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ノルウェー水産業に係わる社会調査報告

社会文化課題では、人類学チームが2022年7月から8月にかけてノルウェー北部のトロムソと南西部のベルゲンにて、水産業関係者からの聴き取り及び北欧北極水産業の歴史資料収集に関わる予備的な調査を行いました。

報告者:高倉 浩樹(東北大学)
赤嶺 淳(一橋大学)
関連課題:社会文化課題

現在、ノルウェーは水産業を国の主要な輸出産業とし、日本を含めた東アジア諸国との貿易を行っています。この歴史的背景と現在の北極水産業の動向の全体像を把握することを目的として、予備的資料調査を行いました。ノルウェー漁業者販売組合(NORGES RÅFISKLAG)等におけるインタビュー調査のほか、極地博物館(トロムソ)・漁業博物館(ベルゲン)等で資料収集を行いました。

トロムソにあるNORGES RÅFISKLAGビル

その結果、以下のことがわかりました。

  • 現在の北極漁業でノルウェーは欧州最大の輸出生産国であるが、その歴史が、中世の北海やバルト海におけるニシン・タラ漁に遡ること、また漁場の開発には北極探検史が深く関係している。
  • 16世紀にオランダの探検家のウィレム・バレンツは北極海航路を発見するため北極海を進み、成功はしなかったが、その過程でスバールバル諸島、ロシアのノヴァヤゼムリャ島を発見した。現在バレンツ海と呼ばれる海域が優れた漁場・捕鯨場であること発見し、17-18世紀以降にはノルウェーを含むヨーロッパ諸国が漁業競争を行った。
  • ノルウェー水産業の重要な商品である干し鱈は19世紀には世界商品として南欧に輸出されるとともに、アフリカの植民地下のプランテーション労働者の食料ともなっていた。
  • 19世紀には捕鯨やアザラシ猟が重要な産業となってノルウェー経済を支えた。20世紀初頭にスウェーデンとの同君連合から独立したノルウェーの産業として、漁業と捕鯨業は大きな存在であった。
  • 20世紀中葉までに沿岸小規模漁業が発展したが、1980年代頃から大規模な養殖産業が始まり、現在の世界市場における成功に至っている。漁業産業に対する政府の強い規制があり、それらが新規の雇用者を生む効果をもっているが、一方で沿岸小規模漁業の発展には否定的な影響を及ぼしていることがわかった。
  • 英国とともにノルウェーは南氷洋捕鯨の開拓者のひとつであるが、南氷洋では鯨油だけを生産する一方で、国内では食用にミンククジラを捕獲してきた(現在の捕獲枠は1,286頭)。それらはおもにステーキとして消費される。現在、日本へ200トン前後のミンククジラ肉が輸出されている。