第65次南極地域観測隊(越冬隊)および第66次南極地域観測隊(夏隊)は無事に南極での任務を終え、オーストラリアから空路で帰国しました。

このページでは、第65次南極地域観測隊(越冬隊の活動期間  2023年11月〜2025年2月)と第66次南極地域観測隊の(夏隊の活動期間 2024年10月〜2025年4月)で実施された活動の概要および活動成果トピックスをご紹介します。

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昭和基地および昭和基地周辺での主な活動

南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上(①昭和基地)

本プロジェクトでは、南極域の雲や降水を気候モデルで高精度に計算するため、昭和基地で雲や降水システムを直接観測するとともに、雲や降水システムが形成される大気環境について総合的に調査します。

南極圏で発生している雲や降水システムを調査するため、気温・水蒸気の環境を推定できるマイクロ波放射計(写真1)、雲の情報(雲底高度や水雲と氷雲の判別)を取得できるライダーシーロメータ(写真1)、降水強度や降水粒子のドップラー速度を観測できる気象レーダー(写真23)を2025年1月に昭和基地へ設置しました。2025年1月7日からマイクロ波放射計とライダーシーロメータの連続観測を開始し2025年2月1日から気象レーダーの連続観測を開始しました。

写真1:昭和基地に設置したマイクロ波放射計とライダーシーロメータ
※左から、雲カメラ、酸素観測用マイクロ波放射計、水蒸気観測用マイクロ波放射計、ライダーシーロメータ

写真2:昭和基地に設置した気象レーダー

写真3:昭和基地の気象レーダーによる2025年2月21日16時頃の降水反射強度(左図)とドップラー速度(右図)。両者を組み合わせることで、降水域は下層では北東風、上層では北風が卓越していることがわかる

ライダーシーロメータとマイクロ波放射計により、2025年1月中旬や下旬に低気圧による暖かく湿った空気が流入した際に発生する雲や水蒸気量の増加を観測することに成功しました(写真4)。今後は、他の季節で観測した南極域の雲や降水の性質を明らかにし、気候モデルや地球温暖化予測に取り込むべき物理過程を気候モデルの研究者に提唱し、南極域の気候システムの高精度予測に役立てます。

写真4:
(a)昭和基地のマイクロ波放射計の観測データから算出した水蒸気の混合比(色、単位:g/kg)とライダーシーロメータが観測した雲底高度(灰色点、単位:m)の時間高度断面図。水蒸気の混合比は値が高いほど湿っていることを意味する
(b)可降水量の時系列。値が高いほど昭和基地上空の大気に含まれる水蒸気量が多く、特に2025年1月で値の大きかった期間を赤の矢印で示した(画像:写真4昭和基地での観測成果)

大型大気レーダーを中心とした観測展開から探る大気大循環変動

本プロジェクトでは、数分から太陽活動周期11年の幅広い周期帯の南極⼤気現象を捉えるため、南極昭和基地⼤型⼤気レーダー(PANSY)とMF(中波)レーダーによる通年連続観測、およびOH大気光回転温度計による極夜期の連続観測を継続しました。また、第68次越冬で実施予定のスーパープレッシャー気球(成層圏などの高層大気に放たれる内圧が一定のガス気球)観測に向けて、気球の改良を国内で進めました。

PANSYレーダーによる対流圏・成層圏観測、中間圏観測、および流星風観測を継続し、通年のほぼ連続なデータを取得しました。また、国際公募に基づいて採択された7件のPANSYレーダー共同利用観測(流星ヘッドエコー観測、電離圏観測、低高度観測等)を実施しました。さらに、MFレーダーの通年連続観測により中間圏・下部熱圏の水平風速を、OH大気光回転温度計による極夜期の連続観測により中間圏界面付近の温度を継続的に捉えました。またスーパープレッシャー気球については、気球の二重被膜を密着させる方法について、前述の第68次隊での実施に向けた検討と試験を国内で行いました。

各観測の継続によりデータの蓄積が進み、大気重力波のような短周期変動だけでなく、太陽11年周期のような長周期変動を捉えることが可能になります。また、PANSYレーダー共同利用観測として新たに導入した流星ヘッドエコー観測用受信機により、流星の降り込み量や軌道の推定を連続的に実施することが可能となりました。南半球では昭和基地が唯一の定常観測拠点となります。

