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出張授業・埼玉県立春日部高等学校

2023年1月31日(火)と2月17日(金)に、埼玉県立春日部高等学校で、「データで調べる北極海の海氷変化」と題した出張授業が行われました。講師の丹羽 淑博氏(国立極地研究所)による実施報告を掲載します。


この授業は、春日部高等学校のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)特別講義として、高校1、2年生を対象に、北極海の海氷変化を観測データに基づいて理解することを目的に実施したものです。90分間の授業を2回連続で行いました。

1回目の授業では、はじめに北極域で進行する気候変化について日本への影響も含めて説明し、北極域の観測研究の重要性と観測方法を紹介しました。その上で、生徒一人一人がノートパッドを使って国立極地研究所の北極域データアーカイブシステム(ADS) にアクセスし、実際に人工衛星で観測された海氷データを見てもらいました。ADSを操作して、温暖化に伴い北極海の海氷面積が大きく減少している様子を観察し、グラフ表示機能 を使って北極海の夏の海氷が何年後に消滅するかを予測しました。

さらに、北極海の海氷の特徴をより深く調べるため、1年間の海氷の季節変化の動画を作成し、動画を見て気づいたことを一人ずつ発表してもらいました。黒板の写真が示すように、海氷データをじっくり観察することで多くの気づきや学びを得ることができました。生徒たちが自分自身の考えを述べながら発表する姿がとても印象的でした。

2回目の授業では、1回目の授業で気づいた北極海における海氷分布の特徴や海氷の形成・融解プロセスについて、なぜそうなるかを観測データに基づいて考えました。そのために、ADSが提供する気象全球客観解析データ 海氷齢データ 、アメリカ海洋大気庁が提供する世界海洋地図(World Ocean Atlas) の水温・塩分データの観察を行いました。また、北極海の海洋構造の特徴を再現する実験も行いました。

2回目の授業で行った実験(市川、2019)。真水を入れたコップ(左のコップ)と海の塩分濃度に近い塩水を入れたコップ(右のコップ)の中に氷の粒を入れ、氷が解けるときの水の動きを氷粒の上にスポイトで色水を垂らして調べる。真水の場合は、氷が解けた冷たい水はコップの中の比較的暖かい水より密度が重いため沈降し上下によく混合する。それに対し、塩水の場合は、氷が解けた真水は塩水よりも密度が軽いため上部にたまり成層構造を形成する。塩水のコップが北極海沿岸の海氷生成域に見られる成層構造のモデル、真水のコップが北大西洋グリーンランド沖で発生する深層対流のモデルになっている。
参考:市川洋(2019)真水と海水に浮かぶ氷のとけかたは同じ?青少年のための科学の祭典2019全国大会実験解説集

授業後の生徒の感想を見ると、「さまざまな要因が絡まって北極海の海氷が減少していることが理解できた」、「塩分濃度と海氷が関係していることが興味深かった」、「ADSを使ってデータを調べる経験がよかった」、「データを調べての事象がつながっていくのが面白かった」、といったものがあり、北極海の海氷現象の複雑さや奥深さに加えてデータに基づいて考える研究の面白さの一端を伝えることができました。

学校・団体名 埼玉県立春日部高等学校(SSH)
対象 1年生、2年生の希望者
実施日 2023年1月31日(火)、2月17日(金)
講師 丹羽 淑博(国立極地研究所)
活動内容 丹羽氏による出張授業(90分x2回)
参加人数 約20名
参加者からの声 ・地球温暖化の結果として海氷が解けるだけでなく、海氷が解けて地球温暖化が進むことが興味深かった。

・さまざまな理由が絡まって海氷が減少していると知って興味深かった。

・北極海の塩分濃度が海氷に与える影響の話が興味深かった。

・実験が面白く、理解がより深まった。

・地理で学習した海洋循環が海氷・氷床が解ける問題に関係していて興味深かった。

・データを見ることが日常生活では少ないので見ることができてよかった。

・ADSを使ってデータに基づいて知ることができた。

・たくさんのデータを自分で見ることで、一つ一つ調べようとする事象がつながっていくことが興味深かった。