ArCS 北極域研究推進プロジェクト

ArCS通信

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北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターでは、7月5日と6日の二日にわたり、国際シンポジウム「移りゆく北極域と先住民社会――土地・水・氷」On Land, Water and Ice: Indigenous Societies and the Changing Arcticが開かれました。スラブ・ユーラシア研究センターとArCSの合同主催による本シンポジウムでは、今日北極域の先住民が直面している様々な変化を主題として、初日に基調講演が行われ、続いてテーマごとに五つのセッションで報告が行われました。

今日、北極域で起きていることと、地球の温暖化現象との間に見いだされる関連性について、科学者の間で強い危機感が持たれる一方で、一般においては懐疑的な見方が広がっていることは、否定できません。「地球温暖化はウソ」という主張が、科学的な論証を覆すものではないとしても、科学者は温暖化の側面ばかりを強調しすぎではないかという意見が根強くあるようです。世界の超大国で、「不都合な真実」が隠されているというかつての指摘が、温暖化を論じる者にとって都合のよい真実ばかり表に出されているという指摘の反撃を受けているのをみると、一般に地球温暖化の議論に対して抱かれる不信感を完全にぬぐい去ることは、不可能なようにも思えます。このような中で、ArCSに携わる研究者が一般市民に対して果たすべき使命の一つとしてあげられるのは、北極域の今をできるだけ多方面から解説する努力を重ねることでしょう。

北極陸域では、水循環の強化(※1)を起因とする、積雪の増加、永久凍土の衰退、及び河川流量の増加などの現象が観測されています。海氷の減少は開氷面を増加させ蒸発を促進し、大気を湿潤化し、陸上に多量の降雪をもたらします。積雪の増加はその断熱効果によって永久凍土の温暖化に影響を与えます。また温暖化による春の融雪水の増加は、北極海に流入する河川流量に影響を与えます。海氷減少と陸域水循環の強化との関係を調べるために、起源追跡(※2)が可能な水同位体比に着目し、海洋と陸域に降水同位体比観測ネットワークの構築を進めてきました。

私は2017年3月3日から5月31日にかけて、ドイツのAlfred Wegener研究所 (AWI) にArCS若手研究者海外派遣支援事業の助成を受けて滞在しました。私の滞在したブレーマーハーフェンという町はのどかな港町で、近郊を流れるウェザー川のほとりでは人々が毎日集まってお酒や散歩を楽しみ、非常にのんびりとした時間を過ごしていました。

  1. 研究

滞在先である北東連邦大学の、照明設備改善による二酸化炭素排出削減効果に着目した研究をおよそ40日間の日程で行いました。受け入れ教員であるTuyara先生から熱心なご指導を頂くことができました。また北東連邦大学にて照明設備の効率化を実施している現地企業AMTEK+のディレクターであるピョートル様からは、惜しみの無いデータの提供や週1回ペースでのミーティングなど多大なご協力を賜ることができました。研究の設備に関しても大変恵まれていました。大学の設備であるArctic Innovation Centerには北海道大学と北東連邦大学の共同研究室が設置されており、Wi-Fiや暖房、十分なスペースが確保されていました。朝から夜まで長い時間利用が可能であった点も幸いでした。こうした恵まれた環境のおかげで、満足のいく研究を行うことができました。

今回の調査により、北東連邦大学の一部にて実施された照明設備の改善による年間電気料金削減の効果が明らかになりました。また二酸化炭素の排出削減効果を評価するために必要となる情報を一通り揃えることができました。今後はこのデータを利用し、二酸化炭素の排出削減効果を明らかにしていく予定です。

グリーンランド北西部に位置するカナック村を拠点として観測活動を行っています。私を含む北海道大学の3名が、先発隊として7月4日に現地に到着しました。到着時に村の前を覆っていた海氷は日々姿を消し、現在はいくつかの氷山が残るのみとなりました。海氷が消失したことで大型の輸送船が村に寄港できるようになり、冬・春を経て品薄になっていたスーパーマーケットに物資が運び込まれています。開水面に浮かぶ船に、夏の訪れを感じます。

私は今、歴史ある港町、神戸の古びた喫茶店にいます。戦後間もない昭和の気配を漂わせる古めかしい張り紙が所狭しと壁に貼られた薄暗い店内には、レコードから流れるJAZZの音色が、まるで時の流れを止めるかのように優しく響いています。私は今年1月10日まで、ArCS 若手研究者派遣事業の支援を得て、極域の研究を専門に行うオランダ北部のフローニンゲン大学 Arctic Centre に、9ヶ月半に渡って留学していました。30年近くに渡って北極域の渡り鳥の研究を行っている Maarten J.J.E. Loonen 博士の研究室に籍をいただき、昨夏には Loonen博士率いるオランダの調査隊にも同行して、北緯79度を誇るノルウェー領のスピッツベルゲン島(スバールバル諸島)にあるニーオルスン基地に2ヶ月もの期間滞在し、野外調査を行いました。目をつぶれば今この瞬間にも、スピッツベルゲン島の壮大な風景が、鮮明に脳裏に浮かび上がります。まるで嘘のような、美しすぎる夢のような、非現実的で掛け替えのない体験でした。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の気候変動観測衛星「しきさい」の観測物理量を検証する観測活動が、東グリーンランド深層氷床掘削プロジェクト(EGRIP)観測拠点において行われています。

本観測は国際連携拠点の整備メニュー、ならびに国際共同研究推進メニューのテーマ2「グリーンランドにおける氷床・氷河・海洋・環境変動」の協力により実施しているものですので、ご紹介します。

ArCS事務局

アラスカ大学フェアバンクス校の地球物理研究所に2017年5月から9月まで約4ヶ月滞在しました(写真1)。滞在中の目的はこれまでにパタゴニアやグリーンランドの氷河で取得した現地データの解析及び議論と、アラスカの氷河で現地観測を実施し共同研究体制の構築や氷河の地域間での比較研究を進めるためです。