東南極域における酸素同位体比の地理的分布とその形成要因の解明

課題番号:AH0910
代表者:栗田 直幸(名古屋大学)
実施期間(隊次):63次

気象測器を使った観測の歴史が浅い南極氷床域では、氷床域に堆積した積雪の酸素同位体比を使って過去から現在までの気温推定が行われています。この気温復元は、「南極氷床域における地上気温が積雪の酸素同位体比と正の相関関係を示す」という経験則に基づいており、経験則の報告から40年経過した現在においても、数多くの研究に利用されています。しかしながら、経験則の利用が普及する一方で、経験則を合理的に説明できる物理メカニズムの理解はあまり進んでいません。

経験則は、気温と酸素同位体比が内陸域に向かって減少するという地理的特徴に基づいています。そして、気温の低下は、極域へ運ばれる熱輸送量の減少が主な原因です。本プロジェクトでは、極域への水蒸気輸送量の低下が酸素同位体比の地理的特徴を作り出していると仮説を立て、その実証を通じて、経験則が成り立つ背景を明らかにします。

南極大陸の上空には強い宇宙線が日々降り注ぎ、宇宙線生成核種である放射性同位水素(トリチウム)が大気中で生成されています。他方、沿岸域から内陸域へ輸送される水蒸気にはトリチウムがほとんど含まれません。そこで、トリチウムを極向き水蒸気輸送量の指標として利用し、トリチウムと酸素同位体比の関係性から仮説の検証を行うことを計画しています。

南極大陸における水循環概念図