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「ククサ」をつくる

若手人材海外派遣プログラム参加者:2022年度第1回短期派遣
田中 佑実(北海道大学)

私はこれまでフィンランドの樹木と人の関わりを研究のテーマとし、伝統的な習慣や風習から、その繋がりについて考えてきました。その中で、樹木から何かを作り出すということ、そしてそれを贈ったり、用いるということから樹木と人の繋がりを考えてみたいと思い、白樺のこぶから作る「ククサ」という木のカップをテーマとして取り上げました。今回採用いただいたArCS II若手人材海外派遣プログラムでの派遣は、新しい研究テーマのためのファーストステップでした。

「ククサ」は白樺が傷ついたときに自らを守るために作り出すパフカ(pahka)という固いこぶから作られる伝統的な工芸です。先住民サーミの人々が住むラップランド地域のお土産として象徴的な側面を持ちますが、フィンランドでは古くから日常的に用いたり、森を歩き回る際に持ち歩く木のカップとして作られてきました。また、「ククサ」は贈り物として選ばれることもしばしばです。今日ではハイキングブームに伴い、世界中で知られるようになり、白樺のこぶから作られたものではない大量生産のものも多く出回っています。

「ククサ」 こぶの形に沿っている

今回の派遣では、フィンランド各地の「ククサ」の作り手のもとを訪れ、その制作について話を聞き、実際に木材からモノを作り出す過程を見せていただきました。作る過程において、作り手は一方的に形を抑えつけてモノを作り出すのではなく、手を使い、木と歩調を合わせながら作り上げていきます。ある一人の作り手は、木からモノを作ることを「冒険」という言葉で表現しました。それは、こちらが驚くような様々な模様を木が見せるということや、一瞬でも気を抜くと後戻りができない素材であるということの表現でもあります。特に「ククサ」で使われる白樺のこぶはオーロラと呼ばれる素晴らしい波を描き、唯一無二のカップとなります。また一人の作り手は手で作ることについてこのように話してくれました。「手で作るのは大変だし、手が痛い。でもその分、魂が入るし、そのプロセスを通して木との関係を築くことができて、木を尊敬できる。」作り手たちは、ただ作るというよりも、その中に自分の一部を入れるような感覚で作っているようでした。それは作られたモノが単なるモノではなく、作り手の一部をまとい、贈られるということを示しています。

「ククサ」の中

ここでは制作を中心に話をしましたが、「ククサ」を取り巻く環境は、実はもっと複雑です。サーミまたはフィンランドのお土産としての象徴的な側面、サーミの工芸duodjiであること(duodjiは私たちが見る以上のものであると言われます)、本物性、林業による森林の伐採、林業と商業化による白樺のこぶの減少など、「ククサ」を通して様々なことが見えてきました。様々な切り口からアプローチできる「ククサ」について、今後少しずつ掘り下げていきたいと思います。

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