流星ヘッドエコー観測用の付加受信機

PANSYレーダー

【設営】新夏期隊員宿舎2期工事など

夏期隊員宿舎2期工事では、老朽化した既存建屋の立て替えのひとつとして夏期隊員宿舎の建設を第64次隊から行っており、第66次でも引き続き建設工事を行いました。建物は第67次で完成予定です。

第65次夏の1期工事(1階、高床鉄骨工事)に引き続き、第66次夏では2階部分の建設工事を行いました。1階鉄骨に木質土台、木質床パネルを設置し、2階より上の木造工事を進め、3階建ての夏期隊員宿舎の2階までが第66次で完成しました。

第66次では3階床高さまでの足場を組み、工事を実施

2階の工事スタートの様子

2階の柱、壁パネル、梁を組み立てている様子

3階の床パネルを組立、第66次夏工事は終了

第66次で2階までの工事が完了

極冠域から探る宇宙環境変動と地球大気への影響

本プロジェクトでは、地球を取り巻く宇宙環境はどのように変化するのか、また地球環境はどのように宇宙環境の影響を受けるのかを探るため、極冠域オーロラ撮像ネットワーク観測の構築や昭和基地宇宙線観測のフルシステム化、ミリ波による中間圏の微量大気分子観測などを進めてきました。

第65次越冬では、昭和基地における既存の観測(高速オーロラカメラ、極冠オーロラカメラ、ミリ波分光計、宇宙線、スペクトルリオメータ〔銀河から飛来する電波の強さを測る装置〕)より、観測データを順調に蓄積しました。昭和基地近傍に設置された無人磁力計ネットワークによる観測も継続しています。また、ドームふじ観測拠点IIでは、風発動作実験を行いました。このほか第66次夏では、より高精度な宇宙線ネットワーク観測の実現に向けて、昭和基地の宇宙線観測コンテナにミューオン(電子に似た素粒子)計を増設し、宇宙線観測のフルシステム化を実現しました。ミューオン計は、宇宙線が入射すると微弱な電気信号を出す比例計数管など複数の装置で構成されています。コンテナ内にはミューオン計とは異なるエネルギー帯域の宇宙線を観測できる中性子モニターがすでに設置されており、狭いスペースのなか工夫して各種装置の取り付け作業を行いました。

昭和基地での宇宙線観測のフルシステム化により、世界の多地点に展開されている中性子モニターやミューオン計との、今までに実現したことのないレベルでの高精度なネットワーク観測が実現します。これにより、太陽フレアに伴う銀河宇宙線の短時間変動のメカニズムが明らかになります。さらに世界各国の観測基地との連携によるオーロラ撮像ネットワーク観測や既存の拠点観測等との連携により、研究成果を最大化します。

南極対流圏中の物質循環と大気酸化能の4次元像から気候変動への影響を探る

現在の春~初夏には、南極上空にオゾンホールが出現します。オゾンホールが出現すると地上付近まで紫外線量が増えるため、大気中の光化学反応が促進され、大気中の物質の循環に大きな影響を与えていることが予想されています。近年、オゾンホールの規模は縮小を開始した報告もあり、本プロジェクトでは、オゾンホール出現や規模縮小による大気環境への影響を理解することを目的としています。

第66次隊では南極昭和基地の清浄大気観測室に凝結核カウンター、偏光パーティクルカウンター、マルチアングルアブソープションフォトメータ、エアロゾルサンプラーを設置し、エアロゾル数濃度、鉱物粒子濃度、黒色炭素濃度の連続観測と化学分析用のエアロゾル試料採取を始めました。観測棟にマイクロパルスライダーを設置し、エアロゾルや雲の鉛直分布の観測も開始しました。さらに基本観測棟の欄干部に飛雪サンプラーを荒天時に設置し、化学分析用の飛雪試料も採取しています。これらの観測は本プロジェクトの期間、通年で行う予定です。また、国内では第67次隊で南極へ持ち込む予定の多軸差分吸収分光計の低温条件下での動作試験やテスト観測を行いました。また、第64次隊で沿岸に近い大陸氷床上に位置するH15地点で採取された浅層アイスコア試料の分析を始めており、解析を進めています。

