事ができます。

CTD-RMS観測(採水器付の塩分・水温・深度観測装置)(左)と海水の栄養塩分析の結果(右)
海底直上の深層までの水温・塩分測定や採水をしました。栄養塩とは、硝酸塩・亜硝酸塩・ケイ酸塩・リン酸塩など、植物プランクトンの栄養になる物質のことです。海水の分析からは、南(グラフの左) に行くほど栄養が多いことがわかります。

CTD-RMS観測(採水器付の塩分・水温・深度観測装置)(上)と海水の栄養塩分析の結果(下)
海底直上の深層までの水温・塩分測定や採水をしました。海水の分析からは、南(グラフの左)に行くほど栄養が多いことがわかります。

観測の結果から、地球全体の気候に影響を与えるといわれている南極底層水を含む深層大循環の変化や、生態系構造の変動などを解析します。また、50年以上続く「しらせ」での観測結果と合わせて、海洋環境や海洋生態系の中長期的な変動も解析することができます。温暖化などの気候変動で南大洋がどのように変化しているかを調べることは、将来の気候予測にもつながります。

セール・ロンダーネ山地周辺での観測

地質調査を実施

地殻流体(地殻内部にあって、水や二酸化炭素などを主体とする流体)は、地震・火山・資源濃集・地熱輸送に重要な役割を果たしていると言われています。しかし、地殻流体がどのように変化してどのように移動していくのかはよくわかっていません。
セール・ロンダーネ山地は、昔の地殻の加水・脱水過程を観察できる世界有数の場所であることから、岩石採取やその場での岩石の化学分析などの地質調査を実施しました。

調査地キャンプの様子
ベルギー基地・2つのベースキャンプを拠点にスノーモービルによる広域的地質調査を2ヶ月間実施しました。

岩石試料採取
岩石がたどった温度-圧力-時間-流体活動履歴を読み取れる岩石試料2トンの採取に成功しました。

マグマ・流体の通路と延性剪断帯の関係を、ドローンを援用して初めて記載しました。

今後、国内で岩石・鉱物の精密化学分析とデータ解析を行い、大陸地殻の発達過程と地殻流体活動の実態解明を進めます。

生物調査を実施

乾燥・低温・貧栄養といった極限環境にもかかわらず、南極の陸上にもわずかに生物が生息しています。
セール・ロンダーネ山地では、昭和基地周辺地域とは生物相が異なると言われていることから、セール・ロンダーネ山地周辺で地衣類、細菌類などの陸上生物多様性調査を実施しました。

今回の調査地
雪鳥とりで山、タンガーレン、パーレンバンデ、ケテレルス氷河(ドライバレー)、テルテ、タンガーレン東部、ウットスタイネンおよびプリンセス・エリザベス基地周辺の計8か所で調査しました。

地衣類のサンプリング風景

ユキドリ営巣地の様子
ユキドリ営巣地周辺の細菌類も調査しました。

プリンセス・エリザベス基地を拠点に計8か所で調査を行い、細菌用土壌サンプル356点、地衣類サンプル512点を取得しました。
日本でサンプルを分析し、昭和基地付近のデータと比べることで、生物多様性成立過程の違いについて考察します。

昭和基地や周辺での主な作業や活動

昭和基地への物資輸送と持ち帰り輸送を実施

昭和基地の基地機能を支える燃料や物資の補給は、そのすべてを「しらせ」による年1回の輸送に頼っています。そのため、昭和基地の夏期間に行われる輸送は、夏期間の最も重要なオペレーションと言えます。

持込み 観測・設営物資等 341トン
食糧 66トン
燃料 566トン
持帰り 観測・設営物資等 206トン
廃棄物 216トン

雪上車を使った氷上輸送
大型の資材、重量のある荷物や車両などは雪上車を使って輸送します。気温が下がり海氷の状態が安定する夜間に実施します。

ヘリコプターを使った空輸
細かな物資は空輸で輸送します。右の写真は「初荷」を積み込む様子です。「初荷」は越冬明けの越冬隊に初めて届けられる荷物で、きれいに飾り付けて届けます。

内陸旅行の出発拠点への燃料輸送
今後の内陸旅行に向けて、出発の拠点となる地点に大規模な燃料の運び込みを実施しました。
燃料の入ったドラム缶をヘリコプターから一つ一つ人力で降ろします(左)。拠点に置かれた雪上車や橇の横に並べられた燃料ドラム缶(右)。

持ち帰り物資の一部(車両)
昭和基地で出たすべてのゴミや修理が必要な物資は持ち帰ります。
修理のために持ち帰った雪上車(左)と、老朽化し、廃棄物として持ち帰った雪上車(右)。

荒金ダムの循環設備の仮改修を実施

昭和基地では、発電機の排熱を利用して雪を溶かして水を作り、これを「荒金ダム」に溜めて、生活用水や飲料水にしています。この荒金ダムと発電機の間を循環させる水の配管が凍結したため、58次以降は応急処置をしてしのいできました。しかし、水不足が越冬生活に大きな支障をきたすだけでなく、メンテナンスを行う隊員の負担も大きいため、将来的な大規模工事を見据え、61次隊で循環設備の仮改修を実施しました。

