課題番号:AP1010
代表者:箕輪 昌紘(北海道大学)
近年、気候変動の影響により地球上の淡水の6割を保有する南極氷床において顕著な氷床質量変動が報告されています。最近の研究では、氷床縁に形成する棚氷の底面に暖水が流入することによって、底面融解量が増加し棚氷が薄化していることがわかっています。その結果、内陸の氷流出量が増加し南極氷床の質量減少を引き起こすとされています(写真1、図1)。
本研究課題では、雪氷学的なアプローチを適用し、底面融解を高精度に定量化します。これにより南極氷床の変動メカニズムに関して理解の促進を目指します。昭和基地近くの氷河では白瀬氷河を中心とした野外観測を実施し現場検証データの取得を行います(写真1)。新たな底面融解計算スキームの確立により、接地線付近での精度良い底面融解量の算出や、これまで十分に定量化が行われていなかった中小規模の棚氷の底面融解量の定量化を世界で初めて可能にすることを目指します。
また、南極研究科学委員会SCARによる沿岸地域の観測計画RINGSの一環として、航空機観測も実施します(写真2)。氷レーダーや重力計観測により、データに限りのある氷床沿岸域での基盤地形を明らかにすることで、暖水の流入経路や接地線の将来予測、氷流出量など過去、現在、未来の氷河変動を理解することが可能となります。さらに、氷レーダーや重力計、磁力計で取得されるデータは、氷床内部の情報、氷底湖、氷底水路の有無など、分厚い氷の底にある未知の情報の抽出に貢献します。
写真2:航空機観用の双発機(ドイツ、アルフウェットウェゲナー研究所所有 Polar6)
写真:ノルウェー極地研究所 松岡健一