大気・雪氷中の物質の動きを観測することで、現在の大気中での物質の動きを3次元的に捉えます。アイスコア試料の分析からオゾンホールが出現前の大気環境を明らかにできることが期待されます。観測・分析で得られた過去~現在の物質の動きを化学輸送モデルで再現し、オゾンホールの出現・縮小が、南極大気中の物質の動きに与える影響、それらが気候に与える影響を評価・予測することも目指しています。

清浄大気観測室外観 2025.1.25撮影

観測棟内に設置したマイクロパルスライダーと保守作業の様子 2025.1撮影

清浄大気観測室内の機器設置状況と保守作業の様子 2025.1撮影

【広報】情報発信・教員南極派遣など

南極観測の広報において、南極という環境の特殊性から取材を待つ受身の広報体制では活動内容や研究成果の発信が難しく、自媒体を活用した積極的な情報発信が必要です。本課題ではwebページやイベント、教員南極派遣プログラムなど複数のツールを使って観測隊の活動を伝え、活動の意義について社会の理解を得ることを目的としています。

第65次越冬隊・第66次夏隊活動期間中の具体的な活動としては、広報隊員を中心に観測隊員による観測や生活の様子を伝える「観測隊ブログ」の掲載や、極地研公式SNSの活用を通じて、リアルタイム性の高い情報発信を行いました。また中継イベントとしては第65次隊の越冬期間に国内の小中学校や高校に向けた「南極教室」、極地研連携科学館との共催で実施した「昭和基地ライブトーク」、第66次隊の夏期間に教員南極派遣プログラムにより派遣された2名の現職教員による「南極授業」を行いました。今年度はさらに観測隊史上初となるレグ2行動中の「しらせ」船上から、海洋観測についてリポートする生中継(インスタライブ)を初めて行うなど、活動期間に計18件の中継を実施しました。

引き続き夏期間にも専任の広報隊員を派遣することで、観測隊活動の情報発信の充実を目指します。また教員南極派遣プログラムでは現場での見聞を教育現場で発信する帰国後活動までを含んだ一連の取り組みが南極観測の広報に寄与すると考えられ、プログラム開始以降計29名を数える派遣教員による今後の活動の広がりが期待されます。

中継実施風景

船上中継の様子

南極授業の様子(2025年1月)

ドームふじ周辺での主な活動

最古級のアイスコア取得を目指す第3期ドームふじ深層掘削

本プロジェクトでは、東南極氷床の頂上の一つであるドームふじ近傍において、100万年以上まで連続して遡って環境変動を解明可能なアイスコアを採取することを最大の目的としています。第66次隊では、ドームふじ観測拠点IIにおいて、深層ドリルの最終組立や、掘削場とコントロール室の整備、アイスコアの現場処理・解析のための計測器等の設置と立上げなどを行った上、深層ドリルによる氷床掘削と現場処理を開始することを目的としました。

2024年11月1日に第66次先遣隊は航空機で昭和基地に到着し、第65次越冬隊メンバーと合流、準備の後、11月15日に大陸沿岸の出発点から約1000km離れたドームふじに向けて出発しました。ルート上においては雪尺による表面質量収支観測や積雪サンプリング、自動気象測器の保守などを実施しました。ドームふじ観測拠点IIに12月1日に到着し、38日間滞在しました。現地では、深層掘削の最終準備を行ったうえで、12月13日に深層ドリルによるアイスコア掘削を開始しました。また、コア深度の確定や電気伝導度の測定、水同位体比の測定、水平及び垂直方向の切断に用いる各種測器や道具を立ち上げ、それらを用いて掘削されたコアの処理を行い、国内への輸送に備えたパッキングを行いました。2025年1月5日に深度541mまで到達して今期の掘削を終え、7日に帰路出発しました。14日にZ8地点(標高約2000m、昭和基地からの距離約200km)からのアイスコアを「しらせ」へ空輸し、1月19日に沿岸の地点に帰着、その後1月25日に氷床上から昭和基地に帰着しました。

ドームふじ観測拠点IIでの深層掘削が開始して深度541mまで進捗したほか、コア処理系も順調に立ち上がりました。深層掘削の最初のシーズンにおいて各作業を軌道に乗せられたことは今後につながる大きな成果となりました。あと2シーズンでの氷床底部までの掘削が期待されます。また、雪尺測定や積雪採取、自動測器等による雪氷や気象の観測は、南極氷床や表層環境の実態と変動の把握に寄与します。