61次隊で設置した水循環配管
今後のメンテナンスを考慮し、循環ポンプ周りにしっかりとした足場を設置し(左)、冬も雪に埋まらないようにパイプは架台の上を通しています(右)。

過去の廃棄物埋め立て地の調査を実施

1997年に「南極地域の環境の保護に関する法律」が制定されるまでは、観測隊で出た細かな廃棄物は、持ち帰らずに埋め立てていました。現在は新たに出た廃棄物を全て持ち帰るだけでなく、過去に南極に放置された廃棄物も少しずつ日本に持ち帰り、南極の環境を守る取り組みを進めています。

61次隊では、古い埋立地の一部を掘り返して状態を調査しました。今後、調査結果を解析し、埋立地からこれ以上ゴミが拡散しないようにするための処置や、埋め立て廃棄物の処理方針を検討します。

埋立地試掘の様子
表層以外は凍土になっているため、ごく一部だけ掘り返すのも時間がかかります。試掘で出てきた廃棄物は全て日本に持ち帰って処理します。

内陸への燃料輸送とあすか基地調査

内陸への燃料輸送を実施

第3期ドームふじ深層掘削計画に向けて、ベルギーとの国際協力により、プリンセス・エリザベス基地を拠点にナンセン氷原への燃料輸送を実施しました。

プリンセス・エリザベス基地(PEA)からナンセン氷原へのルート
途中クレバス帯が多く、危険な道のりです。

燃料を満載した橇と雪上車
4台の大型橇に燃料ドラムが積み込まれています。

キッチン用コンテナ、居住コンテナを乗せた橇と、それを牽引してきた雪上車

ナンセン氷原の様子
風が強く、積もった雪が舞って、氷河の氷が露出しています。

旅行は2019年12月29日から31日にかけて行われ、日本隊の2名と、ベルギー隊の2名を合わせた4名が2台の雪上車に乗り、燃料、キッチン用コンテナ、居住コンテナなどをそれぞれ積んだ大型橇を牽引して目的地へ向かいました。ナンセン氷原では、燃料を雪上車から引き離し、橇に乗せたまま燃料を保管しています。

あすか基地の調査を実施

燃料輸送の傍ら、あすか基地周辺の残置物資回収に向けた現地調査を行いました。
あすか基地は、1985年に第26次越冬隊により「あすか観測拠点」として開設された、日本の南極観測基地の1つです。セール・ロンダーネ山地の地学(地質・地形)調査や隕石調査、気象観測などに使用され、第32次隊による越冬観測終了後、1991年12月に閉鎖されています。

シール岩(正式名称:セルウンゲン)周辺のパノラマ画像

シール岩前の様子

基地周辺には当時使用されていた物資がいくつか残置されており、あすか基地近くのシール岩(正式名称:セルウンゲン)の風下側に置かれた雪上車などの状態を確認しました。
今回の調査結果をもとに、今後の回収に向けた検討を行います。

情報発信

教員南極派遣プログラム(南極授業)

このプログラムは、極地の科学や観測に興味を持つ現職教員を夏期間に南極昭和基地に派遣し、衛星回線を利用して、現地から派遣教員が企画する「南極授業」を行うものです。派遣教員は授業や帰国後の活動を通して、国内の小・中・高等学校等の児童生徒や一般国民に向けて、南極に関する様々な情報発信を行います。
61次隊では、高等学校教諭1名が同行しました。船上観測や野外調査、昭和基地での活動を取材し、基地から中継で「南極授業」を行いました。

南極授業:
2020年1月25日(土):ミュージアムパーク茨城県自然博物館
2020年1月27日(月):茨城県立守谷高等学校

南極授業での中継の様子

南極授業での中継の様子
授業の中で、自身が採取した魚を見せる北澤教諭

南極中継

南極中継は、昭和基地のインテルサット衛星を利用し、昭和基地と国内を中継で結び、南極観測の現在を知ってもらう活動です。
60次越冬中は、越冬隊と日本国内の小・中・高校と中継を結び、観測隊の活動や南極の自然を紹介する「南極教室」を実施しました。そのほかイベント会場や博物館、一般公開などの極地研が主催するイベントでの中継を実施し、観測隊の活動を双方向中継で伝えました。

南極教室の様子(2019年5月24日 三木市立自由が丘中学校)

南極観測の「今」を発信

61次隊では、情報発信担当隊員が、夏期間の観測や昭和基地の様子をさまざまな方法で発信しました。
2020年2月に極地研公式Instagramアカウントを利用し、昭和基地からライブ中継を行いました。そのほか、2019年6月NHK放送の『サラメシ』では、60次越冬隊の調理隊員が紹介され、大きな反響を呼びました。今後も国内の会場とのライブ中継や、越冬同行記者による越冬情報配信を行います。

観測隊ブログ
観測隊の日々の活動をブログで発信しました。掲載数は、昭和基地NOW!!(右)と合わせて131記事になりました。

昭和基地NOW‼
国立極地研究所・南極観測のホームページに記事を掲載しました。

Instagramライブ中継の様子
2020年2月2日、昭和基地からのライブ中継を行いました。学校等に限定をしない、昭和基地から一般に向けたネット配信としては初の試みとなりました。