南極30cmサブミリ波望遠鏡による星間ガスの進化・星形成過程の解明

南極内陸部は、地上で最も大気の透過率が高く、天文観測にとって最高の場所です。本プロジェクトでは、南極ドームふじ観測拠点Ⅱに口径30cmの電波望遠鏡を設置して、星の材料となる星間分子ガスを観測することで、銀河系の中で星が誕生するまでの過程を明らかにしていきます。

第66次隊では、ドームふじ観測拠点Ⅱで望遠鏡を設置し観測を始めるための準備を行いました。具体的には以下のような作業を行いました。

第66次隊の作業によって、ドームふじ観測拠点Ⅱで望遠鏡を運用する準備が進みました。今後、電波望遠鏡をドームふじ観測拠点Ⅱに輸送して、“暗黒ガス”と呼ばれるこれまでの観測では検出できていない希薄な分子ガスの観測が開始されます。

望遠鏡を設置する台

電源ケーブル敷設

ソーラーパネルの台

電源切り替えシステム

風力発電機

「しらせ」船上での主な活動

東南極の氷床−海氷−海洋相互作用と物質循環の実態解明(①「しらせ」)

全球海面水位上昇予測の精度向上において、南極氷床融解過程の理解は喫緊の課題です。本プロジェクトでは、特に海洋がもたらす熱供給に着目し、海洋循環場と海洋熱輸送、これらの時間変動とその要因を明らかにします。また、南極氷床融解の影響を受けて変質する海氷による物質輸送や、南極沿岸域・海盆域における炭素循環・物質循環の実態にも迫ります。

1、2の両レグを通して、「しらせ」航路上では表層海水中の化学・生物学的な成分分析を目的としたセンサー、イメージング、採水による観測を、海洋生態系モニタリングの観測点においてはがま口ネットによる動物プランクトンの観測を実施しました。また、レグ1ではリュツォ・ホルム湾においてAUV観測を実施し、国産のAUVとして初めてとなる極域での無索運用に成功し、レグ2ではトッテン氷河近傍海域において、CTD、ネットによる動物プランクトン観測、3系の係留系投入、漂流系観測、鉄をはじめとする微量元素観測、ゴンドラを用いた海氷観測、AUV観測を実施しました。特に微量元素観測はJAREでの初の試みとなりました。また、AUVは同海域で初の無索運用に成功しました。

AUVの無索運用成功は、今後の海洋観測における新たな手段として利用できることを意味しており、沿岸における未測領域での観測が期待されます。また、微量元素観測の成否は帰国後の試料分析結果を待つ必要がありますが、海氷域の生態系・物質循環研究におけるボトルネックとなっていた微量元素の動態が把握できることで、南大洋の物質循環の理解が急速に進むことが期待されます。

トッテン氷河沖における係留系投入

クリーンCTDによる微量元素観測

トッテン氷河沖で無索運用後に浮上したAUV

海氷ゴンドラ観測

南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上(②「しらせ」)

気候モデルでは南極域の雲の再現精度が低いことから、「しらせ」船上で雲や大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)を直接観測するとともに、雲が形成される大気環境について本プロジェクトにて総合的に調査します。

南極圏で発生している雲やエアロゾルを調査するため、ヘリウム入りのバルーンに取り付けた雲粒子センサーゾンデ(写真1)により、雲の特徴(水雲と氷雲の判別、粒子数など)や大気(気温、湿度、風速など)の鉛直構造を観測しました。また、小型気象センサー(気温、湿度、風速など)やエアロゾルカウンターを搭載した汎用ドローン(写真2)を用いて、高度最大1kmまでの大気やエアロゾルの鉛直構造を観測しました。また、エアロゾルの大きさ、組成、雲核特性を詳しく調べるために、「しらせ」船上に設置した様々な機器(写真3)を用いた連続観測を行ったり、エアロゾル粒子を採取したりしました。さらに、エアロゾル起源物質と考えられている海水中の微粒子も採取しました。

写真1:放球前の雲粒子センサーゾンデ

写真2:小型気象機器やエアロゾルカウンターを搭載した汎用ドローン

写真3:「しらせ」第1観測室に設置したエアロゾル観測機器

雲粒子センサーゾンデにより、南大洋上やトッテン氷河沖で低気圧による暖かく湿った空気が流入した際に発生する雲の特徴を観測することに成功しました。トッテン氷河沖の開放水面と海氷上で実施されたドローン鉛直観測により、異なる環境(海洋上と海氷上)でのエアロゾルの特徴を理解することが期待できます。今後は、採取したエアロゾル試料の分析も進め、雲との関係を調査し、南極域の気候システムの理解に役立てます。

南大洋における大気中CO2・O2濃度の変動とCO2収支の定量化

南大洋は二酸化炭素(CO2)の重要な吸収源の一つです。しかし、南大洋のCO2循環の定量的な理解には未だ不十分な点があります。本プロジェクトでは、「しらせ」が航行する南大洋上で、大気中CO2に加えて大気中酸素(O2)濃度の変動を同時に観測することで、南大洋のCO2循環のより正確な理解を目指しています。大気中O2濃度の変動はCO2濃度の変動と密接に関連しており、両者の同時観測によりCO2の吸収量や海洋生物活動に関する情報が得られます。

第66次隊では、本プロジェクトチームが独自に開発したO2とCO2濃度の高精度自動観測システムを「しらせ」に搭載し、南大洋インド洋セクターで大気中の両成分の自動連続観測を開始しました。第66次の航海では、「しらせ」がオーストラリアと昭和基地を往復するレグ1と、オーストラリア〜トッテン氷河沖を往復するレグ2の両区間で観測を実施し、南大洋上大気中のO2とCO2濃度データを取得することができました。今後も、本プロジェクト期間中はこの観測を毎年実施する予定です。

このような観測を南大洋上で系統的に実施するのは世界でも初めての試みです。第66次隊の観測も含め、この観測の中・長期的な実施により、南大洋の大気中CO2とO2濃度の時空間変動が明らかになります。大気輸送モデルによるシミュレーション等も組み合わせて観測結果の解析を進めることで、南大洋のCO2吸収・循環や海洋生物活動に関する理解の飛躍的な向上が期待されます。

「しらせ」第1観測室に設置した大気中CO2・O2濃度の自動連続観測システム

「しらせ」上部甲板に設置した大気取り入れ口

フリーマントル港を出航する「しらせ」

氷縁域・流氷帯・定着氷の変動機構解明と「しらせ」航路選択

リュツォ・ホルム湾定着氷は経年的に厚さが変化し、「しらせ」航行を阻んでいます。本プロジェクトでは、砕氷航行支援のために、うねりによる定着氷崩壊メカニズムの解明(気候学的ルーティング)、航行シミュレーション(戦略的ルーティング)、そして、リアルタイムモニタリング(戦術的ルーティング)に取り組みます(図1)。

【船上観測】EM(電磁誘導式氷厚計)による氷厚計測、海氷目視観測、上部見張り小屋前向カメラおよび側方下向きカメラによる海氷連続撮影、氷盤のドローン空撮、ステレオカメラによる波浪海氷計測、飛沫計によるしぶき計測、「しらせ」船体運動などの性能評価モニタリングを実施しました。そして、船体と気象海象海氷情報の可視化システムを構築し、改善に向け操船担当者へのヒアリングを実施しました。

【氷上・海洋観測】リュツォ・ホルム湾定着氷上に21基、流氷上に1基波浪ブイを自衛隊ヘリコプターにより設置しました。定着氷上に設置したブイのうち16基について観測隊ヘリコプターで再訪、近傍の氷厚を計測し、また、12基の漂流型波浪ブイをトッテン氷河沖で投入しました。昭和基地北の浦では、材料試験により海氷の機械的特性を計測すると共に積雪・海氷厚、流速、CTD観測を実施しました。

温かく積雪が少なく活発に融解するリュツォ・ホルム湾定着氷で稀な計測を実施しました(図2)。定着氷変動機構解明に向け、熱力学過程を含めた新たな知見が得られることが期待されます。また、船上から計測した氷況・性能評価モニタリングデータ(図3)から、「しらせ」氷海航行性能と氷況との関係を明らかにし、氷況に応じた航路選択の実現が期待され、さらに、北の浦での海氷特性データを蓄積することで(図4)、新たなパラメータとして、変動機構分析の深化に寄与することが期待されます。

図1:氷上に設置した波浪ブイによりリュツォ・ホルム湾定着氷の崩壊と流出の観測に3年連続で成功した。第66次では新たに融解する海氷の動きを克明に捉えることができた

図2:氷上に設置した波浪ブイに再訪し海氷計測、海洋計測を行った

図3:砕氷航行支援のための船上観測データの可視化システム:氷況・船体挙動などの観測データやカメラ・衛星画像を表示する

図4:北の浦における海氷コアの一軸圧縮試験。フィールド計測に特化した試験機材を新規に持ち込み、のべ28本のコアから採取した100点以上の試験片から圧縮強度や曲げ強度を得ることに成功した

「海鷹丸」(別動隊)での主な活動

海洋物理・化学観測

本プロジェクトでは、南極地域観測第X期6か年計画(令和3年11月30日 南極地域観測統合推進本部)に基づき、氷縁付近を含む観測点での南極底層水観測を⻑期にわたって継続しており、水深3000m以深に及ぶ水温・塩分の動態を監視するとともに、その調査研究結果(データ)を国内外の関係機関の利用に供することを目的としています。

東京海洋大学練習船「海鷹丸」による別動隊により、観測頻度の少ない東南極(南大洋インド洋区)において、過去50年近く担ってきた海洋環境の長期変動の監視を継続するため、氷縁海域を含む南極海の海洋物理・化学データを、より高精度で、かつ深層まで取得しました。

第66次隊では、東経110度ライン上に設定された9測点でCTD(海水の電気伝導度・水温・圧力を連続的に測定する)採水システム観測を実施する予定でしたが、南緯40度、45度の測点は荒天のためX-CTDによる代替観測となりました。その後の南緯50度、55度、60度、61度、63度、64度、65度(海氷縁域)の7測点においては、海面から海底直上までのCTDキャストで水温、塩分、溶存酸素の鉛直分布を得ると同時に、ニスキンボトルによる採水を行い、塩分、溶存酸素、栄養塩の分析を行いました。

精度の高い水温、塩分測定や海水の化学分析により、水深3000m以深に及ぶ物理・化学環境の動態、および海洋大循環の駆動源となる南極底層水の監視を強化することができます。また、取得した南極海の物理・化学データは国内外の関係機関の利用に供することで、地球環境変動への影響評価に貢献します。この観測は今後も継続し、長期変動の監視と抽出に相応しいデータを蓄積していきます。

CTDシステムによる南極底層水観測(水温・塩分)

CTDシステムによる南極底層水観測(水温・塩分)

東南極の氷床―海氷―海洋相互作用と物質循環の実態解明(②「海鷹丸」)

本プロジェクトでは、「海鷹丸」観測航海(UM-24-07)2025年1月21日から1月30日まで、海盆域から大陸棚斜面域への熱輸送を担うと目される定在海洋渦列の横断観測を実施しました。CTDによる水温・塩分・圧力のフルデプス観測および、船底ADCP(超音波ドップラー流速計)による深度1200mまでの流向流速観測、EVS(イベントベースビジョンセンサー)による海水中の粒子、動物プランクトンのサイズや頻度分布の観測を実施しました。また、1月25日には第64次で投入した係留系1系の回収に成功し、計2年間の水温・塩分・溶存酸素濃度等の時系列データを取得しました。加えて、1月28日には主要な暖水輸送経路における係留系の投入に成功しました。係留系には水温・塩分センサーに加えて、セジメントトラップ(水中に沈降する粒子を集める装置)や上述のEVSを搭載しており、海洋循環・海洋熱輸送だけでなく、マリンスノー・動物プランクトン種の時系列観測を可能にしました。

「海鷹丸」観測航海では、衛星観測で想定されていた海洋循環場(定在海洋渦列)の海面〜海底までの空間構造を明らかにすることができました。回収された係留系による時系列データにより、定在海洋渦の循環強度や熱輸送量と、それらの時間変動要因について明らかになり、海洋熱輸送の実態把握と将来予測につながると期待されます。

また、EVSによる水中粒子のハイスピード撮影データと現場観測データを用いることによって、これまで不明であったマリンスノーや動物プランクトンの種ごとの時間変動・空間分布の解明を可能にする技術の発展や、炭素循環の解明が見込まれます。

航海中に遭遇した氷山

係留系の投入

観測前のEVSのセッティング